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1996/DESTINY 7

1996/DESTINY 7

とにかく逢わないといけない

深雪は引越しの準備に追われていた 。

旦那の転勤に伴う引越しだ、
仕事も辞めて家のかたずけに追われており、
旦那は仕事の都合上で深雪より先に現地に行っていた。

まだ2週間くらいの猶予でこの社宅には残る予定だった。
ほんの数年この場所に住んでいただけなのに荷物は驚くほど多かった。

深雪は一息つくと、
この間の湘南平での出来事を思い浮かべていた 。

年下の脆いくらいにナイーブな変な男 、
今の旦那とは180度違う性格だ、
深雪自身年下の男性と付き合った事は無かったし、
どちらかというとリードしてくれる相手のほうが自分的にも楽だった

もちろん今の生活を壊す思いも毛頭無かったし
旦那を愛している 。

でも、あの心の脆い男が気になって心から離れない。。
自分自身の気持ちに歯止めをかけるため、
引越しの事もあの子には告げなかったし、
もうきっと逢わないだろうと思っていた。

でも、、、

彼の顔を見ると心の奥底から強烈な母性のようなものが
キュンと込み上げてくる、そういった人の愛し方もあるのだと認識した。

彼は今頃どうしてるだろうか?

彼女とうまくいってるだろうか?

親とうまくいっているだろうか?

踏み出したくても踏み出せない現実に泣いていないだろうか?

そんな思いが心をよぎる。。
いまさら阿久津君に彼の連絡先を聞くわけにもいかない

「ここの店、よく来てたんだ」

と言って、連れてっていてもらったあのショットバー 。。
あそこに行けば彼に逢えるのだろうか?

深雪は意を決したように、ショットバーに行こうと思った 。

逢うことは正直いけないことだとは理解していたが、わからない何かが

<とにかく逢わないといけない>

と、心の中で巡っていたし何かが自分とシンクロをしていた。

夜になり、夕食を軽く済ませ深雪はあのショットバーに向かった。

ショットバーにはあまりお客はいなかった、もちろん彼も 。。

この間座った席に深雪は腰かけバーテンにモスコミュールを注文した。

「先日いらっしゃいましたよね?」
とバーテンは深雪に言った。

「ええ、そうなんです。このお店の雰囲気が気に入ってしまって。」

「それはありがとうございます、これが今日のオススメのメニューです」
と、バーテンは笑いながらメニューを差し出した。

「今さっき、食べてきちゃったから、
なんか軽いおつまみ程度のものでいいです」
と深雪は言った

「かしこまりました」
と、言いながらバーテンはメニューを下げた

ポツリ、ポツリとお客は入ってくる
入り口のドアが開くたびに深雪はハッとして入り口のほうに目をやった。

会わないと決めたはずだった。
でも、 どうしても 確かめたくなってしまった。
あの夜が、 ただの気まぐれじゃなかったことを。

「なんで来ちゃったんだろう。。」
深雪は心の中で呟いた

あの自分の事しか話さない悲劇の主人公のような彼に
何故か惹かれている
それがなんでなのか自分にも分からない。
もっと彼の話を聞いて上げたい。。
そして自分の中で泣いて欲しい

バーテンに2杯目のモスコミュールを頼んだ時
入り口のドアが開いた ・・・

つづく

1996 / DESTINY 7
会わないと決めたはずだった。
今の生活も、
愛している人も、
何も壊すつもりなんてなかった。
それなのに。。
あの夜の記憶だけが、
どうしても消えてくれない。
月明かりの海。
静かな波の音。
そして、あの人の顔。
気づけば私は、
また同じ場所にいた。
グラスを傾けながら、
ドアの音にだけ反応してしまう。
来るはずのない人を、
待っている。


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