「その日」は今日のことーー《聖典クルアーン》「タクウィール章」「インフィタール章」の天変地異
天空は大忙し
赤色のオーロラが北海道でも観測されたと話題になった。まさに、太陽の爆発現象「太陽フレア」に伴う強い磁気嵐[1]で、先週の投稿とのかかわりで言えば、太陽のタクウィールの影響である。そうかと思えば、恒星間天体「3I/ATLAS」が太陽系外から飛来したとして米航空宇宙局(NASA)が最新画像を公開した[2]。CNNによれば、3I/ATLASはその起源を太陽系外に持つ、恒星間天体(ISO)で、7月1日に太陽系を通過する際に観測された、これまでで3番目の天体であり、10月に火星へ接近した際、NASAの複数の探査機は本来のミッションを中断し、この天体の魅力的な画像を撮影したのだという[2]。宇宙空間は、「最後の日」を待つまでもなくーーなんとも賑やかだ。
「星、星々」とは
星や星々について、「インフィタール章」では、「散乱する」、「タクウィール章」でも「散乱する」と解するのが一般的だ[3]。とはいえ、星や星々を示す語も、「散乱」を示す語も実は異なる。「星、星々」は「カワーキブ ( كواكب )」と「ヌジューム ( نجوم )」である。「インフィタール章」の「カワーキブ」は複数形でその単数形は「カウカブ ( كوكب )」。基本的には輝いて見えるもの。たとえば金星、あるいは花であっても鉄であっても成長した少年の顔であっても、光って見える存在を指す[4]。恒星の光を頼りに進む惑星、強いて言えば「天に浮かぶ船」のであろうか。『宇宙船地球号』や『星の王子さま』の星を思い浮かべてもよい。
他方、「タクウィール章」の「ヌジューム」は、「ナジュム ( نجم ) 」の複数形。「ナジュム」とは「光り輝く星」[5]。光そのものとして現れる存在である。スポーツやエンターテインメントの「スター」には、「ナジュム」の語が当てられる。
インフィタール章では、「カワーキブ」が「インタサラ (انتثر )」するとされ、「タクウィール章」では、「ヌジューム」が「インカダラ (انكدر )」すると言うのだ。
スター集団は散らず?
至高なる御方がわざわざ別の言葉で啓示されている以上、それを、同じ意味に解してしまっては、その本意がつかめないことになりはしないだろうか。「宇宙船」なり「宇宙船の船団」(つまり「星座」のことになるが)が、砕け散って、散乱する、つまり「インタサラ」するというのは言葉として了解可能だ。
宇宙の膨張の徴
他方、「インカダラ」の方は、もともとは「(液体が)濁る」ことを示す言葉。注釈学者たちの言う「飛び散り、砕ける」ではなく、むしろ、「濁る」からの意味で、十分解釈ができる。星が濁る事象として考えるのが、たとえば、「赤方偏移」である。「天文学において、遠方の天体から到来する電磁波の波長がドップラー効果によって長くなる(可視光で言うと赤くなる)現象」であり、宇宙が膨張し続けていること証拠とされている[6]。白や青の透明感が失われ、まさに光が濁りやがて可視光域から外れる最後が赤色なのだ。
「スター集団の人気に陰りが生じる」という現代的な意味との相性も良い。その他にも、冒頭の「恒星間天体(ISO)」や宇宙ゴミによる濁りも考えられるが、アッラーは、赤方偏移を通じて、宇宙の膨張に対する気付きさえを与えていたのだ。スブハーナッラー。
「目覚めると家がない」
賑やかなのは、空の上だけではない。地上も負けていない。「タクウィール章」では第3節で「山々」が「スイイラ (سُِّيَر )」するという。「動かざること山の如し」と日本語でも「不動」の象徴たる山である。それも複数形で下された「山々」が動かされるというのだ。世界最高峰を擁し、膨大な氷河に覆われたヒマラヤ山脈を思い浮かべる。地球温暖化の影響で、この氷河が動き出してしまっているのだ。
溶け出した大量の氷河水に飲み込まれるのが、バングラデシュ北東部を中心とした農業地帯だ。「夜寝て、朝起きると川岸が移動している。目覚めたら家がない。私たちの人生に安らぎはない」状態だと伝えられる[8]。1990年代の2倍の速さで溶け出しているというヒマラヤの氷河、被害は、インドのアッサム地方、あるいは、裏側のチベット地域など広域に及んでいるという。
単なる「爆発」ではなく
そして、「海」。「バハル ( بحر )」の複数形「ビハール ( بحار )」で下されている。「インフィタール章」では、「爆発」(ファッジャラ ( فَجََّرَ ))」し、「タクウィール章」では、「熱爆発」(サッジャラ) ( سَجَّرَ )する。「ファッジャラ」と「サッジャラ」語頭の子音のみを異にする。「ファッジャラ」は「ファー ( ف )」、「サッジャラ」は「スィーン ( س )」。それぞれの音感をつかんでおこう。「ファー」は前歯と下唇の破裂音。何かを始める時の「突破」のイメージだ。「ファタハ ( فتح )」(開ける)、「ファジュル ( فجر )」(日の出)、「ファム ( فم )」(口)など。英語でも「fight」「first」「fly」などを思い浮かべればよい。
「熱爆発」
これに対して「スィーン」は、突破して飛び出していくのではなく、むしろ一息飲んで内側の熱い思いを伝える。「サラーム ( سلام )」にしても、「サイード ( سعيد )」にしても、単に外向きに平安だったり幸せだったりするのではない。「スクーン ( سكون )」では声すら出さない。しかし、気持ちは熱いのだ。「熱湯の」を示す形容詞は「サーヒン ( سَاخِن )」だ。
よって、「ファッジャラ」の爆発に、「サッジャラ」では、「熱」が加わるのだ。
いずれにしても大量のエネルギーの投下によって海が沸騰し爆発する。水素爆弾の実験などは、人為的にそれが行なわれた例と言える。海が熱く爆発するような事態を好んで招来するような「熱い」言辞は厳に慎むべきであろう。
2連投のMVPの秘密
日本語との関連で一言だけ添えておきたい。音は単なる発音の違いではなく、文化や思考のリズム、その共同体が持つ「立ち上がり方」を映す鏡でもあるからだ。
日本語には、「ファー」の子音がない。つまり、「ファイト」が言えないことになるのだ。かといって、戦いを鼓舞する言葉がないのかといえば、それは違う。それが、おそらく「スィーン」の子音ではないかと考えられる。「さー、行こう」という掛け声の「サー」である。アラビア語になぞらえて言えば、一回限りの突破力の「ファイト」ではなく、一息飲んでから、熱い思いを込めての「さぁ」。こちらは内側の熱い気持ちが切れない限り持続する。
ほとんど余談だが、24年3月、WBC決勝戦前の声出し。大谷翔平選手の「憧れるのをやめましょう」の締めの言葉が、「さぁ、行こう!」だった[9]と記憶しているし、先日のワールドチャンピオンシップで山本由伸投手が連投をもろともせずチームを勝利に導き、MVPに輝いた[10]のも「ファイト」ではなく「さぁ」の熱が、熟達の柔術によって整えられた体にしっかり籠っていたからだというのは、いささかひいきの引き倒しであろうか。
向こう側に見えたもの
聖典に戻ろう。最後の日に天地に起こりうる様々な徴を指摘した後、啓示は、人間のカップリング、子女殺し、そして、フェイクニュースの拡散に言及し、再び天に戻る。「天が、クシタした時」と。インフィタール章で、天は「散り散りに裂かれる(インファタラ)」となっていたが、ここでは、「クシタ ( َكُشِط )」(能動態は「カシャタ ( َكَشَط )」の語が使われている。動植物の皮をベロっと剥ぎ取るというニュアンスの言葉だ。
さて、ベロっと剥ぎ取られたその皮の向こう側に何が露わになるのか。見えてくるのは、リアルに最後の日以降の世界だろうか。それとも、フェイクニュースに踊らされた人々の名誉棄損の荒れ狂う強圧と、わが世の春と言わんばかりに、人々の平和を踏みにじる戦争兵器の支援で、懐にため込んだ莫大な財貨にまみれた強欲の行き着く先であろうか。賑やかすぎる日常こそ徴に溢れているとは言えまいか。アッラーフ・アアラム(アッラーはすべてを御存知)。
脚注
[2] 「NASA Shares Interstellar Comet 3I/ATLAS Images」
NASA Shares Interstellar Comet 3I/ATLAS Images
[3] 驚異の恒星間天体、新たな画像公開 NASAの火星探査機で捉える - CNN.co.jp
[4] たとえば、アリー・サーブーニーの『サフワッタファーシィール』の注釈を参照。
[5] 『リサーヌルアラブ』による「カウカブ」参照。
https://www.almaany.com/ar/dict/ar-ar/%D9%83%D9%88%D9%83%D8%A8/
[6] 『リサーヌルアラブ』による「ナジュム」参照。
https://www.almaany.com/ar/dict/ar-ar/%D9%86%D8%AC%D9%85/
[7] Wikipedia「赤方偏移」
[8] アングル:気候変動で加速する浸食被害、バングラ住民「目覚めたら家が川に」Ruma Paul, Mohammad Ponir Hossain 2025年11月16日午前 7:56 GMT+92025年11月16日更新
[9] 詳しくは、shou「大谷翔平選手の名言|憧れるのをやめましょう」をご参照下さい。
https://note.com/hara_3104/n/nab6dc858ad34
[10] Yuki Yamada(山田結軌)@YamadaMLB「山本由伸、伝説の2日間96球から「中0日」で異例の連投」November 2nd, 2025。
Special thanks to Tacky (information source) and ChatGPT-5.1 (editorial support).
タイトル画像:
The Little Prince book cover via WikiMediaCommons
ttp://www5e.biglobe.ne.jp/~p_prince/le_petit_prince_club_prive/img/book/The%20Little%20Prince%206th.jpg
