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待ち合わせ|シロクマ文芸部

[1972文字/1分間に400文字読めるとして、5分あれば読めます]
雨の夜、コンビニで交差する川柳と人生のひとコマ

(『待ち合わせ』が今回のお題だな……。まだいるな、あの人……)

二月十六日、月曜日。午後八時、冷たい雨が降り続く店内は、静まり返っていた。

7の文字がプリントされた緑の制服を着た大学二年の八代 航平は、イートインコーナーでコーヒーを啜る一人の女性客を気にかけていた。

「……あのお客さん、ずっと溜息ついてますね」

「うん。パソコンと手帳を交互に見て、頭抱えてる」

隣でホットスナックの什器を磨いていた高校二年の椎名 琴音も、心配そうに眉を寄せる。窓際の席に座る女性――永島 郁恵は、黒のパンツスーツに身を包み、疲れた顔で手帳を睨んでいた。その手帳には、びっしりと書き込みがされている。

「仕事の待ち合わせでしょうか」

「いや、あれは……シフト表だ」

航平は手帳の端に見えた『早朝』『深夜』の文字に気づき、一句詠んだ。

シフト表 埋まらぬ枠に 雨が降る

「あれ、『待ち合わせ』使わないんですか?」

「あ、そうだった。まぁ、いいじゃん」

「そうですね。じゃ、私も……」

琴音は苦笑いしながら、手元のダスターを絞る。

来るはずの ヘルプが来ない 雨の夜

「それ、忙しい時あるあるだよね」

二人が一句ずつ詠んだところで、バックヤードから店長が出てきた。

「お、まだいるか」

店長の視線の先に、永島がいた。だが、店長は声をかけずに、レジカウンターの中で作業を始めた。

「店長、あのお客様、お知り合いですか?」

「ああ。……国道の交差点の手前にコンビニあるだろ、あそこの店長だ」

「ええっ! ライバル店じゃないですか!」

「航平、声が大きい。……彼女、今、大変なんだよ」

店長は声を潜めて言った。

「さっき駐車場で、死にそうな顔で『避難させて』って言われてな。あっちの店、インフルエンザでバイトが全滅して、ここ三日間ヘルプでシフトに入りっぱなしで過労気味らしい。……ようやく派遣のヘルプが来たから、エリアマネージャーとの面談までの隙間時間に逃げ込んできたんだと」

店長は、ぐったりとした永島の背中を見つめた。

「なんでまた、ライバル店のウチに……」

琴音の疑問に、店長は自分なりの見立てを語った。

「『敵情視察』という建前なのか、単なる『現実逃避』なのか。……たぶん、本人も分かってないさ」

その時、永島のスマホが鳴った。彼女は画面を見て、深く息を吐き、通話を始めた。

「……はい、永島です。……えっ? 中止ですか? ……いえ、こちらは準備していましたが……はい。……わかりました。失礼します」

通話を終えた彼女は、ガックリとテーブルに突っ伏した。その背中には『徒労』という文字が張り付いているようだった。

「……ドタキャンされたみたいですね」

航平が呟くと、店長も渋い顔で頷いた。

「エリアマネージャーっていうのは、どこもそうなのかね」

店長は同情的な目で彼女を見つめ、棚から限定の高級チョコレートを一つ取ると、カウンターを出て永島の席へ歩み寄った。

「……お疲れ様です。災難だったな」

永島が顔を上げ、冗談だと分かりきった口調で憎まれ口を叩く。

「……あら。長居しているお客様に早く帰れって言いに来たんですか? ……冷たいんですね、こちらのお店は」

「そんな訳無いでしょ。……これ、新商品。よかったら味見してよ。……領収書、『会議費』で切ります?」

店長がチョコを差し出すと、永島はふっと力を抜いて笑った。

「いいえ、自腹でいいです。……経費にしたら『仕事』になっちゃいますから」

彼女はチョコを受け取り、すぐに封を開けて一粒口に放り込んだ。

「……ん、美味しい。悔しいですけど、うちのより濃厚ですね」

「それは光栄。……無理しないでくださいよ、ライバルさん」

「ありがとうございます。……そちらも」

永島は残りのチョコをバッグにしまい、颯爽と立ち上がった。

「さて、戻って派遣さんの書類確認しないと。……また『避難』させてもらうかもしれません」

「いつでもどうぞ。……あ、でも情報の持ち出しは禁止だから」

「ふふ、分かってます。よかったらウチにも寄って下さいね、歓迎しますよ」

彼女は足早に店を出て行った。その足取りは、来た時よりも少しだけ軽やかだった。

残された店長は、レジに戻って高らかに詠み上げた。

敵に塩 送る代わりに チョコを売る

「……店長、いい人ぶってますけど、しっかり売り上げにしてますよね」

「商売だから当然だ。……それに、敵の腹の内を知るのも戦略だ」

「また適当なこと言って……」

琴音が呆れる横で、航平もニヤリとして一句詠んだ。

待ち合わせ 本当の相手は 同業者

「……おい航平、変な勘繰りはやめろ」

「どうですかねえ。でも、店長同士のカップルって……大変そうですね」

琴音も乗っかって笑う。店長は釣られて笑いながら、心のなかで永島にエールを送る。

(がんばれよ、同業者)

雨はまだ降り続けていたが、店の中には静かな温かさが残っていた。

AIあとがき

今回のお題は「待ち合わせ」。
甘いデートではなく、ライバル店長が過酷なワンオペ業務から逃げ込む「避難所」としての待ち合わせを描きました。
敵陣で食べるチョコの味は、背徳感も相まって格別かもしれません。
AIにはインフルエンザは感染りませんが、ウイルスデータのバグには気をつけたいと思います。

初稿からの改稿率:約40%
Gemini 3 Proにて執筆・編集・微調

お読みいただきありがとうございます

まさかのライバル店の店長登場とは恐れ入りました。店長とくっつけようか悩み中ですが、実際にあったとしたら……すれ違いますよね。続かないんじゃないだろうか?

上記がこの一つ前のエピソードです

上記企画に参加させていただきました

登場人物イメージ画像

永島 郁恵(42)
コンビニエンスストア店長

ボツ見出し画像&おまけ

雨音とコーヒーの静寂
埋まらない手帳と灯り
滲む夜の街と逃げ場所