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岩手物語 第二十話 混沌

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第二十話 混沌

「ご、ごめん!」

阿部は土下座していた。
坂上先輩が腕組みをして仁王立ちしていた。

「あたし、ユミの家に行く約束してて、
__見たんだから!」

坂上先輩は怒りで顔が真っ赤になっていた。

本気で怒った女性の顔を初めてみた僕はぞっとした。
醜いほど顔をゆがめた坂上先輩は怒鳴った。

「あんたが、アルバイトさん用の更衣室から出てきたところをユミに見られて__」

「ユミを追いかけたでしょう。」

「阿部……お前。」

僕は丸まっている阿部の胸倉をつかんで乱暴に立たせた。

「阿部ぇ!ユミ先輩をどうしたんだ!」

阿部はなすがままに振り回されながら、泣き叫んだ。

「ああっ!本当なんだ、嘘じゃないんだ。」

僕は、友達に裏切られた気持ちでいっぱいになった。
突き飛ばすと、無様にひっくり返った阿部に叫んだ。

「何が本当なんだ!」

すると、阿部と僕の前に彼が静かに立ちはだかった。

ミチザネだ。

「僕が聞きたいのはそこじゃない。」

(!そこじゃない__そこじゃないって!)

僕は怒りのまま突進した。

「そこじゃないってなんだ!」

ミチザネに突っかかろうとしたその時。

「!?」

あっと思う間もなく、ぐるりと風景が上下逆転した。
空に有った月に向かって僕の両足が投げ出されるように。
そして、強く地面に叩きつけられた。

「コウ、大丈夫!」

坂上先輩に抱えられ、起き上がろうとしたその時、黒塗りの車が現れた。
くそ、__なんだ、妙に桁数の多いナンバーの……。

そうして、車から降りてきた黒づくめの男二人にミチザネが命令をした。

「レンギョウ、アオモジ、彼を。」

すると二人の男は阿部を車に押し込んだ。

阿部はうめきながら車に乗せられていた。

「__ここからは僕のお役目だ。」

ミチザネが冷たい目で言った。

乾いたドアの閉まる音がして、
土を踏みしめるタイヤの音が残った。

街灯の明かりの下、坂上先輩と僕が取り残されていた。


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