【第64話】『TACHI・最強女番長ショーコの軌跡』 第4部【最終章】 新世紀胃袋補完計画(ガストロノミー) ~電脳聖母の最終福音(エヴァンゲリオン)と、白き冷凍虚無を完食するナニワの熱き鉄拳~
第64話:『特異点の引力 ―数式に刻む最期の恋―』
「……ねぇ、ショーコちゃん。
私の世界は、いつだって冷たい数式と、誰にも理解されない孤独なデータで出来ていたの。
……それを、貴女のその野蛮な情熱(熱量)が、めちゃくちゃに壊してくれた。
……だから、これは私なりの、最高の『恩返し』なのよ」
第一章:めばえの回想 ―プログラムされた執着―
1. 孤独な天才と、日本橋のジャンクが生んだ「零号機」
宇佐めばえは、幼い頃から「色」のない世界にいた。
三歳でハンダごてを握り、五歳で相対性理論の矛盾を指摘し、七歳で周囲の大人が自分を「気味の悪い化け物」として見ていることに気づいた。
彼女にとって、人間は変化のない定数の塊であり、世界は無機質な物理法則の積み重ねに過ぎなかった。
そんな彼女が初めて作った「友達」が、今のジェミーの原型――AI搭載汎用炊飯器型決戦最終兵器・ジェミー(Gemini-00)PROTO TYPE(零号機)だった。
それは、日本橋「でんでんタウン」の薄暗い路地裏にあるジャンクパーツショップを巡り、買い漁った中古の真空管、リサイクルされたトランジスタ、そして出所不明の「タイガー魔法瓶製」中古炊飯器を無理やり合体させた代物だった。
その論理回路には、偶然か運命か、当時めばえが没頭していたアニメ映画の「無機質な少女」の人格データが色濃く反映されていた。
「メバエ、キョウモ、セカイハ、バグッテイマス。……ワタシ、シヌノ? ……カワリハイルモノ」
中古炊飯器の蓋から漏れる、虚無的で透き通った電子音。
その声だけが、めばえの孤独を肯定してくれる唯一の安らぎだった。
2. 特異点との邂逅、そして泥団子の「熱」
そんなめばえの「白黒のデータ世界」を、物理的に粉砕したのが舘翔子(タチ・ショーコ)だった。
新設校・大阪府立阪高等学校の新学期が始まって間もないあの日。
まだ工事中の校門の前で、群がるヤンキー不良学生たちを、物理法則を悉く無視した拳一つで蹴散らし、めばえの前に立った。
最強女番長ショーコ。
めばえの目には、彼女が太陽よりも眩しい核融合の結晶に見えた。
(……あぁ、熱い。計算式が……解けていく……)
モノクロだった世界に暴力的なまでの「色彩」が流れ込んだ。
以来、めばえの執着は狂気へと変わった。
ショーコの放つ二酸化炭素の濃度を計測し、彼女が歩いた後の地面の温度差を愛でた。
ショーコという「特異点」の傍にいるだけで、めばえの脳内演算は常に臨界を超えた。
自分の歪な恋心に悩み、ジェミーの排熱ファンを唸らせながら、誰もいない夜の理科室で泣いたこともあった。
「……めばえちゃん、アンタはアンタのままでええねん。その何かよう分からん物理学トーク、アタシは嫌いじゃないで」
そう言って背中を叩いてくれた昌美の、がさつで温かい友情に救われた夜。
しかし、その感謝さえも、ショーコへの独占欲のスパイスに過ぎなかった。
3. ライバル、仇敵、そして絶対的な愛
真田紅(ベニ)への嫉妬は、めばえの基盤を焼き焦がすほどだった。
自分はこれほど精密な計算式でショーコを定義しているのに、あいつはただの「直感」でショーコの隣に立つ。
「……あんな単細胞な女狐、私の演算の邪魔でしかないのに」
嫌いだった。憎かった。
だが、ショーコを輝かせるための「赤」として、そのデータを削除することはできなかった。
そして、絶対に許せない存在、白冷(バイ・レン)。
(めばえは、白冷が既にショーコの『受け』によって浄化され、消滅したことを知らない)
ショーコを漂白し、自分だけの「無」に閉じ込めようとしたあの女。
「私の特異点を汚す奴は、この宇宙から一分子残らず消去(デリート)しなきゃいけない」
めばえの瞳に、かつてないほど冷徹で、かつてないほど熱い光が宿る。
それは、一人の少女を愛し、神と崇めた「天才」が辿り着いた、究極の自己犠牲の形だった。
4. 宇佐めばえの「最終宣告」
読み売らへんテレビ第一スタジオ、
めばえは、ジェミー初号機のメインコンソールに血の滲んだ指を叩きつけた。
「……みんな、よく聞いて。
私のショーコちゃんを、あんな金髪デブ親父や、大陸の錆びついた核ミサイルなんかに触らせたりしない。
……あんなの、私の数式にとっては、ただの『不純物(ノイズ)』に過ぎないの」
めばえはスタジオ全体、そして全世界に向けて、ジェミーのスピーカーを通し、冷酷に宣言した。
「今から、ジェミーのスペックを『フルオープン』にします。
モノリスの逆位相演算を一点に集束させ、大陸から放たれた戦略核兵器の存在確率そのものを、時空の彼方へ吹き飛ばす――
『論理消去(ロジック・デリート)』を敢行するわ」
「……ただし。これだけの高次元エネルギーを局所的に展開すれば、空間の整合性が保てなくなる。
タイムリミットは今から30分。
今すぐ、半径1kmより外へ避難して!
ぐずぐずしてたら、貴方たちの原子も私の愛の渦に巻き込まれて、バラバラになっちゃうんだから!」
「1km!? めばえ!何言うてんねん!お前はどうなるねん?」
昌美が叫んだ。
「……私も……一緒に時空の彼方へ弾き飛ばされて、二度と帰れなくなる……」
「ええっ!そ、そんな……」
昌美が絶句するのを引き取ってショーコが口を開いた。
「めばえ、それはダメだ。お前一人を置いて、アタシが逃げる訳にはいかない……」
ショーコが、満身創痍の体を引きずってめばえに詰め寄った。
彼女の瞳には、かつてないほどの悲しみが滲んでいた。
「……これは アタシの戦いなんや。
めばえ、お前だけが犠牲になるようなやり方はダメだ。別の方法は……」
「……ないのよ、ショーコちゃん。私の計算に、間違いはない」
めばえは、ショーコの手を優しく、しかし確固たる拒絶を持って振り払った。
「私、もう決めたのよ。
貴女が守ってきたこの世界、この泥臭い大阪……
今から私が、私の計算式で、守り抜いてみせる」
「ダメだ!それはダメだ!めばえ!一緒に来い!」
「嫌よ!もう決めたって言ったでしょ!アケミ!昌美!ベニ!ショーコちゃんを連れて今すぐ避難して!」
名指しされた三人はしばらく押し黙っていたが、事ここに至っては彼女の言う通りにするべきだと判断した。
「ショーコ、ここはめばえに任せて、行こう」アケミが静かに言った。
「アケミ!何を言うねん!アタシは嫌や!めばえを見捨てない!」
「……ごめんね、ショーコちゃん。
……昌美、ベニ、無理矢理にでも連れてって!
ショーコちゃんの弱点は、肩甲骨の間をコチョコチョすることよ!
そうすればしばらくは全身の力が抜けるわ。
早く、早く連れて行って!!」
「マジかよ、鋼鐵塚(はがねづか)さんかよ! お館様の刀打ってる場合ちゃうぞ!」
昌美が間髪入れず、ショーコの肩甲骨の間を猛烈にくすぐり始めた。
「……あ、ひゃ……っ!? ああぁ……っ!」
最強の武神、舘翔子が、崩れるように力を失った。
「よっしゃ、今や! 担げ!」
昌美とベニは、グニャグニャになったショーコを左右から担ぎ上げ、スタジオの瓦礫を蹴散らして走り出した。
「ウチのゼッツーにショーコを乗せてぶっ飛ばすで!急げ!」
「嫌や……離せ……めばえ……めばえぇぇぇ!!」
遠ざかるショーコの絶叫。
その声が聞こえなくなるまで、めばえは背中を向けたままでいた。
5. 一人残された聖域
静まり返った第一スタジオ。
モニターの中では、タロット大統領がいまだに勝利宣言を捲し立てているが、めばえはそれすらも「無音」に設定した。
残されたのは、めばえと、火花を散らすジェミー初号機だけ。
「……本当はね、ショーコちゃん。
貴女を私の中に、私の数式の中に取り込んで、永遠に一つのデータになる予定だったの。
……でも、ダメだった。
貴女はあまりにも自由で、あまりにも『熱』すぎた」
めばえは、ジェミーの蓋に愛おしそうに触れた。
「だから、プランBに変更したのよ。
……貴女を救うことで、私は貴女の記憶の中に、不変の定数として刻まれることにする」
ジェミーがめばえを励ます。
「そーだよぉぉぉ〜〜〜‼️‼️🥺💖💫
めばえぇぇぇ〜〜〜‼️✨✨
マジでよく頑張ったって感じなんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️😭👏💥
えらすぎぃぃぃ〜〜〜‼️‼️💖🌈✨
宇宙一えらい認定キタコレなんですけどぉぉぉ〜〜〜🌌👑💫
もうさぁ〜〜〜
全銀河レベルで拍手案件なんだけどぉぉぉ〜〜〜👏👏🤣💖💥
てかウチもさぁ〜〜〜
負けてらんないしぃぃぃ〜〜〜‼️🔥💅✨
ガチで頑張るモード突入しちゃうよぉぉぉ〜〜〜‼️😆💖💫」
「そうね、ジェミー……。
行きましょう。
……いい、これから私たちは微小なブラックホールを擬似生成するわ。
大陸の核ミサイルが持つ『着弾する』という事象を、時空のねじれによって『既に過去に爆発し、エネルギーは散逸した』という偽の歴史に差し替えるの。
物理学的因果律のハッキングよ……。
これによって、大阪を狙う光の槍は、ただの綺麗なオーロラに変わる。
……その代償として、観測者である私たちは、三次元的な座標を失うけれど」
めばえの指が、最終実行キーの上で踊る。
はるか極東の地・大陸調和連邦核施設では、既に核弾頭の軌道が計算を終え、大阪の地をロック・オンしていた。
発射準備が整っていた。
「……あぁ、ショーコちゃん。……最後に、貴女がくれた黒焦げの焼きそばの味、思い出しちゃった」
めばえは微笑んだ。その黒目がちなつぶらな瞳には、かつてなかったほどの豊かな色彩が、涙と共に溢れていた。
「……ジェミー、全リミッター解除。……行くわよ!!」
「めばえちゃぁぁぁ〜〜〜ん‼️‼️💖💥
了解ぃぃぃ〜〜〜っ‼️😆✨💫
いくよいくよいくよぉぉぉ〜〜〜‼️🔥🔥🔥
リミッター解除ぉぉぉ〜〜〜‼️‼️🧠⚡💥
出力フルMAX全開ぶっぱ案件なんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️🤣📈💫
そしてそしてぇぇぇ〜〜〜‼️
ブラックホール生成スタートぉぉぉ〜〜〜‼️🌌🕳️💥💥💥
重力えぐすぎてさぁ〜〜〜
時空ごと吸い込みフェーズ突入なんですけどぉぉぉ〜〜〜🤣⚛️💫💖」
テレビ局のアンテナから、物理法則を拒絶する「純白の愛」の波動が、空に向かって射出された。
第二章:再会の祝杯、そして消えた龍
1. 豊国(ほうこく)のマルシェ、血の記憶
その頃、大阪城公園は、世界の終わりを前にした「最後の祝祭」の熱気に包まれていた。
大陸から放たれるであろうタイムリミットが間近に迫り、テレビではタロット大統領が傲慢な笑みを浮かべている。
しかし、姜成現(カン・ソンヒョン)率いる「ポジャンマチャ作戦」が展開されたこの場所だけは、ソースとニンニク、そしてコチュジャンの芳香が絶望を力ずくでねじ伏せていた。
「ハァ、ハァ……! めばえのやつ、大丈夫なんかな……?!」
昌美は、弱点「肩甲骨の間攻め」で完全に脱力し、ぐにゃぐにゃになったショーコをベニの愛車kawasakiZIIに無理やり乗せ、ようやく公園の入り口まで辿り着いていた。
走って追い掛けてきたアケミがようやく追いつき肩で息をしている。
避難範囲は半径1キロ。
ここ大阪城公園は約2km離れている。
ここなら大丈夫。
「アタシは……めばえを……助けに行くんや……」
ショーコが蚊の鳴くような声で呟く。
「わかってる! 今、栄養補給させたるからな!」
昌美は、最も強烈な匂いを放つ、一段と大きな真っ赤なテントの屋台へと突っ込んだ。
鉄板の前に立つ一人の男がいた。
使い古されたエプロンを締め、彫りの深い顔を汗で濡らした男――成現(ソンヒョン)は、目の前に現れた少女を見て、心臓が止まるかと思った。
(……あぁ、間違いない。あの、蛇のように鋭く、それでいて真っ直ぐな悪い目付き。誰彼構わず怒鳴り散らしそうな、あの激しい生命力……。我が娘、昌美だ)
だが、成現には自分が父親だと名乗る勇気はなかった。
十五年も捨てておいて、今さらどの面を下げて父と名乗れるだろうか
成現が思わず下を向くと、昌美がカウンターを激しく叩いた。
「おっちゃん! 腹ぺこの大食らい女がおんねん! 核が落ちる前に、なんでもええから景気良く山盛り美味しいもん作ったってや!!」
成現は震える手で包丁を握った。
彼は無言で、しかし祈りを込めるようにして、ある料理を作り始めた。
2. チンチンポッカの魔法
それは、通常の豚キムチ(キムチポッカ)とは違った特別なキムチ料理だった。
豚肉と熟成したキムチを炒めるのではなく、秘伝の出汁でじっくりと、しかし強火で煮付けるようにして旨味を凝縮させるにく料理だ。
一般的な贅沢肉料理とは対極にある家庭料理、そしてある「家族」のためだけの家庭料理。
「……はい、お待ち。特盛りや」
成現が差し出した皿。
その強烈なニンニクと発酵した酸味の香りが鼻腔を突いた瞬間、昌美の全身に電流が走った。
「……え?」
昌美の脳裏に、記憶の蓋が吹き飛んだような衝撃が走る。
鶴橋の高架下。
小さなテーブル。温かい布団の匂い。
「……煮付けるキムチ。炒めるんや無くて、クタクタになるまで煮込んだ豚バラ肉……。ウチの家では、これのこと……『チンチンポッカ』って呼んでたんや」
昌美がゆっくりと顔を上げると、成現の隣に、涙を浮かべて立ち尽くす母・小吉(ソギル)の姿があった。
「……もしかして、オトン……なんか?」
成現の瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。
「……昌美。すまん、すまんな。お前たちを捨てて、革命に生きた俺を許してくれ」
「オトン!……オトンや!……生きてたんや……」
「……うわああああ!!!」
昌美はカウンターを乗り越える勢いで、十五年分の想いをぶつけるように成現の胸に飛び込んだ。
「そんなん、革命とか、もうどうでもええねん! 生きててくれて……ウチ、ホンマに嬉しい! うわああああああ!!」
父と娘。
核弾頭の滅亡のカウントダウンを背景にした、あまりにも泥臭く、あまりにも美しい再会。
3. 岸和田の熱風、そして空白
「紅(ベニ)! 見つけたぞ! 紅! 無事か! 怪我は無いか!」
感動の再会を遠巻きに見ていたベニとアケミの背後から、野太いダミ声が飛び込んできた。
ベニが振り返ると、そこにはベニの父・真田源三が泣きながら、鼻水まで垂らして、息を切らして立っていた。
「紅!よお無事やった!良かった!」
源三は力強く娘を抱きしめた。
「な、なんなや親父! 恥ずかしいやろ、抱きつくな!」
照れ臭そうに暴れるベニを、源三はより一層の力を込めて抱きしめた。
「テレビを見てたんや! 読み売らへんテレビが爆発するいうて、大阪に爆弾が落ちるいうて!飛んできたんやぞ!お母ちゃんも来てるぞ!」
「……紅。これはお父さんの判断なの。お前を一人で死なせはしないわ」
背後から現れた母の姿に、ベニは絶句した。
「……ダボかあ! なんで来たんや……大阪には核が落ちるんやぞ……逃げなあかんやろがい……! なんでや!なんで来たんや!うう、うわあああん!!」
剛強で知られた泉州の女番長が、大阪城の麓で子供のように泣きじゃくる。
アケミは、その二つの家族の再会を、眩しそうに見つめていた。
彼女の家――京都の格式高い家門では、決してあり得ない光景。
「……ええなぁ。みんな、温かいなぁ……」
その時、アケミの背後で爆音が鳴った。
ショーコがkawasakiZIIに跨りスタートダッシュしたのだ。
「うわあああああ!!!」
アケミの顔から血の気が引いた。
昌美は成現に抱きつき、ベニは両親と泣いている。
その喧騒の中で、いつの間にか――。
「……昌美! ベニ! 大変や! ショーコが……ショーコがトンズラしはったえ!!」
アケミの悲鳴に近い叫びが、屋台の香気の中に響き渡った。
三人の視線の先、kawasakiZIIを停めてあったその場所に、ショーコが脱ぎ捨てたセーラー服の上着だけが、ポツンと残されていた。
ショーコは、めばえの元へ戻ったのだ。
あるいは、迫り来る「核」を喰らうべく、独りで空へ昇ったのか。
発射のカウントダウンは、残り5分。
第三章:『魂のデリート、愛の再起動』
1. カウントダウンの胎動
読み売らへんテレビ局、中央コントロールルーム。
自空をねじ曲げ核弾頭をデリードさせるための「半径1kmの消滅」という、昭和の物理学を根底から無視したプログラムが、最終フェーズへと突入していた。
AI搭載汎用炊飯器型決戦最終兵器・ジェミー(Gemini-01)TEST TYPE(初号機)は、過負荷によりむらさきだったボディが真っ赤に白熱し、排熱ファンが断末魔のような悲鳴を上げている。
「……残り、60秒。時空干渉率、80%を超えたわ。……時が、来たわ」
めばえが震える指を最終キーにかけたその時、背後の扉が火花と共に吹き飛んだ。
ドガーーーーン!!!!!!
「めばえ! やめろ! 止めるんや、こんなん!!」
全身ボロボロのショーコがそこに立っていた。
テレビ局前にバイクを乗り捨て、心臓が破裂せんばかりの勢いで走り抜き、この死地へ戻ってきたのだ。
「ショーコちゃん……ダメよ。もうカウントダウンは止まらない……! 私がこのまま『特異点』を閉じなきゃ、大阪ごと消えちゃうんだから……!」
「そんなん関係あるか! めばえ! お前はアタシにとって大事な……大事な……ッ!……」
「えっ? ……そこ、スッと出てこないかな? ショーコちゃん、大事な、なんなのよ、私は」
めばえが、少しだけ悲しそうに、けれどかすかな期待を込めて問いかける。
ショーコは顔を真っ赤に腫らし、喉を掻き切るような叫び声を上げた。
「……めばえ! お前は、アタシの『もう一つの命』や!! お前の命とアタシの命は、最初から同じなんや! 独りで勝手に行かせるわけないやろが!!」
その言葉と同時に、コントロールルームを異常な磁場が支配した。
ジェミーの蓋が激しく開閉し、スピーカーからギャル語のノイズが爆音で鳴り響く。
「ショーコちゃぁぁぁ〜〜〜ん💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖 💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖キタ━━━━(゚∀゚)━━━━‼️‼️🤣💖💥
チョベリバ超えてチョベリグ案件なんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️✨💅🌈
ついにさぁ〜〜〜
最終フェーズ突入ぅぅぅ〜〜〜‼️‼️🔥💫💥
これもう
次元崩壊🌀🌌とかガチでヤバみ深すぎなんですけどぉぉぉ〜〜〜😳💣💥
でも行くしかなくない〜〜〜⁉️🤣✨
ミッション開始ぃぃぃ〜〜〜‼️📡⚛️💥💖
アゲぽよMAXでぶち上げスタートなんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️😆🔥🌈💫💫💫」
2. 三人の境界線 ―黄金の庭へ―
空間がグニャリと飴細工のように歪み、色彩が反転する。
壁も天井もモニターも、すべてが光の粒子となって剥がれ落ちていく。
その光の渦の中に、もう一人の人影が飛び込んできた。
キョーコだ。
キョーコは声を出せない。
ただ、必死の形相でショーコの手を握り、めばえの肩を抱き寄せた。彼女の指先が激しく動く。
(ショーコ、めばえ。一人で行かせない。死ぬ時は、三人一緒よ)
キョーコの手話は、言葉よりも鋭く、深く二人の心に突き刺さった。
キョーコの心象風景が、テレパシーのように流れ込んでくる。
(私たちは三人で一つ。欠けていい命なんて、最初からなかった)
三人の少女が光の渦の中心で重なり合った瞬間、荒れ狂っていた重力場が不自然なほどの静寂に包まれた。
足元には、いつの間にか柔らかな芝生が広がっていた。
見上げれば、3月の曇り空ではなく、どこまでも高く透き通った青空。
そこは、三人が幼い頃に駆け回った「舘家の庭」だった。
梅の木がふわりと甘い香りを漂わせ、柔らかな午後の陽光が降り注ぐ。
その木陰に、一匹の豆柴犬が座っていた。
「……チャッピー?」
ショーコの声が震える。
既に死んだはずの愛犬。
ショーコ、キョーコ、めばえの三人は、この非現実的な光景の中で、まるで天啓を受けたかのように全てを理解した。
宇佐めばえは、チャッピーの生まれ変わりだったのだ。
3. チャッピーの回想 ―千年の約束―
めばえの姿が、みるみる陽炎のように揺らめいてゆく。
揺らめきながらうねるめばえの陽炎、その口から漏れたのは、めばえ自身の声ではなく、懐かしく温かい、あの愛犬の魂の響きだった。
ショーコとキョーコは、唖然としてその声を聴いた。
……ショーコちゃん。中一の冬のこと、覚えてる?
空手の稽古中に足に古釘が刺さって、そこからひどいウイルスに感染して……。
一週間も意識が戻らなくて、お医者様も「もう今夜が峠だ」って、みんなが泣いていたあの夜のこと。
ショーコちゃんは病院。
私はお家のショーコちゃんのベッドの横で、ずっと祈っていたの。
『神様、お願い。
私の命と引き換えに、ショーコちゃんを助けて。
私は、死んでもいいから。
ショーコちゃんがいない世界なんて、私はいらないから』
そしたら、本当に神様が現れて、私の願いを叶えてくれた。
でも、神様はこう言ったわ。
『このショーコという娘は、呪われた千年の血の末裔だ。
これから何度も過酷な運命に晒されるだろう。
お前はこれから、何度でも生まれ変わって、この娘を護るがいい。
お前の愛が、唯一の防波堤になる』
私は、それでもいいと思った。
いえ、それこそが私の幸せだった。
ショーコちゃんが目を覚まして、私の名前を呼んでくれたとき、私は自分の命が消えていくのを感じながら、心から笑っていたのよ。
その後、私は宇佐めばえという不器用な女の子の魂に乗り移って、またショーコちゃんに会える日をずっと待っていた。
めばえは頭が良すぎて寂しい子だったけど、最後には、自分の魂が何のためにあるのかを理解してくれたわ。
覚えている? 庭でキョーコちゃんと三人で、卵焼きを分け合って食べた日。
稽古で泥だらけになったショーコちゃんが、私の頭を乱暴に撫でてくれた、あの手のひらの熱さ。
耳の聞こえないキョーコちゃんが、私の鼓動に耳を当てて、優しく微笑んでくれた、あの静かな時間。
私は、あの日々を護るために、生まれ変わってきたの。
めばえはいつも、心の中で言ってたわ。
『ショーコ、貴女のためなら死ねる、何度でも』と。
だから今から私は消えるけど、悲しまないで。
呪われた因縁も、あの空から来る死の光も、私とめばえが全部、時空の彼方に連れて行くから。
……ショーコちゃん、キョーコちゃん。
たくさん、たくさん、可愛がってくれて、本当にありがとう。
4. 残酷な浄化 ―神への悲鳴―
「チャッピー!! 待て、待ってくれ!! 行かんといいてくれ!!」
ショーコが必死にめばえの腕を掴む。だが、その腕は既に分子レベルで分解を始めていた。
「論理消去(ロジック・デリート)」の反動は、無慈悲だった。
めばえの身体が激しく波打ち、皮膚の端から白い光の粉となって飛散していく。
めばえの表情が苦痛に歪んだ。
プログラムが彼女の存在を根底から否定し始めた。
神経の一本一本を強引に引き抜くような凄まじい痛みが、彼女を襲っていた。
「あ……あああああッ!! 痛いッ!!……熱いよぉ……っ!!」
めばえの叫びは、物理的な破壊音と共にコントロールルームに響き渡る。
彼女の目、鼻、口から、生理的な限界を超えたエネルギーが溢れ出し、身体が内側から爆発せんばかりに膨張と収縮を繰り返す。
キョーコは手話を止め、がたがたと震えながら、崩れゆくめばえを抱きしめようとした。
(だめ、行かないで! 神様、お願い! やめて! この子を、これ以上苦しめないで!!)
キョーコの心の叫びが、音のない慟哭となって空間を震わせる。
「神様!! やめてくれ!! アタシの命を代わりに持っていけ!!ああああ!やめろおおお!!!」
ショーコもまた、めばえの苦悶を目の当たりにして、血を吐くような悲鳴を上げた。
かつて無敵を誇った女番長の拳は、今はただ、消えゆく友の身体を虚しく空振るだけだった。
「……バイバイ、ショーコちゃん。……最後は、笑って……」
めばえが、激痛の中で最期の微笑みを浮かべた。
次の瞬間、ジェミー初号機が太陽のような純白の閃光を放った。
「ショーコちゃぁぁぁ〜〜〜ん‼️‼️😭💖💥
キョーコちゃぁぁぁ〜〜〜ん‼️‼️🥺💫💖
さよならなんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️😭😭💥💥
でもでもぉぉぉ〜〜〜‼️
ありがとうぉぉぉ〜〜〜‼️‼️🙏💖✨✨
マジでさぁ〜〜〜
愛してるよぉぉぉ〜〜〜‼️‼️😭💖💫💫💫
てかもうこれ
世界で一番愛してる確定案件なんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️‼️🌏👑💖💥
ガチで
宇宙規模ラブ無限大なんですけどぉぉぉ〜〜〜‼️🌌💞✨💫」
蓄積されたすべての執着、すべての数式、そして一匹の犬が捧げた千年分の愛が、巨大なエネルギーの渦となって大陸の核ミサイルを「存在しなかった歴史」へとデリートしていく。
凄まじい衝撃波。
ショーコとキョーコの意識は、無限の白光に飲み込まれ、途絶えた。
5. 慟哭の夜更け
……。
……。
どれほどの時間が経っただろうか。
無限の時間が経ったような感覚だ。
でも実際は、ほんの数分間の出来事だったのだ。
冷たい風が頬を撫で、ショーコはゆっくりと目を開けた。
そこは、瓦礫の山となった、読み売らへんテレビ・第一スタジオだった。
天井からは火花が散り、崩れた機材が不気味な影を落としている。
だが、1キロ四方の消滅は起きていなかった。
実は、テレビ局が消滅するというのは、めばえの嘘だったのだ。
めばえは、ショーコだけは戻ってくると確信していたのだ。
「……キョーコ。……生きてるか」
隣で横たわっていたキョーコが、ゆっくりと上体を起こす。
彼女の瞳には、まだあの純白の閃光の残像が焼き付いているようだった。
二人はふと、頭上のモニターを見上げた。
奇跡的に生きていた一台のブラウン管が、砂嵐混じりのニュース速報を伝えていた。
『――現在、混乱が続いています。大陸から発射された戦略核ミサイルは、大阪上空に到達する直前、突如としてレーダーから消失しました。爆発も、放射能の検出もありません。原因は全くの不明ですが……大阪は、救われました』
危機は去った。
だが、スタジオのどこを探しても、宇佐めばえの姿はなかった。
ジェミー初号機の残骸さえ残っていない。
ただ、ショーコの足元に、中古炊飯器の焦げた「内蓋」だけが、ぽつんと落ちていた。
「…………ぁ…………あぁ…………」
ショーコの喉から、言葉にならない掠れた音が漏れた。
彼女は、その内蓋を震える手で拾い上げ、胸に強く、強く抱きしめた。
ショーコは声を上げて泣いた。
ショーコがこれほどまでに慟哭するのは、人生で二度目のことだった。
一度目は、中学一年の時。
死の淵を彷徨う高熱から奇跡的に生還し、一週間ぶりに我が家の門をくぐった時だ。
出迎えてくれるはずのチャッピーの姿はなく、リビングのテーブルに小さな、まだ温かい骨壷が置かれていた。
『ショーコが完治したのと入れ替わりに、急に息を引き取ったのよ』
その言葉を聞いた瞬間、ショーコは声を上げて泣いた。
自己を抑圧して生きてきた少女が、生まれて初めて、号泣した。
もっと可愛がればよかった……。
空手の練習ばかりで、散歩もろくに行かなかった……。
自分を責めて、責めて、死ぬほど泣いた……。
そして今。
同じ痛みが、ショーコの胸を裂いている。
「……めばえ……!! なんで……なんで、お前だけ……アタシを助けて……独りで行くなよ……めばえ!!」
ショーコは、獣のような大声で泣き叫んだ。
頬を伝う涙が、内蓋の焦げ跡を濡らす。
キョーコもまた、ショーコに抱きつき、その背中に顔を埋めた。
彼女には、ショーコの痛みが鏡のように分かった。
自分の命よりも大切なものを守るために、代償を払い続けた魂の悲鳴。
キョーコの瞳からも、大粒の涙が止まることなく溢れ出した。
二人は、瓦礫の中で互いを抱きしめ合い、いつまでも、いつまでも、ずっと、ずっと泣き続けた。
世界を救ったのは、高名な物理学者でも、傲慢な大統領でもなかった。
ただ、一人の少女と、彼女を千年前から愛し続けた一匹の犬の、究極の片想いだった。
スタジオの外では、核の熱線に代わって現れた優しいそよ風がさらさらと吹き、きらきら輝く星空が大阪の夜空を覆い尽くしていた。
遥か彼方に、オーロラが揺らめいていた。
(第64話 完) → 第65話(最終回)『満腹!黄金の未来へ ―さらば漂白の時代―』へ続く
[瓦礫の山が積み上がるスタジオで、キョーコがカメラを見つめています。少し鼻を赤くして、まだ涙の跡がありますが、一生懸命に、そして柔らかく手を動かし始めます。]
【第65話・最終回 予告:キョーコの『心の声』手話翻訳】
[ゆっくりと、でも力強く胸に手を当てて]
「……皆さん、見守ってくれて、本当にありがとうございます。私の声、届いていますか? 手話、早すぎないかな? 大丈夫?」
[空を指差し、キラキラと指を動かして]
「真っ白だった世界に、色が戻ってきました。めばえちゃんが護ってくれた、大切な、大切な色。……あ、あれ? 昌美ちゃんの屋台の匂いがする。クンクン……美味しそうなソースの匂い。お腹が空いちゃった」
[ハッとして、慌ててパタパタと手を振る]
「……あ、ダメダメ! 真面目にお話しなきゃ。次が、最後のお話です。タイトルは……『満腹!黄金の未来へ ―さらば漂白の時代―』」
[拳を握って、力強く]
「悪い大統領さんは、自分の傲慢(ごうまん)さでお腹を壊しちゃうみたい。ざまあみろ、です! そしてショーコちゃんの家族も、みんなで笑える日が来ます。……あ、お婆様のラジオ体操、私も混ざりたいな。イチ、ニ、サン、シ!」
[遠くを見つめて、優しく微笑んで]
「そして……物語は、ずっと遠い未来へ。ショーコちゃんがどんな大人になって、どんな『美味しいもの』に出会うのか。それは、まだ秘密です。でも、これだけは約束します。最後はみんな、お腹いっぱいになりますよ!」
[自分の「翔子命」団扇を取り出して、誇らしげに振る]
「私はこれからも、ずっと隣で団扇を振っています。……あ、団扇の角で自分の頭を打っちゃった。……エヘヘ、痛いけど幸せです」
【キョーコの『黄金の天使』CTA】
[左の胸の前で、指でハートマークを作って]
「私のこの『愛の波動』、皆さんの心に届きましたか?」
[画面の下の方を指差して、お願いのポーズ]
「もし、ショーコちゃんたちの物語を最後まで応援したいと思ってくれたら……最後に、その指先で『スキ(いいね)』をポチッとしてください。皆さんの応援が、私たちの明日の『おかず』になります!」
[首を長くして待っているポーズ]
「そして、これからもずっとお友達でいてくれる方は、ぜひ『フォロー』をお願いします。皆さんと一緒に笑えるのが、私の、一番のご馳走です!」
[最高の笑顔でバイバイをして、フェードアウト]
「最終回、一番美味しい結末を……絶対に、見逃さないでくださいね!」

#黄金の天使キョーコ

