岩手物語 第五話 もう一人の菅原
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岩手物語 第五話 もう一人の菅原
次の日の放課後、弓道場に向かうと、顧問の八重樫先生が廊下に居た。
僕らの制服とは違う生徒と一緒だ。
その彼の身長は僕より少し大きい、176cm位か。
ザンギリ頭だけど、切れ長の目と端正な顔立ちで、不潔とは無縁な感じだ。
立ち姿もすっとしていて恰好いい。
きっと、この辺の子じゃないな。
すると八重樫先生が手招きしながら口を開いた。
「おう、コウ、大変だったな、もう練習大丈夫か。」
「ええ。」
「あの……転校生ですか。」
「そうだ。」
「ほれ、自己紹介。」
「あ、菅原、」
「菅原、」
僕と彼は一緒に口を開いた。
僕と同じ名字だった。
彼は続けた。
「ミチザネ、僕は菅原ミチザネです。」
「__菅原道真!?」
「えっ、あ、ごめん、僕はコウ、菅原コウです。」
八重樫先生が苦笑いを浮かべた。
「そう、彼もお前と同じ菅原なんだよ。
まあ、この辺は菅原多いんだけどな……お前、校内を案内してやれ。」
少し考えた僕は、手始めに弓道場に連れていくことにした。
弓道部員として入部してもらえるなら、しめたものだ。
「ちょっとこれ、着てみてよ」
体験入部だからと、僕は部室にあった予備の道着を彼に強引に貸し出した。
すると、姿勢の美しさもあってとてもよく似合っていた。
「え~、カッコいいよ。」
「……。」
彼にそう言ったが、彼はリアクションが薄かった。
なんか僕は下手な販売員みたいじゃん。
道場に入ると、的に矢が当たる音で場内の空気が凛としていた。
そこで弓を引いていたのは、
女子弓道部部長、菊池ユミ先輩だ。
弓を放ち、残心の先輩の姿は、
阿部でなくても釘付けになる美しさだった。
一礼をして振り向くと、コウに気づいた。
そうして、にっこりと笑顔を見せた。
「コウ、もういいの?、
彼は……転校生? 入部希望?」
僕は、真っ赤になって言った。
「えっと、ハイ、体験入部というか……」
すると、目の前をすっと彼が通り過ぎた。
「えっ?」
いつの間にか僕の弓を手にしている。
弓の姿勢から礼をし、
すっと弓を上げた。
まったくブレのない、美しい所作。
皆、見惚れていた。
弓を引き、集中する。
彼の集中力があたりの空気を一変させる。
僕は思わず息を飲んだ。
弦が風を切った。
その矢はきらりと残光を見せ、的を貫いた。
そうして、彼は一瞬、寂しそうな眼を向けた。
