『ライオンが逃げた』を信じかけた私と、デマを見抜けた人の唯一の違い
大きな災害が起きたとき、あなたはどんな方法で情報を集めていますか?
おそらく多くの方が、テレビのニュースと並行しながらスマホでSNSを確認しているのではないでしょうか。速報性があって、現場の声が届いてくる感覚がある。でも同時に「この情報、本当に合ってるのかな」という不安がよぎることも、正直あります。
2016年の熊本地震のとき、SNSには「動物園からライオンが逃げた」というデマが写真付きで拡散しました。一見リアルに見えた。動物園や警察には多数の問い合わせが殺到したといいます。
今日は、そんな「情報の洪水」の中で冷静さを保つための合言葉、「だ・い・ふく」についてお話しします。
なぜ、私たちは災害時に誤情報を信じてしまうのか
少し心理的な話をさせてください。
公認心理師として医療の現場にいる者として、「なぜ人は正確でない情報を信じてしまうのか」は日常的に考えることのひとつです。
災害が起きたとき、私たちの脳はある種の「緊急モード」に入ります。アドレナリンが放出され、判断のスピードは上がる。でもその一方で、情報を「精査する」ために使える認知資源は著しく低下します。平常時であれば「これ本当かな」と一度立ち止まれるのに、緊急状態では「とにかく情報を手に入れたい」という衝動が優先される。これは意志の弱さでも油断でもなく、私たちの生物としての自然な反応です。
さらに厄介なのが、「みんなが言っているなら本当だろう」という同調バイアスの働きです。SNSでは一つの情報が数分で何千回もシェアされます。その拡散数の多さが、まるで信頼性の証明のように感じられてしまう。でも実際には、情報の広まる速さと正確さはまったく別の話です。
善意で、誰かを助けたくて共有された情報が、デマの連鎖を広げる引き金になることがある。これが災害時の情報拡散の、本当に怖いところだと私は思っています。
「だ・い・ふく」という合言葉との出会い
そんな問題意識を持つ中で知ったのが、「だ・い・ふく」というキーワードです。
これはLINEみらい財団と静岡大学の塩田真吾准教授らが共同開発した、情報防災訓練の中で生まれた考え方です。もともとは小中学生が災害時の情報の信頼性を判断する力を育てるための教材として作られたもの。でも私がこれを知ったとき、「これは子ども向けの話じゃない」と思いました。大人の私たちにこそ必要な視点だ、と。
「だ」は誰が言っているか。
「い」はいつ言ったか。
「ふく」は複数の情報で確かめたか。
たったそれだけです。でも、この3つを意識するだけで情報との向き合い方はかなり変わります。
「だ」——誰が言っているかを確認する
最初の「だ」は、発信者の信頼性を確認することを指します。
たとえば「○○地区に土砂崩れの危険がある」という情報でも、自治体の公式アカウントから出ているのか、フォロワー数十人の個人アカウントから出ているのかでは、信頼度がまったく異なります。公式機関や報道機関の発信には、一定の確認プロセスが存在することが多い。一方で個人の善意による情報は、本人がどれほど誠実であっても、誤りを含んでいる可能性があります。
一つ気をつけてほしいのは、「フォロワーが多いから信頼できる」とは限らない点です。影響力の大きさと情報の正確さは、残念ながら比例しません。医療の現場でも同じで、どれほど経験豊富に見える人でも、専門外の分野を語るときは慎重に聞く必要がある。情報はいつでも「誰が、何を根拠に言っているか」で評価するのが基本です。
「い」——いつ言ったかを確認する
次の「い」は、情報のタイムスタンプを見ることです。
災害時の状況は、文字通り刻一刻と変化します。避難指示が出た、解除された、ライフラインが復旧した——こうした情報は、数時間前のものが今も有効とは限りません。むしろ古い情報を信じて行動することで、かえって危険な状況に陥るリスクがあります。
SNSで特に気をつけたいのが「今まさに起きている話のように見えるが、実は数年前の別の災害の写真や情報だった」というケースです。感情に訴える画像とともに古い情報が再流通する現象は、大きな災害のたびに繰り返されています。投稿日時を確認するのは少し手間かもしれません。でも、たったそれだけで誤情報に乗せられるリスクはぐっと下がります。
「ふく」——複数の情報で確かめる
最後の「ふく」は、複数の独立したソースで同じ内容が確認できるかを確かめることです。
ここで注意が必要なのは、「複数のアカウントが同じことを言っているから本当だろう」という判断の落とし穴です。同じデマが同時多発的に広がっていれば、表面上は「複数ソース」があるように見えても、実際の情報の起点は一つということも十分ありえます。大切なのは「独立した複数のソース」です。
私が意識しているのは、SNSだけで確認を終わらせないことです。自治体の公式サイト、NHKなどの公共放送、気象庁のウェブサイトといった、SNSとは独立したチャンネルでも同じ内容が確認できるかどうかを見に行く。これが本来の「ふく」のチェックだと思っています。
「だ・い・ふく」を意識するようになって変わったこと
この3つの視点を持つようになってから、気づいた変化があります。「確認しないと気持ち悪い」という感覚が自然に身についたことです。
以前は、心が揺れる情報を見かけたとき、とっさにシェアしそうになることがありました。でも今は、その前に3秒だけ立ち止まる習慣ができました。「だ——誰が言ってる?」「い——これ、いつの話?」「ふく——他でも確認できる?」この小さな確認が、反射的なシェアを防いでくれます。自分がデマの拡散に加担しないためにも、この3秒は絶対に使う価値があると思っています。
これは、災害時だけの話ではない
「だ・い・ふく」の面白いところは、災害の文脈を超えて日常の情報判断にもそのまま使えることです。
健康に関する「これが体にいい」「あの治療法が効く」という情報。職場に流れる根拠不明のうわさ話。SNSで見かける「科学的に証明された」という枕詞のついた記事。これらにも、まったく同じ3つの視点が有効です。誰が・いつ・複数で確認できるか——医療情報の評価においても、このロジックはまったく同じです。
情報が豊富になればなるほど、そのなかから信頼できるものを選び取る力が問われる時代になっています。「だ・い・ふく」は、そのためのシンプルで強い道具だと私は思っています。
おわりに——3秒立ち止まる勇気が、あなたを守る
今回お話ししたことを整理するとこうなります。
災害時、私たちの認知は「緊急モード」に入り、情報を精査する力が落ちます。そこへ善意で拡散されたデマが重なると、知らず知らずのうちに誤情報の連鎖に加担してしまうことがある。これは誰にでも起こりうることで、あなたが「騙されやすい人」だからではありません。
そこで役立つのが「だ・い・ふく」——誰が・いつ・複数で確認したか、という3つの視点です。静岡大学の防災研究から生まれたこのフレームワークは、子どもにも大人にも使える、実践的な情報リテラシーの道具です。
次に大きな災害が起きたとき、このキーワードを思い出してください。そして、3秒だけ立ち止まってみてください。その小さな習慣が、あなた自身を守り、そして誰かを誤情報から守ることにつながります。あなたには、その力が絶対にあります。
ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。「おもしろかった」「役に立った」と感じていただけたら、そっとスキを押していただけると、とても励みになります。
#防災 #情報リテラシー #だいふく #SNSとの向き合い方 #災害時の過ごし方
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