経営悪化の本番2~代位弁済~
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私は時々、事業再生を専門とする弁護士の先生方と意見交換をすることがある。以前、そうした先生方の前で、私が担当した支援事例を発表したこともあった。
そのとき、ある先生からこう言われた。
「加藤先生は、代位弁済を水際で止める専門家なのですね」
なるほど、そういう見方もあるのかと思った。
リスケの先にある「代位弁済」
代位弁済は、リスケジュール、いわゆるリスケの先に起きることがある。
リスケによって借入金の元本返済を一時的に止め、利息だけを支払う条件に変更している企業は少なくない。しかし、その利息さえ支払えなくなると、状況は一段と深刻になる。
指定日に返済口座の残高が不足し、利息を支払えなかった場合、金融機関は「約定どおりの返済ができなくなった」と判断する。
もちろん、一度残高が不足しただけで、直ちに代位弁済が実行されるとは限らない。金融機関からの連絡や督促、期限の利益の喪失など、一定の手続きが進んだ後、信用保証協会の保証が付いている融資について、金融機関が代位弁済を請求することになる。
信用保証協会が金融機関に対して借入金の残額を支払うと、今度は信用保証協会が会社に対する債権を持つ。この債権を「求償権」という。
分かりやすくいえば、信用保証制度は保険に近い仕組みである。
自動車事故が起きたとき、保険会社が契約者に代わって相手方への支払いなどを行う。信用保証制度でも、融資先が返済できなくなった場合、信用保証協会が金融機関に対して保証の範囲内で支払いを行う。
ただし、会社の借金が消えるわけではない。
返済する相手が、金融機関から信用保証協会へ変わるのである。
代位弁済後は、新たな資金調達が極めて難しくなる
代位弁済が実行されると、いよいよ経営難の大詰めである。
この段階に入ると、金融機関から新たな融資を受けることは極めて難しくなる。会社は、基本的に自社の売上と手元資金だけで事業を回さなければならない。
保証付き融資については信用保証協会が債権者となるが、金融機関とのすべての関係が自動的になくなるわけではない。プロパー融資や預金口座など、ほかの取引が残っている場合もある。
しかし、他行を含めた金融取引全体に影響が及ぶ可能性は非常に高い。少なくとも、「代位弁済になっても、ほかの銀行とはこれまでどおり取引できる」と楽観視することは危険である。
以前、ある企業の経営者から、次のような話を聞いたことがある。
銀行の支店長から「JAバンクだけは大丈夫ですから」と説明され、それを信じて代位弁済に同意したというのである。
偶然にも、その話を聞いた日に私はJA関係者の会議に出席する予定があった。そこで、次のように尋ねてみた。
「他行の借入れが代位弁済になっても、JAバンクの口座は大丈夫なのですか」
返ってきた答えは、私が聞いていた説明とは違っていた。
「いや、大丈夫とは言えない。口座が使えなくなる可能性もある」
代位弁済が行われたからといって、すべての口座が一律かつ自動的に凍結されるわけではない。取引内容や債権の状況、金融機関の対応によって異なる。
しかし、預金が借入金との相殺対象になったり、口座から自由にお金を引き出せなくなったりする可能性はある。売掛金がその口座に入金されても、予定していた支払いに使えないこともあり得る。
会社の資金繰りにとって、これは極めて重大な問題である。
代位弁済の方針が決まってから実際に手続きが進むまでには、一定の時間がある場合もある。その間に入金口座や支払方法を整理する必要が生じることもあるが、自己判断で資金を移動させることは危険である。債権者との関係や法的な問題もあるため、必ず弁護士などの専門家に相談して対応すべきである。
代位弁済後にも、事業再生の道が残る場合がある
事業の中に、今後も成長が見込める部門や、十分な利益を生み出せる事業が残っている場合、事業計画を策定したうえで「求償権消滅保証制度」を活用できる可能性がある。
これは、信用保証協会が代位弁済したことによって発生した求償権を、新たな保証付き融資によって消滅させ、金融取引の正常化を目指す仕組みである。
代位弁済後の企業にとって、金融取引を再構築するための非常に重要な制度である。ただし、利用には実現可能性の高い事業再生計画などが求められ、すべての企業が利用できるわけではない。
この段階から先は、法律や財務、債権者調整に関する高度な専門知識が必要になる。そのため、私は弁護士、公認会計士、税理士、商工調停士、中小企業活性化協議会など、事業再生に詳しい専門家へバトンタッチすることが多い。
専門家によっても、考え方や得意とする再生手法は異なる。
破産を勧める弁護士もいれば、事業の存続可能性を検討し、求償権消滅保証などを活用した再生を目指す専門家もいる。
大切なのは、代位弁済が決まってから慌てて相談するのではなく、その前に専門家へ相談することである。
代位弁済になる前だからこそ、打てる手は数多く残されている。リスケ中の企業は、利息の引き落とし口座の残高を決して軽視してはならない。
代位弁済になった会社は、その後どうなるのか
代位弁済後、会社が必ず破産するわけではない。
破産手続きを選択する会社もあるが、破産には弁護士費用や予納金など、相応の費用が必要になる。小規模事業者の中には、その費用を用意できず、法人を整理できないまま細々と事業を続けているところもある。
行商などによって日銭を稼ぎ、何とか生活と事業を維持している人もいる。自宅をリースバックして住み続けながら、自宅を拠点に小規模な事業を続けるケースもある。
私は、借入金の利息をきちんと支払っていたにもかかわらず、代位弁済に至ったケースも見てきた。
代表者や取締役が関係する別会社が破綻した場合や、大株主が破綻した場合などである。いわゆる連鎖倒産のように、一社の経営破綻が関係会社へ波及することがある。
したがって、自社の返済状況だけを見て「うちは大丈夫」と判断することはできない。代表者、役員、株主、関連会社を含めた資金関係を把握しておく必要がある。
リスケ後に、きちんと利益を出せる会社もある
リスケをした会社のすべてが、そのまま衰退していくわけではない。
借入金の元本返済を一時的に止めたことで資金繰りを立て直し、その間に事業を改善して、再び利益を出せるようになる会社もある。
ただし、元本を止めたまま利息だけを払い続ける状態は、経営者にとって非常に苦しい。
どれだけ利息を支払っても、借金の元本は減らない。私には、この状態が「現代の奴隷制度」のように思えることがある。
だからこそ、できる限り早く利益を回復させ、元本返済を再開できる状態、すなわち金融取引の正常化へ持っていきたいと考えている。
正常化まで6年かかった会社
私が10年以上前に支援した会社の中に、金融取引の正常化まで6年を要した企業がある。
その会社は、支援開始から約1年で、年間1,000万円以上の営業利益を出せる状態になった。
何よりも大きかったのは、後継者である若者が懸命に努力したことである。
私は彼に、マーケティングの考え方と、インターネットを活用した営業方法を細かく指導した。
非常に覚えが早く、忍耐力と行動力のある青年であった。私が毎回出す大量の宿題も、きちんとこなしてきた。
利益率が最も高いサービスを選び、当時、広告手法として広がり始めたばかりのMeta広告を使って、見込み客を絞り込んで販売数を伸ばした。
その結果、わずか1年で年間1,000万円の営業黒字を出すことができた。
ところが、それだけの利益を出しても、金融機関はなかなか元本返済の再開に同意してくれなかった。
その会社は、その後も6年間、営業黒字を出し続けた。
ある日、社長から私のところに相談の電話が入った。
「あれから営業利益はずっと伸びています。元本返済を再開させてほしいとメインバンクにお願いしたところ、交換条件を出されました」
金融機関の系列コンサルティング会社に300万円を支払い、経営コンサルティングを受けるのであれば、元本返済の再開を認めるという話だった。
社長が「300万円はあまりにも大きい」と伝えると、今度は、その支店の若手行員が100万円で事業計画を作成するという条件が提示されたという。
私はその話を聞き、あまりの理不尽さに憤りを覚えた。
私の会社の顧問税理士に相談すると、次のような意見が返ってきた。
「銀行を儲けさせてでも、正常化して元本返済を再開させてもらったほうが得策である」
社長も自社の顧問税理士に相談したところ、同じ意見だったという。
専門家がそろってそう判断した中で、私だけが、しばらくの間ずっと憤り続けていた。
その会社は、メインバンク一行だけと取引していた。そのため、提示された条件を拒否して、ほかの金融機関へ相談するという選択肢を持ちにくかったのである。
結局、一行取引であることの怖さを思い知らされる事例となった。
代位弁済になる前に動いてほしい
代位弁済は、突然起きるように見えて、実際にはその前にいくつもの兆候がある。
売上の減少、資金繰りの悪化、税金や社会保険料の滞納、元本返済の停止、利息の支払い負担、返済口座の残高不足である。
これらを一つずつ見過ごしていくと、気づいたときには打てる手がほとんど残っていないということになりかねない。
代位弁済後にも再生の道がまったくないわけではない。しかし、その道は狭く、利用できる制度も支援できる専門家も限られる。
だからこそ、リスケ中の企業には、利息の引き落とし日と口座残高を必ず確認してほしい。
そして、利息の支払いさえ危うくなっているのであれば、代位弁済の直前まで待たず、できるだけ早く事業再生に詳しい専門家へ相談してほしい。
経営再建は、時間との勝負である。
早ければ早いほど、選べる道は多く残されている。
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