掌編 「Walking backward into the future」
「俺は生まれ変わるなら、ダングビートルがいい」山崎先輩は、どこか少年の面影を残した眼差しで言った。
「またその話ですか。もう三十回は聞きましたよ」
あきれたふうを装いながら返すと、先輩は嬉しそうに肩をすくめた。
「そうか。じゃあ三十一回目だ。聞いてくれよ、俺の魂のシャウトを」
「はいはい。彼らはロックンローラーなんですよね。……前足で大地を踏みしめ、後ろ向きのまま未来へ糞を蹴り飛ばす。世間がどれだけ汚いと笑おうとも気にしない。地べたを這いながらビートを刻む―ロックンロール!……ですよね」
三十回聞かされた言葉を、ほとんど儀式のように復唱する。
「おぉ、覚えてんじゃん」
山崎先輩は、驚いたような、照れたような顔で笑った。
「そりゃ、覚えますよ」
「ロックンロールだな」
その言葉は、夜空へ放たれたあと、煙草の煙と入り混じって形を失った。その更に上には、天の川が淡く流れていた。光の粒は、遠い昔の残響のように瞬いている。
ダングビートル―フンコロガシ。彼らは時折、糞玉の上に乗り、踊る。なぜ踊るのか。暑い日は足を冷やすため、また進むべき道を確認するためらしい。
気づけば俺も、すっかりフンコロガシフリークになっていた。
「ロックンロール!」
思わず夜空へ向かって叫ぶと、山崎先輩が笑いながら肩を叩いた。
二人で、地球という糞玉の上でビートを刻むように踊った。
少しだけ世界が回った。
完
(本文577字)
あとがき
ふと、ロックな話を書こうかなっと思った。まずローリングストーンズが浮かんで、回すもの…って考えたらフンコロガシが出てきた。浮かんできた物語はちょっとヤンチャな先輩後輩。思った以上に話はコロコロと転がった。ローリングう◯こ。ロックだと思った。
