見出し画像

はじめてのうみ に


「ネボスケさんたち!
今日はなんの日でしたっけ?!
起きて!はい。用意して。着替える、顔洗う!」

毛布を剥がした。
同じ顔をした彼方と千冬が目をこすりながらベッドに座り込む。

「朝ですよ。
遠足、行くんでしょ?」

そう言ってキッチンに戻った。
ザルに上げたカリフラワーとブロッコリーをタッパーに入れクリームチーズを千切り適当に放り込む。オカカをたっぷり、しょうゆをちょっぴり。
これは少しの間冷蔵庫へ。
別のタッパーに庭で取れ始めたばかりのミニトマトと買ってきたミニトマトをごちゃごちゃと混ぜこみふたを閉めた。
こちらも冷蔵庫へ。
たまご焼きもおにぎりのごはんもウインナーももう冷めている。
ふたをしてもいい頃合いだ。
ドリップしたコーヒーと冷たい麦茶をそれぞれ水筒に注ぐ。

テーブルの上にはごはんと生たまご。
しょうゆとオカカ。

あとは、さらっと食べちゃって下さい。

「簡単で悪いんだけど
お弁当もやらなきゃだから勘弁してね。」

コンソメ入りのあおさ汁を出した。

「これ好き。」

「ちいちゃんも!」

「はいはい。
お代わりは無いですよ。
味わって食べて下さいよ。青虫さんたち。」

キッチンに戻り使った鍋やフライパンを洗い、自分の分のごはんと汁をよそいテーブルへ戻る。
「かっかはオカカいれるでしょ?」

「はい、入れます。」

千冬が器用にたまごを割り私のお茶碗にポトンと入れて適宜よりやや多めなオカカをかける。

「おしょうゆはかっかがやって。」

醤油差しを目の前にコトンと置いた。

贔屓目かもしれないが、四歳の子どもにしては千冬は器用だと思う。
たまごを上手に割れるし、
ニワトリを捕まえるのも早い。
こう言ってはなんだが彼方の血なのか絵もうまい。
まだ、ひらがなが全部読めるわけではないが本もよく読むし、よくしゃべる。
句読点がないのがたまにきずだが。

急ぎ過ぎてどこに入ったのかイマイチわからない朝食に首をかしげながら茶碗を洗い、洗面所へ行き歯を磨く。
あの人たちはパジャマから洋服に着替えるのに何故にあんなにも時間がかかるのかとモゴモゴと口を動かし、歯ブラシをする。
洗面所からキッチンまで戻ると、まだパジャマの二人がお弁当のタッパーを開けたり閉めたりしながら顔を付き合わせてニヤニヤしている。

減ってたら承知しないわよ~。

とばかりにそっと近より
「食べてないでしょうね?!」
と彼方の耳を引っ張った。

「アイテテテ。」

口をモグモグさせながら「食べてません」と首を横に振る千冬がリスのようにほっぺを膨らまし、あれはミニトマトを両側に詰め込んでいると睨んだ。

「歯ブラシ、してらっしゃいっ!」

もう、
油断も隙もありゃしないんだから。

寝室の物入れからピクニック用のバスケットを取り出して、順序よく詰め込んだ。歯ブラシをして、着替えを済ませたネボスケさんたちが顔を並べて私の前に現れた。

うん、ちいちゃんはかわいいっ。
彼方?彼方はうん、まあ。ご想像にお任せします。

さ、もうすぐ六時。
そろそろ出発の準備だ。

「歯ブラシした?」

水筒の麦茶は千冬が肩に掛け、お弁当ともうひとつの水筒はバスケットにきちんと収まり彼方が持つ。
私は片手で千冬の手を握り、片手で「黒ごま」を抱き徒歩三分の実家に帰る。

「かかじじっ」

千冬が父に飛びついた。

「おはよう。ちいちゃん。彼方くん。」

「お世話になります。」

「お世話いたします。」

あはは。と、なんだかみんなで笑っていると家から母が出てきて、ねこの「黒ごま」を受け取ると千冬を見たりねこを見たりと忙しい。

「かかばば。
くろごまはちいちゃんのねこだよ。」

「大丈夫、わかってる。」

「さ、用意してあるから
早く出発した方がいい。電車座りたいだろ?」

かかじじの運転で駅までのドライブだ。

電車の乗り合わせは私たちが子供の頃よりはるかに便利になった。うまい電車に乗り合わせたら二時間半で乗り換えも無しに小磯に着いてしまう。
あとはしゃべって、歌って景色を見てる内のあっと言う間だ。

「便利になったなあ。」

「そうですねえ。」

運転席の父と助手席の彼方。
口調こそ彼方が遠慮してるように聞こえるがちっともその気はなく、また父もそんな彼方がかわいいらしくよく一緒にお酒を飲んだり遊びに行ったりしている。
あれはあれで、後天的良好親子だ。
駅に着き、父はすぐにUターンして帰っていった。
私たちは駅の階段を上がり私鉄の改札を通りすぎJR の改札までやってきて切符を買い、改札を入ったすぐのところのパタパタと駅名と発車時刻を知らせる案内を彼方が見ている。

「ほら、あれ。
42分のに乗るとたぶん小磯まで行く。」

「乗り換えないの?」

「ああ。」

二人でこそこそ話をしていたら、千冬が改札まで歩いていき、

「こいそまでいきたいの。
よんじゅうにふんのでいいですかあ?」

声だけで姿の見えないお客を改札の外側で見つけた駅員が笑いながら

「はいはい。大丈夫ですよ。
小磯海岸駅に到着は九時少し過ぎますよ。いいですか?」

千冬はにっこりと笑い、

「あてのないたびなのでへいきです。」

と言うと、私たちを手招きして改札に切符を通した。
こんなにしっかり者で、一体誰の子どもだろう。


かくして二時間半の小磯海岸までの旅は六時四十二分、上野東京ライン熱海行きの前から三両目。四人掛けのボックス席からはじまった。 


はじめてのうみ に
つづく


つぎのおはなしにすすむ

まえにもどる

    
#休日
#おでかけ
#はじめての海
#電車旅
#ボックス席
#お弁当


いいなと思ったら応援しよう!