なぜ「いいね」が多いがん情報ほど、あなたの健康を脅かすのか?:論文紹介
あなたやあなたの大切な人が「がん」と向き合うことになったとき、まず何をしますか? 多くの方がスマートフォンを手に取り、SNSで情報を探すのではないでしょうか。実際、世界で47億人以上がSNSを使い、その6割以上がニュースソースとして活用しているというデータもあります。ところが、そうやって目にするがん関連の情報のうち、かなりの割合が「誤情報」だとしたら——。今回は、名古屋市立大学の研究チームが日本語X (Twitter) のがん情報をファクトチェックした論文を読み解きながら、私たちがSNS上の医療情報とどう付き合っていけばいいのか、一緒に考えてみたいと思います。
SNS上のがん情報、約半数が「誤情報」という衝撃
まず、この研究がどんなものだったかを簡単にお伝えします。名古屋市立大学大学院の乳腺外科チーム(Kureyama et al., 2023)が、2022年8〜9月にTwitter上で「がん」を含む日本語ツイートを約7万件収集し、そのうち最も「いいね」が多かった上位100件について、がん専門の医師2名が独立して内容を検証しました。
結果はかなり衝撃的でした。
上位100件のうち、44件(44%)が誤情報を含んでいました。さらに31件(31%)が有害な情報と判定され、誤情報と有害情報の両方に該当するものが30件。つまり、SNSで多くの人の目に触れているがん情報のうち、ほぼ半分は医学的に正確とは言えない内容だったのです。
私はこの数字を見たとき、正直なところ「そうだろうな」と思う自分と、「ここまでか」と驚く自分が同時にいました。医療関係者として日頃からSNS上の健康情報の質には危機感を持っていたものの、専門家の目を通して定量的に示されると、やはりインパクトが違います。
「証明されていない」情報が最も多い
では、どんなタイプの誤情報が多かったのでしょうか。研究チームは誤情報を6つのカテゴリーに分類しています。
最も多かったのは「未証明(Unproven)」で、全体の約40%を占めていました。これは、科学的に十分な裏付けがまだない段階の情報が、あたかも確定した事実のように語られているケースです。次いで「反証済み(Disproven)」が約20%、「誤解を招く表現(Misleading)」が約19%、「エビデンスの強度の誤認(Strength of evidence mischaracterized)」が約15%と続きます。
ここで注目したいのは、「完全なデタラメ」よりも、「まだ証明されていない段階の話が断定的に語られている」情報の方が圧倒的に多いという点です。これは私たち受け手にとって非常にやっかいな問題です。なぜなら、完全な嘘なら「おかしい」と気づけるかもしれませんが、「もしかしたら本当かもしれない」レベルの話を自信たっぷりに断言されると、判断が難しくなるからです。
たとえばこの研究で最も多くの「いいね」とリツイートを集めた誤情報は、「日本ではアメリカから余った抗がん剤や廃棄された抗がん剤を輸入しているため、がんの死亡率が高い」という内容でした。こうした事実は存在しないにもかかわらず、もっともらしく聞こえるストーリーは驚くほどの共感を集めてしまうのです。
最大の害は「やるべきことをやめさせる」こと
有害情報の分析も非常に興味深い結果でした。有害と判定された情報のうち、最も多かったカテゴリーは「有害な不作為(Harmful inaction)」で、全体の約73%を占めていました。「有害な不作為」とは、本来やるべき医療行為をやめさせてしまうような情報のことです。
具体的には、「HPVワクチンを打つべきではない」「抗がん剤治療を受けるべきではない」といった内容がこれに該当します。「有害な行動(Harmful action)」——つまり、やるべきでないことをやらせてしまう情報——は約15%でした。
この比率は、とても大切なことを教えてくれます。SNS上のがん誤情報がもたらす最大のリスクは、「何か変なものを試してしまう」ことよりも、「本来受けるべき治療や検診を受けなくなる」ことなのです。
HPVワクチンの問題は、まさにその象徴的な事例です。日本では2013年から2022年まで、国が積極的な接種推奨を差し控えていた時期がありました。その背景には、ワクチン接種後の症状に関する未確認の報告がありましたが、名古屋スタディをはじめとする研究で、HPVワクチンと特異的な症状との間に有意な関連は認められないことが示されています。接種推奨の中断によって接種率が大幅に低下し、将来的な子宮頸がんによる超過死亡が推計されるに至りました。SNS上の誤情報は、こうした社会的な判断にも影響を及ぼしうるのです。
また、腕振り運動だけでがんが改善するとか、大麻に抗がん効果があるといった代替療法を勧めるツイートも含まれていたと報告されています。エビデンスが不十分な代替療法を標準治療の代わりに選択した患者は、標準治療を受けた患者よりも予後が悪いという研究結果があることを考えると、こうした情報の拡散は本当に深刻な問題です。
誤情報ほど拡散されやすいという構造的な問題
この研究で私が最も考えさせられたのは、「誤情報ほど拡散されやすい」というデータでした。
リツイート数の中央値を比較すると、正確な情報が7.5回だったのに対し、誤情報は29.0回。有害情報は35.0回で、安全な情報の8.0回と比べて統計的に有意に多い結果となりました。つまり、正しい情報より誤った情報のほうが約4倍も拡散されやすかったのです。
これはTwitterだけの問題ではなく、SNS全般に共通する構造的な課題だと私は考えています。感情を揺さぶる情報、意外性のある情報、「知らなかった!」と思わせる情報は、人の共有行動を刺激します。そして残念なことに、誤情報はしばしばそうした特徴を備えています。「政府が隠している真実」「医者が教えない本当の治療法」——こうしたフレーミングは、正確だけれど地味な医学情報よりもはるかに「バズり」やすいのです。
興味深いことに、先行研究では、誤情報を頻繁にシェアする人は正確な情報もよくシェアする傾向があり、政治的に左寄りのニュースをシェアする人は右寄りのニュースもシェアする傾向があることが報告されています。つまり、誤情報の拡散は必ずしも悪意やイデオロギーだけで説明できるものではなく、情報を吟味せずに共有してしまう「習慣的なシェア行動」や、批判的思考の不足が背景にある可能性があるのです。
じゃあ、私たちはどうすればいいのか
ここまで読んで、「SNSの医療情報は一切信用するな」と言いたいのかと思われるかもしれません。でも、私はそうは思いません。SNSには、患者同士がつながり、情報交換をし、孤独感を和らげるという大きなメリットもあります。問題は、玉石混交の情報の中から正確なものを選び取る力——ヘルスリテラシー——が問われているということです。
私が提案したいのは、次の3つの視点です。
まず、「断定的な表現」を疑うこと。
「絶対に治る」「これさえやれば大丈夫」「医者は教えてくれない」——こうした強い言い切りは、むしろ危険信号です。本当に信頼できる医療情報は、たいてい「〜の可能性がある」「〜と考えられている」というように、慎重な表現をしています。
次に、「いいね」やリツイートの数を信頼の指標にしないこと。
この研究が明確に示しているように、拡散されやすさと正確さは別物です。むしろ逆の関係すらあります。バズっている医療情報こそ、一歩引いて眺める習慣をつけたいところです。
そして、気になる情報に出会ったら、専門家に確認すること。
主治医や薬剤師、看護師、あるいは公的な医療情報サイト(国立がん研究センターの「がん情報サービス」など)に照らし合わせてみてください。一手間かかりますが、その一手間があなたや大切な人を守ります。
医療者がSNSで発信する責任
この研究では、日本ではSNSを活用する医療機関が諸外国と比べて少ないことも指摘されています。その一因として、医療広告規制に抵触するリスクへの懸念があるとされています。つまり、正確な情報を発信する側がSNSに少なく、結果として誤情報が相対的に目立ちやすい構造になっている可能性があるのです。
私自身、医療関係者としてnoteで情報発信をしているのも、この問題意識が根底にあります。もちろん、SNS上の短い文章で伝えられることには限界がありますし、個別の治療判断はあくまで担当医との対話の中でなされるべきです。でも、「正確な情報に触れる機会を増やす」ということは、私たち医療に関わる人間にできる、とても大切な貢献だと思うのです。
終わりに
今回の記事のポイントをまとめます。
日本語Twitterのがん関連ツイート上位100件のうち44%が誤情報、31%が有害情報でした。誤情報で最も多いのは「未証明」の情報が断定的に語られるパターンであり、有害情報の約73%は「本来受けるべき治療をやめさせる」内容でした。そして、誤情報や有害情報ほどリツイートされやすいという、SNSの構造的な問題が存在しています。
SNSで医療情報に触れること自体が悪いわけではありません。でも、「断定を疑う」「バズ≠正確さ」「専門家に確認する」——この3つを意識するだけで、情報との付き合い方は大きく変わります。
あなたには、正しい情報を選び取る力があります。そしてその力は、あなた自身だけでなく、あなたの周りの大切な人を守る力にもなるのです。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。
出典: Kureyama N, Terada M, Kusudo M, et al. Fact-Checking Cancer Information on Social Media in Japan: Retrospective Study Using Twitter. JMIR Form Res. 2023;7:e49452. doi:10.2196/49452
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