アイスとスイカ
8月に入った。途端に、夜窓の外で一匹のコオロギが鳴き始めたのは出来過ぎだろうか。とは言え、関東以西は今年も猛烈な暑さで被災地のことが思いやられる。一方こちらは未だ梅雨明けもなく、記録的な雨量と日照不足が心配なレベルになってきた。そんな中ではあるけれど、大阪はきっと暑いんだろうなぁと思いながら、衿さやかさんの「泡のような きみはともだち」を再読。蝉が鳴いて始まる夏の一週間、その中に入社してからの数年間が織り込まれていて、かつて自分と付き合っていた縁故入社の男は、いつの間にか同期の女性と結婚することに。人一倍頑張っているその同期は秘かにメンタルクリニックに通っていて、そのことを夫になる元恋人は知らない。どちらかというと哀しい話だけれど、「自分の生活は、自分でよくしていかなきゃいけないんだよ」と思う主人公の芽衣子が、溶けた方のいちごポッキーを同期に渡したラストにちょっと救われた、というか、きっと芽衣子は大丈夫だ。
物語には溶けたアイスも出てくるのだが、それは是非直接読んで頂くとして、あまなすさんの「ぽつん」を読んだら、子供の頃のスイカのことを思い出した。まだ小学校に入ったばかりの時分、食べて直ぐ泳ぎに行くのは良くないと言われて、夏休みの昼食後によく奥の座敷で昼寝をした。冬の間は閉め切りだった雨戸が明け放たれて、紅葉の緑が鮮やかだった。網戸も何もなかったけれど、不思議と蚊は気にならなかった。いつもは10分20分程度で起きるのに、たまにそのまま深く寝入ってしまうことがあって、気が付くともうヒグラシが鳴いている。みんなで寝たはずなのに座敷には自分一人。それが分かった瞬間の、みんなに置いて行かれたような不安で泣きそうになる気持ちを今でも覚えている。居間にいくと、「よく寝ていたから」と、昼間にみんなが食べたスイカの私の分が残されていた。一人でそれを食べた日の夕食は天ぷらで、スイカと天ぷらを一緒に食べた私だけが酷い食あたりになった。そう言えば、置き薬屋さんの食べ合わせポスターに書いてあった。確か、鰻と梅干というのもあったような気がする。それであたったことはないけれど。
一人暮らしを始めた夏に、小ぶりなスイカを一つ買ってきた。一度、スイカを丸ごと一人で食べるというのをやってみたかったのだ。これくらいならいけるだろうと思ったが、蛍光灯の6畳一間で食べ始めてみると丸ごとは意外と手強い。何より困ったのは、全然美味しくないのだった。やっぱり、スイカは太陽のもと、みんなで種を飛ばしながら食べるに限る。気が付けば、もう何年もスイカを食べていない、少なくとも皮の付いた三角や半円形のやつは…。
