そして誰も資金調達できなくなった
SBGの子会社ファンドで約5兆円超の損失を叩き出した孫正義は、株主からの責任追及に対して、にこやかにこう答えた。
『2兆、3兆は誤差のうち』
……その瞬間、市場に走ったのは恐怖ではなく、無音だった。理解できないというより、感情のバッファオーバーフローが起きたのだ。
もはや『誤差で沈む大企業』という、新ジャンルのSFが始まったのかと耳を疑った投資家も多かったことだろう。
だが、SBGは懲りもせず、次なる構想を打ち出す。
『スターゲートに75兆円投資』
聞いた瞬間、誰もがこう思った。
『兆の単位が軽過ぎて、もはや重力を失っている』
だが、それすらまだ現実の範疇だった。問題は、その次である。
『AIロボに150兆円投資』
──根拠、ゼロ。
ビジネスモデル、無。
資金源、闇。
ついに資本市場は、SBGを『フィクションの供給元』として正式に認識しはじめた。
そして翌月、彼はこう言い出す。
『すみません、6000億円、5年間貸してください』
兆の男が、億で懇願。
もはや『逆・宇宙的インフレーション』とでも呼ぶしかない。
この落差こそ、SBGファンタジーの真骨頂。
笑いを通り越して、資本主義そのもののバグを疑い始める段階に入っていた。
金融・証券・ICT業界の関係者たちは、すでに真剣な分析を放棄していた。
各所で、こんな会話が日常となる。
『 #なんのはなしですか ?』
『あれ、冗談でしょ?』
『いや、株主総会で言ってたよ……本気で』
意味不明なのではない。理解すること自体がリスクなのだ。
孫正義の発言が、もし、すんなり理解できてしまったとしたら、それはもう、認知のブラックホールに引き込まれたサインである。
『あンた、頭がボケてるぜ……』
孫正義の大ぼらによって、通貨の概念が破綻した日。
米ドルも、日本円も、意味を失った。
AIと幻想とハッタリの連続融資が、ドル信用の基盤を突き崩し、日本銀行も、IMFも、米財務省も、手が出せない『狂気の資本連鎖』が始まったのだ。
SBGが崩れるとき、市場は叫んだ。
『貸し手がいない。買い手もいない。だが評価額だけが、何かを叫んでいる……』
金も、株も、通貨も、『信用』という物語に過ぎなかった。
その物語が、書き手の孫正義により、『誤差レベル』で書き換えられたとき、資金調達の概念は、この世から消えた。
そして誰も資金調達できなくなった。
武智倫太郎
