見出し画像

立ち上がりで前傾できない人に共通する特徴【臨床のヒント #38】

―「立てない」のではなく「移動できない」身体の話


「前に倒れてください」
そう声をかけても、なかなか前に来られない。

立ち上がり動作を見ていると、
途中で止まってしまう人、後ろに残ってしまう人、勢いでなんとか立とうとする人。

臨床ではよくある光景です。

そして多くの場合、こう考えられがちです。

「脚の筋力が弱いから立てない」
「大腿四頭筋を鍛えましょう」

もちろん、それも一つの要因です。
ただ、それだけで説明できるケースばかりではありません。

むしろ印象としては、

「立てない」というより
“前に移動できていない”人が多い

今日はそんな話です。


立ち上がりという動作を分解すると、

・重心を前方へ移動する(前傾)
・支持基底面を変える(座位→足部)
・抗重力方向へ伸展する

この3つの要素で成り立っています。

この中で特に重要なのが「前傾」です。

なぜなら、前に重心が移動しなければ、
そもそも立ち上がる準備が整わないからです。


では、前傾できない人には何が起きているのか。

臨床で見ていると、いくつか共通点があります。

まず一つ目は、

体幹が“固まっている”こと。

本来の前傾は、股関節を中心とした動きです。
骨盤が前に傾き、それに伴って体幹が自然に倒れていく。

しかし多くの高齢者では、

・腰だけ丸める
・胸郭が動かない
・骨盤が後傾したまま

という状態になっている。

結果として、
「前に倒れているつもりでも、実際には重心が移動していない」

ということが起きます。


二つ目は、

回旋が使えないこと。

少し意外かもしれませんが、前傾という動きは完全な前後運動ではありません。

実際の動きでは、

・わずかな左右差
・体幹の回旋
・非対称な荷重

が組み合わさっています。

しかし、身体が一塊で動いている人は、
この“微妙なズレ”を作ることができません。

結果として、

「まっすぐ前に行こうとして止まる」

という現象が起きます。

これは寝返りのときと同じで、
分離運動の低下が大きく関与しています。


三つ目は、

重心移動への“恐怖”です。

前に倒れるという行為は、
ある意味で“バランスを崩す”ことでもあります。

若い人や動ける人にとっては当たり前でも、
高齢者にとってはリスクを伴う動きです。

・転びそうで怖い
・支えがないと不安
・過去の転倒経験

こういった要因があると、
身体は無意識に前方への移動を抑制します。

つまり、

「できない」のではなく
「やらない(やれない)」状態です。


ここまでをまとめると、

立ち上がりで前傾できない人には

・体幹と骨盤の連動不良
・分離運動(回旋)の低下
・重心移動に対する恐怖

といった共通点があります。

そしてこれらは、単なる筋力低下ではなく

運動戦略の問題と捉えることができます。


では、臨床で何をするべきか。

よくあるのは、

「前傾を意識してください」
「もっと前に倒れてください」

といった声かけです。

ただ、身体がその準備をできていなければ、
この指示はうまく機能しません。

むしろ重要なのは、

前傾“できる身体”を作ることです。


僕がよく見るポイントは、

・骨盤は動いているか
・呼吸が止まっていないか
・体幹が過剰に緊張していないか

このあたりです。

例えば、仰向けや側臥位で
呼吸と体幹の連動を整えるだけで、

「あれ、さっきより前に行ける」

という変化が出ることも少なくありません。


立ち上がりができないとき、

私たちはつい「脚」に目を向けがちです。

でも実際には、

問題は“立つ力”ではなく
“移動する力”にあることが多い。


立ち上がりは、
単なる筋力テストではありません。

それは、

「どれだけスムーズに重心を移動できるか」
という身体能力の表れです。


もし目の前の患者さんが立ち上がれないとき、

「どこが弱いか」ではなく
「どこが動いていないか」

そんな視点で見てみると、
また違った景色が見えてくるかもしれません。

▼こちらの記事もチェック▼

【執筆者 プロフィール】
北爪 直也|理学療法士
▶︎株式会社ACTX(アクトス) 代表取締役
▶︎埼玉県熊谷市を拠点に、訪問リハビリ・整体事業・地域活動など多角的に活動中。
▶︎リットリンクにてSNS等まとめてます↓
https://lit.link/zume

いいなと思ったら応援しよう!