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「EVは儲からない」「電気が足りない」—その批判、両方ひっくり返します


EVの話をすると、コメント欄でよくいただくツッコミが2つあります。

「EVなんか作ったって、メーカーは儲からないじゃないか。赤字だろ」 「電気が足りないのに、EVなんて走らせて非現実的でしょ」

この両方まとめてひっくり返します。
フォルクスワーゲンです。ドイツで、現物を見てきました。

2つの批判は、根っこが同じ

一見バラバラなこの2つ、実は根っこが同じところにあります。どちらも、既存の自動車産業の目線、エンジン車の発想で止まっているんです。

エンジン車とEVは、違う考え方、違うビジネスモデル、違うお金の稼ぎ方、社会の中で違う役割を果たすものなんです。だから、自動車産業の枠の中だけで見ていると、視野が狭く、視座が低い話になってしまう。

EVの本当の姿は、クルマであると同時に、バッテリーです。でっかい蓄電池が乗っていて、それが動く形になっていて、それが街中にたくさん存在している。分散型のエネルギー資産として活用できる。そういう目線で見る必要があるんです。

一つずつ、ほどいていきます。




「儲からない」は、クルマを売って終わりだと思っているから

まず、「EVを作っても儲からない」
これは、ガソリン車と同じ発想で、「クルマを売って、はい終了」という前提で考えてる。

ドイツでフォルクスワーゲンの人にいろいろ聞いてきたら、彼らは売った後も、その車が稼ぎ続けるビジネスを考えていました。

以前、全固体電池の記事で「電池は3回稼ぐ」という話をしました。1回目は新車として売る。2回目は、車載電池が85%や80%くらいに劣化したら車から下ろして、別の用途でリユースする。3回目は、もう使えなくなった電池をバラバラにして、リチウム・コバルト・マンガンを回収し、新しい電池に戻す。この3段階です。

1回目の「車として現役」の間にも、その電池がバーチャル発電所の一部になって、電気を売って(売電して)稼ぐ。 このビジネスが、2026年第4四半期からフォルクスワーゲンで始まります。みんなが持っているVWのEVが、エネルギーシステムに組み込まれ、追加の収益を会社にもたらす。お客さんに売ってしまった車が、さらにお金を稼いでくる仕組みです。事前登録は、ちょうど今、始まっています。

ガレージに止まっている、もう売ったはずの車が、お金を稼ぐ。ガソリン車では、ありえない話ですよね。



エリーという会社が、クルマ屋を電力会社に変える


Elli

この仕組みを回しているのが、VWの子会社、エリー(Elli)です。Electric Lifeの略だそうです。やっているのは、4つ。

1)充電インフラ:28カ国・100万拠点という、バカでかい充電ネットワークをヨーロッパに展開している。自動車メーカーが、自分でガソリンスタンドを始めるような話です。

2)電力取引:電力取引所で電気を売り買いする。
3)蓄電のトレーディング:車から下ろした電池に電気を貯めておいて、売り買いする。
4)家庭用エネルギー:VWオーナーの家にソーラーパネルを乗せたり、V2H(クルマから家へ給電)をやったり。

もう、クルマ屋というより、電力会社ですよね。

4月のハノーバーメッセ(ドイツの巨大な産業展示会)、僕は現地で行っていろんな人にお話を聞いてきました。

VWブース

VWのテクノロジーのブースで「Eモビリティの未来」という展示をやっていて、そこに堂々と出ていた円グラフが、象徴的でした。

VWのEーMobility事業の内訳

Eモビリティ事業のうち、クルマや電池というハードウェアを作って売る、昔ながらの「キーコンポーネンツ」の収益は半分ちょい。残りは、充電ソリューションと、蓄電・電力トレーディングが占めている。VWは、EV事業を「クルマを作る物づくり」ではなく、「電力会社としてお金を稼ぐ事業」として見ているんです。いや、未来として見ている、というより、もう現実としてそう動いている。

「EVを作って赤字じゃないか」というツッコミは、この円グラフの、左半分しか見ていないツッコミなんです。

エリーは、自動車メーカーとして初めて、ヨーロッパの電力取引所EPEXに参入しています。2023年から。24時間365日、専属のトレーディングチームが、電気を売り買いし続けている。

電力取引所と聞いてもピンとこないかもしれませんが、日本にもあります。JEPX(日本卸電力取引所)です。今は300社くらいが参加していて、30分ごと、24時間で48コマ電気を売り買いしている。夏の昼、太陽光がドカッと発電して電気が余るとほぼタダになり、ピーク時にはみんな買いたいから高くなる。安いときに貯めて、高いときに出す。そういう市場が、日本にもすでにあるんです。



紫のコンテナの正体——引退した電池が、もう一度稼ぐ

ハノーバーメッセの会場に、紫色のコンテナがずらりと並んだ展示がありました。これが、エリーの「パワーセンター」事業です。使用済みのEV電池を集めた、蓄電施設

VWのID.4など、初代のEVたちの電池が、そろそろ寿命を迎えます。そこから下ろされた電池がこの紫のコンテナの中に入っていく。仕組みは単純で、風力や太陽光が好調で電気が余って安いときに、コンテナいっぱいに貯めておく。ピーク時で需要が高まり、電気の値段が上がってきたら、送電線に出して売る。この売電の利益で稼ぐ。

つまり、車から下ろした電池が、第2の人生でもお金を稼ぎ続けるわけです。

そして、この「電気を売り買いして稼ぐ」というのは、裏を返すと、電気の需要と発電のアンバランスを埋めるという話でもあるんです。



なぜ「蓄電」なのか—お天気任せの電気を、ためる箱

前提として、いい加減、石油ばかりに頼って発電する社会はやめた方がいい、という発想があります。環境やエコという意識もありますが、それ以前に中東の石油に、ずっと首根っこを抑えられたまま生きていくんですか、という話です。

ドイツは今、再生可能エネルギーが60%を超えています。ヨーロッパ全体でも半分を目指している。ところが、再エネはお天気任せ、風任せなんですよ。

ドイツの高速道路でよく見る光景。風車だらけ。

太陽光は昼にドカッと出て夜はゼロ。風も、吹く季節と吹かない季節がある。作った瞬間に使わないと、無駄になってしまう。

これまでは、発電が足りない時間帯は火力発電所の出力を上げ、余ってきたら火を弱める、という調整をしていました。でも、電気を貯めておく箱が世の中に大量にあれば、余った分を貯めて、足りないときに出せばいい。発電と消費の「時間のズレ」を、電池が吸収してくれるんです。

身近な例で言うと、モバイルバッテリーです。あれを持ち歩いていれば、スマホの充電が足りなくなっても、発電所の電気(コンセント)に頼らず、手持ちの電気で充電できる。もし、そのモバイルバッテリーの充電元が太陽光や風車だったら発電所がなくても、電気で生きていけますよね。

EVは、これと同じ発想になれるんです。 EVは、バカでかいモバイルバッテリーみたいなもの。1台で、家の何日分もの電気が入る。それが何百万台も街中に止まる未来が来たら、街じゅうに、ものすごい量の電気を貯めておける。しかもネットワークでつながれば、その何百万個のバッテリーを、1個の巨大な電池として扱うこともできる。



EV100万台集めたら原発1基分

これを、VWは実際に始めています。

ドイツのVWオーナーが、自宅にソーラーと、VWの双方向(バイダイレクショナル)充電器をつけると、条件次第で充電コストが最大75%減ります。月1万円だったものが、2500円になる。ガソリン車では、ありえない話です。パイロットは2025年12月に始まり、V2G(クルマから電力網へ給電)の正式商品は2026年第4四半期。今、ドイツのディーラーでは、この双方向充電器・電力料金・スマートメーターを全部VWが一体で提供するキャンペーンが走っています。

そして、この一軒一軒の取り組みを全部ギュッと束ねると、すごいことができる。エリーはこれをマネージドバッテリーネットワークと呼んでいます。要するに、バーチャル発電所(VPP)です。

ハノーバーメッセの説明では、すでに市場に出ているVW車のうち100万台が、技術的にはこの双方向充電に対応済み。これを全部束ねたら、ひとつの超巨大な電気の器になり、その大きさはざっくり1GW、原発1基分くらいになる。つまり、フォルクスワーゲンという自動車会社が、原発1基分の電気の器を持ち、その流通をやれる会社になる、ということです。

もちろん、100万台が実際につながって動くのはこれから。2026年は数百台から始め、将来は数十万台へと広げていく計画です。

「EVは儲からない、部品も少ない」
「電気が足りないのにEVなんて無理」
どちらも、クルマを「1回売り切りのハードウェア」と考えるから出てくる話でした。EVは巨大なネットワークにつながる動ける蓄電池です。現役のうちからVPPの一部として稼ぎ、引退後も紫のコンテナの中で稼ぐ。ビジネスとして成立するし、ピーク時に「発電所に頼らず、うちの車から電気を使う」という柔軟性で、電力不足も救う。



これは、クルマの話じゃない——エネルギー自立の話だ

少し、大きな話をします。

日本のエネルギー自給率は、12.6%。9割近くを海外に頼り、原油の95%が中東です。アメリカの中東依存は12%、ヨーロッパは16%。日本だけが突出して、タンカーでホルムズ海峡を通って、せっせと石油を運び続けている。自分の国のエネルギーの首根っこを、ずっとよその地域に握られている状態です。僕が子どもだった1980年代には、「あと30年で中東の石油は掘り尽くされる」と真剣に議論していたのに、みんな、忘れてしまいましたね。

いつまで、これを続けるんですか。このまま、次の世代に渡すんですか。

日本に足りないのは、「蓄電」という発想です。みんな、発電の話ばかりしている。日本はこんなに天気のいい国なんだから、昼に照っている太陽の電気を貯めておいて、夜に使えばいい。その役割を担うのが、街中に何百万台と流通するEVのはずなんです。最初は、街にあふれているハイブリッドでもいい。ただ、1台あたりの電池が小さいから、だったらEVにすればいい、という話にもなる。

「EVは本当にエコなのか、製造時のCO2まで含めて見ろ」という議論もよくあります。でも、EVはエコです。EVは走るときにCO2を出さないので、再エネの比率が高まれば高まるほどライフサイクル全体の排出量がどんどん減っていく。一方、エンジン車は走れば走るほど出し続ける。世界は再エネ比率を上げる方向に動いてる。年々エンジンは不利になっていくんです(この計算の話は、いずれ別の動画で深掘りします)。

日本の大きな問題は、何でもかんでも自動車産業の枠の中だけで、EVかエンジンか、EVはエコか、電気が足りるか、儲かるのかと議論していることです。視野が狭く、視座が低い。これは、クルマだけの話じゃない。この国がエネルギーで自立できるか、次の世代にどんなエネルギー社会を残すか、という話なんです。



日本でも、芽は出ている

ここまで暗い話に聞こえたかもしれませんが、日本でも、ちゃんと芽は出ています。

先日行ってきた人とくるまのテクノロジー展で、ダイハツが「直流(DC)主体のマイクログリッドシステム」を出していました。2025年から実証中。軽の商用バッテリーEVを、地域の電源にしようという発想です。VWの何百万台というスケールではありませんが、地域ごとに同じことをやろうとしている。素晴らしい取り組みです。(なぜ「直流」がすごいのか、という技術的に深い話は、メンバー限定で詳しくやろうと思っています。)

もう一つ、同じ展示会で、地味なパネルにありました。日産・ダイキン・TISの3社の取り組みです。

福島県のある工場で、2023年12月から続いています。工場の駐車場に止まっている、社員の通勤EVや社用車のEVを、電池として使う。工場がフル稼働してエアコンを使いまくり、建物の電気が足りなくなってきたら、車の電池から電気を引っ張ってきて使う。つまり、東北電力から電気を買わない。

しかも、ダイキンの空調が、その電気をうまく使うモードに対応し、TIS(IT企業)が、太陽光発電と、EVの双方向充電と、空調を協調させるプログラムを回している。結果、前年比で15%ほどのピークカット。電気代が安くなった。車のオーナーは、ピーク時に電気を吸い取られるばかりだと損なので、使った分を地域通貨で返すプログラムまで動いているそうです。

これは、Vehicle to Building(V2B)。ヨーロッパのオフィスビルや工場で、今めちゃくちゃプロジェクトが動いているやつです。日産は、世界最先端のことをやっている。将来、こうした日産のEVがたくさん集まれば、バーチャル発電所として、エネルギーの地産地消につながる。VWのマネージドバッテリーネットワークと、考え方はまったく同じです。日本でこの実証がここまで来ているのは、本当に素晴らしい。

ただ、これをスケールさせようにも、日本国内のEVの普及率が2%から上がっていかない。そこが足かせになる、というのは、正直あります。



あなたの会社は、何を売る側に回れますか

新しいビジネスの匂い、しませんか。

EVかエンジンか、全固体が来れば逆転か、そういう自動車業界の枠の中だけで止まっていると、見えない世界がたくさんあります。社会全体に、たくさんの電池があって、電気が蓄えられている。その状態が来たときに、初めて見えてくる世界がある。

夏、これだけ日差しが強いんだから、昼に蓄電しておけばいい。その電気で、夜、罪悪感なしにエアコンを回して、涼しく眠ればいい。そういう話なんだと思うんです。

自動車業界の方、素材メーカー、電力業界、Tier1サプライヤーの皆さん。「エネルギー事業としてのEV」という市場が、日本でこれから開く。そう考えたとき、あなたの会社は、何を売る側に回れますか。

ちょっと考えてみると、面白いと思います。


関連記事:技術展の主役は子会社のダイハツだった——「命を守る電源」と、マツダ・ホンダ・日野の現在地
https://note.com/andykondo/n/n5c8600d05c07

関連記事:道ゆく車は貴重な資源——車を都市鉱山として再定義した世界 https://note.com/andykondo/n/n3902e680f8be

元になった動画




Andy Kondo(近藤 敦) — イノベーションアナリスト

CES、Hannover Messe、IAA Mobilityなど世界の主要展示会を10年以上定点観測。技術変化が産業に何をもたらすかを、自分の言葉で語る。

📺 YouTube:Andy Kondo - Innovation Analyst
📧 メルマガ「Andy's Weekly」https://substack.com/@andykondo
🌐 Web:andykondo.jp


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