経営悪化の本番3~任意売却・競売~
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担保不動産の任意売却を迫られる
土地や建物などの担保物件を持っている企業の場合、経営が悪化すると、金融機関から担保物件の任意売却を求められることがある。
任意売却とは、債務者と債権者である金融機関が話し合い、金融機関の同意を得たうえで、担保となっている不動産を市場で売却する方法である。
競売になる前に通常の不動産取引に近い形で売却できるため、競売よりも高い価格で売れる可能性がある。売却時期や引渡しの条件についても、ある程度は交渉できる余地がある。
そのため、任意売却によって借入金を整理できるのであれば、早い段階で検討したほうがよいケースも多い。
ただし、その話し合いが、常に穏やかに進むとは限らない。
経営難の時期は「銀行の商談室」に注意する
過去に支援した企業の経営者から、次のような話を聞いたことがある。
銀行へ呼び出され、商談室に入るとドアに鍵をかけられた。複数の行員がドア側に座り、長時間にわたって任意売却を求められ、最終的に書類へサインさせられたというのである。
私はその場にいたわけではないため、当時の状況を客観的に確認することはできない。しかし、経営難に陥った複数の経営者から、これに近い話を聞いたことがある。
話は少しそれるが、ベンチャーキャピタルから出資を受けていた企業でも、似たような事例があった。
経営が悪化した後、経営者が商談室へ呼び出され、複数人に囲まれた。そして、出資金を借入金へ変更する内容の書類にサインするよう求められたという。
出資金と借入金では、会社にとっての意味がまったく異なる。
出資金は、原則として返済期限のない資本である。一方、借入金に変更されれば、会社には返済義務が生じる。経営が苦しいときに出資金が借入金へ変われば、財務状況はさらに厳しくなる。
このような話を聞くたびに、私は思う。
経営難の時期は、商談室に要注意である。
その場でサインしてはならない
金融機関や出資者から呼び出された場合、経営者はできる限りドアに近い席へ座ったほうがよい。
そして、社長一人で行くべきではない。
顧問税理士、弁護士、事業再生の専門家など、内容を理解できる第三者に同席してもらうことが望ましい。同席が難しい場合でも、呼び出された目的を事前に確認し、話し合いの内容を記録しておく必要がある。
何より重要なのは、内容を十分に理解できない書類や、納得できない書類に、その場でサインしないことである。
何人に囲まれても、何時間説得されても、サインすべきでない書類にはサインしてはならない。
「今日は持ち帰って、専門家に確認してから回答する」
そう伝えればよい。
一度署名や押印をしてしまうと、後から「強く迫られた」「断れない雰囲気だった」と主張しても、簡単に取り消せるとは限らない。脅迫や強迫に当たるかどうかについても、当時の状況を証明する必要がある。
だからこそ、サインする前に止まらなければならない。
私が聞いてきたケースでは、経営者の多くが「最初から任意売却の話だとは聞かされていなかった」と話していた。
別の要件を伝えられて銀行へ行ったところ、商談室で突然、重要な書類を提示されたというのである。
経営難の時期に金融機関から呼び出された場合は、「何についての話なのか」「どのような資料が必要なのか」「書類への署名や押印を求められる可能性があるのか」を、事前に確認しておくべきである。
任意売却で返済できる金額は「時価」で決まる
話を担保不動産へ戻す。
担保となっている不動産には、「時価」と「簿価」がある。
経営者であれば承知していると思うが、簡単に説明すると、時価とは現在の市場価格であり、簿価とは会社の帳簿に記録されている価格である。
金融機関が担保価値を判断する際に重視するのは、基本的に現在の時価である。
ただし、実際の担保評価では、一般的な売却相場がそのまま評価額になるわけではない。売却までにかかる時間や価格下落の可能性、建物の状態、立地、換金しやすさなどを考慮し、市場価格より低く評価されることもある。
任意売却による売却価格が借入残高を上回っていれば、売却代金によって借入金の全額を返済できる可能性がある。
例えば、借入残高が5,000万円で、担保不動産が諸費用を差し引いた後に6,000万円で売却できれば、借入金を完済できる可能性がある。
しかし、借入残高が5,000万円あるのに、売却後の手取り額が3,000万円であれば、任意売却後も2,000万円の借金が残る。
担保物件を売れば、借金がすべてなくなるとは限らないのである。
地方では、売却しても借金が残ることが多い
東京都心部など、不動産価格が購入時より上昇している地域であれば、担保物件を任意売却することによって、借入金を全額返済できるケースもあるだろう。
一方、私が支援している地方企業では、購入時より不動産の時価が下がっていることが多い。
特に、事業用の工場、倉庫、店舗などは、一般住宅よりも購入希望者が限られる。建物が特殊な構造になっていたり、設備の撤去費用が必要になったりすると、さらに売却が難しくなる。
そのため、担保物件を任意売却しても借入金が残るケースは珍しくない。
しかも、会社にとって重要な店舗や工場を売却すれば、借金だけでなく、売上を生み出すための事業基盤まで失う可能性がある。
任意売却を検討するときは、単に「いくらで売れるか」だけを見てはいけない。
売却後に借金はいくら残るのか
売却後も事業を継続できるのか
移転費用はいくらかかるのか
従業員の雇用を維持できるのか
売却益や売却損が決算や税金にどう影響するのか
自宅を担保にしている場合、経営者家族はどこに住むのか
これらをすべて確認したうえで判断する必要がある。
事業再生の場には、任意売却に詳しい不動産会社も参加している
事業再生の専門家が集まる会合には、不動産会社の方々も数多く出席している。
彼らは、任意売却となる不動産を、できる限り高い価格で、限られた期間内に売却する専門家である。
通常の不動産売却とは異なり、任意売却には債権者との調整が必要になる。抵当権を外す条件、売却代金の配分、税金の滞納による差押え、売却期限など、複数の問題を同時に整理しなければならない。
金融機関が複数ある場合や、税務署・自治体による差押えがある場合は、さらに調整が複雑になる。
したがって、任意売却を依頼する場合は、単に「不動産を売れる会社」ではなく、金融機関や保証協会、税務署などとの調整経験を持つ専門家を選ぶ必要がある。
価格だけでなく、時間も重要である。
債権者が待ってくれる期間内に買い手を見つけられなければ、任意売却を進めていても、競売や公売の手続きへ移行する可能性がある。
任意売却が成立しなければ「競売」になることがある
任意売却を拒否した場合や、任意売却を始めても期限までに買い手が見つからなかった場合、担保権を持つ金融機関などが裁判所へ申し立て、不動産が競売にかけられることがある。
競売とは、債権者の申立てに基づき、裁判所が債務者の不動産を差し押さえて売却し、その代金を債務の返済に充てる手続きである。
競売開始決定の通知が届き、その後、執行官や評価人による現況調査と評価が行われる。売却基準価額などが決まると、物件情報が裁判所の不動産競売物件情報サイト「BIT」などで公開され、期間入札が実施される。
競売では、任意売却よりも売却条件を自分で決めにくい。
売却価格が借入残高に届かなければ、物件を失った後にも債務が残る可能性がある。また、落札者が決まり、代金が納付され、所有権が移転すれば、最終的には物件を明け渡さなければならない。
税金の滞納による売却は「競売」ではなく「公売」である
ここは、言葉を正確に分けておきたい。
金融機関などの債権者が裁判所へ申し立てて行われる売却は「競売」である。
一方、国税局や税務署、地方自治体が、滞納処分として差し押さえた財産を売却する手続きは「公売」と呼ばれる。
公売とは、税金を滞納した人や会社の財産を行政機関が差し押さえ、入札などによって売却し、その代金を滞納税金へ充てる手続きである。
税金を滞納している企業の場合、金融機関が任意売却や競売の手続きを進めようとしていても、その前後に税務署や自治体から不動産を差し押さえられることがある。
税金の滞納は、このような場面でも企業を不利な立場に追い込む。
金融機関との返済条件は交渉できる余地があるが、税金の滞納処分は法律に基づいて進められる。放置していると、預金や売掛金、不動産などが差し押さえられる可能性がある。
公売の場合は、公売通知などが届き、財産の評価や公告を経て、国税庁の公売情報サイトなどに物件情報が掲載される。
競売と公売では実施する機関や根拠となる手続きは異なるが、会社の意思だけでは止められなくなるという点は共通している。
通知が届いてからでは、できることが限られる
競売や公売の通知が届いてから、実際に入札や売却が行われるまでには、ある程度の期間がある。
しかし、必ず何か月待ってもらえるとは限らない。案件ごとに進行状況が異なり、ほかの債権者による差押えが加われば、状況はさらに複雑になる。
その期間に、経営者は物件からの撤退や移転、従業員への説明、取引先への対応、事業の継続方法などを決めなければならない。
店舗や工場が対象であれば、移転先を探す必要がある。在庫や設備、機械、顧客情報をどうするのかも決めなければならない。
自宅が担保に入っていれば、経営者と家族の住居も確保しなければならない。
経営が最も苦しい時期に、これらすべてを短期間で判断することになる。
精神的な負担は非常に大きい。
だからこそ、競売や公売の通知が届くまで待ってはいけない。
売却を求められた時点で専門家へ相談する
担保不動産の売却を金融機関から求められた時点で、すでに経営者だけで判断できる段階ではない。
金融機関から提示された書類にその場でサインせず、まず弁護士、税理士、公認会計士、事業再生の専門家などへ相談する必要がある。
任意売却が最善の方法であることもある。
一方で、重要な事業資産を安易に売却すると、会社を再建するための収益源を失うこともある。
売却によって何円返済でき、何円の債務が残り、売却後の事業でいくらの利益を出せるのか。そこまで数字に落としてから判断しなければならない。
経営難の場面では、「今日中に決めてほしい」「今ここでサインしてほしい」と迫られることがある。
しかし、重要な書類ほど、その場で決めてはならない。
経営悪化の本番では、経営者が知らないところで、会社の未来を決める手続きが次々に進んでいく。
早い段階で専門家に相談すれば、任意売却、リースバック、事業用資産の切り離し、事業譲渡など、いくつかの選択肢を比較できる可能性がある。
競売や公売まで進んでからでは、選べる道は一気に少なくなる。
会社と家族、そして従業員を守るためにも、呼び出された商談室で、社長一人で重要な決断をしてはならないのである。
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