【SaaS is Deadの本質】構造分解からAIエージェント時代の投資地図を考える
「SaaS is Dead」という刺激的な言葉について、今年に入ってずっと整理していた。SaaSへの構造理解をベースに、銘柄仕分け作業まである程度落とし込めたので、ここでアウトプットしておく。
ただ、一部の個別銘柄の分析は、決算コールや10-Kをぜんぶを深く網羅できてないし、個人では限界があるため、今後は個別決算を起点として少しずつ理解を深めたいと思う。
SaaSは死んだ。
SaaSの時代は終わった。
AIエージェントがすべてを置き換える。
こう言ってしまえば分かりやすいし、マーケットも反応しやすい。
ただ、投資家としてこの言葉をそのまま受け取れない。
なぜなら、私はSaaSがすべて死ぬとは思っていないからだ。
むしろ、これから起きるのは、SaaSの単純な終わりではない。
SaaSの価値単位が変わるという話だと思っている。
人間がログインして、画面を開き、フォームに入力し、ダッシュボードを確認し、ワークフローを進める。
そして企業は、その人間のID数、つまりシート数に応じて課金される。
これが、これまでのSaaSの基本構造だった。
しかしAIエージェントの時代になると、この前提が崩れ始める。
AIが情報を読む。
AIが判断する。
AIが顧客と会話する。
AIが社内データを参照する。
AIが手続きを進める。
AIが営業し、問い合わせを解決し、契約や請求の処理まで実行する。
そうなると、企業が本当にお金を払う対象は、もはや「人間が使う管理画面」ではなくなる。
お金を払う対象は、業務成果になる。
この構造変化が、私が考える「SaaS is Dead」の本質だ。
■ 結論
今回の整理を最初に結論としてまとめる。
* 死ぬのはSaaSそのものではなく、人間操作とシート課金を前提にした旧来型SaaSの価値である
* AIエージェントは、読む・判断する・実行することで、SaaSの価値単位を「画面」から「成果」へ変える
* 投資家として重要なのは、AIに置き換えられる会社ではなく、AIが増えるほど不可逆に必要になる会社を見つけることだ
このテーマは、一過性のニュースではないと思う。
LLM、つまり大規模言語モデルの進化が止まらない限り、「SaaS is Dead」は何度も出てくる。
Claude Codeのようなエージェント型コーディングツールは、コードベースを読み、複数ファイルを変更し、テストを実行し、コードを届けるものとして説明されている。これは、ソフトウェア開発コストそのものを下げる圧力になる。
さらにAnthropicのProject Glasswingでは、Claude Mythos Previewがサイバーセキュリティ領域で高い能力を持ち、重要ソフトウェアの脆弱性発見・修正に使われることが示されている。Anthropic自身も、AI支援の攻撃者に備える必要性を指摘している。
つまり、SaaSに対するAIの圧力は一度で終わらない。
モデルが進化するたびに、マーケットは何度も問い直すことになる。
この会社の価値は、人間が作業していたから成立していたのか。
それとも、AIが増えるほど必要性が増す会社なのか。
ここを見分けることが、これからの投資判断でかなり重要になる。
■ SaaSの何が死ぬのか?
まず、「SaaSの死」という言葉を分解したい。
死ぬ可能性があるのは、SaaS企業そのものではない。
死ぬ可能性があるのは、以下のような価値だ。
* 人間がログインすることを前提にしたUI
* 人間が入力することを前提にしたフォーム
* 人間が確認することを前提にしたダッシュボード
* 人間が手動で進めるワークフロー
* 人間のID数に連動したシート課金
* 情報を保存・整理・表示するだけの機能
これまでは、これでも十分に価値があった。
なぜなら、人間が業務を行う以上、人間が使いやすい画面、情報整理、承認フロー、顧客管理、契約管理、問い合わせ管理が必要だったからだ。
しかしAIエージェントは、この構造を変える。
AIエージェントは、単に情報を表示するのではない。
顧客の問い合わせを読み、必要なデータを参照し、本人確認をし、プラン変更を行い、返金処理を進め、営業アポを取り、契約書をレビューし、場合によっては成約に近いところまで持っていく。
つまり、価値の中心が変わる。
これまでのSaaSは、人間が仕事をするための道具だった。
これからのAIエージェントは、仕事そのものを実行する主体に近づいていく。
ここが決定的に違う。
■ AIエージェントが変えるのは、SaaSの価値単位である
今回の構造変化を考えるうえで重要なのは、特定のAIエージェント企業そのものではない。
本質は、AIエージェントが「人間がソフトウェアを使う」という前提を変え始めていることだ。
これまでのSaaSは、人間がログインして、情報を入力し、画面を確認し、ワークフローを進めることを前提にしていた。
だから、ユーザー数、ID数、シート数に応じて課金するモデルが成立していた。
しかしAIエージェントは、その前提を崩す。
AIが顧客の問い合わせを読み、社内データを参照し、必要な手続きを判断し、実際にアクションを実行する。
AIが営業メールを作成し、見込み顧客を分類し、アポを取り、契約や請求の処理に近いところまで進める。
AIが契約書を読み、リスクを抽出し、法務レビューの下準備をする。
AIがコードを書き、テストを走らせ、開発タスクを処理する。
こうなると、企業が価値を感じる対象は変わる。
「人間が使いやすい画面」ではなく、
「業務がどれだけ進んだか」になる。
つまりSaaSの価値単位は、
シート数から成果へ。
画面から実行へ。
管理から業務完了へ。
少しずつ移り始めている。
これが、私が考える「SaaS is Dead」の本質だ。
■ LLM進化がSaaSに与える2つの圧力
私は、LLMの進化がSaaSに与える圧力は、大きく2つあると思っている。
1つ目は、ソフトウェア開発コストの低下だ。
Claude Code、Cursor、GitHub Copilotのような開発支援AIによって、ソフトウェアを作るコストは急速に下がっている。
もちろん、複雑なエンタープライズシステムを誰でも一瞬で作れるという話ではない。
ただ、浅いSaaS、単機能SaaS、業務の一部を切り出しただけのSaaSは、「これなら内製できるのではないか」と見られやすくなる。
これはSaaSの資産価値を下げる。
これまで長年かけて作ってきたソフトウェア資産が、AIによって短期間で再現される可能性が出てきたからだ。
2つ目は、業務アクションの代替だ。
こちらの方がさらに大きい。
従来のSaaSは、データを保存し、整理し、表示し、人間が業務を進めるための基盤だった。
しかしAIエージェントは、データを見るだけではなく、実際にアクションを取る。
顧客対応を終わらせる。
保険請求を処理する。
契約書をレビューする。
営業メールを送る。
問い合わせを分類する。
SOCで脅威を調査する。
開発タスクをこなす。
こうなると、SaaSの価値は「管理画面を提供すること」から「仕事を完了させること」へ移る。
つまり、SaaSの競争軸は、UIや機能数ではなく、業務成果をどれだけ出せるかに変わる。
■ ただし、アウトカム課金がすべてを置き換えるわけではない
AIエージェントの時代になると、シート課金は崩れる。
この見方はかなり正しいと思う。
ただし、すべてがアウトカム課金になるとは思わない。
なぜなら、アウトカム課金が成立するには、成果が明確に測れる必要があるからだ。
たとえば、カスタマーサポートなら問い合わせ解決件数。
営業ならアポ獲得や成約。
債権回収なら回収金額。
契約レビューならレビュー完了件数やリスク検出。
保険なら請求処理の完了。
コールセンターなら人件費削減や処理件数。
このような領域では、アウトカム課金が成立しやすい。
一方で、社内情報整理、ナレッジ検索、会議要約、一般的な業務支援のように、成果がPLに直結しにくい領域もある。
ここでは、シート課金や使用量課金、AIクレジット課金が残る可能性が高い。
したがって、現実的にはシート課金は残ると思う。
ただし、シート課金だけで高成長・高バリュエーションを正当化する時代は終わり始める。
これが私の見方だ。
■ SaaSは3分類で見るべき
投資家として重要なのは、SaaSを一括りにしないことだ。
これからは、SaaS企業を少なくとも3つに分けて見る必要がある。
■ AIに置き換えられるSaaS
まず、AIに置き換えられるSaaS。
これは、人間が画面を開いて、入力し、確認し、整理し、報告することに価値が偏っている会社だ。
このタイプは危ない。
特に危ないのは、以下のような会社だ。
* 独自データが弱い
* 業務フローが浅い
* UIが主な価値になっている
* シート数課金に依存している
* AIを載せても単価が上がらない
* 顧客が内製できると思いやすい
* 競合との差別化が機能数だけになっている
こういう会社は、AIによって価値が削られやすい。
なぜなら、AIが人間の入力・確認・要約・整理作業を代替すると、そこに乗っていたシート数課金が圧迫されるからだ。
■ AIで再定義できるSaaS
次に、AIで再定義できるSaaS。
ここは判断が難しい。
既存SaaSとしては壊されるリスクがある。
しかし、顧客基盤、業務データ、ワークフロー、権限、監査ログを持っているため、AIエージェントを組み込めれば逆に強くなる可能性もある。
たとえばSalesforceは、Agentforceを通じて、人間、アプリケーション、データ、AIエージェントを統合し、企業向けAIエージェントを構築・管理する方向に進んでいる。
Adobeも、Adobe Experience Platform Agent Orchestratorを通じて、Adobeのエージェントや第三者エージェントをワークフロー、アプリケーション、システムをまたいで協調させる方向に動いている。
HubSpotはBreeze Agentsで、マーケティング、営業、サービスにまたがるAIエージェントを提供している。
AtlassianはRovoで、組織の知識に基づく検索、チャット、エージェントによるアクション実行を進めている。
UiPathは、AIエージェント、ロボット、人間、システムをつなぐAgentic AutomationやMaestroを前面に出している。
このあたりは、単純に「死ぬSaaS」とは言えない。
ただし、注意点もある。
これらの企業は、経営陣がAIを語るだけでは不十分だ。
本当に既存SaaSからAIエージェント時代の業務実行基盤へ変われるのか。
そこを数字で確認する必要がある。
見るべきは、AI関連ARR、AI有償案件数、使用量課金、NRR、RPO、粗利率、顧客単価だ。
■ AIエージェント時代に必要性が増す会社
最後に、AIエージェント時代に必要性が増す会社。
ここが、投資家として最も見たい領域だ。
AIが増えるほど、データが必要になる。
AIが増えるほど、権限管理が必要になる。
AIが増えるほど、監視が必要になる。
AIが増えるほど、セキュリティが必要になる。
AIが増えるほど、復旧が必要になる。
AIが増えるほど、業務プロセスへの深い接続が必要になる。
つまり、AIに壊されるのではなく、AIが普及するほど不可逆に重要性が上がる会社だ。
私はここを最も重視したい。
■ 加速側として見たい企業群
ここから企業を整理する。
バリュエーションはいったん置く。
今は「買える価格か」ではなく、「AIエージェント時代に方向性が正しいか」を見る段階だと思っている。
① MSFT:企業業務の入口そのもの
Microsoftは、AIエージェント時代における最上位の加速側だと思う。
理由は、単にOpenAIと近いからではない。
Microsoftは、Microsoft 365、Teams、Outlook、Excel、PowerPoint、Dynamics、Azure、GitHub、Entra IDを持っている。
つまり、企業の仕事画面、業務データ、ID、クラウド、開発環境をまとめて持っている。
Copilot Studioは、ビジネスデータに接続し、自然言語でAIエージェントを作り、チームや顧客が使うチャネルに展開するための基盤として説明されている。
さらにMicrosoftの自律エージェントは、ユーザーのプロンプトを待たず、トリガー、指示、ガードレールに基づいてイベントを認識し、判断し、タスクを実行するものとして整理されている。
これは強い。
MSFTはSaaSを壊される側ではなく、SaaSをAIエージェント化して再定義する側だと思う。
ただし、投資判断としては巨大企業なので、見るべきはAIで強いかどうかだけではない。
Copilotがどれだけ増分売上・増分利益になるか。
Azure AIの粗利率はどうか。
CapExはどこまで重いか。
M365の単価上昇がどこまで進むか。
ここを見る必要がある。
② PLTR:AIを業務オペレーションに接続する会社
Palantirも加速側だと思う。
Palantir AIPは、生成AIを企業のデータとオペレーションに接続し、業務プロセスの自動化を進めるプラットフォームとして説明されている。
ここが重要だ。
Palantirは、AIモデルそのものを作る会社ではない。
AIを企業の現場に入れ、業務プロセスに接続し、意思決定とアクションに変える会社だ。
つまり、PLTRは「AIモデルの会社」ではなく、AI実装の会社として見るべきだと思う。
AIエージェント時代は、モデルの性能だけでは勝負が決まらない。
企業ごとのデータ、権限、業務フロー、例外処理、意思決定プロセスにどれだけ深く入れるかが重要になる。
その意味で、PalantirのFDE型の実装力は、AI時代にむしろ価値が上がる可能性がある。
③ NOW:企業ワークフローのAIエージェント化
ServiceNowも加速側だ。
ServiceNowは、IT、HR、カスタマーサービスなどの企業ワークフローを握っている。
AI Agent Orchestratorは、複数のAIエージェントを協調させ、複雑なワークフローを完了するための仕組みとして説明されている。
さらにAI Control Towerは、企業内のAIエージェント、モデル、アイデンティティを可視化し、リスク、コンプライアンス、実行時パフォーマンス、AI価値を管理するものとして位置づけられている。
これはかなり強い。
AIエージェントが増えるほど、企業は「誰が、どのAIを、どの権限で、どの業務に使っているのか」を管理しなければならない。
ServiceNowは、その管理をワークフロー基盤の中で押さえにいく。
SaaSというより、企業内業務の実行レイヤーだ。
④ DDOG:AIエージェントの挙動を監視する会社
Datadogも加速側に置きたい。
AIエージェントが本番環境に入ると、必ず監視が必要になる。
AIがどのプロンプトで動いたのか。
どのモデル応答を返したのか。
どの検索ステップを踏んだのか。
どのツールを呼び出したのか。
どこでエラーが出たのか。
レイテンシやコストはどうか。
品質や安全性はどうか。
DatadogのLLM Observabilityは、プロンプト、モデル応答、検索ステップ、ツール呼び出しを含めてAIシステムの実行をトレースし、失敗、遅延、コストを調べるものとして説明されている。
これは、AIエージェントが実験段階から本番運用に入るほど重要になる。
つまりDDOGは、AIによって壊されるSaaSではなく、AIの本番運用が進むほど必要になる監視OSだと見ている。
⑤ NET:AIエージェントの実行基盤になれるか
Cloudflareもかなり面白い。
Cloudflareは、CDNやセキュリティだけでなく、WorkersやDurable Objectsを通じて、エッジ上のアプリケーション実行基盤としての性格を強めている。
Cloudflare Agents SDKは、永続メモリ、WebSocket、スケジュール実行、ツール呼び出し、他エージェントとの連携を持つステートフルAIエージェントを構築するための基盤として説明されている。
AIエージェントが増えると、推論だけではなく、状態管理、ツール実行、リアルタイム接続、グローバル配信が必要になる。
NETはその実行基盤になれる可能性がある。
ただし、NETについては「最高の堀ほど買値を間違えてはいけない」という問題もある。
構造的には強い。
しかし、株として触れるかどうかは別問題だ。
これは今後もバリュエーションとセットで見たい。
⑥ RBRK:AIエージェント時代の「巻き戻し」
Rubrikも重要だ。
AIエージェントが読むだけなら、まだリスクは限定的だ。
しかしAIエージェントが実行し始めると、必ず事故が起きる。
誤ってデータを削除する。
間違った権限で操作する。
不要な変更を実行する。
攻撃者に乗っ取られたエージェントが破壊的な行動を取る。
この時に必要になるのは、「何が起きたか」を見るだけではなく、戻せることだ。
RubrikのAgent Rewindは、AIエージェントのアクションを可視化し、監査可能にし、望ましくない変更を元に戻せるようにするものとして説明されている。
これはかなり本質的だと思う。
AIエージェントが実行する世界では、企業は必ずこう考える。
使いたい。
でも怖い。
だから、監査したい。
そして、間違ったら戻したい。
この不安を解消する会社は強い。
⑦ ZS、OKTA、CRWD、PANW:AI時代のサイバーはむしろ重要になる
サイバー銘柄については、少し分けて考えたい。
AIの進化によって、サイバー銘柄が一時的に売られることはあると思う。
Claude Mythosのような話が出ると、「AIが脆弱性を見つけるなら、既存サイバー企業は不要になるのではないか」とマーケットが反応することもある。
ただ、本質的には違うと思う。
AIが攻撃側を強くするなら、防御側も高度化しなければならない。
AIエージェントが社内システムに入り、データを読み、アクションを実行するなら、ゼロトラスト、ID管理、SOC自動化、データ保護、権限制御はむしろ重要になる。
Zscalerは、AIエージェントのリスクとしてデータ漏洩、コンプライアンス違反、シャドーAI、サードパーティ依存などを挙げ、ゼロトラスト、強いアクセス制御、データ保護が必要だと整理している。
さらにZscaler AIは、AI利用の可視化、データ損失防止、GenAIアプリ・モデル・ユーザーの保護を掲げている。
Oktaは、AIエージェントを企業内で最も急速に増えるアイデンティティとして捉え、エージェントをfirst-class identityとして管理する方向に進んでいる。
CrowdStrikeはCharlotte AIをagentic SOCの中核として位置づけている。
Palo Alto NetworksもCortex AgentiXを、AIエージェントワークフォースを構築・展開・統治するためのプラットフォームとして説明している。
つまり、サイバーは単純な「AIに壊されるSaaS」ではない。
短期的にはAIショックで売られることがある。
しかし中期的には、AIが増えるほど守る対象も増える。
ただし、ここには一つ注意点もある。
AIによって「脆弱性を見つける」「修正する」「パッチを当てる」コストそのものが下がる可能性もある。
もし防御の自動化が一気に進み、企業が一部のセキュリティ機能を内製・自動化できるようになれば、既存の重厚なサイバーセキュリティ・プラットフォームに対する支払い意欲が一部弱まる可能性もある。
だから見るべきは、単に「AIで攻撃が増えるからサイバーは全部買い」ではない。
見るべきは、矛と盾の速度差だ。
攻撃の自動化スピードが、防御の自動化スピードを上回るなら、CRWD、PANW、ZSのような企業の必要性は高まる。
一方で、防御そのものがクラウド、ID、エッジ、データ保護のレイヤーに組み込まれていくなら、サイバーの主権がどこに移るのかを見なければならない。
これはかなり重要な監視点だ。
⑧ SNOW、VEEV、SAP:データと業務文脈を握る会社
AIエージェント時代には、データを握る会社も重要になる。
ただし、単にデータを保存しているだけでは弱い。
重要なのは、業務文脈を持ったデータだ。
SnowflakeのCortex Agentsは、構造化データと非構造化データをまたいでタスクを計画し、ツールを使って実行し、回答を生成するものとして説明されている。
これは、AIエージェント時代のデータ基盤として筋がいい。
ただし、SNOWは少し慎重に見たい。
なぜなら、AIエージェントが進化すると、必ずしもすべてのデータが一つのデータウェアハウスにきれいに集約されている必要がなくなる可能性もあるからだ。
AIが非構造化データ、オンプレミス、他社SaaS、API、ドキュメント、ログを横断して読み解けるようになれば、「データを持っていること」だけの価値は相対的に下がるかもしれない。
だからSNOWを見る時は、単なるデータ置き場ではなく、AIエージェントが業務で使うデータ実行基盤になれるかを見るべきだと思う。
Veevaはさらに分かりやすい。
Veeva AIは、Vault Platformをデータ、コンテンツ、エージェントを扱う単一基盤として位置づけ、Veeva AI AgentsがVeevaアプリケーション内でデータ、文書、ワークフローに深くアクセスして動くと説明している。
ライフサイエンスは規制産業だ。
ここでは汎用AIだけでは足りない。
業界特化、監査、コンプライアンス、業務文脈が必要になる。
SAPも同じだ。
Joule Agentsは、財務、人事、調達、サプライチェーンなどのビジネスプロセスに埋め込まれ、業務ワークフローを自動化するAIエージェントとして説明されている。
SAPは派手ではない。
しかし、企業のERP、財務、調達、サプライチェーン、人事を握っている。
AIエージェントが本当に業務を実行するなら、ERPや基幹業務データに接続しなければならない。
その意味で、SAPはかなり強い位置にいる。
ここで重要なのは、SNOW、VEEV、SAPを同じ「データ銘柄」として見ないことだ。
SNOWはデータ基盤。
VEEVはライフサイエンス業務OS。
SAPは基幹業務プロセス。
AI時代に強いのは、単にデータを持つ会社ではない。
業務プロセスと密結合したデータを持つ会社だ。
■ 再定義候補として見たい企業群
次に、再定義候補の会社を整理する。
ここは、加速側にも失速側にもなり得る。
だからこそ、決算で数字を確認する必要がある。
① CRM
Salesforceは、最も分かりやすい二面性を持つ。
一方では、AIエージェントに攻められる側だ。
顧客管理、営業支援、カスタマーサポートという領域は、まさにAIエージェントが入りやすい。
しかし一方で、Salesforceは膨大な顧客データと業務フローを持っている。
Agentforceを通じてAIエージェントの構築・管理基盤になれれば、再定義される可能性もある。
見るべきは、Agentforceが単なるAI機能ではなく、既存顧客の拡張、使用量、AI ARR、単価上昇にどこまでつながるかだ。
ただし、ここで最も注意したいのが粗利率だ。
AIエージェントを動かすには、裏側でLLM推論コストが発生する。
従来のSaaSのように、データを保存して画面に表示するだけではない。
もしAI売上は伸びているのに、粗利率がじわじわ下がっていくなら、それは「AIで再定義できた」のではなく、低利益率のAIサービスに移行しているだけかもしれない。
ここはかなり厳しく見る必要がある。
② ADBE
Adobeも二面性がある。
生成AIは、画像、動画、デザイン、コンテンツ制作のコストを下げる。
これはAdobeにとってリスクでもある。
一方で、Adobeは単なる制作ツールだけではない。
Experience Platform、マーケティング、顧客体験、コンテンツ供給網を持っている。
Agent Orchestratorによって、マーケティング、分析、オペレーションのエージェントをつなげ、顧客体験を大規模に動かせるなら、AIで再定義される可能性がある。
ただし、ここでも同じだ。
FireflyやAI機能が利用されているかではない。
AIで価格を上げられるか。
AIで既存顧客の支出が増えるか。
AIで粗利率を守れるか。
ここを確認したい。
③ MDB
MongoDBはAIアプリケーションのデータ基盤として見たい。
MongoDBはVoyage AIを買収し、AI検索、RAG、エージェント型ソリューションに必要な埋め込み・リランキングモデルを取り込んでいる。MongoDB自身も、Vector SearchをAIエージェントのツールやメモリ、agentic RAGに使えるものとして説明している。
ただし、MongoDBは成果課金企業ではない。
あくまでAIアプリを作るためのデータ基盤に近い。
AIネイティブアプリが増えるほどAtlasやVector Searchの需要が伸びるか。
ここを確認したい。
④ PATH
UiPathは、理論上はど真ん中だ。
RPAはもともと、人間が画面でやっていた作業をソフトウェアロボットに代替させるものだった。
AIエージェント時代には、かなり相性が良いように見える。
ただし、リスクもある。
AIエージェントが直接APIやアプリを操作できるようになると、従来型RPAの価値は下がる可能性がある。
だからPATHは、RPA会社から、AIエージェント、ロボット、人間、システムを統合するAgentic Automationの制御平面になれるかが勝負だ。
UiPath Maestroは、ロボット、AIエージェント、人間、システムをつなぐオーケストレーション層として説明されている。
面白いが、かなり検証が必要な会社だと思う。
⑤ ZETA
Zetaも面白い。
ZetaはAI Agent StudioやAgentic Workflowsを通じて、マーケティング担当者がAIエージェントを作り、キャンペーンやオーディエンス構築、コンテンツ最適化などを自動化する方向に進んでいる。
Zetaは、マーケティング実行のAIエージェントに近い。
ただし、マーケティングテックは競争が激しい。
Salesforce、Adobe、HubSpot、Klaviyo、The Trade Deskなど、周辺に強い会社が多い。
ZETAは面白いが、コアというよりサテライト評価だと思う。
⑥ DUOL
Duolingoは、SaaS is Deadとは少し違う。
ただ、AIによって体験価値が上がる会社だと思う。
Duolingo Maxでは、AIを活用したRoleplayやVideo Callなどの機能が提供されている。
DUOLの強みは、AIそのものではなく、ブランド、習慣化、ゲーミフィケーション、学習データ、キャラクター、UXだ。
AIによって、Duolingoは単なる語学学習アプリから、低価格のAI家庭教師に近づける可能性がある。
ただし、AI教育は競争が激しい。
OpenAI、Google、Apple、教育スタートアップが入れる領域でもある。
見るべきは、Maxの課金率、継続率、AI機能の利用率、推論コスト、LTVだ。
■ Legal系はどうなるか?
Legalはかなり重要なテーマだと思う。
AIが効きやすい領域だからだ。
法律業務には、文書が多い。
契約書がある。
判例がある。
法令がある。
調査がある。
比較がある。
要約がある。
ドラフトがある。
デューデリジェンスがある。
eDiscoveryがある。
これはLLMと相性が良い。
ただし、Legalは完全自動化されにくい領域でもある。
理由は明確で、間違えた時の損害が大きい。
引用が重要。
根拠が重要。
管轄が重要。
責任の所在が重い。
だからLegal AIでは、汎用AIだけでは弱い。
強いのは、法律コンテンツ、引用検証、契約データ、DMS連携、実務ワークフロー、セキュリティを持つ会社だ。
① TRI、RELX、WKL
上場企業で見るなら、まず本命に近いのはThomson Reuters、RELX、Wolters Kluwerのような専門情報企業だと思う。
・Thomson Reuters(TRI)のCoCounsel Legalは、WestlawやPractical Lawのような信頼できる法律コンテンツに基づいて、リサーチ、分析、ドラフトを支援する方向に進んでいる。
・RELX傘下のLexisNexis(RELX)も、Lexis+ with Protégéによって、法律リサーチ、ドラフト、分析に加え、Shepard’sによる引用検証を組み合わせた法律AIを展開している。
・Wolters Kluwer(WKL)も、Legal & Regulatory領域を持つ専門情報企業として、Legal AI時代の本命候補の一つとして見ておきたい。
法律では、ただ文章が自然に書けるだけの汎用LLMだけでは足りない。
つまり、TRI、RELX、WKLは、単なる法律データベースではなく、信頼できる法律情報とAIをつなぐ会社だ。
ここが本命格に置ける理由だと思う。
② DOCU、LZ
一方で、Legal AIは専門コンテンツ企業だけの話ではない。
・DocuSign(DOCU)も面白い反面、ここはまだ検証中だと思う。電子署名だけならAI時代にコモディティ化リスクがある。
しかし、契約AI、契約分析、リスク抽出、契約ライフサイクル管理まで広げられるなら、単なる電子署名会社ではなく、契約ワークフローのAI実行レイヤーに近づく可能性がある。
つまりDOCUは、Legal AIの本命というより、契約業務AIに再定義できるかを見る銘柄だと思う。
さらにLegalZoom(LZ)のような個人・中小企業向けオンライン法律サービス企業も、AIによる効率化余地はある。
ただし、LZはエンタープライズ法務AIというより、SMB・個人向けLegalTechに近い。
Legal AIテーマとしては面白いが、競争、単価、顧客層、収益性の面で高リスクだと思う。
Legalは、AIが弁護士を一気に消すというより、まずはジュニア弁護士、パラリーガル、契約レビュー、判例調査、デューデリジェンスの作業を大きく圧縮すると思う。
そしてその先に、法律事務所や企業法務のビジネスモデル自体が変わる。
これはSaaS is Deadというより、プロフェッショナルサービスの再定義に近い。
■ ババを引かないために見るべき数字
ここまで見ると、AI時代の投資判断で一番危ないのは、経営陣の言葉をそのまま信じることだと思う。
これから全ての経営陣がAIを語る。
AIで効率化します。
AIエージェントを出しました。
Agentic AIに対応します。
業務を自動化します。
次世代プラットフォームです。
しかし、それだけでは分からない。
投資家として見るべきは、言葉ではなく数字だ。
私が確認したい数字は以下だ。
確認項目 加速側の兆候 失速側の兆候
Revenue Growth 再加速、または高成長維持 鈍化が止まらない
NRR / DBNER AI SKUで拡張率が維持・上昇 シート削減で低下
RPO / cRPO 将来契約が伸びる 更新・新規契約が弱い
AI ARR 個別開示が始まる 「AI好調」だけで数字なし
AI Usage 使用量が増える 利用実態が見えない
Gross Margin 推論コストを吸収 AI導入で粗利悪化
Operating Margin AIで効率改善 成長鈍化と費用増が同時進行
Customer Count 大口顧客が増える SMB中心に解約増
Pricing 使用量・成果・AIクレジットで単価上昇 価格転嫁できない
特に重要なのは、以下だ。
AIを語っているかではない。AIで単価が上がっているか。
AI機能を載せたかではない。AIによって顧客の予算内で優先順位が上がっているか。
そして今回、もう一つ追加したい。
AI売上が伸びているかだけではない。AI売上が伸びても、粗利率が守られているか。
ここが本当に重要だと思う。
AIは魔法ではない。
裏側では推論コストがかかる。
データ接続も必要になる。
導入支援も必要になる。
顧客ごとの業務フローに合わせた調整も必要になる。
だから、AIで売上が伸びても、それが低利益率の売上なら、株主価値としては慎重に見なければならない。
AI時代のSaaSを見る時は、売上成長率だけでは足りない。
売上成長率、粗利率、営業利益率、FCF、そして顧客単価。
このセットで見ないといけない。
■ 業績に表れるまでには時間差がある
SaaS is Deadの話は、株価にはすぐ出る。
でも、業績に出るには時間がかかる。
なぜなら、エンタープライズSaaSには契約期間があり、更新タイミングがあり、予算サイクルがあり、導入・移行コストがあるからだ。
市場は先に反応する。
新しいAIモデルが出た。
AIエージェントがここまでできるようになった。
Claude Codeが開発コストを下げている。
Claude Mythosがサイバーの前提を変えている。
AIエージェント企業が営業、サポート、法務、開発に入ってきた。
こういうニュースが出るたびに、SaaS株やサイバー株は揺れる。
しかし本当に業績に出るのは、その後だ。
私の時間軸はこうだ。
即時 株価とバリュエーションが反応する
3〜6か月 経営陣がAI戦略を語り始める
6〜12か月 新製品、AI SKU、価格改定が出る
12〜24か月 NRR、RPO、使用量、AI ARR、粗利率に差が出る
24〜36か月 加速側と失速側の業績差が明確になる
つまり、今はまだ企業地図を作る段階だ。
バリュエーションはもちろん大事だ。
しかし、その前に、どの会社がAIで強くなり、どの会社がAIに削られるのかを整理する必要がある。
■ 暫定投資地図
現時点で、私はこう整理している。
AIによって不可逆に重要性が上がる会社
* MSFT
* PLTR
* NOW
* DDOG
* NET
* RBRK
* ZS
* OKTA
* CRWD
* PANW
* VEEV
* SAP
このグループは、AIが増えるほど、データ、権限、監視、復旧、業務プロセス、ゼロトラスト、ワークフロー実行の重要性が増す。
つまり、AIの進化が脅威ではなく、需要増につながる可能性がある。
加速側だが、数字で確認したい会社
* SNOW
* CRM
* ADBE
* HUBS
* WDAY
* TEAM
* MDB
* PATH
* ZETA
* DOCU
* DUOL
ここは、壊されるリスクと再定義できる可能性の両方を持つ。
特にSNOWは、AIエージェント時代のデータ基盤として強い可能性がある一方で、「データを一箇所に集めること」の価値がAIによって再定義される可能性もある。
だから、完全な加速側に置き切るのではなく、加速側候補だが数字で確認する会社として見たい。
このグループで見るべきは、以下だ。
AI ARRは出ているか。
AI有償案件は増えているか。
NRRは維持されているか。
RPOは伸びているか。
AIで粗利率は崩れていないか。
既存顧客内で単価が上がっているか。
ここで差が出る。
慎重に見る会社
* 単なる会議要約
* 単なるファイル保存
* 単なるフォーム入力
* 単なるタスク管理
* 単なる営業支援
* 単なるダッシュボード
* 単なるメール自動化
このあたりは、LLMやAIエージェントに飲み込まれやすい。
人間が操作する前提の業務が減れば、シート課金の根拠も弱くなる。
■ まとめ
今回の結論は、かなりシンプルだ。
SaaSは死ぬのではない。
SaaSは選別される。
だから、投資家として見るべきは「AIを語る会社」ではない。
見るべきは、AIが増えるほど必要になる会社だ。
そして、AIによって単価と利益率を同時に上げられる会社だ。
今はまだ、業績に完全には出ていない。
しかし2年後、3年後には、加速側と失速側の差は数字で見えてくると思う。
その時に初めて気づくのでは遅い。
今やるべきことは、AIエージェント時代の企業地図を作ることだ。
私は、SaaS is Deadという言葉を、SaaS終了論としてではなく、投資家としての地図を更新する合図として受け取りたい。
死ぬ会社を避けるためと、AIによって不可逆に強くなる会社を見つけるために。
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