黙っているのは嘘つきと同じよ【青ブラ文学部】ショートショート
「あいつ、初犯なんだよな」
「そうなのよ。もう嫌になっちゃう。
何を聞いても、ずーっとだんまりなのよ」
「別に大した事したわけじゃないんだろ?」
「ええ。泥棒よ。泥棒したの」
「ああ、泥棒か。まあ、それでも立派な犯罪だけどな。で、何盗んだんだ?」
「見てみる?これよ」
袋から大量のペンの詰め替え芯がザラザラと机の上に広がった。
「……何だこれ」
「意味分からないでしょ?」
「これしか盗んでないのか?」
「そう。これだけ」
男性刑事は一本一本眺めていたが、ふと手を止めた。
「おい」
「何?」
「一本だけ赤い芯が混じってるぞ」
「えっ?」
女性刑事が慌てて覗き込む。
「ほんとだ……やだ、見落としてた」
しばらく二人で赤い芯を見つめた。
「……ますます訳が分からないわ」
「本人に聞くしかないな」
二人は取調室へ入った。
バタン。
音に驚き、椅子にもたれていた男が飛び起きた。
「寝てたのか?」
男は黙ってうなずいた。
「盗んだ物を見せてもらったけど、何か思い入れでもあったのか?」
男は黙って刑事たちを見た。
女性刑事が腕を組む。
「あなたね、さっきから何もしゃべらないけど、どうしてペンの芯ばかりなのよ。
それに一本だけ赤い芯が混じってるなんて意味が分からないわ」
男は黙っている。
「そんなに黙ってると、誰からも信じてもらえなくなるわよ。
あとになって『本当は違いました』なんて言ったって遅いの!」
さらに一歩前へ出た。
「黙っているのは嘘つきと同じよ!」
息を切らしながら睨みつける。
男性刑事が苦笑した。
「まあまあ。そんな勢いで責めたら、余計しゃべれなくなるだろ」
すると男が、おずおずと男性刑事を指で呼んだ。
「ん?」
耳元へ顔を近づける。
男が何かささやく。
「……ぷっ」
肩が震えた。
「はははは!」
女性刑事が眉をひそめる。
「何?何て言ったの?」
「いや……」
「教えなさいよ!」
「あまりにも君が、この人の奥さんにそっくりで、怖くて声が出なかったそうだ」
「はぁ⁉︎」
「だから黙ってたんだって」
「誰が奥さんよ!」
「まあまあ」
男性刑事は笑いをこらえながら言った。
「俺が一人で話を聞くから」
「もう!勝手にして!」
ドアが勢いよく閉まった。
静かになった部屋で、男性刑事は椅子に腰掛けた。
「そんなに似てるのか?」
男は深くうなずいた。
「怖いから、いつもだまりこくっちまうんだ。そうすると、あの女刑事さんと同じ事いいやがる」
「黙っているのは嘘つきと同じよ!」
「きついな……」
「で、どうして盗みなんかしたんだ?」
男は少しうつむいた。
「挙げ句の果てに、財布の一万円札がなくなったのを俺のせいにしやがったんだ」
「『黙って、嘘ついて!
嘘つきは泥棒の始まりなんだからね!』
って」
「それで家を飛び出したんだ」
「泥棒だって言うなら、本当に泥棒になってやるって」
「それでペンの芯?」
「何でもよかったんだ」
男はふっと笑った。
「店で目に入ったのがペンの芯だった」
「うん」
「何も持たずに飛び出した俺みたいだなって」
「……」
「裸一貫で頑張ってるじゃねぇか、こいつもって」
男性刑事は吹き出した。
「それで全部盗んだのか」
「ああ」
「……今は、反省してるのか?」
「してます。本当に申し訳ありませんでした」
男性刑事は静かにうなずいた。
「事情は分かった」
そして袋から一本だけ赤い芯を取り出した。
「でも、一つだけ聞かせてくれ」
「はい」
「どうして、これだけ赤い芯なんだ?」
男は照れくさそうに頭をかいた。
「いや……」
「うん?」
男は少しだけ笑った。
「黒だけじゃ、悲しみは書けねぇと思って」
「……」
「男の悲しみは、血の涙なんだ」
取調室が静まり返る。
やがて男性刑事は顔を伏せた。
肩が震え始める。
「……ぷっ」
「……」
「ははははは!」
山根あきらさんの「企画」
『黙っているのは嘘つきと同じよ』
に参加させていただきました。
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