「noteの利用傾向が高い人ほど偽情報を信じにくかった」――偽情報研究が示した結果
「自分は大丈夫」――そう思っている人ほど、実は危ないかもしれません。
NTTデータ経営研究所が3,438人を対象に行った大規模実験で、偽情報やナラティブ(物語的な語り)を信じやすい人・拡散しやすい人の心理的特徴が明らかになりました。驚くべきことに、性別や学歴、年収といった属性よりも、その人の「認知のクセ」――つまり、ものごとの捉え方や判断の仕方のほうが、はるかに大きな影響を及ぼしていたのです。
公認心理師の視点から、この研究の中身をかみ砕いてお伝えします。
この実験、何をしたのか
2025年9月、NTTデータ経営研究所は15歳から79歳の男女3,438名を対象に、偽情報に関する大規模な実験を行いました。
テーマは「外交・安全保障」「原発」「外国人(移民)」「災害」「金融詐欺」の5つ。いずれも、日本国内で偽情報やナラティブが広まりやすいとされる分野です。
参加者にはニュース見出し風の情報を次々に見せて、「この情報は正確だと思うか」「他の人に共有したいと思うか」を回答してもらいます。見せる情報には偽情報と正しい情報が混在していて、参加者はどれが偽物かを知りません。
同時に、参加者一人ひとりの認知特性――つまり「考え方のクセ」や「性格傾向」「感情の傾向」「使っているメディア」なども細かく調べました。そしてそれらの特性と、偽情報への反応との関係を統計的に分析したわけです。
メディアの影響は「小さいけれど無視できない」
まず、普段どんなメディアやアプリを使っているかが偽情報の信じやすさにどう影響するかを見た結果から。
結論を先に言うと、メディアの利用傾向は偽情報の信じやすさを8〜19%程度説明できる、という結果でした。数字としては大きくありませんが、偽情報を信じるかどうかという複雑な現象を考えれば、十分に意味のある数字です。
全テーマ共通の傾向として特に目を引いたのが、「情報源として雑誌を重要視するほど偽情報を信じやすい」という結果です。
テレビや新聞は情報を浅く広く、一定の公平性をもって伝える媒体です。一方、雑誌は特定の分野を深く狭く掘り下げるメディアですから、読者が自分の関心の範囲だけで認知を形成しやすくなる、と考えられています。
もうひとつ面白いのが、noteの利用傾向が高い人ほど偽情報を信じにくかったという点。noteはテキスト主体で「熟読」や「情報の質」を重視するユーザー層に支持されているプラットフォームです。こうしたユーザー特性が、情報の真偽を精査するリテラシーの高さにつながっているのかもしれません。
テーマごとに「効くメディア」が違う
さらに興味深いのは、偽情報のテーマによって影響するメディアが異なるという点です。
外交・安全保障では、X(旧Twitter)をよく使う人ほど騙されにくかった。 これは「SNS=エコーチェンバーで偏る」という通説に反する結果です。研究チームは、外交・安全保障に関心が高くリテラシーの高いユーザーにとっては、リアルタイム性の高いXがむしろ多様な情報への接触を促進するツールになっている可能性や、コミュニティノートなどの仕組みを通じて批判的思考力が鍛えられている可能性を仮説として挙げています。
原発テーマでは、TikTokの利用傾向が高い人ほど偽情報を信じやすかった。 短尺動画による直感的な視聴体験と、アルゴリズムが類似動画を大量に供給する仕組みがフィルターバブルを生みやすく、一度偽情報に触れると繰り返し同様の動画が供給されてしまうリスクが指摘されています。
外国人(移民)テーマでは、YouTubeの利用傾向が高い人ほど偽情報を信じやすかった。
移民問題のように賛否が分かれるテーマほど、YouTubeの視聴者エンゲージメントが高まり、動画推奨アルゴリズムによるフィルターバブルが誤った信念の形成を促すことが報告されています。
災害テーマでは、TikTokやBeRealの影響が大きかった。
災害関連の偽情報は不安や恐怖などのネガティブな感情を誘発しやすく、「等身大の共感」を重視するBeRealのユーザー層に特異的な影響を及ぼした可能性があります。
金融詐欺では、ニコニコ動画の利用傾向が正の影響を示しました。
ニコニコ動画最大の特徴である「コメントが流れる同期的視聴体験」が、他者の反応に影響されやすいプロセスを強化し、結果として偽情報の信じやすさに影響している可能性が指摘されています。また、テレビを情報源として重要視する人ほど金融詐欺を信じやすいという結果も出ており、マスメディアが持つ権威的イメージや、情報を受動的に処理する習慣が影響していると推察されています。
本丸は「認知特性」だった
メディアの影響が8〜19%だったのに対し、個人の認知特性は偽情報の信じやすさを27〜42%も説明できるという結果が出ました。つまり、「何を見ているか」よりも「どう考えるか」のほうが、偽情報に対する脆弱性を大きく左右しているのです。
テーマを横断して共通に見られた主な知見を、ひとつずつ見ていきましょう。
「よく考える人」は騙されにくい
認知的熟慮性(CRT)が高い人――つまり直感に頼らず、じっくり考えてから答えを出す傾向が強い人ほど、全テーマで偽情報を信じにくく、共有もしにくいという結果が出ました。
有名な例題があります。「バットとボールは合わせて1,100円。バットはボールより1,000円高い。ボールはいくら?」……直感的に「100円」と答えたくなりますが、正解は50円です。こういう問題にきちんと立ち止まれる人は、偽情報にも立ち止まれる、ということですね。
陰謀論を信じやすい人は偽情報にも弱い
全テーマで、陰謀論への信奉傾向が高い人ほど偽情報を信じやすく、共有もしやすいことがわかりました。特に「信じやすさ」への影響が大きく、「世界は陰謀によって動かされている」というマインドセットを持つ人は、個別の偽情報にも引っかかりやすいようです。
記憶があいまいな人も要注意
リアリティ・モニタリング・エラーが高い人も偽情報に弱いことがわかりました。これは「実際に体験したこと」と「想像や伝聞」を混同しやすい認知エラーのことです。「どこかで聞いたことがある気がする」という感覚が、偽情報を「正しい」と判断する手がかりになってしまうのかもしれません。近年の神経科学研究でも、記憶に関連する脳内ネットワークが偽情報の感受性に関与していることが示唆されています。
社会に不満を持つ人ほど偽情報を受け入れやすい
政治、経済、社会、報道、自身の地位や労働環境など、さまざまな領域への不満が大きい人ほど、偽情報を信じやすく共有もしやすい傾向が見られました。リトアニアの研究でも、社会経済的地位が低い人ほど偽情報への抵抗性が低いことが報告されており、偽情報の問題は個人の認知だけでなく、社会構造的な問題としての側面も持っていることを示しています。
「みんなと同じ」が安心な人は危ない
ハーディング効果――周りと同じ行動をとることに安心感を覚え、他者の行動をヒントにして自分も同じ行動をとってしまう傾向が、全テーマで偽情報の信じやすさ・共有しやすさに影響していました。
似た概念に「同調志向傾向」がありますが、こちらは集団の期待に応えるために意見を合わせる社会心理学的な傾向。対してハーディング効果は、自分で判断が難しい場面で他者の行動を参照する行動経済学的な傾向です。本実験ではハーディング効果のみが全テーマで有意な影響を示しており、情報の真偽判断において他者の意見を参照してしまうことの危険性が浮き彫りになりました。
好奇心旺盛な人ほど偽情報を信じやすい?
これは今回の研究の中でも特に意外性の高い発見です。
「経験への開放性」が高い人――つまり知的好奇心が旺盛で、新しいものに興味関心が強い人ほど、複数のテーマで偽情報を信じやすいという結果が出ました。これは従来の研究(経験への開放性は偽情報リスクを低減する)と相反します。
研究チームはこの逆転現象の仮説として「欠乏的好奇心」の関与を挙げています。好奇心には、ポジティブな気持ちに動機づけられた「興味好奇心」と、不確実性の低減に動機づけられた「欠乏的好奇心」の2種類があります。欠乏的好奇心が強い人は情報獲得を優先するあまり、真偽の精査が甘くなり、でたらめな情報にも意味を見出してしまう傾向があるとされています。
好奇心が強いこと自体は素晴らしいことですが、「とにかく情報がほしい」という飢餓感に駆られた好奇心は、かえって偽情報への扉を開いてしまうのかもしれません。
偽情報拡散の半分は「うっかり」
回答不注意傾向が全テーマで最も大きな標準化回帰係数を示しました。つまり、注意力が散漫な人ほど偽情報を信じやすく、共有しやすいということです。コーネル大学のペニークック准教授らの先行研究でも、偽情報のSNS共有の約半分がユーザーの注意散漫に起因していたと報告されています。
フェイクニュースに「騙された」のではなく、そもそも「ちゃんと読んでいなかった」というケースが意外なほど多い、ということです。
テーマごとのユニークな発見
外国人(移民)テーマの「セルフコントロール・パラドックス」
外国人テーマでは、セルフコントロールが高い人ほど偽情報を信じやすいという、直感に反する結果が出ました。通常、セルフコントロールの高さは偽情報リスクを低減すると考えられていますが、感情を大きく揺さぶるテーマの場合、自己の知識や考えに固執する傾向が裏目に出て、むしろ偽情報を受け入れやすくなる可能性があるのです。研究チームはこれを「セルフコントロール・パラドックス」と呼んでいます。災害テーマでも同様の傾向が確認されました。
金融詐欺とハロー効果
金融詐欺テーマでは、ハロー効果(外見や肩書きなど目立つ特徴に引きずられて評価が歪む現象)が有意な影響を示しました。著名人の肖像を悪用した詐欺広告が常態化し、ディープフェイク技術の進展で本人が出演しているような詐欺動画が急増している現状を考えると、この結果は非常にリアルです。詐欺師たちは、ターゲットの認知的脆弱性を精密に狙い撃ちしているのです。
原発テーマとアンカリング傾向
原発テーマでは、アンカリング傾向が高い人ほど偽情報を信じやすい結果が出ました。最初に提示された情報が誤りだとわかっても、その情報に引きずられてしまう傾向です。ウィーン大学の研究でも、アンカリング傾向が強い人ほど誤情報の撤回後も元のデータに固執することが示されており、原発のような長期にわたり情報が蓄積されるテーマでは、この傾向がより顕著になる可能性があります。
性別も学歴も年収も関係ない
今回の実験でもうひとつ見逃せないのが、統制変数の結果です。
性別、居住地域、年収、最終学歴は、偽情報の信じやすさ・共有しやすさにほとんど影響を及ぼしていませんでした。唯一、年齢だけは複数テーマで有意な影響があり、年齢が高いほど偽情報に騙されにくいという結果でした。「高齢者はネットリテラシーが低いから偽情報に弱い」というイメージがありますが、近年のメタ分析では高齢者のほうがニュースの真偽判別能力が高いとする研究もあり、本研究もその知見を支持しています。
つまり、「どんな人か(属性)」よりも「どう考えるか(認知特性)」が圧倒的に重要だということです。
これからどうする? ── 対策の展望
研究チームは今後の展望として、いくつかの方向性を示しています。
まず、偽情報の影響度を評価・予測するAIモデルの開発。
LLMを使って人間の認知特性をシミュレーションし、危険性の高い偽情報を優先的に検出する仕組みです。2024年の研究では、年齢や性別、政治的傾向などでプロファイリングしたLLMエージェントが、同じプロファイルの人間と同様の偽情報判断をする結果が報告されています。
次に、認知特性に応じた対策プログラムの開発。
偽情報対策には「デバンキング(事後的な訂正)」と「プレバンキング(事前の予防)」がありますが、いずれも画一的なアプローチでは限界があります。個々の認知特性に合わせたオーダーメイドの介入が必要です。特に注目されているのが「心理的予防接種」という手法で、偽情報によく使われる心理操作手法をまとめたショートムービーを"情報ワクチン"として事前に視聴することで、認知の免疫を獲得させるというものです。
そして、偽情報受容の神経科学メカニズムの解明。
なぜ人は偽情報を信じてしまうのか。記憶の想起に関連する脳内ネットワークが偽情報の感受性に関与している可能性が示唆されていますが、まだ断片的な知見しかありません。
公認心理師として思うこと
この研究結果を読んで改めて感じるのは、偽情報に「騙される・騙されない」は知能や教育の問題ではなく、認知の習慣の問題だということです。
「ちょっと立ち止まって考える」「"みんなが言っている"を鵜呑みにしない」「自分の記憶を過信しない」――これらは特別な能力ではなく、意識的に身につけられるスキルです。
そして、社会に不満を持つ人ほど偽情報に引きずられやすいという結果は、偽情報対策が個人の啓発だけでは不十分であることを示しています。人々が安心して暮らせる社会をつくること自体が、最大の「偽情報対策」なのかもしれません。
情報が洪水のように押し寄せる時代だからこそ、自分の「認知のクセ」を知っておくこと。それが、フェイクニュースに対する最初の防波堤になるのではないでしょうか。
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