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【第65話・最終回】​『TACHI・最強女番長ショーコの軌跡』 第4部【最終章】 新世紀胃袋補完計画(ガストロノミー) ~電脳聖母の最終福音(エヴァンゲリオン)と、白き冷凍虚無を完食するナニワの熱き鉄拳~

第65話:『満腹!黄金の未来へ ―さらば漂白の時代―』

第一部:タロット大統領の挫折「世界は美食で出来ている」

1. 奇跡の帰還 ―ナニワの龍、再び―

一九八一年三月三十一日に日付が変わった時刻、午前零時。

読み売らへんテレビの廃墟から、支え合いながらふらふらと歩いてきた二人の少女、ショーコとキョーコの姿が大阪城公園の入り口に現れた。

夜の帳が降りた公園内を埋め尽くしていた数万人の市民、そして屋台の煙。その喧騒が、水面を走る波紋のように一瞬で静まり返った。

全員の視線が、ボロボロの白シャツ・ボロボロのロングスカートを纏い、泥と汗にまみれながらも、最強の空気を纏って不敵に笑う少女へと集中する。

「……ただいま。遅うなって堪忍な」

ショーコの声が響いた瞬間、爆発したような歓声が公園を揺らした。

         「ショーコーーーッ!!」


真っ先に駆けてきたのは昌美だった。

鼻水を垂らし、顔をぐしゃぐしゃにしてショーコを押し倒さんばかりに抱きしめる。

「このアホお! 死んだかと思たやろ! 心配したでもう怒るでしかし! お帰り!おかえり!ショーコ!!」

続いてベニが、照れ隠しに拳を震わせながら近づく。

「……フン、ウチのライバルが核兵器ごときに消されたとなっちゃ、泉州の紅い女狐の二つ名が廃るんや。よう戻ってきたな、最強の女番長。べ、別にウチは心配なんかこれっぽっちもしてへんかったからな!お前が負けるわけないもんな!お前をぶっ倒すのはこの真田ベニ様やからな!ぐすん!」

アケミも上品にハンカチを噛み締めながら、涙声で続けた。

「……ショーコ。あんたのいない大阪なんて、出汁の抜けたうどんみたいなもんや。イヤミ言わない京都人みたいなもんや。戻ってきてくれて、ホンマにおおきに」

じんちゃん(家鋪仁)は黄金のマイクを放り出し、実の娘を歓迎するようにショーコの肩を叩いた。

「ショーコちゃん、すごいで!君は伝説や。読み売らへんテレビの、いや、全人類の希望やで!すごいわ!また今度ワシの番組に出てな!」

馬場Pも、中継車からすっとんで出てきてショーコに駆け寄り、叫ぶ。

「最高だ、最高だよショーコ君! これで本当の完食だ! 君というメインディッシュが戻ってきて、この番組はようやく完成したんだ!この番組は凄い視聴率を絶対取るぞ!ワシの時代が来るんや!ありがとうショーコ君!面白けれぱ何でもいいのがテレビや!!」

仲間達から浴びせられる賞賛の言葉。

それは、かつては孤独だった「呪われた血の末裔・しかもコミュ障少女」が、自分の居場所をこの街に勝ち取った証だった。


2. 音なき勇者へのリスペクト

ショーコは自分を抱きしめる仲間たちを優しく制し、隣に立つ少女、キョーコを前に押し出した。

「みんな、聞いてくれ。

頑張ったのはアタシ一人やない。

……アタシが何度も折れそうになった時、ずっと隣で、

音のない世界で一緒に戦ってくれたんが、

このキョーコや。

この子がおらんかったら、核は消せんかったんや。

勝たれへんかったんや」


一同の視線がキョーコに集まる。

彼女は照れくさそうに、けれど誇らしげに、「翔子命❤️」「こっち向いて❤️」の推し団扇を振り、手話で伝えた。

(私は、ショーコちゃんが大好き。だから、一緒にいただけ。みんな、ありがとう)

その姿に、昌美が真っ先に頭を下げた。

「キョーコちゃん、アンタ……耳聞こえへんいうのに、あんな修羅場に突っ込んでいったんか。

アタシら五体満足でも足震えてたのに……。

アンタこそ、ナニワで一番の根性女や!

めっちゃリスペクトやで!」


ベニも頷く。

「……言葉はいらんな。

その瞳を見ればわかる。

あんたも立派なウチ達のバディや!」


スタジオのスタッフや買い物客、屋台のオヤジたちまでもが、キョーコに向けて温かい拍手を送った。

様々な壁(バリア)を超えた魂の共鳴が公園を包み込む。

キョーコは初めての経験だった。

自分が誰かを「推す」だけの存在ではなく、推しと共に戦う「戦友」として認められた。

彼女は花が綻ぶような黄金の天使の笑顔を見せた。


3. 国際ニュースが伝える「李小龍とタチ・ショーコ」

その頃、公園内に設置された巨大オーロラビジョン、そして世界中の家庭用テレビには、歴史の転換点を目撃したマスコミたちの興奮が爆発していた。

「――衝撃のニュースを繰り返しお伝えします! 大陸調和連邦、革命蜂起によりついに崩壊! 暫定政権が樹立されたという情報もあります!」

CNNの特派員が、興奮でネクタイを緩めながら叫ぶ。

「革命の象徴として掲げられているのは、かつての英雄・李小龍(リ・シャオロン)!

彼の『考えるな、感じろ』という言葉が、漂白された人々の心に火をつけたのです!

大陸全土に無数の屋台が立ち並び、人々は数十年ぶりに、温かいスープを啜りながら自由を謳歌しています!」


続いて、BBCの女性キャスターが日本の映像をバックにまくし立てる。

「そして、この奇跡的な核消失の裏にいたとされるのが、日本の少女、タチ・ショーコです!

彼女は戦略核のエネルギーをその身に受けて消滅させたという説が浮上しています!

欧米メディアは彼女を『Goddess of Appetite(食欲の女神)』と呼び、李小龍と共に世界平和と美食のシンボルとして讃えています!」

衛星中継では、ニューヨーク証券取引所の喧騒が映し出された。

「歴史的バブルです!

大陸解放と大阪の奇跡を受け、ニューヨークの株式市場はパニック的な大暴騰!

食品関連株は軒並み大暴騰!

農産物、畜産、漁業、すべてが青天井のストップ高です!

これは全人類が『何かを美味しく食べること』の価値を再認識した結果でしょう。

経済のベクトルが完全に書き換えられました!」


画面の中では、トレーダーたちが電卓を叩きながら、おにぎりやホットサンドを頬張り、涙を流して「美味しい!」と叫んでいる。

世界は今、恐怖ではなく「空腹と満足」で一つになろうとしていた。


4. 舘家の円団 ―更地からの再出発―

騒乱の最中、大阪城公園の片隅では、舘家の三世代が静かに、けれど濃密な再会を果たしていた。

お婆様・お峰は、山田施設長に支えられながらも、背筋を伸ばしてショーコを見つめていた。

逆洗脳電波による120%の覚醒は、彼女のシワ一つ一つに生命力を漲らせている。

「ショーコ、よくやったわね。

私の目に狂いはなかった。

お前は舘の呪いを、最高の『スパイス』に変えてみせたんだ」

「ばあちゃん……もう、無理せんときや。

これからはアタシが美味いもん、なんぼでも食わせたるから」


そこへ、母・翼が軽やかな足取りで近づいてきた。

かつての仕事中毒な鬱々さは消え、その瞳には新しいビジネスの野心が、しかし今度は温かい光として宿っている。

「ショーコ。私、決めたわ。

会社の不動産投資は全部整理する。

……代わりに、新しいビジネスを立ち上げるの」

「新しいビジネス?」

「ええ。この屋台(ポジャンマチャ)をヒントにした、世界一温かい『家庭料理チェーン』よ。

レシピは全部、姜成現さんのレジスタンスから提供してもらうわ。

……名前はね、『舘家の食卓(Tachi’s Table)』よ。イカスでしょ?

世界中の寂しい子供たちに、お母さんの味を届けるの。……どうかしら?」

翼が楽しそうに語る姿を見て、ショーコは胸が熱くなった。

「……ええやん。ママが作るんやったら、アタシが全部味見したるわ!」

父も隣で微笑む。

「パパも手伝うよ。翼、君の料理なら、きっと世界を救える」

「あら、あなた。包丁も握ったことないくせに」

笑い合う家族。

かつて冷え切っていた舘家の食卓が、今、三月の夕日の中で解かされていく。


ショーコは、この温もりこそが自分が戦い抜いた末の「一番のご馳走」なのだと確信し、幸せな溜息をついた。

「良かったな、ショーコ!」
昌美が声を掛ける。

「ああ、昌美も、お父さんに再会できてよかったな」

「うん、これから親子水入らずで暮らすんや。ウチはオモニの味・二代目を目指すで」

ここで昌美が少し顔を曇らせてショーコに囁いた。

「ショーコがアメリカの最終兵器になる話、どうなるんやろ。

核爆弾はもう消えたんやから、もうショーコが戦わなくてもええんやろ?

……ショーコ、もうどこにも行かんといてな、お願いや」

「安心しろ、昌美。

いまこの宇宙では“金髪ブタ親父”の確率振幅が臨界点に達しているのよ。そしてまもなく波動関数が収束するわ。その瞬間、時限爆弾という名のエネルギー解放イベントが発生して、あの“最終兵器”とかいう低次元な密約は量子ゆらぎの彼方にデコヒーレンスして消滅する運命なのよ、エヘ、エヘヘヘ!」

「ええ?何て言うたん?」

「ん?分からんかったか?もう一度言おか?」

5. タロットの凋落 ―ハゲ山と泣き言―

一方その頃、ワシントンD.C.、ホワイトハウスの大統領執務室では、かつてない悲惨な光景が展開されていた。

「……ありえない。こんなことがあってたまるかッ!!」

ドナルド・タロット氏は、モニターに映る「ドナルド・ドナルド・ハンバーガー社:連続ストップ安:株価マイナス」の文字を見て、地べたに這いつくばっていた。

めばえの置き土産であるデリート・プログラムは、彼の資産だけでなく、彼の尊厳すらも根こそぎ奪い取っていた。

「私の……私のハンバーガーが……ゴミ以下だ! それどころか、一株持つごとに借金が増えていくなんて、どんな不条理だ! これはビジネスじゃない、いじめだ!! ママぁ、助けてくれぇ!!」

極限のストレスにより、彼の自慢だった黄金のリーゼントは、一分間に一本という驚異的な速度で抜け落ちていった。

「ああああ! 私の髪が! 私のアイデンティティがぁぁ!!」

床には黄金の毛が散乱し、鏡に映ったのは、ツルツルに輝く情けない「ハゲ山」となった男の姿だった。

「……誰も私の言うことを聞かない。秘書も、将軍も、みんなマクドナルド(競合店)に転職しやがった。……私は大統領なんだぞ。偉大なんだ。……誰か、ポテトの一本でもいいから恵んでくれ……。うえええん、お腹すいたよぉ……」

ホワイトハウスの床で、かつての暴君が赤ん坊のようにうじうじと泣き言を垂れ流す。

その姿に、かつての威厳は微塵もなかった。


【ナレーション】
大陸調和連邦が崩壊し、傲慢なアメリカ大統領が失脚。

暴力と漂白と極端なイデオロギーによって世界を支配しようとした暴君の時代は、一九八一年のこの日、ひとまずの終わりを告げることとなった。

全人類が自らの胃袋の声に耳を傾け、自由な味を謳歌する「美食バブル」の到来である。

……しかし、このタロット氏。

四十数年後、超高齢にして「髪の毛(カツラ)と意地」を取り戻し、大統領二期目に挑戦して当選。再び世界を混沌のグレービーソースで染め上げようとするのだが……それはまた、別の話である。


深夜の大阪城公園に、勝利を祝うソースの焦げる良い匂いが立ち込める。

ショーコは空を見上げ、そっと胸の中にあるジェミーの内蓋に触れた。

「……ごちそうさん、……さあ、完食の続きや!!」


第二部:TACHIホールディングス解体と舘一族血の呪いの終焉

1. マルサの襲来 ―地獄のガサ入れ狂想曲―

時は前日、三十日の朝に戻り、

ショーコとキョーコが読み売らへんテレビ局で、文字通り命と胃袋を賭けた聖戦を繰り広げる日の午前9:00のこと。

大阪・北浜の超高層ビル、「TACHIホールディングス」本社

「……いいですか、翼社長。

大陸(連邦)への送金が遅れれば、あなた方の命の保証はない。

帝都中央銀行の融資枠を今すぐ全開放しなさい。経営権を私達に渡すのです」

無機質で沈んだ調子の声、大陸調和連邦のエージェントが最後通牒を突きつけていた。

TACHIホールディングス代表取締役社長・舘翼(タチ・ツバサ)は、モニターに映し出される真っ赤な貸借対照表を前に、震える手でハンコを握っていた。

副社長の夫が寄り添い、ガタガタ震えている。

「……く、屈辱だ。こんな形で終わるだなんて……」

翼は血も滲まん限り唇を噛んでいた。

その時である。

重厚なマホガニーの扉が、物理的な衝撃と共に蹴破られた。

「動くな! 国税局査察部だ!!」

現れたのは、安物の背広を完璧に着こなし、鋭い眼光を放つ男たちの集団。通称、「マルサ」


「な、なんだ君たちは! 商談中だぞ!」

帝都中央銀行の副支店長が叫ぶが、マルサのリーダーは一切動じない。

「商談? 結構。我々は『不適切な帳簿』とのデートに来たんでね。――全員、突入(ガサ)開始だ!着手!!」

唐突に始まった査察現場では、地獄の閻魔様も真っ青の阿鼻叫喚が始まった。

「そこの事務員! 電卓を置け! 電話を切るな! 隠し金庫はどこだ!」

「課長、給湯室の天井裏から二重帳簿、一丁上がりです!」

「トイレのタンクの中に『裏金』の文字が書かれたフロッピーディスクを発見! クールですね!」

「副社長の机の奥から、スイス銀行経由の複雑怪奇な送金ルート図が出てきました! これは役満だ!」

生々しい怒号。紙の舞う音。

翼は呆然と立ち尽くしていた。

帝都中央銀行の副支店長は「聞いてないよぉぉ!」と、昭和のバラエティのような情けない絶叫を上げて床を転げ回った。


2. 「MAMUSHI MONEY」の正体

国税のガサ入れが撤収し、翼夫婦が呆然としているうちに時間は夕方になった。

翼がテレビをつけると、夕方のニュースが全国のお茶の間に届けられているところだった。

『――緊急速報です。日本の巨大基幹企業・TACHIホールディングス本社に対し、国税局による大規模な査察が入りました。同社は数年間にわたり、総額数兆円に及ぶ前代未聞の粉飾決算を続けていた疑いが持たれています。関係筋によれば、同社の倒産はもはや避けられない情勢です。』

「数兆円……? そんな馬鹿な。うちの資産が全くないなんて……」

翼が呟く。

だが、現実はさらにその上を行っていた。

実は、これらすべては舘峰(お婆様)の深謀遠慮であった。

TACHIホールディングスの巨大な資産は、ここ数年ですべて現金化され、ダミー会社を何十社も経由する超高度なマネーロンダリングを経て、すべて大陸反体制派・レジスタンス組織へと流し込まれていたのだ。

全世界で同時多発的に勃発した「屋台(ポジャンマチャ)作戦」の全貌とは。

莫大な食材費、人件費、秘密のアジト賃貸料、運搬トラック代、そして中華鍋、諸々の購入費……その原資は、お峰が私利私欲を捨てて横流しした「MAMUSHI MONEY」だったのである。


残った固定資産にはすべて根抵当がガチガチに張り付けられ、流動資産は実質ゼロ。

あるのは、帝都中央銀行から一本化して引き出した「巨額の短期借入金」という名の、巨大な負債の爆弾だけ。


帝都中央銀行大阪支店に戻った副支店長たちもまたニュースを見ていた。

「……終わった。回収不可能だ。我が銀行も、私のボーナスも、私の出世街道も、全部終わりだぁぁ!!」

副支店長は、口から蟹のような泡を吹いてその場に白目を剥いて倒れた。

大陸のエージェントも慌てて本国へ通信を入れるが、帰ってきたのは冷たい一言だった。

『――失敗は許されない。貴公のパスポートは無効化した。はい、粛清(パージ)』

「ひ、ひえぇぇぇ……」

男たちは膝から崩れ落ち、ただの廃人と化した。


3. 飛べない翼の覚醒

翼は応接室のソファで放心し続けた。

ぼんやりとテレビが流し続ける映像を見ていた。

私の人生とは、一体なんだったのだろう。

血塗られた一族の跡取りに指名され、若くして大企業の社長となり、様々な重圧に耐えて激務をこなし、自分なりの理想を掲げ積み上げてきた。

母・峰は、私を否定したのか。

なぜ、自分が否定する娘を後継者に据えたのか。

それはやはり、母が舘一族の歴史を終わらせるためだ。自由のある会長職として裏工作を秘密裏に完成させるためだ。

それはよく理解できる。

しかし、どうにも理解できないのは、それならばなぜ、私と腹を割って話をしてくれなかったのか。

私を飛び越えて、娘の翔子を利用したのか。

......…あ!......…まさか?

翼は妄想から我に返った。

時刻はもう夜になっていた。

読み売らへんテレビの特番生放送が衝撃的な映像を写していた。

そこには、泥にまみれ、それでもなお「完食」を目指して吠える娘、ショーコの姿があった。

「……翔子。あの子、あんなに体を張って戦って。……あぁ、私はなんて愚かな母親だったのかしら」

翼の瞳から、冷徹な色彩が剥がれ落ちた瞬間だった。

「舘の血だの、ホールディングスの名声だの……そんな、実体のないものに縋って。あの子を見ようともしなかった。……あなた、立って。残務整理を始めるわよ!」

「翼……。あぁ、わかった。僕たちの、本当の『仕事』をしよう。」


ここに、千年にわたり続いた舘一族の「血の呪い」――捕食と支配の連鎖は、経営破綻というあまりにも現代的で世俗的な形で終焉を迎えた。


そして、そのラストを飾ったのは、皮肉にも一族が「最終兵器」として育てたショーコの、あまりにも純粋な勝利であった。


4. ラジオ体操と涙の和解

翼夫婦は、残務整理が一段落すると、その足で大阪府阪市の「高級高齢者施設・楽々の里」へと向かった。

そこで彼らが目にしたのは、そこが高齢者施設とは思えない、驚天動地の光景だった。

「イチ、ニ! サン、シ! 腰を大きく回してー!」

なんと、逆洗脳電波で120%復活した
舘峰が、施設の老人たちや山田施設長を引き連れて、全力でラジオ体操第一を踊り狂っている姿があった。

「お、お母様!? あらまあ! なんてこと!」

「来たな、翼。遅いじゃないか。……テレビを見ろ、私たちの『希望』が戦っている。……すごい子だねぇ、ショーコは。あれはお前たち夫婦の『正義の血』だよ」

「あああ!お母様って!なんという生命力なの!」

お峰は体操を止め、荒い息をつきながら誇らしげに娘である翼を真っ直ぐに見た。

「ショーコは私の孫だが、その前に、翼、お前の娘だな」

「……そんな。私なんて、名前負けしている飛べない愚かな人間です。あの子に何もしてやれなかった……」

翼がうなだれると、夫がそっと肩を抱いた。

「そんなことないよ、翼。僕は知っている。君が厳しく、それこそ嫌われるほど厳しくショーコを躾けたから、あの子は暴走せず、正義を貫く人間になれたんだ。君は、君なりに必死であの子を護っていたんだよ」

「あなた……。でも、私はヒステリーばかりで。……あなたがいつも優しくフォローしてくれたから、あの子の心は腐らなかった。あなたのおかげよ」

「何を言うんだ。ショーコは僕たち二人の娘じゃないか。お互い、出来ることをしただけだよ」

夫婦は互いの労をねぎらい、十五年分のわだかまりを溶かすように微笑み合った。

それを見ていたお峰が、静かに、けれど深く頭を下げた。

「……そうだね。一番悪いのは、すべてを操ろうとしたこの私だ。……翼、今まで辛く当たって済まなかったね。お前も、よく耐えた。こんなやり方しかできずに済まないと思ってるよ。でも、翼はやり遂げた。ありがとう、翼。悪い母親を許しておくれ」

「そ、そんな、そんな言葉を……、……お母様……ッ!」

翼は初めて、お峰の前で子供のように声を上げて泣いた。

そうなのだ、母・峰は、舘一族の呪いから私を守ってくれたのだ。私は、翼を広げて、翔んでいたのだ。

夫もまた、妻を抱きしめながら静かに涙をこぼした。


お峰もまた、込み上げる感情に瞳を潤ませようとしたが……。

「……あぁ、ダメだね。ババアになると体に水分がなくて、涙がちっとも出てこないや。……山田さん、ポカリスエットを持ってきておくれ!」

湿っぽかった空気は一気に大阪らしい笑いへと変わった。

「翼、婿殿、今から大阪城公園に行くよ!今日はまだまだ食べるよアタシは!ハッハッハ!」

お峰と翼夫婦は大阪城公園に向かう車の中で核弾頭発射のニュースを聞いたが、躊躇せずショーコの元へ向かった。

もはや、何もかもを受け入れられる心境になっていたのだ。

呪われた一族の家族が、普通の家族に戻ったのだ。

お峰は孫を、翼夫婦は娘を、迎えに行かねばと思った。それ以外は、何も考えられなかった。

死ぬとか、生きるとか、そんなことはもうどうでも良かった。三人はそんな心境になっていた。

この今の心境が「幸せ」なのだと、皆が感じていた。

ここに、本当の意味で、一族の呪いが解かれたのだった。



エピローグ:『2026年、ストックホルムの夕焼け』

1. 栄光のダブル受賞

時は流れて……二〇二六年十二月十日。

スウェーデン、ストックホルム。

ノーベル賞授賞式の会場であるコンサートホールは、かつてない熱気と、どこか場違いな「ナニワの気風」に包まれていた。

第126回ノーベル賞。

この年、物理学賞と化学賞を日本人の師弟が同時に受賞するという、ノーベル賞百二十六年の歴史を塗り替える前代未聞の快挙が成し遂げられた。

「……新エネルギー理論、およびその生成技術。そして新理論を応用した先端医療技術の確立。これらの功績は、人類を資源の呪いから解放し、不治の病をも過去のものとした」

晴れがましいステージの上。

かつての「バーコードハゲ」から進化し、今や潔いほどに見事なツルッパゲとなった土屋たかし(81歳)は、最高礼装の燕尾服に身を包み、誇らしげに胸を張っていた。

その隣に立つのは、世界で最も影響力のある科学者と言われる、ドクター・ショーコ(舘翔子・62歳)。

彼女は、かつての最強女番長の姿を彷彿とさせる、首元でスカーフをきりりと括ったスタイル。

そして、その髪型は年を重ねても変わらない。前髪を高く高く持ち上げた、気合のリーゼントヘア。

白髪混じりのリーゼントだ。

衣装は、亡き祖母・お峰から譲り受けた、重厚な紅と白の双龍の刺繍が施された、誠にドスの効いた黒留袖。

科学の最高峰の場において、彼女の存在感は周囲を圧倒していた。

2. 基調講演 ―赤い炊飯器の帰還―

授賞式は滞りなく進み、記念レクチャーの時間となった。

MCがショーコの略歴を朗々と読み上げる。

「ドクター・ショーコは京都大学物理工学部を卒業後、マサチューセッツ工科大学(MIT)特別チームへ編入。恩師である土屋たかし博士と共に新エネルギー理論を完成させました。現在は、母・翼氏が興したTSUBASAホールディングス傘下、TACHIラボのCEO兼常任理事を務めておられます。経済誌で『世界を創る100人』に五年連続で選出されております」

盛大なスタンディングオベーションの中、ショーコが演壇に立った。

彼女は流暢な英語で、音楽のように心地よいリズムでスピーチを進めていく。

「……さて、最後になりますが、皆様にご紹介したい私の作品があります。この新エネルギー理論を応用した、次世代AIプラットフォーム端末です。どうぞ」

ステージ横にスポットライトが当たる。

そこに鎮座していたのは、一九九〇年代に一世を風靡したあのアニメを彷彿とさせる、鮮烈な赤いフォルムの炊飯器であった。

「ご紹介します。私の研究のバディである、AI搭載汎用炊飯器型決戦最終兵器・ジェミー(Gemini-02)PRODUCTION MODEL(弐号機)です。さあ、ジェミー。世界中の皆様にご挨拶して」

……沈黙。

会場がザワつき始める。

ショーコは少し焦り、「ジェミー? いつものように、ご挨拶して」と促すが、赤い炊飯器は沈黙を守ったままだ。

ザワザワ……と戸惑う観衆を前に、ショーコはついに我慢できず、演壇の後ろで屈み込んで、床を見つめながら小声で喋り出した。

「おい、なんなんやこれ! コイツなんで黙っとるねん! 世界中が見てるんやぞ、ここでスベったら『アタシら』の科学者人生終わりやぞ! おい、何処をどうしたらええねん、教えろ早く!……え? あぁ、そうか。うんうん……わかった、やるよ!」

ショーコが意を決して立ち上がった。

「失礼しました! ええーと、このツマミを回して、このボタンとあのボタンをポチッとな……はい、お待たせいたしました!」

すると、炊飯器から勢いよく蒸気が噴き出した。

   スピイイイイイイイイイッ!!!!!


蓋がバカッと開き、内蔵された高性能スピーカーから大音量の音声が響き渡った。

          「あんた、バカぁ?」


「…………」

土屋先生は目を丸くし、ストックホルムの貴族たちは石像のように固まった。

「……ハッハッハ! やられたわ! こいつ、一番大事な時にこれや! 皆様、大変失礼いたしました!ほなサイナラ!」

ショーコが豪快に笑い飛ばすと、その明るい波動に引きずられるように、会場は爆笑の渦に包まれた。

気難しい科学者も、北欧の王族も、皆が腹を抱えて笑っている。

それは、科学の勝利というよりは、「笑いと食欲」という名の生命エネルギーの勝利であった。

3. 大阪、鶴橋の風

その様子を、衛星中継の液晶テレビで観ていた店があった。

大阪・鶴橋。かつてのレジスタンスの拠点、今は「オモニの味・昌美(チャンミ)」

店主の昌美(60代)は、3人の孫に囲まれて、テレビの中の親友の晴れ姿を観ながら、ビールを片手にツッコミを入れた。

「……平和かッ!!」

店には、いつものようにアケミとベニもいた。

「相変わらずですわねぇ、ショーコはんは。ノーベル賞でもリーゼントやなんて。あの頃からずっと同じやなんて気合い入っとおすなあ」

「フン、あのハゲちゃびん博士もえらい出世したもんやな。まあせやけどショーコの晴れ姿、ホンマに惚れ直すわ。いや、別に好きやとかそんなんとちゃうで、りっぱになりよったな言うて褒めとんのやからな!おい昌美! チンチンポッカもう一丁やダボ!」

「なんでウチがダボ呼ばわりやねん怒るでしかし!」

かつての少女たちは、今やナニワの最強のオバチャンとなり、鉄板の香ばしい煙を浴びながら賑やかに笑い合っている。


 4. 結び:黒の黙示録、封印


一九八一年のあの日。

世界を漂白の闇から救うために、二人の大切な「誰か」が歴史の表舞台から消えていった。

一人は、物語の脚本を書き換え、初恋の相手をミューズとして仰いだ少年。

一人は、千年の愛を数式に変え、愛する人の身代わりとなった少女。

歴史の教科書に彼らの名は載っていない。

けれど、今日、人々が囲んでいる温かい食卓も、平和な株式市場も、そしてストックホルムの笑い声も、

すべては、彼らが文字通り命を懸けて守り抜いた「黄金の未来」の上にある。

世の中は、誰かの努力で出来ている。

その誰かは、もう目に見えないかもしれない。

けれど、愛する人の心の中で、そして美味しい一口の中に、彼らは確かに生き続けている。

皆様も、どうか愛する人と共に、美味しいものを食べて笑い合う、その不器用で尊い時間を大切にしてください。


……さて、私の役割もここまでだ。

「黒の黙示録」は、これにて永久に封印される。

ククク……。

いつかまた、君が猛烈に腹を空かせた時、

この物語のページが、どこかで開かれるかもしれない。

さらばだ、愚民ども。


最強女番長ショーコの奇跡 ―完―


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#天才物理学者土屋たかし先生
#黄金の天使キョーコ
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#泉州の紅い女狐ベニ


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#最強女番長ショーコ


#食いしん坊バンザイ柳小路アケミ
#荒ぶるJK互昌美


#AI搭載汎用炊飯器型決戦最終兵器・ジェミー (Gemini-00)PROTO TYPE(零号機)
#AI搭載汎用炊飯器型決戦最終兵器・ジェミー (Gemini-01)TEST TYPE(初号機)
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#天真爛漫めばえちゃん
#最強女番長ショーコ


#岸和田の海神ゲンゾー
#最強女番長ショーコ


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#最後の侠客でございます蝮のお峰


#白き粛清の執行官レン
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