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ボランティア9.5万人・拠点44地域——巨大フェイク対策組織Mafindoの全貌

「あなたは昨日、SNSで見た情報をそのまま信じましたか?」

こう問われて、胸を張って「全部自分で確認した」と言える人は、きっと少ないと思います。私自身、医療の現場にいると、患者さんが「ネットで見たんですけど……」と不安そうに切り出す場面に何度も出会います。偽情報は、もはや「どこか遠い国の話」ではありません。

今回取り上げるのは、インドネシアで2016年に生まれた市民主導の反偽情報組織「Mafindo」。ボランティア9.5万人超、国内44地域に拠点を持つこの組織は、偽情報との戦い方について、私たちに多くのことを教えてくれます。ただし、そこには「光」だけでなく「影」もある。今日はその両面を、できるだけ正直にお伝えしたいと思います。


そもそもMafindoとは何者なのか


Mafindoの正式名称は「Masyarakat Antifitnah Indonesia」。日本語にすると「インドネシア反中傷市民の会」といったところでしょうか。2016年11月に協会形態(Perkumpulan)として法的に設立された組織です。

彼らが掲げるビジョンは、「中傷・扇動・ホアックス(デマ)のない前向きな社会」。ミッションとして、メディアリテラシーの向上、偽情報の再拡散の抑制、宗教・民族間の分断(いわゆるSARA問題)の防止、そして組織自体の透明性と説明責任の確保を挙げています。

ここで私が「おっ」と思ったのは、最後の「自分たちの透明性」をミッションに入れている点です。偽情報と戦う組織が「自分たちも透明でなきゃダメだよね」と宣言しているわけで、これは理念としてはとても筋が通っています。ただし、後述するように、この理念と現実のあいだにはギャップがある。それも含めて正直に見ていきましょう。

3つの柱——「検証」「教育」「技術」の循環モデル


Mafindoの活動を理解するうえで、私は大きく3つの柱に整理するのがわかりやすいと考えています。

第一の柱は「検証(ファクトチェック)」

MafindoはTurnBackHoaxというデータベースを運営しており、検証済みの記事がアーカイブされています。さらに、インドネシアのジャーナリスト団体やメディア企業と共同で「CekFakta」という協働型ファクトチェックのプラットフォームを立ち上げました。これは一社単独ではなく、複数のメディアが合意形成のうえで検証を行う仕組みです。検証結果が食い違った場合の調整手順や、内部訂正のプロトコルまで公開されている点は、かなり誠実な設計だと感じます。

第二の柱は「教育(リテラシー)」

代表的なプログラムが「Tular Nalar」で、批判的思考を育てるメディアリテラシーのカリキュラム型プログラムとして18か月間にわたって実施されました。動画や対話型教材を使い、地域でのトレーニングやボランティアによる啓発も行われています。さらにCekFaktaの枠組みでは、誤情報が拡散する「前」に免疫をつけるprebunking(事前免疫)という手法も取り入れています。これは、たとえるなら情報の「ワクチン」のようなもの。医療関係者の私としては、この発想に親近感を覚えずにはいられません。

第三の柱は「技術」

WhatsApp上のチャットボット「Kalimasada」は、暗号化されたメッセージング空間という、外部からは中身が見えない場所に対応するための現実的な解決策です。ユーザーからの問い合わせや通報を入口にして検証につなげる。また、「Yudistira」というデータベースエンジンはAPIが公開されており、外部メディアや協働サイトが検証データを再利用できる設計になっています。

この3つが「検証した結果を教育に活かし、教育で育った市民がさらに検証に参加し、技術がその循環を加速させる」というエコシステムを形成している点が、Mafindoの最大の強みだと私は考えています。

お金の話——290億ルピアの「中身」を読む


ここからは少しシビアな話をします。Mafindoの2024年の監査済み財務報告によると、総資産は約290億ルピア(日本円でざっくり2億7,000万円程度)、純資産は約135億ルピアです。

収入構造を見ると、「制約なし(自由に使える寄付等)」の収入は比較的小さく、「制約あり(特定プロジェクトに紐づいた助成金)」が圧倒的な中心です。2024年の制約付き資金は約185億ルピアで、上位4つの資金源——Tides Foundation(教育プログラム「Tular Nalar」向け、約31.8%)、Google(CekFakta向け、約25.7%)、Meta関連(Facebook上の誤情報対策、約20.0%)、Moonshot(過激化対策系、約17.1%)——だけで全体の約95%を占めています。

この数字を見て、私は率直に「集中しすぎだな」と感じました。映画『ジェリー・マグワイア』の名台詞「Show me the money!」ではありませんが、お金の出どころは組織の性格を決めます。GoogleやMetaという巨大プラットフォーム企業からの資金が半分近くを占めている事実は、たとえ実質的な独立性が保たれていても、外から見たときに「本当に中立なの?」という疑問を生みかねません。

2023年にはUNICEF、Internews、UNESCO、Purpose/Luminateなど、もう少し資金源が分散していたようです。資金の多様化は、この組織にとって「あったらいいな」ではなく「なければ詰む」レベルの課題だと私は思います。

「限定付適正意見」という名のイエローカード


さて、タイトルにも掲げた「限定付適正意見」の話をしましょう。

Mafindoの2024年度の監査で、独立監査人は「限定付適正意見(Opini Wajar dengan Pengecualian)」を出しました。これは、ざっくり言えば「おおむね適正だけど、一部に問題がある」という評価です。レッドカード(不適正意見)ではないけれど、イエローカードはもらっている状態。

具体的には、約7.7億ルピア(約700万円相当)の債権について、特定プログラムの支出を裏づける十分な証拠書類(証憑)がなかった、という指摘です。「不正があった」という断定ではありません。ただし、「ちゃんと記録を残してくれないと、正しかったとも言えないよ」ということです。

私はこの問題を軽視すべきではないと考えています。なぜなら、Mafindoは「偽情報と戦う」組織だからです。他者に対して「エビデンスを示せ」「根拠を確認しろ」と言う側の組織が、自分たちの会計で証憑が不足しているというのは、たとえ金額が全体の数パーセントであっても、信頼の根幹に関わります。これは早期の是正が不可欠です。

なぜ「偽情報の壁」を越えられないのか——3つの限界


Mafindoの活動には明確な成果があります。44地域への分散ネットワーク、協働型の報道検証、データベースとAPIの技術基盤、教育プログラム——これらが噛み合って「検証→共有→学習」のサイクルが回っている点は、学術研究でも評価されています。国連のWSIS Prizes(2020年)への掲載、AJIからのTasrif Award受賞(2018年)、WhatsAppのファクトチェック公式ディレクトリへの掲載、IFCN(国際ファクトチェックネットワーク)の原則準拠なども、組織の実績を物語っています。

しかし、限界も少なくとも3つあると私は考えます。

第一に「到達」の壁。

検証記事が公開されても、偽情報が実際に流通している場所——とくにWhatsAppのようなクローズドな空間——には届きにくい。ボットで入口は作っているものの、「そもそもボットの存在を知らない人」にはリーチできません。これは、病院に来ない人には医療が届かないのと同じ構造です。

第二に「信頼」の壁。

資金提供者にGoogleやMeta、さらにはインドネシア政府の保健省まで含まれている。IFCN原則や組織規約で独立性を掲げていても、外形的な「独立性の認知」は別問題です。「この検証結果、スポンサーに都合のいい結論になってない?」と疑う人が出てくるのは、構造的に避けられない。

第三に「統制」の壁。

先述の監査指摘がまさにこれです。組織が急速に拡大するなかで、品質管理やSOPの一貫性をどう保つか。44地域に広がるボランティアネットワークは強みですが、拡大と品質管理はトレードオフの関係にもなり得ます。

インドネシアの「情報環境」という背景を忘れてはならない


Mafindoを語るうえで、インドネシアの情報環境の特殊性にも触れておかなければなりません。

Freedom Houseは同国のインターネット自由度を「Partly Free(部分的に自由)」と評価しています。選挙前に偽情報が急増すること、政府批判者やジャーナリストに対する訴追や嫌がらせがあることが指摘されています。また、電子情報取引法(ITE法)をはじめとする法制度が表現の自由を萎縮させ得ることは、Amnesty Internationalなどの人権団体も繰り返し問題にしています。

こうした文脈で重要なのは、ファクトチェックが「公共的な事実基盤を補強する実践」である一方、国家による取り締まり(刑事罰)と混同されると、かえって表現の自由を脅かす道具に見られかねない、ということです。だからこそMafindoには「私たちは法執行の代理人ではない」と明確にし続けることが求められますし、その姿勢を可視化するための透明性がなおさら重要になるわけです。

私たちがMafindoから学べること


最後に、日本にいる私たちがこの事例から何を持ち帰れるか、3つの視点を共有させてください。

1つ目は「市民が動ける仕組みを作ることの価値」です。

Mafindoは政府主導ではなく、市民とボランティアが動かしている。完璧ではないけれど、「待っていても誰もやってくれない」という現実に対して、自分たちで仕組みを作った。この姿勢は、医療でもまちづくりでも教育でも、あらゆる領域に通じるものだと思います。

2つ目は「透明性は理念ではなく実装の問題だ」ということです。

「透明であるべき」と掲げるのは簡単ですが、それを監査報告や資金開示や訂正履歴という「見える形」に落とし込めているか。Mafindoはこの点でまだ課題を抱えていますが、だからこそ私たちにとっても「他山の石」になります。

3つ目は「AI時代のファクトチェックは一組織では完結しない」ということです。

ディープフェイク詐欺の増加が報じられるなか、Mafindoの共同創設者とされる人物も「AI生成の偽情報」への対応について国際メディアでコメントしています。一国一組織ではなく、国際的な連携と技術共有が不可欠になるフェーズに入っている。

まとめ


ここまでの内容を、5つのポイントに整理します。

Mafindoは「検証+教育+技術」の循環モデルで偽情報に対抗する市民型組織であること。 ボランティア9.5万人超、44地域の拠点、協働型のファクトチェック——その設計思想は学ぶべき点が多い。

資金の約95%が上位4つの助成に集中しており、財務の多様化が急務であること。 とくにGoogleやMetaからの資金は、外形的な独立性の認知に影響し得る。

2024年度監査で「限定付適正意見」が出ており、証憑管理の改善が信頼維持の最大論点であること。 偽情報と戦う組織こそ、自らの透明性に最も厳しくなければならない。

インドネシアの法・社会環境では、市民組織としての独立性を「見える化」することが実効性を左右すること。 表現の自由が萎縮し得る環境だからこそ、「法執行の代理ではない」という線引きが不可欠。

AI生成偽情報の時代には、国際連携と技術共有のさらなる拡大が必要であること。 一組織、一国の努力だけでは、もう追いつかない。

偽情報との戦いに「完璧な正解」はありません。でも、「不完全でもいいから、まず仕組みを作って回し始める」というMafindoの姿勢には、私は大きな敬意を抱いています。そして、その不完全さを正直に見つめることこそが、次の一歩への原動力になるのだと思います。

あなたの身の回りにも、「これって本当?」と思う情報が毎日流れてきていませんか? その小さな疑問を大切にすること——それが、私たち一人ひとりにできる最初のファクトチェックです。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます。今日の記事が、皆さんの明日以降の一歩を考えるきっかけになればうれしく思います。


#ファクトチェック #偽情報対策 #メディアリテラシー #インドネシア #Mafindo


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