見出し画像

指差呼称【青ブラ文学部】ショートショート

私は看護師の資格を持つ信子だ。

普段は老人ホームで働いている。

ここには元気なおじいさん、おばあさんが多い。

私が出勤すると、

「おはよう!」

「今日もかわいいねえ」

「昨日よりシワが一本減ったじゃろ?」

朝から冗談が飛び交う。


そんなある日だった。

廊下の向こうから、

「指差呼称! 指差呼称!」

と、威勢のいい声が聞こえてきた。

しかも一人じゃない。

五人、十人……

気づけばあちこちから、

「指差呼称!」 「指差呼称!」

まるで流行歌だ。

私は思い切って聞いてみた。

「最近みなさん、指差呼称ってよく言ってますけど、何かあるんですか?」

すると、おばあさんがニヤリと笑った。

「まあまあ。そのうち見せてあげるから」

「あと二か月で老人ホーム祭りじゃろ?」

「その日になれば分かる」

それだけ言うと、みんな意味ありげに笑った。

何なんだろう。

気になって仕方がない。

それからというもの、おじいさんもおばあさんも毎日やたら元気だった。

「指差呼称!」
「よし!」

そんな声が廊下に響くたび、なんだか若返っているようにさえ見えた。


そして、老人ホーム祭り当日。

私は客席で胸を躍らせていた。

司会者が高らかに告げる。

「続きまして……『指差呼称』です!」

会場は大拍手。

幕が開いた。

私は息をのんだ。

全員レオタードだった。

しかも、なぜかラメ入り。

「え……」

思考が止まる。

イントロが流れ始めた。

ドンッ!

その瞬間だった。

さっきまで杖をついていたおじいさんが、椅子から勢いよく飛び上がった。

「うそぉ⁉︎」

腕を振る。

足を交差させる。

体をひねる。

フォーメーションが一糸乱れぬ。

どこの練習生グループかと思うほどの完成度だった。

続いて、おばあさんたちがセンターへ。

髪をなびかせながらキレッキレのダンス。

片足でくるり。

もう片足でターン。

八十代とは思えない。

もはや、人間じゃない。


歌が始まった。

♪最近 物忘れがひどくなった〜♪

(全員で一斉に指差し)

「財布よし!」

♪朝ご飯 食べたかな〜♪

「食べた……たぶん、よし!」

♪メガネはどこだ〜♪

「頭の上! よし!」

♪入れ歯はどこだ〜♪

「口の中! よし!」

サビに入る。

♪指差呼称! 指差呼称!
ボケ防止! 指差呼称!
忘れ防止! 指差呼称!
みんなでやれば〜
百歳だって〜
まだまだ現役〜〜っ!!


その瞬間だった。

全員が一斉にジャンプ。

八十代、九十代が宙を舞う姿に、私は言葉を失った。

おじいさんが床を滑る。

おばあさんがムーンウォーク。

隣では車椅子のおじいさんがタイヤを器用に回してスピンしている。

老人ホームの祭りだということを、私はもう忘れかけていた。

気づけば紅白歌合戦さながらの熱気に、会場中が包まれていた。

最後は全員そろって椅子に片手をかけ、もう片方の手を天高く突き上げた。

「指差呼称ーーーーっ!!」

ドーン! 紙吹雪が舞う。

客席は総立ち。 拍手喝采。

私は涙を流しながら拍手していた。

「感動した……」

ボケ防止のために始めた指差呼称が、

まさか老人ホームをここまで元気にするなんて。

私は心の中でそっと指を差した。

「この老人ホーム……よし」



☆実は、私は日々、仕事や家でも指差呼称しています。物忘れがひどいので😅
それで思いついた話です😊

山根あきらさんの「企画」
『指差呼称』
に参加させていただきました。
いつもありがとうございます。
#青ブラ文学部 #指差呼称

前回のお題はこちら↓

#創作 #ショートショート #老人ホーム
#ハートフル #コメディ #ほっこり #笑い話

いいなと思ったら応援しよう!