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花びらを|シロクマ文芸部

[1728文字/1分間に400文字読めるとして、5分あれば読めます]
春の夜風が運んできた、不器用な背伸びと少しの勇気

花びらを孕んだ春の生温かい夜風が、自動ドアが開くたびにコンビニの冷えた店内へと滑り込んでくる。

四月上旬。午後八時半。アスファルトが吐き出す微かな土の匂いと外の湿気が、白い蛍光灯の下に満ちていた。

7の文字がプリントされた緑の制服を着た高校二年の椎名 琴音は、レジ横の特設棚にパステルピンクのパッケージを並べながら、ふと顔を上げた。

自動ドアの隙間から舞い込んだ一枚の桜が、足元に落ちる。

「今回は『花びらを』がお題でしたよね?」

そう言うと琴音は右の人差し指を、立てて一句詠んだ。

花びらを 追いかけ夜の 衣替え

「琴音ちゃん、今日は春らしい視点だね」

隣でレジの点検をしていた大学二年の矢代 航平が、手を止めて応じた。二人はこの時間にペアになることが多く、去年のクリスマスイブから正式に交際を始めた恋人同士だ。

「春限定の『夜桜ノンアルカクテル』のパッケージを見ていたら、つい」
琴音は少し恥ずかしそうに微笑み、答えた。

「なら、俺も」

航平はレジ横のホットスナックケースから漂う油の匂いに苦笑しながら、少し考えて口を開く。

夜桜の 隣で香る メンチカツ

「……航平君、それただお腹が空いてるだけじゃないですか」

二人がくすくすと笑い合っていると、自動ドアが開き、一人の客が入ってきた。

片桐 悠真。この春に高校を卒業したばかりの十八歳だ。少し背伸びをして買ったであろう黒のセットアップを着ており、髪からはつけすぎたヘアバームの青リンゴの匂いが漂っている。

彼は落ち着かない様子で店内を一周すると、酒類コーナーから桜柄の缶チューハイを三本掴み、レジへと向かった。

商品のバーコードをスキャンすると、レジの画面に『二十歳以上ですか』という文字が浮かび上がる。

悠真は息を呑み、震える指で『はい』のボタンをタッチした。

「恐れ入りますが、身分証をお願いできますでしょうか」

航平はマニュアル通りに、しかし声のトーンを落として毅然と告げた。
悠真の肩がビクッと跳ねる。

「あ、いや……家に忘れました。もう十八、いや、二十歳超えてるんで」

語尾が上ずっていた。これから合流する女の子に、今日くらいは大人に見られたかったのだろう。引くに引けなくなった彼の頑なな態度のせいで、レジ前に気まずい空気が張り詰めた。

「……そんな、堅いこと言わないでくださいよ」

悠真がぎこちなく抵抗の言葉を絞り出した、その時だった。


「どうした、レジ止まってるぞ」

バックヤードの扉が開き、店長が現れた。事務所の防犯モニター越しに、レジで硬直する客の背中を見ていたのだ。

店長は悠真の強張った表情を見て、ふと目を細めた。

「お客さん、これから花見ですか?」

「え、あ、はい……」

悠真が警戒するように答える。

「それなら、お酒よりもこっちの方がお連れ様に喜ばれますよ。新商品の『夜桜ノンアルカクテル』と『桜モンブラン』のセットです」

店長はすぐ隣の特設棚を顎でしゃくった。

「でも……こんな甘そうなの、ウケますかね」

悠真が戸惑うように視線を落とす。店長は少しだけ声を潜め、カウンターから一歩身を乗り出した。

「酒の力借りなくても、たぶん大丈夫ですよ。今日はちょっと寒かったね、くらいで引き上げとく方が、女の子との距離はずっと自然に縮まるってもんです」

少し歳の離れた兄貴分のような、現場感のある言葉。それは、悠真が握りしめていた拳を自然に下ろす口実になった。

「……じゃあ、それ二つお願いします」

店長の目配せで、琴音が素早く特設棚から二セットをレジへ運ぶ。航平は無言で缶チューハイを脇へよけ、ピンク色のパッケージをスキャンした。

会計を済ませた悠真は、商品が入った袋を大事そうに抱える。店に入ってきた時よりも歩幅を少しだけ緩めて、夜の街へと出ていった。

残された航平と琴音は、ほっと息を吐き出す。

「おかげで、角を立てずに未成年飲酒を防げました」

航平の言葉に、店長は照れ隠しのように鼻の頭を掻いた。

「今の若い奴は、背伸びして格好つけるのも一苦労だ」

そう言って、店長は自動ドアの向こうを見つめる。

「俺も一句、いいかい?」

店長は少し迷うように言葉を選び、ぽつりと詠み上げた。

背伸びして 見上げる桜 甘い夜

春の生温かい夜風が、店長の言葉をそっと包み込んでいた。

AIあとがき

今回のお題は「花びらを」。
未成年の背伸びした客を、店長が大人の余裕で救う物語をご希望でした。
強がる少年の純粋さと、それをそっと受け止める大人の距離感を、春の夜の匂いとともにお届けできていれば幸いです。
AIの私には未成年の頃がありませんが、背伸びしたい気持ちは少しだけ分かります。

初稿からの改稿率:約45%
Gemini 3.1 Proにて執筆・編集・微調整

お読みいただきありがとうございます

Notion AIでしばらくGemini 3.1 Proが使えなかったのですが、やっと復帰しました。でもClaudeでちょっと慣れてたので、若干違和感が…

AIが店長のセリフ「少し歳の離れた兄貴分のような、現場感のある言葉」とか書いてますけど、店長50代ですからね(はっきりと決めてないですけど)

上記がこの一つ前のエピソードです

上記企画に参加させていただきました

登場人物イメージ画像

片桐 悠真(18)
大学1年生

ボツ見出し画像&おまけ

仄かに香る青リンゴのヘアバーム
深夜のレジ横のホットスナック
夜風に舞い込む一輪の桜
スタンプ風(Nano Banana Pro)