はじめてのうみ いち
せっかくの連休にいつもどこにも出掛けない彼方と夏実。
ちいちゃんはまだ遠出をしたことがなく彼方の祖母、華江の家に遊びに行くことにした。
お弁当を作り、猫の黒ごまを実家に預け二時間と少しの電車の旅。
楽しい時間はあっと言う間だ。
また、
どこかに行こうね。
この間の連休のとき、彼方とちいちゃんと私の三人で小磯の華江さんのとこへ遊びに行った。
あまり遠出をしない私たち夫婦にしては連休にどこかに遊びに行くなどなかなか無いことだ。彼方との間に出来たちいちゃんは、華江さんから見るとひ孫にあたる。結婚式のとき華江さんがお祝いで駆けつけてくれたのが「はじめまして」だったけれど、あれから五年以上。彼方との間に出来た千冬もやっと四歳になり電話や写真だけでやり取りしていた華江さんに千冬を会わせに行く小旅行だ。
「ねえかっか。はなえちゃんチにいくのはあといくつねるの?」
計画を立ててからずっと千冬は華江さんに会うのを楽しみにしていた。
それはそうだ。幼稚園の友だちは両親に連れられ遊園地や海や山や川やキャンプやで遊んだことを千冬に自慢するらしい。私たちはあまり出たがらないし、千冬もそれでいいのだけれどやはり「おでかけ」と言うのは子どもにとって楽しみなことなのだからうらやましいのだろう。
「とっとがね、明後日行こう。って言ってたから今日と明日寝たら明後日だよ。」
「にこ!にこねたらはなえちゃんのとこへいけるの?」
「そ。二個だよ。
二個、夜ね。夜寝たらだよ。」
だから今日は幼稚園、行ってください。(笑)
洗濯機から洗濯物を取り出して物干し竿に順序よく干していく。教会の庭から続く青々した芝生の上に洗ったばかりの白いシーツを広げてシワになった箇所をぱんぱんと音を立てて伸ばし干した。千冬が四隅に石ころを置いていく。やっと家に馴染みつつある「黒ごま」と言う名前のこねこがシーツの上に乗らないように抱きかかえ部屋の中に入れた。
さて、ネボスケを起こすか。
「かーなーたー。
起きてるんでしょ!ほら!起きなさい。
シーツ洗うのよ!早くっ起きて!
休みは明日から!」
盛大に布団を捲った。
私の声に千冬が反応して楽しそうにベッドまで駆けてくると彼方の上に飛び乗った。
「とっと!はやくおきないと
よるがこないでしょ!はなえちゃんチになかなかいけないでしょ!」
まあ、なにもしなくても夜は来るけれど。
私は彼方を起こすのを千冬に頼み「黒ごま」とキッチンに行くと朝食の準備を始めた。ヤカンにお湯を掛けフライパンを取り出す。今日はテンション高めだからきっと目玉焼きだ。
お湯を沸かしているうちにポットにコーヒーのペーパードリップを用意して、マグカップをふたつ。千冬の牛乳用の硝子のコップをひとつ出す。
あ、きたきた。
千冬にせっつかれて、目をこすりながら彼方が起きて来た。
「おはよう。」
「はい、おそよう。」
「とっと、おそよー。」
「ちいちゃん、目玉焼きでいい?」
「めだまやきがいいっ!」
ほら、やっぱり。
私はほくそ笑み、フライパンにみっつ卵を割り入れた。
「黒ごま」が彼方の足元でゴロゴロと喉を鳴らし撫でてほしいと小さな声で鳴いている。
「あいよ。」
と「黒ごま」を小脇にかかえ、猫アレルギーの彼方はくしゃみをしながら洗面台に歩いてい行った。
「う、うえっくしゅ!へっくしょんっ!ぶしゅっ!」
またいろんなくしゃみを盛大に吹き飛ばしながら洗面台で手鼻をかみ、顔を洗う。
まったく、ねこを放せばいいのに。
公園でカラスにツツかれいじめられていた黒いこねこを千冬と二人で救出し、家に連れ帰りどこかに里子に出そうと思っていた。
千冬は「里子に出す」なんて思っていなかっただろうけれど、うちには猫アレルギーが一人居るのでニワトリ以外の動物は飼わないようにしなければと思っていたが、当の本人は我関せずで拾ったこねこは「黒ごま」と名付けられうちの猫になった。
飼ってもらえるようになったのが彼方のお陰だとわかっているのか「黒ごま」は彼方にいちばん懐いている。
まあ、撫でても抱いても遊んでも声をかけることも出来ずにくしゃみをし続けているけれど。
「ねえ、黒ごまお母さんたちに預けてく?」
「一日くらい留守番出来るだろ?」
「んー。そうだけど。」
「心配?」
私はうなづいた。
まだテーブルに飛び乗ったりオイタをするほど悪いねこでもないが、丸一日誰も居ないのははじめてだ。
「預かってくれるって言ってた?」
「うん。それはいつでも歓迎だって。」
母は動物が好きだから。
「なら、お願いしたら?
オレはどっちでも!」
「駅までお父さんが車出してくれるって言ってたし、その時連れていくわ。」
食パンの上に目玉焼きを乗せ、かけたい物をかけられるように
ケチャップ、
しょうゆ、
粉チーズ、
タバスコ、
ソース、
マヨネーズ、
調味料をたくさんテーブルの上に出して三人で
「いただきますっ」
と手を合わせた。
千冬が楽しみにしていた「明後日」がとうとうやってきて朝四時目を擦り、私は目を覚ました。
隣には同じ寝相で、同じ顔をした彼方と千冬が並んで寝ている。
ふふ。かわいい。
ちいちゃん。
彼方?彼方はまあ。ご想像にお任せします。
キッチンに行きヤカンにお湯を掛け、もう一度部屋へ戻り着替えると洗面台の小さな鏡で適当におかっぱ頭の寝癖を直した。洗面台の下の棚から小さな箱を出してきれいな青い小さなピン留めで髪をとめた。
さ、お弁当作ろう。
サンドイッチは食パンのミミ付き。
おにぎりはシメシメ海苔。中身はオカカと昆布。
庭に出て、少し早いが五羽のニワトリに睨まれながら卵を徴収した。
「ごめんね。ちょっと今必要なの。」
全部をボウルに割り砂糖とカツオ出汁を入れよく混ぜる。フライパンに油をたっぷりひいて「ジャーっ」と音を立てて流し入れる。繰り返し、繰り返し流し入れては巻いていく。出来たたまご焼きはアルミホイルに包み余熱をいれる。ウインナーを焼き、鍋に入れたお湯が沸いたところでブロッコリーとカリフラワーの小房に分けた物を入れた。
たまご焼きのアルミホイルをほどきフライ返しでいい加減な大きさに切り今度は冷ますためにタッパーのふたの上に置く。
小鍋の野菜をザルに掬いとり冷まし、残ったお湯に刻んだネギとコンソメ顆粒を入れあおさのりを放つ。
時計を見た。
五時を少しだけ過ぎたところ。
急いでネボスケたちを起こさなければ。
はじめてのうみ いち
つづく
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彼方、夏実、ちいちゃん総集編
