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「走る」から「伝える」へ。阿蘇で学んだサイクルガイドの本質。

阿蘇で学んだ、サイクルツーリズムと地域をつなぐ人の役割

インタープリテーション(IP)において大切なのは、場所を説明することではなく、人と土地をつなぐことです。そして、絶景を案内するだけでなく、その土地の物語やくらし、祈りや営みを伝えながら伴走する人こそが、IPにおける本当の「ガイド」なのだと思います。


国造神社への道筋には草刈りの期間中、採草地の近くで野営をするために造られる「草泊まり」も

「あまいちサイクリングクラブ」のメンバーとして、ナショナルサイクルルート指定に向けた動きに関わるようになった今、強く感じていることがあります。それは、「ナショナルサイクルルートの指定はゴールではなく、むしろスタートである」ということです。

道路やサインを整備すれば人が来るわけではありません。もちろん、走りやすい環境づくりは重要です。しかし、その先にある「また来たい」「もっと知りたい」「誰かに勧めたい」という感情は、地域との出会いの中で育まれるものではないでしょうか。

左から「道の駅阿蘇」の駅長下城さんと、サイクルツーリズムに取り組む上天草市協力隊久保さん

そんなことを考えながら、参加したのは「サイクリングガイド向けリスクマネジメントスキルアップ講座」。今回の研修は、そんな「つなぐ役割」について考える時間でもありました。

自転車はきっと人生を面白くする

今回講師を務めて下さった「grav bicycle」代表の小口良平さん

今回講師を務めてくださったのは、自転車冒険家の小口良平さん(grav bicycle/長野県)です。小口さんは、2007年から2016年までの約8年半をかけて、157か国・約15万5千kmを自転車で走破。現在は長野県を拠点に、サイクルツーリズムや地域づくりに取り組みながら、「自転車はきっと人生を面白くする」というメッセージを発信し続けています。

世界を巡った冒険家としての立場もそうですが、今回の講義で特に印象的だったのは、壮大な旅の話よりもむしろ「地域の日常」に目を向けるという視点。

北外輪山と南外輪山に囲まれた阿蘇谷のなかを走る時間は常に、水音と田畑の営みが共にある

今回の研修全体を通じて感じたのは、「自転車は移動手段ではなく、人と地域をつなぐ媒介である」ということでした。

行政だからできること、民間だからできること

行政だからできることがある。
民間だからこそできることもある。

道路やサインの整備、制度設計や予算の確保は行政の重要な役割です。一方で、地域の魅力を磨き上げ、人との出会いや滞在の価値を生み出すのは、地域で暮らし営む人たちの力が欠かせません。そして最近強く感じているのは、そのどちらにも属しきらない「余白」の存在です。

行政と民間。観光と暮らし。地域と来訪者。その間をつなぐ人や仕組みがなければ、せっかくの資源も価値として届きません。そんなことを考え続けた2日間でもありました。

「人を育てる仕組み」を育む

今回、もう一つ大きな学びとなったのが、阿蘇で長年続けられてきた人材育成の仕組みです。

阿蘇は、世界遺産、国立公園、ユネスコ世界ジオパークなど、日本有数の自然・文化資源が集積するエリアです。しかし、その価値を来訪者へ伝えるためには、フィールドそのものだけでなく、それを案内する「人」の存在が欠かせません。その中心的な役割を担っているのが、「道の駅阿蘇」の下城駅長を中心に10年以上続けられてきた人づくりの取り組みです。

なかでも印象的だったのが、「牧野ガイド」という仕組みでした。

牧野ガイド事業として、毎月さまざまなイベントが企画されている

阿蘇の広大な草原(牧野)は、自然のまま残された土地ではありません。野焼きや放牧、採草など、人の営みによって維持されてきた文化的景観です。しかし、担い手不足や高齢化が進む中で、管理が行き届かなければ草原は森林化し、阿蘇らしい景観や生態系は失われてしまいます。

そこで生まれたのが「牧野ガイド」です。

ガイドは単に観光客を案内する存在ではありません。草原の価値や成り立ちを伝え、利用者の安全を守り、環境への負荷を抑えながら地域資源を次世代へつなぐ役割を担っています。

さらに特徴的なのは、一度認定されたら終わりではないこと。研修受講やガイド活動などによる更新ポイントが設けられており、継続的な学びと実践が求められます。基準を満たせなければ認定は失効するため、ガイドの質が維持される仕組みになっています。

今回のリスクマネジメント講習会も、その継続研修の一環として開催されたものでした。そこに「あまいちサイクリングクラブ」のメンバーも特別に加えていただき、地域を越えた学びの場となったのです。

牧野ガイドの皆さんとともに学ばせていただいた

「道の駅阿蘇」の下城駅長を中心に10年以上積み重ねられてきたこの取り組みは、まさに「地域資源を守りながら活かすための人づくり」の実践なのだと感じました。

道路や施設は予算があれば整備できます。でも、人を育てるのにはとてつもない時間と思想が必要です。だからこそ、阿蘇で積み重ねられてきた10年という時間の重みを、強く感じたのでした。

ガイドは道案内ではなく、安全を預かる仕事

さて、初日はリスクマネジメントについての講義。サイクリングツアーが地域にもたらす価値や可能性。そして、その前提として絶対に欠かせない安全管理について学びました。

交通法規やケーススタディなど、さまざまな視点でお客様の安全と満足を支える視点を学ぶ

携行する装備や救急用品、自転車トラブルへの対応。楽しそうに見えるガイドツアーの裏側には、多くの準備と判断があります。

ファーストエイドやメンテナンスグッズなど、万一のトラブルに備えた装備品のチェックも

特に印象的だったのは、自転車の点検・整備についての学びでした。近年は、天草でも、道の駅や宿泊施設でレンタサイクルの導入が進んでいます。しかし、自転車は日常的な点検や整備が欠かせない乗り物です。利用者に安心して楽しんでもらうためには、貸し出し前のチェックやトラブル対応など、運営側にも一定の知識と技術が求められます。

ツアーやレンタルの前には必ず、こまめな点検を実施するという

ナショナルサイクルルートを目指すのであれば、道路整備だけでなく、自転車整備の担い手育成や、自転車店・宿泊施設・観光施設が連携する仕組みづくりも必要になるのではないかと感じました。

走ってみて初めてわかること

2日目は、実際に自転車に乗りながらの実践研修です。

出発前には、豊後大野サイクリングを展開する矢野浩史さんによるブリーフィングが行われました。ルートや注意事項を共有するだけでなく、参加者全員が安心して走るための雰囲気づくりも含めた大切な時間です。

ブリーフィングのお手本を見せてくれたのは、豊後大野サイクリングを展開する矢野浩史さん

参加者全員が「リードガイド」と「テールガイド」を経験しながら集団走行を引率します。信号や交差点への対応、路面状況の確認、参加者の体力や経験値に応じたペース配分など、ガイドには常に状況を判断し続ける力が求められます。「リードガイド」は先導しながら後方を確認し続け、「テールガイド」は最後尾から全体の状況を把握し続ける。普段の気ままなサイクリングとはまったく違う世界でした。

線路が日常にない天草では、線路を自転車で渡るだけでも非日常。リスク管理に背筋が伸びます

線路が日常にない天草では、線路を自転車で渡るだけでも非日常です。こうした場面一つを取っても、安全管理の重要性を改めて実感しました。

快適さや楽しさの前に、安全がある。

そして安全を担保した上で参加者に心地よい体験を提供することこそが、ガイドの大切な役割なのだと感じました。


速度が変わると、世界が変わる

今回の講師の一人である自転車冒険家・小口良平さんの言葉で、特に印象に残ったのが「車では速すぎる。徒歩では遠すぎる」という考え方でした。

自転車だからこそ見える景色があります。

例えば、天草西海岸でいうとしたら、
森や里に訪れる季節のうつろい。
斜面に肩を並べる十字と卍の墓石。
地域のくらしの息づかい。
そして、すれ違う人との何気ない挨拶。などなど。

自転車の速度なら、地域とつながることも容易です。昨日も、多くの人と挨拶を交わしました。

実際に走ってみると、自転車の速度だからこそ地域との距離が近くなることを実感します。車なら通り過ぎてしまう風景にも自然と足が止まり、徒歩では少し遠い場所へも気軽に足を延ばすことができます。

その絶妙な速度が、人と地域との関係性を変えていく。

サイクルツーリズムの本質は、単に自転車に乗ることではなく、その土地との新しい出会いを生み出すことなのだと感じました。

阿蘇には自然だけでなく、人々の暮らしや信仰を伝える物語が息づいています(国造神社にて)

ナショナルサイクルルートの先へ

牧野ガイドなど、さまざまな取り組みに携わる阿蘇の皆さんとご一緒させていただけた今回。研修を終えて改めて感じたのは、サイクルガイドやコーディネーターの存在の大きさです。それは単なる道案内役ではなく、地域の魅力を編集し、人と人をつなぎ、安全を支え、旅の価値を高める存在です。

サイクルツーリズムの本質は、単に自転車に乗ることではなく、その土地との新しい出会いを生み出すことなのかもしれません。

天草がナショナルサイクルルートを目指すなかで必要なのも、きっと道路やサインだけではありません。

人を育てること。
土地と人、土地ともの、人と人との関係性を育てること。
地域の物語を育むこと。

行政だからできること。民間だからできること。
そして、その間にある余白をどう重ねていくか。

阿蘇での2日間は、その問いを改めて考える時間となりました。

ナショナルサイクルルートの指定も、まだこれからです。そこはゴールではなくスタートだからこそ、その先にある天草らしいサイクルツーリズムの姿や地域のあり方を、みんなで描いていけたら素敵だなと思います。

私たちが取り組んできた「天草西海岸のストーリー」もまた、地域の人たちにとっては当たり前の日常の中にある価値を見つめ直す取り組みです。

自転車だからこそ見える風景があるように、地域の人だからこそ見えていない魅力もある。阿蘇での学びを通して、そのことを改めて感じた2日間でした。

最後に。今回の研修に「あまいちサイクリングクラブ」会員の参加をご快諾いただいた「道の駅阿蘇」駅長・下城さんをはじめ、ご一緒いただいた「牧野ガイド」の皆様。講師の小口さん、そして参加者の皆さん、本当にありがとうございました。


道の駅阿蘇のすぐそばにある「夢の湯」。筋肉や関節の痛みに高い効果が期待できるといわれる「ナトリウム、マグネシウム-硫酸塩、炭酸水素塩泉」で心身ともにリフレッシュ

阿蘇の皆さんの実践や考え方から、たくさんの刺激をいただきました。いただいた糸口と見えてきた課題を胸に、これからも学び&考え続け、これからに生かしていこうと思います。その前にまずは、また、遊びにいこうと思います!


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