見出し画像

「自分は大丈夫」が一番危ない――SNS時代に騙されないための心理学

SNSで流れてきた政治家の動画を見て、「これはひどい」と思ったことはありませんか。あるいは「やっぱりこの人は信用できない」と、自分の直感が正しかったと確信した経験はないでしょうか。

私も正直に言えば、そういう瞬間が何度もありました。

でも、ある調査結果を知ったとき、背筋が冷たくなりました。生成AIで作られたフェイク動画を「正しい情報」と判断した人が51.5%。正しく見抜けた人は、わずか14.5%だったのです。

しかも、年齢による差はほとんどなかった。つまり、「若い人はネットに詳しいから大丈夫」も、「年配者は騙されやすい」も、どちらも思い込みだったのです。

今日は、公認心理師として認知バイアスを学んできた立場から、「なぜ私たちは騙されるのか」、そして「どうすれば自分の頭を守れるのか」についてお話しします。


SNSは「新しいマスメディア」になった


2024年は、間違いなく「SNS選挙元年」でした。

都知事選、各地の知事選、そして国政選挙。どれを振り返っても、SNS上の情報拡散が結果に直結した選挙ばかりだったように思います。

ある調査によれば、10代から30代の約7割が、投票先を決める際にSNSや動画サイトを参考にしていたそうです。テレビや新聞が依然として多数派を占めているとはいえ、SNSはもはや「若者だけのもの」ではありません。全世代にとっての「新しいマスメディア」として、確実に定着しています。

私自身、患者さんや同僚との会話の中で、「あの動画見ました?」という話題が増えたことを実感しています。情報の入り口が変わったのです。

これ自体は、決して悪いことではありません。政治が身近になり、若い世代の投票率が上がったという側面もあります。問題は、その情報空間が「汚染」されやすい構造を持っているということなのです。


「自分は大丈夫」という思い込みの正体


ここで、少し心理学の話をさせてください。

「メディアに騙されるのは他人であって、自分は賢明だから影響を受けない」

こう考える傾向を、心理学では「第三者効果」と呼びます。そして皮肉なことに、この「自分は大丈夫」という自信こそが、私たちを最も脆弱にするのです。

なぜか。それは、この自信が「疑う」という行為を省略させてしまうからです。

さらに厄介なのが「確証バイアス」の存在です。人は無意識のうちに、自分の信じたい情報を「真実」として受け入れ、信じたくない情報を「嘘」として退けようとします。

たとえば、あなたが応援している政治家の不祥事動画が流れてきたとします。「これはフェイクだ」と思いたくなりませんか? 逆に、嫌いな政治家のスキャンダル動画なら、「やっぱりな」と即座に信じてしまいませんか?

私も例外ではありません。自分が支持する立場に有利な情報を見ると、つい検証を怠ってしまう。この「認知の脆弱性」は、知識量や年齢とは関係なく、人間である限り誰もが持っているものなのです。

生成AIがもたらした「もうひとつの脅威」

生成AIによるフェイク動画の精巧さは、もはや素人には見分けがつかないレベルに達しています。

しかし、AIの本当の脅威は「偽物を本物と信じさせること」だけではありません。

嘘の配当(Liar's Dividend)」という言葉をご存じでしょうか。フェイク動画が蔓延することで、本物の不祥事映像が出てきても「これはAIで作られたフェイクだ」と言い逃れができるようになる現象を指します。

つまり、映像の「証拠能力」そのものが失われつつあるのです。

これは民主主義にとって深刻な問題です。何が本当かわからない。誰も信じられない。そんな「冷笑主義」が広がれば、私たちは選挙という制度そのものへの信頼を失ってしまいます。

「怒り」は拡散する。だからこそ立ち止まる


SNSのアルゴリズムは、私たちの「怒り」や「恐怖」を増幅させるように設計されています。

なぜなら、感情を揺さぶる投稿ほど、コメントやシェアが増え、滞在時間が延びるからです。プラットフォームにとっては、それが「良いコンテンツ」なのです。

ある研究では、怒りを煽る投稿は、穏健な事実の投稿よりも拡散スピードが速いことがわかっています。

だから、あなたが「許せない!」「やっぱりそうだったのか!」と強い感情を覚えたとき、それはある意味で「危険信号」なのです。感情をハックされている可能性がある。そう考えて、いったんスマホを置いてみてください。

私はこれを「感情のモニタリング」と呼んでいます。自分の心の動きを観察する習慣を持つこと。これは、騙されないための最も基本的なスキルです。

私たちにできる3つのこと


では、具体的にどうすればいいのか。私が日々意識していることを3つ、お伝えします。

まず一つ目は、「横に広げて検証する」ことです。専門用語では「ラテラル・リーディング」と呼びます。気になる情報を見つけたら、その発信元のページを深く読み込むのではなく、別のタブを開いて、その情報や発信者を検索してみる。複数の視点から確認することで、偏りに気づきやすくなります。

二つ目は、「デマの手口をあらかじめ知っておく」ことです。選挙前には必ず不正選挙に関するデマが出回る。AI生成画像は指や文字に不自然さがある。こうした「パターン」を知っているだけで、騙される確率はぐっと下がります。これを「プレバンキング」、つまり事前予防と呼びます。ワクチンのようなものだと思ってください。

そして三つ目は、「判断できない情報は拡散しない」という原則を持つことです。シェアボタンを押す前に、一呼吸置く。「これは本当か?」と自分に問いかける。その数秒の習慣が、情報空間全体を健全に保つことにつながります。

あなたの「頭」も戦場になっている


最後に、少し厳しい話をさせてください。

2024年以降の選挙は、単なる国内の政治争いではなくなりつつあります。外国勢力が介入し、社会の分断を深め、民主主義への不信を植え付けようとする「認知戦」の場になるリスクがある。

彼らの目的は、特定の候補者を勝たせることだけではありません。デマを流して混乱させ、「何を信じていいかわからない」という無力感を広げること。それ自体が攻撃なのです。

だからこそ、私たちは「自分の一票」だけでなく、「自分の頭の中」が戦場になっているという自覚を持つ必要があります。

おわりに――健全な懐疑心を持つということ


「情報は汚染されている可能性がある」という前提で接する。これは決して、すべてを疑ってシニカルになれという意味ではありません。

むしろ、「本当のことを知りたい」という誠実な姿勢の表れです。

私は公認心理師として、人の心の動きを学んできました。そして痛感しているのは、「賢さ」と「騙されにくさ」はイコールではないということです。むしろ、自分の認知の限界を知っている人こそが、結果的に騙されにくい。

あなたは今日、この記事を最後まで読んでくれました。それだけで、すでに一歩を踏み出しています。

「自分は大丈夫」と思わないこと。拡散する前に一呼吸置くこと。そして、反対意見にも触れてみること。

その小さな習慣の積み重ねが、あなた自身を守り、そしてこの社会の情報空間を少しだけ健全にしていく。私はそう信じています。

(タイムリーな選挙期間中の認知戦についての小説を書きました。よろしくお願いいたします。)


#SNS選挙 #フェイクニュース対策 #認知バイアス #情報リテラシー #公認心理師

いいなと思ったら応援しよう!

AIでエビデンスを探る_公認心理師 よろしければ応援お願いします。いただいたチップは、執筆のための書籍購入や、AIのために使わせていただきます。