掌編 「knockin' on heaven's door」
山崎先輩が天国に行った。
拍子抜けするほど、あっさりと。
肺ガンステージ4─
「いつでも禁煙なんか出来る。病んでも止めねぇ。俺は意志が強ぇんだ」
そう笑っていたのは、ついこの間のことだった。
訃報を聞いたとき、俺はなぜか、先輩がまたくだらない嘘を吐いている気がして、しばらく信じられなかった。
葬儀の日、空はやけに澄んでいた。
火葬場の煙突から立ちのぼる白い煙を見ていると、あの人の笑い声と煙草の匂いが混ざり合っているように思えた。
「ロックンロールだな」
ふっと、先輩の声が耳の奥で再生された。
「こんなのロックじゃないっすよ」
頬を一筋の涙が伝う。
風が舞い、今度ははっきりと聴こえた。
「たぶん、近いうち俺は天国のドアを叩く」
「いや、もう叩いてます」思わずツッコむ。
「でもそれは開けて入るためじゃない」
「何言ってるんすか?」
「俺はピンポンダッシュをかまして、地獄に行くんだ。ロックだろ?」
「地獄に行ったら生まれ変われな……。いや、もうそれ……最高にロックンロールっす」
俺は笑った。
夏の雲がゆっくり形を変えていく。
ただ立ち尽くしていても、世界は回っていく。
「先輩、地獄のど真ん中でも踊りますか?」
火葬場の駐車場で、俺は不謹慎にもひとりビートを刻んだ。
アスファルトの熱、生温い風、押し寄せる蝉の大合唱、参列者たちの冷ややかな視線─
それらをすべて蹴り上げるように踊った。
自慢のツイストでステップを踏むたび、少しだけ世界が加速していく。
「ロックンロール!」俺は叫んだ。
天国のドアを蹴破るように。
完
(本文656)
あとがき
これの続きです。なんとなく続きが書きたくなった。
