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20億年前に地球に実在した地底原子炉

はじめに

1972年5月。フランスの原子炉燃料の濃縮施設にてアフリカのオクロ鉱床で産出されたウランのサンプルを目の前にして、以下のようなやりとりが行われた(かもしれない)。

「ウラン235が通常より少ないぞ。どこにやった?こっそり核兵器に転用したのではあるまいな!」
「めっそうもございません」
「じゃあ、減ったウラン235はどこにやったんだ」
「それが手前共もまったく寝耳に水でして・・・」

なぜか核分裂しやすいウラン235の量だけ少ないウラン鉱石がみつかった

長い記事になっちゃったけど、絶対おもしろいから最後まで読んでね!

でも要点だけしりたいみんなのために目次だってのせちゃうよ!


天然ウランの特徴

何がおこったのかを知るために、まず天然のウランの特徴を紹介しよう。

自然にはウランはおもに質量数の異なる2種類が存在する。

ウラン235
天然ウランの0.71%を占める。中性子を当てると、核分裂反応を引き起こす。燃えるウランと思っていいね!原子炉の燃料や核兵器に用いられる。
半減期は7億年。ウラン238がたくさん混じってしまうと、臨界状態になりにくいので、原子炉燃料や核兵器として用いるときは「同位体濃縮」を行う。
※同位体濃縮:元素が同じで質量数が異なる原子核の割合を減らすことを同位体濃縮という。原子炉燃料は天然ウランに含まれるウラン235を同位体濃縮して用いる。

ウラン238
天然ウランの99.28%を占める。劣化ウランと呼ばれることも。中性子をよく捕まえて(中性子捕獲反応・・・核分裂反応ではない)、ウラン239になる。ウラン239は半減期23分でベータ崩壊し、ネプツニウム239になる。このネプツニウム239も半減期は2.4日しかなく、ベータ崩壊してプルトニウム239になる。プルトニウム239は半減期が2.4万年で、中性子と反応すると非常に核分裂反応を起こしやすい核種である。核燃料の中ではもっとも核分裂反応を起こしやすい。
一部の原子炉を除き、燃料としては使えないどころか、本来ウラン235の核分裂反応に使いたい中性子を吸収するじゃまもの。

ウラン235と238の割合を面積で表した図。使用目的に応じて同位体濃縮せねばならない。

天然ウランにウラン235が0.71%ウラン238が99.28%含まれているのを、自然同位体存在比と呼び、地球上では鉱石の産地に関わらずどこでも同じ割合となる。

冒頭の一連のフランスで起きた事件は、ウラン235の割合が0.60%だったため、目減りした分を核兵器などに転用していないか問いただすやりとりだったわけである。

フランス国内で、核兵器に転用できるウラン235がなくなった・・・というわけだ。フランスは徹底的に調査せねば、国際機関の核査察でたいへんまず〜い国際評価を受けることになる。

こうしてフランス原子力庁による調査がはじまった。

調査がはじまる

フランスはやましいところはなにもない。
ということは、今回のウラン鉱石の生産地である、ガボンのオクロ鉱床からフランス国内に入ってくるところまでのどこかに原因があるはずだ。

実際にどうやって調査がなされたかまではわかんないんだけど、多分フランス側から徐々に生産地に遡っていく形で調査が行われたんじゃないかな。

いずれにせよ、最終的に、
「もう鉱石がそもそも何かおかしかったのではないか」
というところに帰着した。

そこで、オクロ鉱床から種々の鉱石をゲットする。そして、その同位体存在比を測定してみると・・・。

たしかにウラン235の濃度が低い。いや、ウラン以外の元素の同位体存在比もおかしい。

ここだけ地球じゃないみたいだ。

というのも、元素は恒星の活動で作られる。そして、超新星爆発で付近に物質がばら撒かれて、近くに存在するチリがまた集まって再び恒星や惑星が作られていくのである。

近いチリに含まれる同位体の存在比は大きく変わることはないのだ。

そして、よくよく調べてみるとオクロ鉱床には大規模な核分裂反応でできたキセノンの同位体の痕跡も見つかった。

ウランの大規模な核分裂反応といえば、原子炉の中で起きている反応だ。

このようにして最終的に
「20億年前に、ここにウランを臨界に保つ原子炉のような仕組みがオクロ鉱床にはあった」
という事実が導かれたのである。

「え・・・地底原子炉があった?・・・古代文明・・・いや地底人がここに原子炉をつくって、核分裂反応をしていた!?」

と思った人がいるかどうかはわからないが、ウラン235が原子炉で燃料として消費されたから、減っていたというわけ。

しかし、20億年前!もちろん人類はまだ存在していない。
グランドキャニオンの見えている1番下の地層ができた頃だ。

古代文明?

いや、むしろ光合成を行うバクテリアが初めて地球に姿をあらわし、酸素を生産し始めた時期にあたり、動物っぽい生き物も全くいない時期だ。

宇宙人?

地底人?

だれが原子炉を動かしていたのか

一体誰が地底原子炉を稼働させていたのか・・・。その正体にせまろう。
お〜、オカルトっぽい。しかし、わたしの記事だからサイエンスだよ!

だれがウランを燃料として使えるまで濃縮した?

さて・・・上の方にウラン235は濃縮しないと原子炉にも核兵器にも使えないと書いていたのを覚えているかな?

やっぱり古代文明がウランを濃縮していたんだ!

・・・と思うなかれ。

ウランの特徴のところに、ウラン235と238の半減期をそれぞれ書いてるので、よく見てみて!ほら、ウラン235の方が短い

ということは、ウラン235は、ウラン238と比べると崩壊して減る速さがはやいということ。

つまり、逆に過去に遡れば遡るほど、ウラン235とウラン238の同位体存在比は、ウラン235の濃度がどんどん高くなっていく

計算しよう。

計算条件
ウラン235の半減期は7億年。
20億年前からだいたい3半減期すぎているので、1/8くらいの量になっているはずだよね!
これが今0.71%あるってわけ。

一方でウラン238の半減期は45億年。
この20億年で減ったのは元々の量のたった1/4だけってこと!
これが今は99.28%。

各々20億年前の値を計算していこう。

規格化前
ウラン235: 0.71 x 8  = 5.68 パーセント現代
ウラン238: 99.28 / (3/4) = 132.4 パーセント現代
※「パーセント現代」、は現代の百分率で書くと、という勝手に作った単位

規格化後
ウラン235: 5.68 / (5.68 + 132.4)  x 100 = 4 パーセント
ウラン238: 100 - 4 = 96 パーセント
※この「パーセント」は当時の存在比を百分率であらわしたもの

これ、気づいたと思うけど、概算なので、だいたいの値だと思って!

時間経過とウラン235の濃度の関係

そして、現在の原子炉で使われているウランの濃縮度は約3%なので、なんと、天然のウランでも、原子炉で燃やすことができる濃度だったということ!

そう、時間の経過によってウラン235は濃度が薄くなったので、時を遡ることでなにもしなくてもウラン235は十分な濃度になってしまうのだ!

誰がウランを濃縮したのか。時を遡ることで濃縮されていくわけで、答えは「時」だ。なんかかっこいい。犯人は「時」だ!真実は常に一つ!

だれが原子炉の臨界を制御していた?

天然の減速材

ここが自然のイタズラ。
ウランはそのままおいただけでは臨界状態にならない。
核分裂反応で発生した中性子のエネルギーを、炭素や水との散乱反応を利用して下げて、ウランと反応しやすくする必要がある

20億年前のオクロ鉱床・・・なんとたわわな地下水が存在しており、中性子は効率的に減速されていたんだ。

地下水という天然の減速材が存在したことになる。

天然の制御機構(さすがに制御「棒」ではない)

地下水で十分中性子が減速されると、次々とウラン235とくっついて核分裂反応を引き起こし、やがて臨界に達する

臨界を越えようとすると爆発的に核分裂反応がおきるため、発生した放射線が付近に「熱」を与えて温度があがっていく。

温度があがると、地下水が沸騰を始める。

水は気体になってしまうと密度が低すぎて中性子を十分減速できなくなる

減速できないと、ウランの核分裂反応が起こりにくくなる。

ここで臨界状態が自然とおさまるわけ。

おさまるとどうなると思う?

蒸発した地下水の蒸気は、徐々に冷えてまた水(液体)に戻る。水に戻ればまた中性子が十分減速されるので、ウランの連鎖的な核分裂が再開して臨界に達する

地下水によって自律的に制御される天然の原子炉

恐るべき自然制御機構。地下水は制御機構としても機能していたってわけ!

原子炉の運転条件は、現在でも残る核分裂生成物の同位体比からわかる。

20億年もまえのことだけど、オクロ鉱床の天然原子炉は、30分臨界状態をキープし、2時間半臨界がおさまる・・・という周期を繰り返して、数十万年かけてウラン235を臨界が起きない量まで燃やし尽くしたということがわかったんだ!

人間が制御しているかのような正確な制御。

つまり、「誰が臨界を制御していたのか」に対するこたえは「地下水」ということになる。犯人は「地下水」だ!真実は常に一つ!・・・あまりかっこよくない。

だれが原子炉のスイッチを入れた?

20億年前より以前は、常にウラン235は原子炉級のウランよりも濃縮度が高かったはず。
でも、オクロ鉱床の天然原子炉は20億年前に突如スイッチが入ったかのように起動し、数十万年の間臨界状態と休止状態を正確にくりかえして、燃料を使い切って終息したんだよね。

・・・しかし、数十万年動く原子炉なんて人間にはつくれないなぁ。あ、脱線した。

いずれにせよ、それまで臨界状態になっていなかったウランを臨界条件を満たすようにして、スイッチをいれた「誰か」がいることになる。
さて、20億年前に原子炉のスイッチを入れたのはだれなのか・・・。

実はここまでにすでに張本人が記事の中に登場している。
思い出しながら説明を読んでほしい。ここからは「風が吹いたら桶屋が儲かる」的な展開なので、順をおって説明しよう。

  1. 光合成を起こすバクテリアが酸素で地球を満たした

  2. ウランは酸化物にならないと水にとけない。酸素で地球が満ちたことで、それまでは地中に薄く広く分布していたウランが酸化物となった。

  3. 酸化したウランは流れ込んできた地下水に溶けて移動する。

  4. 地下水に溶け込んだウランは、オクロ鉱床の位置に流れ込んできて、徐々に結晶化して溜まっていく

  5. やがて大きなウラン鉱床をかたち作った

  6. 臨界条件を満たす量に到達して、臨界に達した

地下水がウランを鉱床まで運ぶひみつ

ウランはある程度の量が集められていないと臨界状態には達さない。
地下水はまたウランを運ぶ運搬役をも買って出ていたことになる!

チカスイさんすごい!

これが20億年前、突如原子炉のスイッチが入った秘密だ!

さて、でも、そもそも地下水がウランを運べるようになったのって、なんでだっけ?
それを考えると、この原子炉のスイッチを入れたのはだれ?と聞かれた場合の、答えがみえてくる。

そう、犯人は、「光合成するバクテリア」だ!真実はいつもひと・・・まあ、かっこよくない。すごいけど。

だれがどうやって核廃棄物を処理した?

オクロ付近一体が核に汚染されて、生命がまったく発生しなかった・・・なんていうことは起きていない。つまりオクロ鉱床で消費されたウラン235から生成された放射性廃棄物は適切に処理されていたということになる。

使用済み核燃料には高レベル放射性廃棄物が含まれる。オクロ鉱床の放射性廃棄物はどうなっていたのか。鉱床自体が地層にあるため、実はその場に「地層処分」されていたことになる。

現在、日本でも高レベル放射性廃棄物は地層処分を検討しているわけだけど・・・まあ、地層処分とは簡単にいっちゃうと深いところにうめちゃう、という処分なので、将来的に地下水にのって地表にしみ出てきたりしないか心配する声がある。

地層として存在してるので、岩は動いてない。内部にある物質の地下水での染み出しはどうか?

はたしてオクロ鉱床の地層処分された放射性廃棄物は地下水にのって地表まで出てきていたのか・・・。何度も沸騰して蒸発したり液体に戻ったりした地下水である。

それでも実は・・・20億年もの期間をかけて、核分裂生成物ができた場所からほんの数センチしか動いていなかったのだ。

・・・おっそ!亀とかカタツムリとかいうレベルじゃない!

勝負にならない

これは地層処分が非常に有効な手段であることのひとつの証拠となっている。自然が20億年かけて実証試験してくれたんだね!

自然は本当に色々なことを教えてくれるね!

さて、誰がどうやって核廃棄物を処理したのか、に対する答えはもうわかったよね。答えは「自分自身で地層処分」だ!

おわりに

・・・なんだと。5000字を超える超大作になってしまった!

でもまあ、フェルミ博士が世界で最初の人工原子炉「シカゴ・パイル1」をつくるより20億年も前に、地球が自分で原子炉をつくって、しかも安全に制御してたなんて・・・・・・どう考えても、自然のほうが一枚上手だよね。

地球って、ほんとうに懐が深い。

人類が「原子力」という炎を手にしたとき、その炎の扱い方をすでに地球が“お手本”として見せてくれていた、と思うとちょっと感慨深い。

世界で最初の人工原子炉については、こちらの記事もどうぞ👇

出張初日から、夜間ちょこちょこ書き足して、自宅に戻って仕上げた記事となったな〜。この一連の出張もあと1回でおしまいかぁ。バタバタしてたけど、書いてて楽しい記事だった。

もし、面白いと思ってくれたら、よかったらわたしにも燃料を投下してね!きっとよく燃えて次の記事につながるから!あ、燃料はウラン235以外でおねがい〜!
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