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高齢者はなぜ寝返りや起き上がりができなくなるのか?【臨床のヒント #37】

― 発達から考える「動けない身体」の本質


「寝返りができないんです」
「起き上がるのに時間がかかるようになって…」

臨床をしていると、こうした声は本当によく聞きます。
そして多くの場合、私たちはこう考えがちです。

「筋力が落ちているからだな」
「腹筋や体幹を鍛えないと」

もちろん、それも一つの要因ではあります。
ただ、臨床で多くの方を見ていると、どうもそれだけでは説明がつかない場面が多い。

筋力がそこまで低下していないのに動けない人。
逆に筋力が弱くてもスムーズに動ける人。

この違いは何なのか。

僕はこれを考えるときに、
「人間の発達」という視点をよく使います。


人は生まれてすぐ立てるわけではありません。

仰向けから始まり、寝返りを覚え、うつ伏せで身体を支え、四つ這いになり、やがて座って、立って、歩く。

つまり、寝返りや起き上がりという動作は、
人間が最初に獲得する“基本動作”のひとつです。

ここで一つの仮説が浮かびます。

「高齢者の動作低下は、単なる筋力低下ではなく
発達の逆行として捉えられるのではないか?」


例えば、寝返りがうまくできない方の動きを見ていると、ある共通点があります。

身体が“一塊”で動いてしまう。
いわゆる en bloc の動きです。

本来、寝返りというのは
胸郭と骨盤が分離し、回旋が生まれ、重心が移動していく動きです。

しかし高齢者では、

✔︎ 体幹の分離ができない
✔︎ 回旋が出ない
✔︎ 重心移動が小さい

結果として、
「頑張っているのに動けない」という状態になる。

これは筋力というより、
運動の使い方(戦略)の問題です。


ここでヒントになるのが、チェコのリハビリ概念であるDNS(Dynamic Neuromuscular Stabilization)です。

DNSでは、人間の運動機能は発達過程に基づいて構築されると考えます。

つまり、

「正しい動きは、赤ちゃんの頃にすでに完成されている」

という前提です。

少し極端に聞こえるかもしれませんが、臨床で見ていると納得できる部分が多い。

例えば、赤ちゃんの寝返り。

・無駄な力みがない
・呼吸が止まらない
・自然に回旋が起こる
・最小限の力でスムーズに動く

一方で、高齢者の寝返り。

・息を止めて力む
・腕や首に頼る
・身体が固まる
・動き出しに時間がかかる

この違いは何でしょうか。

筋力でしょうか?
柔軟性でしょうか?

それも一部ありますが、もっと本質的なのは

「体幹の安定とコントロールの質」です。


DNSでは、体幹の安定は「腹圧(腹腔内圧)」によって作られると考えます。

呼吸と連動した体幹の安定です。

しかし高齢者では、この腹圧がうまく作れないケースが多い。

するとどうなるか。

体幹が“土台”として機能しなくなる。
結果として、手足や首などの末端に頼る動きになる。

だから、

・腕で引っ張る
・首から先に動く
・全身に無駄な力が入る

という非効率な動きになってしまう。


さらにもう一つ重要なのが「重心移動」です。

寝返りや起き上がりは、単なる筋収縮の連続ではなく、
重心をどこに移動させるかというコントロールの問題です。

しかし高齢者では、

・支持基底面の認識が弱い
・転倒への恐怖がある
・バランス戦略が乏しい

こういった要因から、重心移動が極端に小さくなる。

つまり、

「動けない」のではなく
「動かせない(動かすのが怖い)」状態とも言えます。


ここまでをまとめると、

高齢者が寝返りや起き上がりができなくなる理由は

・体幹の安定(腹圧)の低下
・分離運動(回旋)の消失
・重心移動戦略の低下

これらが組み合わさった結果です。

そしてこれは、単なる機能低下ではなく

「発達で獲得した運動戦略を失っている状態」

と捉えることができます。


では、臨床で何をするべきか。

ここでよくあるのが、

「筋トレをしましょう」
「回数を増やして練習しましょう」

というアプローチです。

もちろん間違いではありません。
ただ、それだけでは変わらないケースも多い。

なぜなら、

戦略が間違ったまま繰り返しても、
非効率な動きが強化されるだけだからです。


僕が意識しているのは、

「発達をやり直す」という視点です。

仰向けでの呼吸
側臥位でのコントロール
小さな回旋
低い姿勢での安定

一見遠回りに見えますが、
ここを丁寧に作ることで、動きが一気に変わることがあります。

実際に、

「今までできなかった寝返りがスッとできた」

そんな瞬間に立ち会うと、
やっぱり人間の身体は面白いなと思います。


高齢者の「動けない」は、単なる衰えではない。

それは、

“どう動けばいいかを忘れてしまっている状態”

なのかもしれません。

だからこそ、私たちがやるべきことは

鍛えることだけではなく、
思い出させること

発達の視点を持つことで、
見える景色は大きく変わります。

そしてそれは、
目の前の一人の動きを変えるヒントになるはずです。

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【執筆者 プロフィール】
北爪 直也|理学療法士
▶︎株式会社ACTX(アクトス) 代表取締役
▶︎埼玉県熊谷市を拠点に、訪問リハビリ・整体事業・地域活動など多角的に活動中。
▶︎リットリンクにてSNS等まとめてます↓
https://lit.link/zume

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