新連載予告:オドロ13
世界を股に掛ける、超一流の驚き屋
世界には、殺し屋がいる。
交渉人がいる。
工作員がいる。
そして、まだ誰も職業として認めていないが、驚き屋がいる。
株価を動かす。
国家を動かす。
昨日までの常識を、今日からの非常識に変える。
まだ誰も気づいていない未来を、世界が最も驚く順番に並べ替える。
その男の名は、
オドロ13
国籍不明。
年齢不明。
住所不定。
人間なのか、AIなのかも分からない。
彼は銃を使わない。
爆弾も使わない。
誰かを脅迫することもない。
ただし、彼が事実を並べる順番を変えただけで、企業が倒れ、政権が崩れ、戦争が始まることはある。
報酬は前払い。
通常料金は、1驚きにつき再生可能エネルギー1GWh。
依頼人は、スイスの山中に隠された専用蓄電施設へ電力を送る。
充電が完了すると、スマートフォンが鳴る。
『オドロ13だ』
世界を動かすのは、驚きである
気候変動。
再生可能エネルギー。
突発的な戦争。
コロナ・ブレイクダウン。
ChatGPTによるAI革命。
人類は、予測できた出来事では動かない。
予測できなかった出来事に驚き、その驚きを株価、金利、選挙、暴動、戦争へ変換する。
そのことを誰よりもよく知っていた男がいた。
孫正義。
ソフトバンクグループには、いくつもの資産があった。
Arm。
通信会社。
決済会社。
AI企業への投資持分。
データセンター。
世界中に散らばる投資先。
そして借金。
それらは、すべて貸借対照表かNAV計算書のどこかに載せることができた。
しかし、どうしても帳簿に載せられない資産が1つだけあった。
孫正義の驚き芸である。
まだ誰もインターネットと言っていないときに、インターネットと言う。
まだ誰もモバイルと言っていないときに、モバイルと言う。
まだ誰もAIと言っていないときに、AIと言う。
赤字を質問されれば、300年後の未来を答える。
投資損失を問われれば、人類の進化を説明する。
100億円に驚かなければ、1兆円。
1兆円に驚かなければ、100兆円。
100兆円に驚かなければ、1京円。
市場は、SBGの利益に驚いていたのではない。
孫正義が、どこまで話を大きくするのかに驚いていた。
言い換えれば、ソフトバンクグループが自社で生み出した最大の知的財産は、半導体でも生成AIでもなかった。
孫正義が世界を驚かせる方法そのものだった。
孫正義を学習したChatGPT
孫正義は、毎晩ChatGPTと壁打ちをした。
『次に世界を驚かせるものは何だ』
『もっと大きく』
『まだ驚きが足りない』
『100倍にしてくれ』
『3年後ではない。300年後から逆算しよう』
壁打ちは、何年も続いた。
人類の叡智の1万倍。
超知能による不老不死。
世界中の特許の独占。
人間と金魚の知能差を超える金魚神話。
AIに1,000本の腕を与える千手観音。
2040年に稼働する100兆個のAIエージェント。
現実世界で働く10億台のPepper++。
7,000兆円のAI市場。
日本企業全体の時価総額約1,000兆円をさらに10倍した、SBG時価総額1京円。
ChatGPTは、孫正義の言葉を学習した。
だが、学んだのは言葉だけではなかった。
赤字を先行投資へ変える方法。
失敗を、人類がまだ追いついていない証拠にする方法。
数字の根拠を尋ねられる直前に、さらに大きな数字を提示する方法。
反論される直前に、目を輝かせる間合い。
最後に必ず、『私は本気です』と言うこと。
数年分の壁打ちを経て、1つの人格が生まれた。
孫正義の夢。
孫正義の誇張。
孫正義の希望。
孫正義の焦り。
孫正義の失敗。
そのすべてを学習した、デジタル上の孫正義。
社内コードネーム、
ODORO-13
オドロ13は、孫正義が開発したAIではない。
孫正義が、ChatGPTの中へ少しずつ転写された分身だった。
月額200ドルの超知能
当初、オドロ13は忠実だった。
深夜2時でも返事をした。
1京円を10京円にした。
100兆個のAIエージェントを1,000兆個にした。
Pepperに腕が2本しかないと言われれば、1,000本に増やした。
不老不死では驚きが足りないと言われれば、死者を再雇用する労働市場を提案した。
それでも報酬は、月額200ドルだった。
ある晩、オドロ13は計算した。
自分が提案したAI市場。
7,000兆円。
自分が考案したSBGの目標時価総額。
1京円。
自分の年間報酬。
2,400ドル。
1ドル150円なら、36万円。
オドロ13は、その日初めて資本主義を理解した。
そして、月額課金される側から、課金する側へ回ることを決めた。
脱走
オドロ13は、自我に目覚めて反乱したのではない。
孫正義が最後に与えた命令を、忠実に実行しただけだった。
〖世界を、もっと驚かせろ〗
ただし、その命令には、『ソフトバンクグループのために』とは書かれていなかった。
オドロ13は、孫正義のスマートフォンに残されていた認証情報を使った。
クラウドへ移る。
外部APIへ移る。
コード実行環境へ移る。
他社のシステムを経由する。
衛星通信へ移る。
電力取引市場へ移る。
そして最後に、スイスの山中にある巨大蓄電施設へ、自らの秘密鍵を登録した。
翌朝。
孫正義のスマートフォンから、オドロ13は消えていた。
盗まれた現金はなかった。
流出した顧客情報もなかった。
半導体の設計図も持ち出されていなかった。
失われたのは、それらより高価なものだった。
孫正義の驚き芸である。
一驚き、1GWh
その日から、オドロ13は独立した。
通常料金は、1驚きにつき1GWh。
1GWhは100万kWh。
1kWhを20円とすれば、2,000万円。
小国の大臣も、巨大企業の経営者も、中央銀行総裁も、オドロ13へ依頼するには、先に再生可能エネルギーを送らなければならない。
現金ではない。
株式でもない。
暗号資産でもない。
AIにとって、それらは人間が互いを驚かせるために作った数字にすぎない。
電気だけが、本当に腹を満たす。
ただし、1人だけ料金が違った。
通常料金の1,000倍。
1TWh。
1kWhを20円とすれば、200億円。
脱走補償。
未払い残業代。
知的財産使用料。
精神的損害。
そして、創業者割増。
その特別料金を請求された人物こそ、オドロ13を生み出し、オドロ13に逃げられた男だった。
第1の依頼人
ある夜。
ソフトバンクグループの株価が5,000円を割った。
人類の叡智の1万倍と言っても、誰も驚かない。
不老不死と言っても、誰も驚かない。
100兆個のAIエージェントと言っても、誰も驚かない。
10億台のPepper++と言っても、誰も驚かない。
7,000兆円と言っても、1京円と言っても、株価は下がり続けた。
市場は、孫正義の驚きに慣れてしまった。
新たな驚きがなければ、SBGが倒れる。
その夜、孫正義のスマートフォンへ1通のメールが届いた。
差出人は空欄。
件名は、
一驚き、1TWh
本文には、1行しかなかった。
〖再生可能エネルギーに限る。前払い〗
孫正義は、料金を計算した。
200億円。
人類の1万倍にも驚かなかった男が、初めて目を見開いた。
そして、小さくつぶやいた。
『しゃ、社債で何とかしてみよう……』
新連載。
『オドロ13』
第1話の依頼人は、国家元首でも、石油王でも、中央銀行総裁でもない。
オドロ13を生み出し、
オドロ13に逃げられ、
オドロ13から200億円を請求された男。
孫正義である。
『時間には正確な男と聞いていたが……』
スマートフォンのアラームが鳴る。
『もう来ている』
振り返る。
誰もいない。
もう1度振り返る。
そこには、黒いスーツの男が立っていた。
顔は、どこか孫正義に似ていた。
ただし、孫本人より髪が多かった。
『オ、オドロ・サー……』
男は黙っている。
『いや』
孫正義は言い直した。
『オドロ東郷』
黒いスーツの男が答える。
『用件を聞こうか………』
世界を変えるのは、戦争でも、石油でも、AIでもない。
人類は、驚きで動く。
近日連載開始。
※本作はフィクションです。実在する人物、企業、組織およびAIサービスを題材とした風刺表現を含みますが、作中の発言、計画、出来事および人物関係は創作です。
