岩手物語 第三話 霧の中の赤子
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第三話 霧の中の赤子
川霧の中、1人の男が、ゆっくりと小舟を棹(さお)で進めていた。
その髭をたたえた男は、異国のような麻の衣装を身に纏っている。
やがて岸に何かを見つけると、ゆっくりと舟を岸につけた。
おくるみの赤子だ。
その子を抱き抱えると、その腕は現代の衣装の男のものに変わっていった。
……父さん、父さんだ。
コウ……
……精霊が……。
「……コウ、コウ。」
目を覚ました僕の目に映ったのはユミ先輩だ。
「良かった、先生呼ぶね。」
そういって、ベットの横の押しボタンを押した。
ここは……
白い天井に虫が喰ったような模様。
右手から輸血がされていて、天井から吊るされたのはシャワーカーテンのようだ。
鼻の奥に、独特の消毒液の冷たい匂いがする。
ここは病院か。
僕は……助かったのか。
「先輩はなんでここに?」
「橋の上で血まみれで倒れていたのよ。」
橋の上?
僕はあの時、確か橋から落ちて……。
誰かに助けられたのか?
「そうだ、じいちゃん、じいちゃんは!」
「だいじょうぶ。」
「……コウ。」
じいちゃんの声がする。
ユミ先輩がベットのカーテンを開けてくれた。
すると、隣のベッドにじいちゃんが横たわっていた。
「コウを見つけてから、警察に連絡して、おじいさんも……」
じいちゃんは、両の腕は包帯でぐるぐる巻きにされ、頭にも包帯が巻かれている。
右の瞼はこぶし大に腫れあがっていて、一見するとじいちゃんと分らない。
ひどい。
僕は左肩にチクリと痛みを感じた。
はっとして、後頭部を恐る恐るさすってみた。
「……」
痛くない。
なにか、不思議なぶよぶよとした感触はあるが、こぶのようなものも感じない。
今度は左肩に手を当てる。
チクリとはするが、あの時の痛みは嘘のようだ。
医療ってこんなに凄いのか。
そう一瞬考えて、横たわるじいちゃんを見て、じっと右の手のひらを見つめた。
……違う。
廊下から病室に入ってきた誰かに気が付いてはっとすると、そこに茫然と立っている医師が居た。
「君、もう、だ、だいじょうぶなの?」
僕の回復ぶりに目の前の医師は聴診器を持とうとした手を、ぶらりと落とした。
「は、はい。」
一体、何なんだ。
そして、彼らはどうなったんだ。
