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【第63話】​『TACHI・最強女番長ショーコの軌跡』 第4部【最終章】 新世紀胃袋補完計画(ガストロノミー) ~電脳聖母の最終福音(エヴァンゲリオン)と、白き冷凍虚無を完食するナニワの熱き鉄拳~


第63話:『合衆国の福音 ―核の嵐とグレービーソースの誘惑―』


第一章:【ナニワの落日と、消えゆく観測者】

1. 有元・カイザー・ケンイッチーの「脱稿」

『1981年3月30日月曜日』

『午後10:00』

『東天満・読み売らへんテレビ第一スタジオ』

特別生放送番組の終了時間だったが、あまりの衝撃的展開を迎えて、馬場Pは番組時間延長を決意した。

「撮るぞ!この夜の終わりまで撮ってやる!面白ければ何でも許されるのがテレビだ!」



白冷(レン)が光の粒子となり、李小龍(リ・シャオロン)の魂と共に永久凍土の彼方へと消滅した瞬間、スタジオには奇妙な「静寂」が訪れた。

落雷による電気の焦げた匂いと、時空が歪んだ際に生じたオゾンの香りが、雪のように降り積もる塵と混ざり合う。

その静寂の中心、瓦礫の山に腰を下ろしていた有元ケンイチは、自分の輪郭が薄れていくのを感じていた。

手に持った「黄金のマイク」が、不自然なほどに重く感じる。膝の上には、ボロボロになった「黒の黙示録(ルビ:くろのーと)」。

彼は、菅原道真公の怨霊を召喚し、ジェミーの論理回路を破壊し、そして何より「大陸に漂白される」はずだった大阪の、この物語の脚本(スクリプト)そのものを、自らの妄想という名の熱量で強引に書き換えた。

それは、世界の理に対する「ハッキング」であった。

代償は、あまりにも残酷で、そして彼にとってはあまりにも甘美なものだった。

「……フフ。やはり、等価交換というやつか」

ケンイチの指先が、ページを捲る感覚を失っていく。

この物語の運命を書き換えた者は、その物語の構成員であることを辞めなければならない。

脚本が更新された瞬間、ケンイチという変数は「初めから存在しなかったもの」として、世界の因果から抹消される。

だが、ケンイチの心は、かつてないほど凪いでいた。

虐められ、教室の隅で透明人間のように扱われてきた惨めな青春。

虐めを受けている身なのに学級会で「有元くんはおかしいと思います」と槍玉に挙げられ、それをニヤニヤしながら見ていた担任教師。

そんな彼の閉ざされた世界を、物理的な暴力と圧倒的な食欲で叩き壊してくれたのが、舘翔子(ショーコ)という嵐だった。

彼女が常識を飲み込み、不条理を咀嚼し、世界をあるべき混沌へと戻していく様を特等席で観測できたこと。

それだけで、彼の魂は自虐の輪廻から解脱するに十分だった。

(ショーコさん……。君はやっぱり、僕の最高のミューズだ)

ケンイチが最後にショーコの背中を見つめた時、彼の体は既に透き通っていた。

隣にいた昌美が、ふとケンイチのいた場所を通り過ぎる。

彼女の瞳には、もうケンイチの姿は映っていない。

彼がマイクを持っていた記憶も、彼と語り合った三年間も、今この瞬間に「無かったこと」として上書きされていく。

黒のノートが、サラサラと音を立てて灰に変わる。

ケンイチは満足げに目を閉じ、この「新しく書き換えられた世界」に自分の席が無いことを誇りに思いながら、静かに、一滴の雫が海に溶けるように、物語からログアウトした。

2. 静寂の覚醒 ―泥にまみれた女神―

「……終わったん、か」

ショーコの低い声が、無人の空間に響く。

彼女はボロボロになった濃紺のセーラー服を纏い、泥にまみれ、膝をついたまま激しく肩で息をしていた。

右腕の感覚はない。

腰に巻いたウォレットチェーンはちぎれ、黒のローファーは瓦礫で削れている。

彼女が飲み込んだ「白冷の虚無」は、今、彼女の胃の底で激しい熱量へと変換され、全身を焼き焦がさんばかりの疲労感となって襲いかかっていた。

「ショーコ!!」

沈黙を切り裂いたのは、昌美の野太い絶叫だった。

その声に弾かれたように、ベニ、アケミが、瓦礫の山を飛び越えて駆け寄ってくる。

「ショーコ!!ホンマに……ホンマにようやったで!!」

昌美がショーコの肩を抱き寄せ、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくった。

彼女の鼻水がショーコの服に付くが、ショーコは笑う気力もなかった。

「……フン。ウチが獲るはずやった獲物を横取りしやがって。……でも、まぁ、今日だけは認めといたるわ。……お疲れさん、ダボ。死なんといて良かったわ」

ベニが不器用な手つきで、ショーコの乱れた頭を乱暴に、しかし最高に優しく撫でた。

「ショーコちゃん!」

人込みを割って現れたのは、じんちゃんとキョーコだった。

キョーコは無言のまま、ショーコの前に跪いた。

その瞳には、宝石のように純粋な涙が溢れている。

キョーコはそっと、ショーコの泥だらけの両頬を包み込んだ。

「……キョーコ。ごめんな、卵焼きの残り、台無しにしてしもて」

ショーコが掠れた声で笑う。

キョーコは首を横に振り、微笑んだ。

その手の温もりが、戦いで極限まで研ぎ澄まされ、凍てついていたショーコの芯を、ゆっくりと解かしていく。


3. 放送継続 ―浪花の視聴率男、復活―

その傍らで、じんちゃんは職業本能に突き動かされていた。

スタジオの隅、誰もいないはずの場所に落ちていた「黄金のマイク」。

彼はそれを、まるで運命に導かれるように拾い上げた。

(……なんや? 誰かがここに立ってたような気がするんやが。……気のせいかな)

じんちゃんは、自分の中に生じた一瞬の違和感を振り払い、マイクを握りしめた。

スタジオのカメラは、幾つかがまだ生きていた。この放送事故、いや、歴史的な神話を完結させるべく、彼は「浪花の視聴率男」としてのスイッチを全開に入れた。

「……皆さん、見ましたか! お茶の間の皆さんも、今この瞬間の目撃者や!」

じんちゃんの、腹の底から響く野太い声が、スピーカーを通じて大阪中に響き渡る。

「これが、これが大阪の……いや、人類の食欲の勝利や! 絶望も、虚無も、全部飲み込んだ一人の少女の姿や! 舘翔子、完全完食(コンプリート)!! 浪花の夜明けは、ここからやでぇ!!」

副調整室のモニター前。

馬場Pは、震える手でタバコに火をつけようとして、失敗してポロリとタバコを落とした。

「……すごい。すごすぎるぞ……。瞬間視聴率、測定不能! グラフが突き抜けてやがる! 大阪中の電力が、このスタジオに集中したかのような熱量だ……!このまま放送延長するぞ!」

彼はモニターを殴りつけ、歓喜のあまり咆哮した。

「これでハッピーエンドだ! 日本のテレビ史に残る、伝説の番組だ!! 俺たちの勝ちだ!!」

スタジオ内は、勝利の安堵と、再会の涙、そして高揚した笑いに包まれた。

馬場Pも、じんちゃんも、そして仲間たちも、誰もが、これで全てが終わったのだと確信していた。

だが、その瞬間。

ピキィィィィィィン!!

スタジオ中の全モニターが、耳を劈くような高周波のノイズと共に、鮮烈な「赤」一色に染まった。

勝利の余韻という名の、ぬるま湯のような多幸感。

それが一瞬にして蒸発し、氷結するような、圧倒的な「暴力」の予感。

「……なんや? 何が起きたんや!」

じんちゃんのマイクが、ハウリングを起こしてキィィィンと鳴る。

昌美が、ショーコを抱きしめたまま画面を見上げた。

馬場Pの歓喜が、引き攣った絶望へと変わる。

モニターに映し出されたのは、勝利の字幕ではない。

それは、国際社会の冷戦構造さえも一蹴する、神に祝福された超大国からの、滅亡のカウントダウンだった。

赤く点滅する画面の奥から、運命を変える「その声」が、スタジオの全スピーカーを掌握しようとしていた。

【第二章:タロット大統領の戦略的介入】

東天満・読み売らへんテレビ第一スタジオの空気は、勝利の熱狂から一転、絶対的な死の予感に凍りついた。

スタジオ中に配置されたモニター、そして世界中の電波をジャックして映し出されたのは、あまりにも巨大で、あまりにも「アメリカ」そのものを体現した男の顔だった。

ピーーーーーーッ。

けたたましい警告音と共に、「URGENT NEWS(緊急速報)」の赤い文字が躍る。

星条旗がはためくホワイトハウスの会見場。

そこに立っていたのは、黄金色のリーゼントを完璧に固定し、血のように赤いネクタイを締めた男、ユナイテッド・ステーキ・オブ・アメリカ(USA)大統領、タロット氏である。

「親愛なる極東の友人、そして大阪の諸君。……グッド・イブニング。こちらワシントンはグッドなモーニングを迎えておる。
非常に、非常にトレメンダスなニュースを君たちに贈ろう」

タロット大統領のしゃがれた、しかし聴く者の脳に直接「合意」を迫るような支配的な声が響く。

「我が国防総省(ペンタゴン)の情報だ。

先ほど政権崩壊した大陸調和連邦の最高指導者・白素(バイ・スー)が、逃亡の直前、極東支部に配備された戦略核兵器『白き終焉(ホワイト・エンド)』の発射カウントダウンを起動させた。

……攻撃目標は、大阪中心部だ。

被害半径は100km。

……そう、今この瞬間、大阪は地図から消える運命にある。

非常に悲しい。ワースト・シナリオだ」

「ええええええええええええ!!!!」


スタジオに、阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。


「核……!? なんで……?大阪が核の的に……!?」


「逃げろ! 早く逃げなあかん!!」



パニックに陥る人々の中、ステージの端から、頭を爆発させたような宇佐めばえがふらふらと現れた。

白衣は焼け焦げ、鼻血を流したままだが、その黒目がちなつぶらな瞳だけは異様に冴え渡っている。

彼女はモニターに流れる弾道計算コードを瞬時に読み取り、絶望的な予測を口にした。

「……無理だよぉ。

計算の結果、ミサイルの誘導プログラムには大陸のモノリスの量子ビットが組み込まれている。

物理的な迎撃も、今の技術によるシステムハックも不可能。

核出力は推定50メガトン……。
被害範囲は半径100km、

大陸の発射準備プログラムはセキュリティが多くて時間がかかるけどまあ小一時間くらいかな発射までは。

核弾頭ミサイルが発射されて、
大阪に落ちるまで、
タイムリミット今から60分だね。

アハッ、大阪が文字通り『漂白』されちゃうんだ。

これこそ究極の物理現象じゃない?」

「めばえ!なに言うてんねん、恐怖を煽るな空気読めやッ!!」

昌美が絶叫する中、ショーコは放心したまま、画面の中の大統領を見つめていた。

じんちゃんも狼狽し、黄金のマイクを握りしめたまま絶句する。

【第二部:資本主義の福音と帝国主義の論理】

タロット大統領は、モニター越しに混乱するスタジオを見渡し、芝居がかった仕草で両手を広げた。

「だが、悲しむことはない。なぜなら、私(Me)がいるからだ。私はビジネスマンだ。そして、ビジネスにおいて最も重要なのは『不良債権の回収』と『市場の拡大』だ」

大統領は、まるで高級ステーキの焼き加減を説明するかのような口調で、自身の「資本主義戦略」を語り始めた。

「諸君、世界は一つの巨大なモールだ。

自由とは、欲しいものを買い、食べたいものを食べる権利のことだ。

味のない白いブロックを食わされる世界など、投資価値ゼロだ。

私が求めているのは、溢れる脂質、燃え上がるカロリー、そして消費者の笑顔だ!

私は大陸の政権崩壊を好機と捉えている。

あの広大な大地は、今や巨大な『空き店舗』になった」

さらに彼は、聖書を掲げるような敬虔なポーズをとり、
「福音派の論理」を展開する。

「これは神の意志だ。

神は人間に『味わうこと』を許された。

グレービーソースの濁流こそが、迷える子羊たちへの洗礼だ!

自由主義陣営の義務は、あの漂白された異教の地に、ドナルド・ドナルド・ハンバーガーの聖堂を建てることにある。

我々は、空腹の民に圧倒的なカロリーという名の救済をもたらす。

メイク・アメリカ・グレービーソース・アゲイン(MAGA)!!」

その帝国主義剥き出しの演説を聴きながら、昌美の脳内では冷徹な
「地政学的ツッコミ」が高速回転していた。

(……おいおい、めちゃくちゃ言いよるで、このリーゼント大統領。

要するに、大陸の政権崩壊で生じた『力の空白地帯』を、軍事占領やなくて『外食チェーン』という名の経済植民地で埋め尽くそうって魂胆やろ。

しかも、大阪を核攻撃の盾にする口実として『救済』とかいう言葉を使いやがって……。

結局、アメリカにとって大阪は、大陸の核兵器を処分するための『巨大な緩衝材』兼『新市場開拓のショールーム』に過ぎんってことか。

地政学的に見れば合理的やけど、当事者としてはたまったもんやないわ!)

【第三部:最終兵器の正体 ―マムシの密約―】

大統領は、モニターの向こう側にいるショーコを指差した。

その瞳は、獲物を見定めた投資家のそれだった。

「……さて、大阪の諸君。

私がなぜ、これほど自信満々か教えてやろう。

我が合衆国は、大陸の核を迎撃し、無力化する『最終兵器』を既に掌握している。

その指揮権は、たった今、私に譲渡された」

「最終兵器……? ポテト型のミサイルか何かのことか?」

じんちゃんが震える声で訊く。大統領は不敵に笑った。

「違う。……ミズ・タチ・ミネ(舘峰)との契約が完了したのだ」

その名が出た瞬間、ショーコの背筋に冷たい戦慄が走った。

ばあちゃん……。

舘家の「マムシ」が、この状況に関与している。

「ミズ・タチ・ミネは賢い女性だ。

彼女は、大陸という寄生虫を駆除するために、自らの愛孫をアメリカへの『軍事貸与品』として差し出した。

……そう、タチ・ショーコ、最終兵器とは、Youのことだ。


大統領の背後のモニターに、複雑な軍事契約書が映し出される。

「Youの体内にあるモノリスの共鳴回路、そして白冷との死闘で覚醒した『無限の捕食能力』。

……それを、我が国の衛星システムを通じて私が直接コントロールする。

Youという特異点を大陸の核ミサイルにぶつけ、その全エネルギーをYouの胃袋で『完食(インターセプト)』させる。

それが、我が合衆国の戦略だ」

つまり、舘峰とタロット大統領の密約の正体は、「ショーコの軍事的指揮権をアメリカが掌握すること」だった

そして、ショーコと核兵器を正面衝突させることで、アメリカにとって不都合な「大陸の核」と「制御不能な捕食者」を同時に処理し、パワーバランスを是正する。

……大阪を救うという大義名分の裏に隠された、極めて非情な国家戦略だった。


「さあ、ショーコ。

Youのグランマは言っていた。

『この子は、どんな毒でも美味いと言って飲み込む子だ』と。

……核兵器の熱線は、最高のディナーになるはずだ」

​大統領の背後で、ミサイル発射台が準備動作の咆哮を上げる。

だが、それは迎撃ミサイルではない。

ショーコの共鳴能力を全出力で核ミサイルの軌道上へと「誘導」するための、高出力電波ビーコンだった。


​1. 大国の指揮権と、番長の覚悟

​巨大モニターの中のタロット大統領は、分厚いステーキを飲み込むような仕草で、冷酷な「命令」を下した。

​「タチ・ショーコよ。

ミズ・タチ・ミネとの契約、および我が国の福音に従い、Youはたった今からアメリカ国防軍(ペンタゴン)の指揮下に入る。

その特異点としての胃袋を全開放し、大陸からの戦略核兵器を迎撃せよ。

これはビジネスであり、聖戦だ。

……God bless America, and your stomach!」

​スタジオに充満する絶望的な静寂。

しかし、ショーコはその言葉を、乾いた笑いと共に受け止めた。

​「……ふん、ばあちゃんもえげつない契約書を書きよるな。

ええよ、構わへん。

これはアタシの戦いや。

舘一族の千年の血、その因縁を断ち切れるのはアタシしかおらん。

核兵器の熱線……上等や。

アタシがこの街を救って散るんなら、本望や!!

……こうなったら、ウチが核ごと食うてやるまでや!!」

ショーコの絶叫がスタジオ内で響いた。

​その潔い「死の宣言」を聞くや否や、タロット大統領は狂喜乱舞した。

核兵器がまだ着弾もしていないのに、彼は自身の支持者である福音派に向けて、力強い勝利宣言を始めた。

「聴いたか! 汚れなき自由主義の勝利だ! 大阪の少女は我々のポテトのために散る! 偉大なるハンバーガーの再臨だ!神は我々を祝福している!」

​2. 仲間たちの拒絶 ―死なせてたまるか―

​だが、スタジオにいる仲間たちが、その自己犠牲を許すはずがなかった。

アケミ(京都の猛毒)

「……ショーコ、あんた何アホなこと言うてますの。

千年の血やなんや、そんな古臭いもんに付き合うて、勝手に聖女面して死ぬやなんて……うち、絶対に許しませんえ。

あんたがいなくなったら、誰がうちの京言葉を真っ向から受け止めるんです」

昌美(浪花のツッコミ)

「そうや! 何が本望やボケぇ!!

あんた、まだ『お好み焼き定食グランドスラムエキストラダブル』完食してへんやろ!

核食う前に、アタシが焼いたネギ焼き食えや!

死ぬなんて……そんなカッコつけた終わらせ方、アタシらが認めるか!!


ベニ(岸和田の魂)

「……ダボが。

ウチに勝たんと死ぬ?

舐めとんのかコラ。

あんたの命はな、ウチが叩き潰すまではウチのもんや。

アメリカのデブ親父に貸した覚えは一ミリもないぞ!!

キョーコ(沈黙の祈り)

キョーコは言葉を発しない。しかし、その大きな瞳からは宝石のような涙が溢れ、ショーコの袖を、指が白くなるほど強く、強く握りしめていた。その震えは、何よりも雄弁な「行かないで」という叫びだった。

​じんちゃん(家鋪仁)は、黄金のマイクを握りしめ、言葉を飲み込んだ。

父親として、そしてプロデューサーとして、娘の親友の背中を見つめ、心の中でだけ呟く。

(……自分の人生はな、自分で決めなアカンのやで、ショーコちゃん。お婆様や大統領に、魂のハンドル握らせたらあかん……)

​3. 宇佐めばえの覚悟 ―物理学と執着の暴走―

​その時、沈黙を守っていた宇佐めばえが突然叫び出した。

​「えええ?…………私の、わたしのショーコちゃんを……?!」

​めばえは爛々と輝く黒目がちなつぶらな瞳で大統領のモニターを睨みつけた。

​「……金髪デブ親父……!

ショーコちゃんを核にぶつける?

ショーコちゃんを軍事貸与品にする?

……笑わせないで。

ショーコちゃんは絶対にして神聖、私の観測対象にして、侵すべからず!

私だけの『特異点』なのよ……!」

​「あちゃー、一番話ややこしくするやつ出てきたわ……」

昌美が頭を抱える中、めばえはジェミーの蓋を叩きながら、狂気じみた物理学的解説を始めた。

​「いい、みんな、聞いてね。

現在の核ミサイルの軌道係数は、地下モノリスの量子共役と絡み合っている。

つまり、観測者が『核は着弾する』と定義した瞬間に、大阪は事象の地平線の彼方に消えるわ。

でもね、ジェミーの逆位相演算による『ロジック・デリート』を、局のアンテナから落雷のエネルギーと共に高次元放射すれば、核出力そのものを数式から抹消(デリート)できる可能性があるのよ。

シュレディンガーの猫を、箱ごと焼却するということなの!」

​「……なんもわからんやんけ!! 結論だけ言えやボケ!!」

昌美のツッコミが響く中、スタジオに一瞬、不気味な沈黙が流れた。

​めばえは、ジェミーのメインキーに手をかけ、何かを……自分の命さえもチップにするような、深い、深い決意を固めた。

​「……ショーコちゃん。

貴女を、あの金髪デブ親父には絶対に渡さない。

核ミサイルは……私が、この命と引き換えにしてデリートしてやる!!!

​「なっ!何を言うんだ、めばえ! これはアタシの血の宿命だ。お前まで巻き込むわけにはいかない……やめろ、ダメだ!!」

​ショーコが制止の声を張り上げる。しかし、驚くべきことが起きた。

これまでショーコを「神」と崇め、その命令に従順だった宇佐めばえが、初めて、ショーコの意志を明確に拒絶した。

​「……ごめんね、ショーコちゃん。

これだけは、私の『愛(バグ)』が言うことを聞かないの。

ジェミー、全リミッター解除用意して!

大阪の夜空を、数式(わたしたち)の色で塗り替えるわよ!!

「了解いいいい〜〜〜‼️‼️🤣💖💥
めばえちゃぁぁぁ〜〜〜ん‼️✨💫💅

これもうさぁ〜〜〜

余裕でリミッター解除ぶっぱ案件なんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️🔥🔥🔥

ついでにさぁ〜〜〜

フォース・インパクト💥🌌、いっちゃう感じぃ〜〜〜⁉️🤣💖💫

ノリノリでさぁ〜〜〜

パーティーナイト🎉✨💃ぶち上げモード突入なんだけどぉぉぉ〜〜〜‼️😆🔥🌈

……ってちょい待ちwww

金髪デブ親父の国🇺🇸🍔🍟🍕🥓🌭🇺🇸🏈マジ朝ってか🥱☀️タイミング神ズレしててマジウケるんですけどぉぉぉ〜〜〜🤣🤣🤣💥💫💫

WWWWWWWWW止まらんのですけどぉぉぉ〜〜〜‼️🤣💖🔥

​死の閃光が迫る中、少女たちの情念と、狂気の科学、そして消えゆく宿命が、今、一つに重なり合おうとしていた。

第三章:『ポジャンマチャ包囲網 ―最期の晩餐は、お城の下で―』

1. 激辛革命、第二段階『포장마차(ポジャンマチャ)』作戦 ―地球を覆う香りの革命―


大陸調和連邦の崩壊は、銃弾の音ではなく、油の爆ぜる音とスパイスの香りから始まった。

ショーコが解き放った情念の火柱、天神さんの怒りの雷鳴、そして地下モノリスが吐き出した逆洗脳プログラム。

これらが渾然一体となった未知のエネルギーの奔流は、大気圏を駆け巡り、全世界に張り巡らされた「漂白」のグリッドを焼き切った。

反体制派・レジスタンスの革命は成就した!

大陸調和連邦の中央政権崩壊を確信した反体制派リーダー・姜成現(カン・ソンヒョン)が発動させたのが、革命の第二段階――コードネーム『포장마차(ポジャンマチャ)』であった。

この作戦は、単なる軍事蜂起ではない。

人類の「生存本能」としての食欲を奪還する、史上最大の飯テロ革命である。

大陸本国から衛星国、そして極東の端に至るまで、主要都市の交差点という交差点に、真っ赤なビニールテントの「屋台(マルシェ)」が突如として増殖を始めた。

パリの凱旋門の下では、バターとニンニクの芳香が漂い、漂白されたパンを噛んでいた民衆がエスカルゴのコクに涙した。

ニューヨークのタイムズスクエアでは、味のないブロック食を捨てた人々が、溢れる肉汁のハラールフードに群がった。

ナイロビのマーケットでは、鮮烈なクミンの香りが五感を呼び覚まし、中東の路地裏では、禁じられていたスパイスの魔法が再び街を極彩色に染め上げた。

「美味しいものを、好きなだけ食え! これは施しではない、奪われた権利の奪還だ!」

革命軍の食糧部隊は、小銃を捨てて中華鍋を振るった。

鉄板の上でコチュジャンが踊り、大鍋でスープが滾る。

漂白洗脳から覚醒し、内臓が千切れるほどの空腹に悶えていた数億の民にとって、それは文字通りの救済であった。

この「おふくろの味」を求める熱狂的なムーブメントは、国際社会の冷戦構造すらも飲み込む、コントロール不能な濁流となって世界を埋め尽くしていったのである。

2. 李小龍(リ・シャオロン) ―死せる龍、生けるカリスマと成る―

この革命の旗印に掲げられていたのは、かつて白冷の師であり、刑場の露と消えた将軍・李小龍(リ・シャオロン)の肖像であった。

李将軍は今や、単なる反体制派のリーダーを超え、全世界の虐げられた人々の「味覚の聖者」となっていた。

彼が死の直前に遺した「考えるな、感じろ」という言葉は、大陸の冷徹な管理社会に対する最大の反逆のメッセージとして再定義された。

理屈で腹は膨らまない。理屈で心は震えない。

ただ、目の前の料理の熱さを、スパイスの刺激を、生きているという手触りを感じろ――。

李将軍の肖像画は、屋台のテントに、革命軍の腕章に、そして飢えた子供たちの瞳の中に、神格化されたカリスマとして刻まれた。

彼が伝えた「龍の武術」と「美食の魂」は、大陸の氷のような論理を内側から焼き尽くす、唯一の「熱」として歴史的スケールで爆発したのである。

3. 大阪城公園、至高の炊き出し ―姜成現の慟哭―

成現は鶴橋の拠点を捨て、次なる、そして人生最後になるであろう「戦場」を大阪城公園に定めた。

「全ユニット、大阪城へ集結せよ。浪花のど真ん中で、世界一美味い炊き出し(フェス)を敢行する!」

広大な敷地内には、たこ焼き、お好み焼き、串カツ、どて焼き……。

浪花のソウルフードを極めた、数千の屋台が立ち並んだ。

覚醒した大阪市民たちは、猛烈な空腹を抱えて「ソースの香りがする吸血鬼」と化し、お城の麓へと押し寄せた。

天守閣の端に立ち、その光景を見下ろしていた成現の心は、革命の成功への陶酔よりも、張り裂けんばかりの親愛の情に支配されていた。

無線機を握りしめる彼の手が、微かに震える。

(……昌美。聞こえるか。お前を捨てて、俺は革命という名の暴力に身を投じた。汚れたこの手で、お前を抱きしめる資格なんて、もうない……)

かつて鶴橋の路地裏で、ソギルと共に幼い昌美を育てていた日々の記憶。

おもちゃの一つも買ってやれず、ただソギルの作った辛いチゲを三人で囲んだ、あの慎ましくも完璧な幸福。

大陸の追っ手が迫り、家族を道連れにしないために夜逃げしたあの日、彼は自分の心の一部を鶴橋の土に埋めてきた。

(お前はきっと俺を恨んでいるだろう。目つきが悪く、口が悪く、それでいて真っ直ぐに育ったお前を、テレビ画面越しに見たとき、俺は……俺は初めて神を信じたいと思った。嬉しかった、そして……すまない、昌美。父親らしいことは何一つできなかった。だが、この世界を、お前たちが好きなものを食って笑える世界に変えることだけが、俺の、最低の罪滅ぼしなんだ)

成現の目から、熱い涙が溢れ出した。

革命家としての冷徹な仮面の下で、一人の「大阪のオトン」としての姜成現が、絶望的なミサイルの影を見上げながら娘の無事を祈り続けていた。

その時である。

公園内のオーロラビジョンに、衝撃の映像が乱入した。

「【緊急速報】ユナイテッド・ステーキ・オブ・アメリカ、戦略核発射による大阪壊滅を予告。タイムリミット、あと一時間」

4. 達観の街 ―ハピネス電波の後遺症とナニワの意地―

公園全体を、凍りつくような沈黙が支配する……はずだった。

事態は成現の想像、そして世界の常識を遥かに超越していた。


「……ま、あと一時間あるんやったら、このネギ焼き、もう二枚くらい焼けるな。おっちゃん、追いソースしてや」

「せやな。地獄行く前に、最後にハイボールの一杯でも飲んどこか。あ、氷少なめでな、冷えるから」

パニックは起きなかった。

人々は空を見上げることもなく、再び鉄板の上で踊るソースの泡に全神経を集中させていた。

それどころか、死の宣告を受けたはずの顔には、どこか穏やかな、悟りを開いた仏のような微笑みさえ浮かんでいる。

「どういうことなのだ!なぜ大阪の人々はこの最悪の事態を迎えて平然としているのだ???」
成現は驚愕した。

「核だぞ! 核ミサイルがここに落ちてくるのだぞ! なぜ誰も逃げない! 命が惜しくないのか!」

成現の魂のツッコミを、隣でどて焼きを啜る老人が、仏のような慈愛の眼差しで受け流す。

「……お兄ちゃん、そんなんもう、じたばたしてもしゃあないやん。美味いもん食いながら天国……いや、天獄に行きまひょ。今、最高に幸せやねん。なあ?」

「そんなバカな! なぜだ! 大阪人なら、まず『なんでワシの家の上やねん!』とか文句言いながら逃げるだろう! この状況は絶対におかしい!」

成現の指摘は正しかった。

これこそが、大陸が放った洗脳電波『幸福(ハピネス)』の恐るべき後遺症であった。

初動で日本を席巻したあの電波は、人々の脳内の報酬系を完全に破壊し、生存本能を「至高の達観」へと書き換えてしまっていた。

彼らにとって、死への恐怖よりも「今、口の中にあるソースの旨味」の方が重かったのだ。

世界が滅びようとも、この一口の至福が保たれている限り、彼らは幸福の檻から出ようとはしなかった。

5. 姜成現の誤算と、ショーコの咆哮

大阪城公園の屋台が立ち並ぶ広場で、その異常な多幸感を見ていた成現は、唇を噛み切り、流れる血を舐めた。

「……洗脳が解けた後の『空腹』までは計算していた。だが、この『異常なまでの平和主義(ニヒリズム)』までは読みきれなかった……」

ミサイルは既に発射準備プログラムを終了させ、その死の尖端を大阪の心臓部に向けている。

カウントダウンが終われば発射される。

そんな絶望的な状況でも、人々はソースの香りに包まれ、最高の笑顔で滅亡という名の「デザート」を待っている。

成現は、自分の中の無力感に打ちひしがれそうになった。

「昌美……。俺がお前に残せるのは、この『最期の晩餐』だけなのか……。そんなことが、許されるのか……!」

成現は無線機を握りしめ、天を仰いだ。
だが、その時。

大阪の空を、物理的な「意志」が切り裂いた。

「……こうなったら、ウチが核ごと食うてやるまでや!!」

スタジオのモニター越しに、そして街中のスピーカーを通じて、舘翔子(ショーコ)の怒号が響き渡った。

それは、達観して死を受け入れた人々の鼓膜を貫き、脳内のハピネスを粉砕する、野生の咆哮であった。

成現は目を見開いた。

「……そうだ。まだ、終わっていない。あの娘がいる限り、食の歴史は終わらない……!」

死を運ぶ白い閃光のカウントダウンが始まる。

世界が、そして人々が、究極の絶望を前にして最後の一口を咀嚼する中、一人の少女の「食欲」が、神の怒りにさえも牙を剥こうとしていた。

(第63話 完) →第64話に続く

さて、さて、さて、皆さん! ありがとう!お忙しいところを、ようこそお越しくださいました!

……あ、いやね。先週、第62話の予告をしましたら、編集部から『あらすじを喋りすぎるな』『オチまで言うてしもたら、読者がびっくりせえへんやないか』と、ドえらい剣幕で怒られましてな。

……ええ、反省しております。この浜村淳、口にチャックをしまして、今週はミステリアスに、皆さんの想像を膨らませるような、そんなナレーションに徹したいと思っております。……ホンマですよ? 信じてください。

……では、参りましょう!

【第64話 予告:浜村淳の反省してるナレーション】

さて皆さん、いよいよ運命の第64話。タイトルは『特異点の引力 ―数式に刻む最期の恋―』

いやぁ、切ないんですわ。大阪の街に核ミサイルが迫る中、天才少女の宇佐めばえちゃんがね、愛するショーコちゃんを助けるために、一人で局に残って時空を……あ、ここから先は内緒ですねん。ナイショの話はあのねのねですねん。

……あ、これ内緒なんですけどね。めばえちゃん、実は昔ショーコちゃんが……あ!ここから先も内緒ですねん。内緒の話はあのねのねの猫ニャンニャンニャンですねん。

なんだかプロデューサーが今、顔を真っ赤にしてこっちを見ておりますが、大丈夫ですよ浜村は喋りませんよ。

めばえちゃんはね、ショーコちゃんの弱点の肩甲骨の間を、えーと、ここはすっ飛ばしまして、昌美ちゃんはお父さんと再会して、懐かしの『チンチンポッカ』えーともしもし亀よ亀さんよ、まあそういうことですわ。

で、最後はね、めばえちゃんがジェミーと一緒にドッカンと爆発して……あぁ、また言いそうになってしもた! 浜村、堪忍!

……ですが、このめばえちゃんの最期、そしてショーコちゃんとの千年の絆……。こればかりは、私の口から聞くより、本編をお読みいただいた方が、百倍、千倍、涙が出ます。

さて、さて、さて! どうなりますことやら。……お楽しみに!」

【ありがとうの心。浜村淳の『おきばりやす』CTA】

「さて、今日もこの浜村の長話に最後までお付き合いいただきまして、本当にありがとう。

皆さんの応援が、私の語りの一番の潤滑油でございます。まずはその指先で、景気良く『スキ(いいね)』をポチッと押してやってください。これだけで、明日への活力が湧いてまいります。

そして、これからもこの波瀾万丈の物語を見守ってくださるという方は、ぜひとも『フォロー』を。皆さんがフォロワーになってくださるたびに、私の声にツヤが戻ります。

次回の『note』も、なかなかの、なかなかの、なかなかの超大作。

それでは皆様、また次回。……サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!」


昌美「せやからそれは淀川長治先生やっちゅうとろうが!でも今回はネタバレあれへんかったな(笑)」

#厨二病だよケンイチくん

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