「Watashiは変われましたか」第12話
次のシーンに進むと、化粧をして少し大人びた姿で泣いている沙羅と、入院中に呆然と涙を流す沙羅の姿が同時に現れた。彼女の表情には疲れと悲しみが刻まれており、その目には深い孤独が映し出されていた。
沙羅は社会人になってからも、多くの苦難と向き合っていた。仕事のストレスやプレッシャー、人間関係の難しさ、そして私が原因となる家庭の問題。彼女の心には、多くの重荷がのしかかっていた。
ある日、沙羅は職場で大きなミスを犯してしまい、上司から厳しい叱責を受けた。その夜、彼女は家に帰ると、化粧をしたまま泣き崩れた。化粧が涙で崩れ、頬を伝って落ちる様子は、彼女の心の痛みを象徴していた。
「沙羅、どうしてこんなに辛い思いをしているの?」と心の中で問いかけるが、彼女の涙の理由がわからないまま、ただその光景を見つめることしかできなかった。
さらに、もう一つのシーンでは、沙羅が入院中に呆然と涙を流している姿が映し出されていた。彼女はベッドに横たわり、天井を見つめながら涙を流していた。その目には無力感と絶望が漂っており、心の中で泣いているのが伝わってきた。
彼女は誰にも愚痴をこぼすことなく、涙を流しては奮起し、仕事に懸命に取り組んでいた。それでも私は、彼女に心無い言葉を投げかけてしまった。「朝から仕事してるのになんでこんなお給料が安いの」「生活が大変」と、沙羅の努力を否定するような言葉を口にしてしまった。
この時、私は高卒の初任給が安いことを知らなかった。私は無知だった。無知だったことで沙羅を追い詰めていたのかもしれない。後に沙羅から聞いた話では、大学の初任給とは違うということだった。だから大学へ行った友達にも負けないように努力したと。
沙羅には趣味や楽しみをする時間やお金もなかった。それは私が奪ってしまっていた。高卒の初任給は一家の生活のために費やされ、彼女の手元には何も残らなかった。いつの間にか限界まで沙羅を追い詰めてしまっていた。
時折会う大学へ進学した同級生。楽しそうにしている同級生にビリヤードやカラオケに誘われるも断る沙羅。「奢るよ」と言われ参加しても居心地悪そうに力なく笑う沙羅の姿を見ると心が痛い。私は沙羅の自由をこんなにも奪ってしまっていた。
次第に沙羅は家で笑顔を見せなくなった。何かに耐えていることは感じていたが、何も言わない沙羅にイライラも募り、一方的に話してしまう。体の心配もしていたのに、お金や生活の心配ばかりを先に言ってしまっていた。そうしているうちに沙羅は体を壊してしまった。
この時、私は更年期障害真っ只中で、沙羅の高校時代に離婚した出来事から意味もなく感情をぶつけてしまう。その抑えきれない感情を沙羅は受け止めてくれていたのだ。母親である私がしっかりしなくてはならない時期に、やっと二十歳なるという沙羅に背負わせてしまった。後悔しかない。この時に戻れるなら私ができることを全てやるのに。沙羅への負担を考える余裕がなかった。
沙羅が体を壊し入院した時も、感情を抑えることができなかった。その抑えきれない感情を、沙羅は受け止めてくれていたのだ。
体を壊し入院した沙羅に対して、私は「私と違ってあなたは入院費がかかるから早く退院して仕事頑張って」と言ってしまった。日本社会では障害という部分で医療費が助かっていたが、障害のない紗羅には入院費用がかかることを言ってしまったのだ。沙羅は何も返答しなかった。沙羅の体が心配なのに、体を壊したことに対して私は違う言葉をぶつけてしまった。
その時、沙羅は表情ひとつ変えず、瞳からツーっと流れる涙を私は見逃していた。気付いたけど気づかないふりをまたしてしまった。沙羅を受け止めなかった。
画面には再びアイテムの表示が現れた。アイコンが輝き、そこには「鏡」と書かれていた。私はそのアイコンに指を伸ばし、画面をタップした。
鏡に映る沙羅の姿ではなく私の姿だった。私は自分自身を見つめながら、何度も自分を責めていた。「どうして私は…」
彼女がどれほどの苦しみを抱えていたのか、私には全く気づいていなかった。彼女が涙を見せずに耐えてきたことに、私は気づけなかった。いや違う、気がついていたけど、気が付かないふりをして、見ないふりをし続けてしまったのだ。
「私は間違ってなかった」と言い聞かせている自分が醜く感じた。沙羅の幸せを思ってきたはずなのになぜこんなことになってしまったのだろう。戻らない時間に私はなにができるのだろうか。
その瞬間、鏡がこれまでにない強い光となり目の前が見えなくなった。
これまでのように沙羅が笑顔になる瞬間は訪れなかった。
暗闇の中に、画面が浮かび「このシーンをクリアしました。ロックが解除されました。次のシーンに進みますか?」というメッセージが表示された。
