幸福な王子 ― その日
その日、世界は変わらなかった。
見えるものだけが、変わった。
第一章 幸福だった王子
王子は、幸福だった。
高い壁は風を遮り、
人々の声も遮った。
宮殿には音楽が鳴り響き、
そこには笑い声があった。
城の外は、
遠かった。
王子は、
知らなかった。
ただ幸福だった。
第二章 一晩だけ
秋も終わる頃、
一羽のツバメが像の肩へ降りた。
仲間はもう南へ向かっている。
急がなければ冬が来る。
王子は言った。
「あの家へ、この宝石を届けてほしい。」
それは、ほんの少し羽を休めるだけのはずだった。
第三章 高い場所
宝石を届けた帰り道。
ツバメは見た。
見てしまった。
冷えた部屋を。
泣いている母親を。
熱に浮かされる子どもを。
王子もまた、
高い場所から街を見つめていた。
第四章 冬
翌朝になれば南へ飛び立てる。
そう思っていた。
もう一晩。
もう一人。
あと一度だけ。
王子は頼み続けた。
ツバメは運び続けた。
宝石はなくなった。
金箔も剥がれた。
冬は、
すぐそこまで来ていた。
ツバメは、
南へは飛ばなかった。
第五章 幸福な王子
春になった。
街の人々は、
古びた像を壊した。
足元には、
小さなツバメが横たわっていた。
誰も立ち止まらない。
誰も名を知らない。
王子も、
ツバメも、
何者でもなかった。
それでも人は、
その王子を、
幸福な王子と呼んだ。
