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『時渡り』第一巻 試し読み|少年が発明家と出会った日

2026年8月1日に刊行する、小説『時渡り』第一巻。
本日は、第一章から一場面をnote用に抜粋して公開します。

十一歳の少年・亘(わたる)は、見知らぬ杉林で、
山に独り住む発明家・渡黒(わたぐろ)と出会います。
渡黒に導かれるまま、
亘は「過ぎさった時を見ることができる」
という奇妙な機器を試すことになります。
ここから、亘の夏は少しずつ、現実の外側へ踏みだしていきます。
その入口を、少しだけ覗いていただけたら嬉しいです。

試し読みの感想をコメントにていただけますと、
たいへん励みになります✨

ここから試し読み本文となります。


第一章 渡黒の発明品(試し読み)

「これはね、君の脳に蓄えられている記憶を可視化して、過ぎさった時を見ることができる機器なのだよ」

「過去をのぞけるって……、どんなふうに見えるんですか」

亘は心躍らせ迫った。 見たい。 過去がどんなふうに見えるのか、早く見てみたい。

「論より証拠、百聞は一見に如かず、だ。さあ、君も私の過去をのぞいてみてくれ」

亘は、老人が言葉を切る前にゴーグルを装着していた。
かちりと音が鳴るや否や、眼前には、赤、青、黒と色とりどりの背表紙が壁面をなす、書物の塔が造る街が現れた。

「ふう、埃がずいぶんと積もってしまったな」

頭の中で老人の声が弾む。
かび臭さがクリーナーから吹きでる風に乗って鼻腔を掠めると、
深海の底から浮上するがごとく、
老人の妻が掃除する光景が、書物の塔と重なるか、
あるいは混じりあいながら映しだされた。

美しくつややかな長い黒髪を束ねて、はたきを振るう君。
ふんわりとした椿柄の白いスカートに埃が落ち、私の手がそれを払う。
あのころは幸せだったという思いが胸にじんわりと広がる。
ふたりで談笑しながら部屋をかたづけているだけで十分だった。
それなのに君はいない。

ああ、なんという幸福。 君はいつでも美しかった。
君を取りもどすためなら、なにをしても……!

突如、視界が狭まりセピア色に戻ると、亘は息苦しさに、急いでゴーグルを外した。

「俺が見たものは、あの……あなたの!」

亘はそこで、自身の目尻から一筋の涙が流れたのに気づいた。

「君が見た光景と、そのときの私の心を教えてくれないかな」

老人が浮かべる笑みは変わらず穏やかだった。 だが、彼の過去をのぞいた亘の目に映るのは、最愛の人物を失った者の苦痛が刻む傷痕だった。

「おじいさんは、本がたくさん積まれた部屋の掃除をしていました。
そこに、奥さんが掃除をしている姿が重なって見えたんです。
若くて、とても綺麗な人だった。優しい笑顔の人で。
でも、奥さんはもう今はいっしょにいなくて……」

亘は言葉をつまらせた。 老人は真顔で亘を見おろしていた。
傷痕も、優しさも皮下に沈め、己の本心を知った少年の口から、真実を吐きださせてはなるまいとしているようだった。

「その先を君は見たのかな」

試し読み、ここまで。


亘が踏みこんだその先には、
時間の概念ごと書き換えてしまう装置が、待っていた。

──小説『時渡り』第一巻
《量子の海に溶けた少女と、狂える発明家》

2026年8月1日、Amazon Kindleにて刊行予定です。
発売記念として、 8月1日から8月5日までの5日間、
第一巻を完全無料でお読みいただけます。

もしこの場面に、少しでも気になる気配があったなら。
発売日に、続きを観測していただけたら嬉しいです。

著:佐々原 亞子

『時亘り』波の側をxとInstagramにて一部公開中です。
時間の存在を問う。みなさまはどう観測されますか?



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『時渡り』第一巻
《量子の海に溶けた少女と、狂える発明家》
2026年8月1日 Amazon Kindle にて発売予定
発売記念:8/1〜8/5 完全無料DL
主題歌『時亘り』も同日公開
── 波の側 / 粒の側
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❀ Instagramでは、主題歌『時亘り』の短い映像を置いています   

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#時渡り #時亘り #小説 #ファンタジー #純文学


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