岩手物語 第七話 琥珀のなかの梅
岩手物語 第七話 琥珀のなかの梅
黒光りする板の間に囲炉裏があって、
僕はミチザネと差し向かいに座っていた。
じいちゃんは、
「ちょっと相手しててくれ。」
と言って蔵に向かった。
「ミチザネ、ヌエって?」
ミチザネは目を閉じて正座をしたままだ。
僕は「ふう」とため息をついた。
「ミチザネ、今、お茶入れてくるから。」
それにしても転校生と、じいちゃんの接点が全く想像できない。
(お茶菓子って、田村の梅でいいかな)
*
「はい、お茶、お持ちしましたよ。」
ミチザネがゆっくり眼を開いた。
一緒に出したお茶菓子に、『ぴくり』とした気がした。
「あ、京都出身だっけ、食べてみなよ。」
「う、ん、」
竹でできた楊枝で、紫蘇にくるまれたお菓子を口に運んだ。
ミチザネの目が細くなった。
「わははっ、甘酸っぱいだろ。」
「……ひとつ、いいか。」
「なんだ、気に入ったかい?」
「……いや、」
そういうと、ミチザネが茶箪笥の上にある写真に目をやった。
そこにあるのは亡き父母の写真。
「あ~、父ちゃんと母ちゃん。」
僕の両親は東日本大震災後の津波にのまれた。
僕が2歳の時だった。
ミチザネは、察したようだった。
「……いや、すまない。」
玄関からじいちゃんが、床を鳴らして歩いてきた。
囲炉裏の前にどかりと座った。
「これがあ。(これで合ってますか。)」
そうして、持ってきた古めかしい小さな桐の箱を開けた。
僕は身を乗り出して覗いた。
……琥珀?
その美しい琥珀は、中に花びらが閉じ込められていた。
なんの花びらだろう、桜、それとも……梅かな。
神秘的な光をたたえた、勾玉の形をした琥珀だ。
ミチザネは、その琥珀を受け取ると口を開いた。
「次に引き継ぐ……彼にお役目のことは?」
じいちゃんは少しだけ黙った。
「コウ、俺さもお茶くれねが。」
お茶を入れに立ち上がろうとすると、
じいちゃんは、ため息をついた。
「いや、おめえもこさ居ろ。」
「なに?」
半分立ち上がっていた僕をつかんで、
じいちゃんが言った。
「鵺(ぬえ)の話ば聞いとけ。」
