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その日「太陽」の光は消えるのか?:《聖典クルアーン》「タクウィール章」第1節をめぐって

12の徴し

「インフィタール章」は、最後の日に起こるとされる4つの事象から始まっていたが、「タクウィール章」では、12の事象が示される。そしてその12、そこには天空から山々、孕み羊、野生動物、そして海、さらに人間たちの状況から、審判がいよいよ近づくいくつかの事象が示されて、人間たちは、その日、この世の終末に立たされ、「それまで行ってきた(善悪の)すべてを知る」(タバリーの注釈)とされるのだ。

その冒頭に降されているのが「太陽(アッシャムス)」である。定冠詞が付されているので、地球を惑星の一つとして有する、太陽系の恒星たる「太陽」のことと捉えて問題なさそうだ。聖典クルアーンの中には、合計で33回この語つまり「シャムス」が登場する。「月」とセットで出てくる場合が多く、かつ動きを表す際にも未完了形動詞が用いられている。そうした中で「タクウィール章」のシャムスは、単独で、しかも完了形の動詞とともに降されている唯一の例、最後の日の一回性を思わせる語法である。

太陽が巻き取られ、暗黒が支配

その動詞は、受動態をとっていて「クゥウィラ」。「太陽」が「巻かれる、巻き付けられる」というのだ。能動態「カウワラ」では、「(球形または円筒形に)巻く、丸める、あるいは「(頭にターバンを巻く)。それが比喩的に用いられると、

# その御方は夜を昼に巻き付け、昼を夜に巻き付け[1]、
-- يُكَوِّرُ اللَّيْلَ عَلَى النَّهَارِ وَيُكَوِّرُ النَّهَارَ عَلَى اللَّيْلِ 

(Qr:39-5)

「夜」との関係で、相互が絡み合っているさまが描かれる。しかし、ここでの「クゥウィラ」は単独だ。にもかかわらず、動詞は「巻く、丸める」である。ここから先は、ある意味、想像力の世界である。「丸められる」を「巻きとられる」と考えれば、太陽はその光を巻きとられ、暗くなるということになるし、ターバンを巻くという意味での巻くでもあれば、ターバンで包むも許容範囲。となれば、「太陽が(暗黒で)ぐるぐる巻きにされる時」「太陽が包み隠される時」(日本ムスリム協会訳)も、「太陽が巻き上げられ(その光が失われた)時」も可能だ。古典的な注釈にしても、あるいは現代のアッサーブーニーにしても、「巻く」の語義から「太陽が巻かれて、その光が失われる」という点では広く一致している[1]。つまり、この世は闇に包まれる。

たしかにアッラーはすべてを御存知だ

ところで、太陽にも寿命があることが明らかにされている。寿命は約100億年。誕生からすでに46億年。理論計算上は、あと50億年は今と同じように輝き続けることができる。その寿命の最後には、膨張して赤色巨星となりやがて白色矮星になり輝きを失うのだという[2]。つまり、クルアーンは50億年後の未来まですでに予見しているのである。しかし、哺乳類の化石研究からの成果によれば、種全体としての人間の寿命は、今後せいぜい百万年から2百万年[3]。それは太陽の寿命の1万分の1に過ぎず、太陽が光を失うまで、クルアーンを理解する知性を備えた人類が生き残っている可能性は絶望的に皆無なのである。もちろんその前に文明崩壊・自滅のリスクが待ち受け、よしんばそれを乗り切ったとしても何らかの形で人類種のゆらぎは受け入れなければならないはずだ。

 ここで改めて痛感するのは、「イザッシャムスクウウィラット」と啓示を降しているアッラーの全知ぶりである。理論上の数値ではあるが、50億年先をも見通しているのだ。しかし、同時に人に読まれてこそのクルアーンなのだとすれば、50億年後の太陽の暗黒化は、あまりに遠すぎる。これでは、最後の日など、なんの脅威にもならない。

太陽に巻きついているのは?

つまり、注釈学者たちが一致して、巻き取られて暗くなるとする、終末論の神秘のベールに包んだような伝統的解釈こそ見直されるべきなのではないか。たとえば、太陽フレア。太陽の内部で作られた磁場が、表面の層で起こす大爆発だ。「そのエネルギーはすさまじく、一度の大規模なフレアで全人類が使う電力の数十万年分に相当するほど」とされる。そのとき、太陽は、「いつも以上に光と熱を出すだけでなく太陽のガスや高エネルギーの粒子を宇宙空間にばらまく」のだと言う。衛星を用いた技術、無線通信への障害、長距離ケーブル電線火災、宇宙飛行士のみならず、高高度飛行国際線パイロットの被爆の懸念など、人間の生活や地球への影響は無視できない[4]

神秘のベールを剥がす

「クゥウィラ」のもつ、「巻かれる、巻き付かれる、包まれる」といった語感は、その語の三語根 ك و ر が、本来「ターバンのように外側から巻きつく」という像に由来する。これは、太陽をあたかも外側から巻き付けているかのように見える太陽の構造、とくにその形成を支える「磁気ロープ(magnetic flux rope)」のイメージと重ねることができそうだ。それが、太陽を縁取るコロナの中で、磁場のねじれ・組み換え・流体的不安定性が動的な相乗的発展を通じて、フィラメント噴出やコロナ質量放出(CME)として外層を吹き上がるのだ[5]

あくまでも印象論だが、これまでの解釈は、太陽の光が失われると読んだために、神話的な語りに特有の神秘のベールを太陽に巻き付けていたのではないか。いや、巻き付いているのは、神秘のベールではない。ここで言えば太陽フレアだ。フレアに巻きつかれた太陽は、むしろ、高エネルギーを発する。しかもそこにはさまざまな危険が潜んでいて、監視が必要。実際宇宙天気予報も日々発表されている。ちなみに本日の太陽フレアはレベル4で非常に活発。「今後1日間、太陽活動は非常に活発な状態が予想される…」などとしている[6]

逆に言えば、太陽フレアは、宇宙天気予報が必要なほど切迫な事象なのだ。かつ、毎日の生活の中ではほとんど意識されないが、実は日々変化し監視が必要とされる「日常的な」事柄なのだ。ということは、「その日」も日常的に訪れていることになる。むしろ問題は、たとえば太陽フレアのそうした変化より、他の事柄に忙しくて、無頓着を決め込んでいる人間の側にありそうだ。

果たして、アッラーが求めているのはどちらの読みであろうか。太陽の寿命が尽きる50億年後の神秘のベールに包み込む解釈か、それとも、太陽フレアに巻きつかれた太陽という科学的知見にもとづく現実的な解釈か。この選択は、第1節のみならず、本章全体の解釈にもかかわる。アッラーフ・アアラム(アッラーはすべてを御存知)。


脚注

[1]  たとえば、クルトゥビーによる本節の注釈には次の記述がみられる。

アブー・ウバイダは言う:
「kūwirat は、ターバンを巻く(takwīr al-ʿimāma)ように巻きつけられることであり、
巻きつけられて、(その光が)消されるという意味である。」
また、ルバイʿ・ブン・フサイムは言った:
「kūwirat とは、それが投げられる(=放り出される)ことである。
“kawwartuhu fatakawwara” という表現があり、
それは『それを投げたので、それが落ちた』という意味である。」
(クルトゥビー自身が言う:)
「私は言う:
takwīr の本義は『集めること』であり、
『ターバンを頭の上で巻きつけてまとめる』という意味から取られている。
すなわち、ターバンを巻き重ねて集めることである。
それと同様に、太陽の場合には、光が集められ/巻き取られ、
そのために光が消される。
その後、それ(太陽)は海へと投げ込まれるのである。
アッラーフ・アアラム(アッラーはすべてを御存知)。」

https://surahquran.com/aya-tafsir-1-81.html
تفسير القرطبي : معنى الآية 1 من سورة التكوير

また、 現代タフシールの代表:アッ=サーブーニー(الصابوني)は、『صفوة التفاسير』での説明:كُوِّرَتْ: لُفَّتْ وطُرِحتْ وذهب ضوؤها 「巻かれ、投げ出され、その光が失われる」と、古典的理解をほぼそのまま整理した注釈を示している。

[2] 国立科学博物館HP。https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space/sun/sun02.html

[3] 「後期新生代の哺乳類の平均的な一つの種の存続期間は 100~200万年である」Stanley, S. M. (1976). “Stability of Species in Geologic Time.” Science 192(4236): 267–273.

[4] 太陽フレアについては、「https://www.nao.ac.jp/news/blog/2023/20230330-solar.html」を参照した。

[5] 清水敏文「太陽フレアの初便メカニズム解明に取り組む「ひので」」」https://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2015/shimizu/02.shtml#a1

[6] 国立研究開発法人情報通信研究機構の「宇宙天気予報」2025/11/07 15:00 JST ~ 2025/11/08 14:59 JST による。https://swc.nict.go.jp/forecast/

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タイトル画像:

Par Credit: Skylab, NASA — http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap980830.htmlhttp://images.jsc.nasa.gov/luceneweb/caption.jsp?searchpage=true&to_day=31&from_year=1969&from_month=5&to_year=1996&datesearch=Go&from_day=1&to_month=12&hitsperpage=100&pageno=13&photoId=S74-23458, Domaine public, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5303835


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