岩手物語 第八話 あわいの家
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岩手物語 第八話 あわいの家
ミチザネが帰った後、
じいちゃんと二人で夕飯を食べた。
じいちゃんは僕の作った煮しめを、
「あじっこ、薄くねえが、も少し濃くしろや。」
そういうと、それっきりしゃべらなくなって、
はやめに部屋に引っ込んだ。
風呂からあがって髪をタオルで拭きながら廊下に出ると、見慣れた廊下がこんなに暗く、「しんっ」と静かだったのかと、
腹の下あたりが少し痛くなった。
布団に入ったが寝付けない。
何度も寝返りを打った。
鵺(ぬえ)……。
僕はミチザネとの話を思い出していた。
*
「僕の所属している『鵺』は日本の伝統文化の保護を目的としています。」
ミチザネはそういうと、じいちゃんに足を崩すように促された。
彼は、右手でお構いなくと続けた。
「おじい様は、4年に一度の鎮魂祭の取り纏め役だったのです。」
「この鎮魂祭は一般的には知られていないものです。」
すると、じいちゃんが琥珀と一緒に持ってきた巻物を広げた。
それによると、平安時代から続いていた儀式で、初めの頃は、
丹内山神社前の『山に近い坂上家』が務めていたようだ。
以降は代々、菅原家が引き継ぐ形になっていた。
じいちゃんが言った。
「家が継いだのは、江戸末期らしくってな……」
僕がじいちゃんの顔を見ると、
しばらく黙ったじいちゃんが、慌てて
「ばぁか言え、知るもんか、おら、昭和生まれだぞ。」
じいちゃんはそう言って笑うと、棚の写真に視線を移した。
途端に寂しい表情に変わった。
「美智、コウの母ちゃんな、女だから、お役目を継げなかったんだ。」
いまどき、男だから、女だからなんて思ったが、
口を挟むと面倒なお役目が僕に回ってきそうだったので、やめることにした。
すると、早速ミチザネが
「彼はどうなんです。」
じいちゃんは僕を見つめたが、僕は視線をそらした。
「だめだ、これは仙台さ行くってきかねから。」
ミチザネは、そうですかと表情を少し曇らせていた。
*
「は~っ」
僕は布団の中で何度も寝返りを打って、
大きなため息をついた。
誰にでも引き継げるわけではなくて、
血の縛りがあるそうだ。
菅原の多いこの地ではあるが、直系の菅原は少ない。
その多くがここを去ってしまっていた。
(僕の代で絶やしてしまうのか……)
じいちゃんは、もう歳だ。
でも、僕は仙台の大学進学を考えていた。
僕は、仕方ないじゃんと感じながら、
聞いてしまったことを少し後悔していた。
まどろみかけた時、誰かの声が聞こえた気がした……
耳の奥の暗闇から低い声がした。
__おまえの……中におるぞ……。
