\ふりかけライフ/
今日は久々に家族で近所のスーパーマーケットに来た。俺がショッピングカートを押し、妻が商品を選ぶシステム、だが、息子は入店するなり、菓子売り場まで駆けていき、店内を半周しても戻らず、妻は
「いつものことだよ」
と呆れ顔で言い切る。
さて。妻が特売品の牛タンに手を伸ばした刹那、知り合いに話し掛けられて買い物が完全に止まってしまい、主婦同士の話には挨拶程度しか参加できない俺は息子の姿を探す。
煎餅、スナック菓子、アソートパック、チョコレート、グミ……予想通り、食玩の小さなコーナーに彼は居座っていた。自分の幼い頃にそっくりで心が和む。
「マナブ」
愛おしいつむじを見つめながら名前を呼ぶと
振り向き、躊躇いがちに口を結んで食玩の山を差し出してくる。
まさか売り場にあるだけ全部、購入しろとでも言いたいのだろうか?
冗談はやめてくれ。かわいい子供のためにひとつやふたつくらいならパパが快く買ってやろうと思ったが、全種類はママに叱られる。
とはいうものの、俺は彼に目をキラキラさせられると弱く、甘やかしたい気持ちとの間で揺れた。
「パパ優しいもんね」
(うん。そうだね、普段は)
「欲しい物、クリスマスにいっぱいくれたし」
(今はそれと比較すべきでない些細な場面だけど)
「一生のお願い」
(どこでそんな言葉を覚えてきたんだ)
俺は目の前で繰り広げられる愉快なおねだりについ吹き出し、適当なヒーローの食玩をひょいと取り上げ、カートに入れる。
「他はまた今度な。ちょっと困ったことが起きた。ママが春日井(カスガイ)のおばちゃんに捕まっちゃったんだ。ふたりで助けに行こう」
正義の味方に憧れを抱く息子は大抵、こう言い表せば張り切って腕まくりなどして、母親のもとへと走る筈だった。
しかし、本日ばかりは全く動かない。さながら綺麗に陳列された菓子のようで、ただ押し黙って、食玩の山を棚に返す兆候も特には見られなかった。
わがままを貫き通そうとしているーー俺は即座に感じ取り、しゃがんで視線を合わせ、いじける彼の頭を撫でた。
「よし、パパと一緒に片付けよっか。今そうすれば、マナブが大きくなった時に、端から端まで買えるかも知れないよ」
「なんで? パパは好きなふりかけ買ってるのに!」
ふりかけ。
地団駄を踏む勢いの息子に絶叫され、すれ違った親子にふふっと笑われる。
小学生くらいのお嬢さんに聞かれるのみか、平和じみたメロディが流れる店内に息子の声が響き渡った。
「白いご飯食べられないくせに!」
午後2時の暴露、買い物カゴに複数、例のブツが入っているのでどのように足掻いても会計の際に誰だか分かってしまうだろう。
「いっつも、ふりかけがないと大騒ぎ。あー大人として恥ずかしいね!」
(もうやめて、パパのライフはゼロ)
これまで息子がどういった目でこちらを見ていたのか、嫌というほど理解できた。
コテンパンにやられていたところ、興奮気味の息子(誰かさんが怒った時によく似ている)をいつの間にか現れた妻が素早く落ち着かせる。
余程ママに抱きついて泣きたいのは自分の方で、仕上げに肩を叩かれた。
「私も本っ当に恥ずかしいから、さっさと帰ろう」
今年の新たな目標はふりかけ生活を終わらせることだ。

