「あ、言いそうになった」管理職へ|生理休暇をめぐる善意の落とし穴(前編)
「毎月、生理休暇を申請する部下がいる。
心配もあるし、正直、業務への影響も気になる。
でも……男性の自分が婦人科受診をすすめていいのだろうか?」
企業向けの講演やセミナーにおいて、管理職の方からとてもよく聞く悩みです。
産婦人科医としての私の答えは、ノー。
男性でも女性でも、上司という立場でそれを直接言うことには、慎重になったほうがいいと考えています。
それは、あなたの気持ちが善意であったとしても、です。
多くの管理職は「冷たい」から悩んでいるわけではない
まず、はっきりさせておきたいことがあります。
このテーマで悩んでいる管理職の多くは、
無理解でも、無関心でもありません。
「大丈夫だろうか」
「何か改善できるならしてあげたい」
「このままでいいのだろうか」
気にかけているからこそ、言葉に迷っている。
だからこそ、この問題は難しいのです。
善意でも、受け取る側はどう感じるか?
「毎月つらいのは大変だろう。
何か方法があるなら、知ってほしいだけ」
そう思うのは、ごく自然です。
でも、その言葉を向けられた側は、
どんなふうに受け取るでしょうか。
すでに婦人科に通院していて、それでもうまくいっていないのかもしれない
本当に知識がなく、「受診する」という選択肢を知らないだけかもしれない
生理で不調になる自分が、責められているように感じないか
プライベートに踏み込んでくる上司だと思わないか
「生理休暇を取るな」と暗に言われていると深読みしないか
ここまで想像すると、
リスクがあまりにも大きいことがわかります。
しかも、その多くは
「よかれと思って言った」側の意図とは違う方向に伝わりやすい。
管理職の役割は「体調管理」ではない
ここで、視点を一度整理してみてください。
管理職の仕事は、部下の体調を管理することではありません。
業務を管理することです。
体調そのものに踏み込もうとすると、
どうしても
・プライバシー
・価値観
・自己責任
に近づいてしまう。
結果として、
「気遣いのつもりだった言葉」が
「追い詰める一言」になることは、決して珍しくありません。
「言わない」ことは、逃げではない
「何も言わないと、放置していると思われないか」
「冷たい上司だと思われないか」
そう感じる管理職も少なくありません。
でも、生理休暇のようなテーマでは、
言わないことは逃げではなく、境界線を守る配慮です。
体調や私生活について、
本人から相談がない限り、
こちらから踏み込まない。
これは、相手を尊重する姿勢でもあります。
ここまでの結論(前編)
善意であっても、個人に踏み込むリスクは大きい
管理職の役割は、体調ではなく業務を管理すること
「本当につらいのか」を見極める必要はない
「言わない」ことは、不作為ではない
だから、
「毎月つらいなら婦人科に行ったら?」
という一言は、言わないほうがいい。
では、何もしなくていいのか。
管理職として、手をこまねいているしかないのか。
それは違います。
後編では、
・生理休暇という制度の前提
・「毎月使われる」と感じたときの違和感の正体
・管理職が実際にやるべきこと
を、具体的に整理します。
「言わない」その先に、
管理職としてできる仕事は、確かにあります。
(後編へ続く)
※この記事は、人事・労務の専門的判断ではなく、
産婦人科医として、月経困難症の特性と現場でよくある相談を踏まえた視点からまとめたものです。
ただし、医療現場と職場の双方を見てきた立場だからこそ、
多くの現場で役立つ考え方だと考えています。
芦屋ウィメンズクリニック
産婦人科医
錢 瓊毓(せん・けいいく)
元コンサルタント。
現在は現役の産婦人科医として医療現場に立ちながら、
企業向けに健康・制度・組織コミュニケーションをテーマとした講演・研修を行っています。

