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21:36に俺を乗せて


 あなたと過ごす1日はどうしてこんなにも短く感じるのだろう。現在はベンチの隣に座り、本日行われた音楽フェスについて喋りながら、東京行きの最終新幹線を待っている。
 その新幹線には乗らない。


 ふたりの手には温かい缶コーヒーがあった。
 ホームの上についている、〈申し訳程度〉の屋根は防寒にならず、あなたが風に吹かれてくしゃみをすれば、俺は即座に貼らないカイロを渡し、自然と距離が縮まる。


ヨモギはよくこうやってフォロワーと会うの?」
「ううん、今はスバルくんだけかな。関東にも来てくれるし」
 片想いの相手を、本名かも分からない名前で呼ぶ切なさ。
 自分と同じく趣味がフェス、とはいえ年々、夜行バスがキツくなると語るあなたは微笑んで簡単に俺を惑わせ、年上の余裕を感じさせた。


 クールビューティで大人なあなたとお喋りで早口な俺は昨年夏にSNSで繋がり、実際に会ってみて釣り合っていないと気付いたからこそ、背伸びしてあなたを呼び捨てるところがまだ青い大学生──冷めていくコーヒー、電光掲示板、真冬の空気、触れそうで触れない手、この恋はただの憧れで終わる?



「彼氏居ないもんね」
「居たらスバルくん泣いちゃうでしょ」
 既に遠距離恋愛で涙が溢れそうだ。東京に帰ってしまうあなたを見送る瞬間、俺がいつもどんな気持ちか。
 冗談を言えるうちはいい、寂しさと弱さをあなたに悟られたくなかった。


「どうだろ。なんかー、ヨモギを失う想像はしたくないや」
「大好きじゃん」
 心臓が大きく飛び跳ねる。肌寒い筈なのにドッと汗が出てきて、二の句が継げず、もごもごと口を動かした。
 そんな俺の顔をわざと覗き込んで、ヨモギは羽のように柔らかく笑う。


 されど、残酷なアナウンスが近付いたふたりの仲を引き裂く。
 乗車予定の自由席は新幹線の1号車と2号車、ベンチからそこまで歩かなければならない。数分後にお別れがくる。
 俯きながら缶コーヒーを握り締めて、あなたの「そろそろ行かなくちゃ」という言葉を聞いた。
 

 すると、立ち上がったあなたが本当にさりげなく俺の左手に触れ、
「ほら。スバルくんもおいで、ギリギリのとこでバイバイしよ」
と言い、俺の小指を引っ張る。
 そしてあなたは、はにかみつつ手を繋ぎ、恥ずかしげに視線を逸らした。


 愛しくて、かわいすぎて、余程こちらがどうにかなる。
「手汗すごいかも」
「え。気になんないよ」
「これじゃ、余計離れられんわ」
 今、気持ちを伝えても良いだろうか?
 あなたと歩幅を合わせて向かう先がどこであれ、全く繋いだ手を離さない様子に眩暈を覚える。


 新幹線が到着するとさして身長も高くない俺をちらりと見上げ、
「私もう行くから。じゃあね」
と拗ねたように手を離す。
 あなたどころか並んだ乗客らに次々と抜かれ、立ち尽くしたままの自分は、ドアが閉まる寸前に
「ヨモギ。〈絶対〉って言葉好きじゃないけど、また絶対会お!」
力の限り、叫んだのだった。