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①英国司法省面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書に関する文献レビュー(Domestic abuse and private law children casesA literature review2020)【抜粋】

これは、英国司法省面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書に関する文献レビュー(Domestic abuse and private law children cases
A literature review 2020
)の部分訳です。

クリックすれば報告書に飛びます

目次と第1~3章(小川冨之訳)部分をまずは公開します。

目次 / 表のリスト
第1章 要約
1.1 子どもと親の、離別前後におけるドメスティック・アビューズ(以下「DA」という)の経験
1.2 DA加害者とのコンタクトをめぐる親と子どもの経験
1.3 DAの主張及び裁判への子どもの参加に対する裁判所と専門家の反応
1.4 被害者/サバイバーと子どもの家庭裁判所手続での経験とこれに対する見
  解
1.5 実務指針12Jの実施
1.6 コンタクト命令の強制執行
第2章 イントロダクション
第3章 調査の方法
3.1 質的保証
3.2 限界(第1~3章、小川冨之翻訳)
第4章 DAの形態と発生率
4.1イントロダクション
4.2 DAとはどういうものか?
4.3 DAの発生率
4.4 子どもたちのDAの経験
第5章 DAの状況での子育て
5.1 虐待親の養育実践はいかなるものか?
5.2 DAがある状況での母親の育児の経験
第6章 DA加害者とのコンタクトに関する親と子の体験
6.1イントロダクション
6.2母親の経験-DAを行う父親との別居後に行われた子どもと父親のコンタクトについて
6.3虐待的な親との別居後のコンタクトによる子どもの経験、リスク、結果
6.4 DAを行う親との別居後のコンタクトに関する子どもの見解(第4~6章長谷川京子翻訳)
第7章 親と子どもの家庭裁判所における経験
7.1 私法上の子の手続きにおけるDAに対する家事司法制度の対応に関する研究の概要
7.2 DAの主張に対する裁判所や専門家の反応
7.3 裁判の手続や決定への子どもの参加に対する裁判所や専門家の反応
7.4 虐待を受けた被害者/サバイバーの家庭裁判所手続への見解と経験
7.5 家庭裁判所の意思決定への参加に関する子どもの意見
第8章 特別措置と虐待的な反対尋問
8.1 イントロダクション
8.2 特別措置
8.3 虐待的な反対尋問
第9章 実務指針12Jの実施
9.1 実務指針12Jの背景と沿革
9.2 裁判所はDAをどう認知するか?
9.3 主張された虐待と子の処遇/コンタクトとの関連性の決定
9.4 事実認定のための聴取の割合
9.5 事実認定のための聴取を行う決定
9.6 合意命令
9.7 事実認定のための聴取及び/または最終福祉決定までの暫定コンタクト
9.8 事実認定のための聴取の実施とその結果
9.9 DAが証明されたり認められた場合の将来リスクの評価
9.10 リスク軽減のための介入
9.11 福祉的決定の判断
9.12 DAのある事件でいかなる命令が出されるか?
9.13 直接のコンタクトが命じられた場合の子どもと非虐待親の安全保護
9.14 実務指針12Jの適用の一貫性
第10章 コンタクト命令の強制執行
第11章 1989年子ども法91節14の命令(申立禁止命令)
第12章 結論(第7~12章 長谷川京子・藤本圭子翻訳)

 

第1章 要約

本研究は司法省(MoJ)の委員会(パネル)を支援するため、ドメスティック・アビューズ(以下「DA」という。)やその他深刻な犯罪を含む、私法上の子の事件における子どもと親が巻き込まれるリスクに関し、既存の文献から詳細なレビューを提供するよう委託されたものである。これはまた、これらのリスクが イングランドとウェールズの家庭裁判所でどのように扱われているかにつき、文献を見直すことも目的としている。この文献レビューの範囲、 検討のためのトピックと方法論は、委員会の学術専門家であるメンバーと協議して策定された。利用可能な文献を考慮しつつ、このレビューが伝えようとする項目は以下の通り。:

 - DAを受けた子どもと親の経験(DAを受けた親の子育ての実践、別居前後のDAのもとでの母親の経験など)。
- DA加害者とのコンタクトに関する親と子の経験(DA加害親との別居後のコンタクトのリスクと結果、およびそれに対する子どもの意見を含む)。
- DAの主張に対する裁判所や専門家の対応、および裁判所の決定への子どもの参加について
- DAの被害者・遺族や家庭裁判所の手続きに参加した子どもたちの経験と見解
- 裁判所や専門家による実践指針12J(PD12J)の運用(DAが主張されたり認められたりした場合に、子どものための取り決めに関連して家庭裁判所が行うべきことが定められている
- コンタクト命令の執行

この文献レビューは、2019年7月22日から8月31日の間に行われた。期間の制限のため、迅速なエビデンス評価アプローチがとられた。学術データベースと電子データソースは、既存の文献レビューと、1996年から2019年8月までにイングランドとウェールズで実施された研究を検索したが、イングランドとウェールズの研究にギャップがある場合やデータが不十分な場合は、他のコモンローの管轄区域で実施された研究も含めた。検索の結果、レビュー対象の出版物は合計87件となった。これらは以下の通りである。

₋ リタラチャーレビュー
- アンケートや裁判記録などの記録に基づく大規模な定量的研究
- インタビュー、フォーカスグループ、ケーススタディ、観察などを用いた質的研究
- レトロスペクティブな研究
- 縦断的な研究

これらの研究の方法論の概要は、付録.Aに記載されている。 レビューの質は、国内外で認められた組織で学術研究者による査読文献と実践ベースの研究だけを検索の対象とすることによって確保した。 文献レビューから得た主な知見は以下のとおりである。

1.1子どもと親の、離別前後におけるDAの経験

幅広い方法論と集団にわたる多くの統計と研究は、DA が離別以後に開始し、継続し、深刻さを増す可能性があることを明らかにしている(4章3)。イングランドとウェールズにおける主要な定量的な調査の結果と評価は、私法上の子の事件において、DAの発生率が一般集団よりかなり高く、子の処遇及びコンタクトの事件でDAが主張されたり認定される割合は49%から62%に及ぶ(表4.1参照)。
 
DAが子どもに有害であるということは、成文法(第31条(9)児童法1989)およびPD12J(パラグラフ4、以下パラ4と表記)において認められている。文献レビューは、子どもたちが、相互に関連したり、併発する様々な方法により、DAに直接巻き込まれたり、DAから影響を受けていることを示している(4章4)。多くの研究が、DAの文脈で、身体的、性的、感情的虐待が高い割合で発生し、子ども殺人のリスクが高いことを明らかにしている。幅広い研究が、DAを経験する子どもたちが、身体的、心理的、行動面、発達上および情緒的な問題や障害、そしてトラウマを被り、それが成人後精神的、身体的な健康上の障害につながりうることを明らかにした。質的研究は、威圧的支配のある生活が、成人の被害者/サバイバーに対するのと同じ累積的な影響を子どもに与え、子どもの情緒面と行動面での問題に寄与する可能性があることを明らかにした。中にはDAの影響に対し本質的な抵抗力を持つ子どももいるかもしれないが、ケアする大人、特に虐待を受けていない親とのとのサポーティブな関係は、子どもにとって重要な保護要因であることが判明している。
 
家庭内で虐待的な母親の養育を探求する調査は見出せなかった。家庭内で虐待的な父親の養育を具体的に調査した少数の研究は、彼らの子育てが、身体的、情緒的虐待やネグレクトを含み、子どもたちに直接の危害をもたらしうることを明らかにした(5章1)。
 
DAの被害者・サバイバーのファーザーリングの経験を調査した研究はなかった。一方、DAにおける被害者・サバイバーのマザリングの経験を調査した研究は数多く存在している(5章2)。虐待の継続は、女性の身体的・精神的な健康問題の原因となり、子どもとの関係に影響を与え、子育ての能力に悪影響を与える。自尊心や自信の喪失など、威圧的に支配する虐待の影響は、特に無力化を招き、回復するのに何年もかかることがある。様々な質的研究によると、加害者は、子どもの前で女性を卑下したり、批判したり、侮辱したり、子どもを母親への虐待に参加させようと促したり、母親が子どもと過ごす時間を妨げたりするなどの手段を用いて、意図的に母子関係を弱体化させたり、歪めたり、混乱させようとする。レビューした文献によると、離別後に虐待が続くと、被害者・サバイバーは継続的な恐怖状態に陥り、女性が自信と子育ての能力を回復し、子どもの回復を支援する能力を大幅に阻害する可能性がある(5章2.2)。

1.2 DA加害者とのコンタクトをめぐる親と子どもの経験

子どもとのコンタクトは、殺人を含む、母親へのより深刻な虐待を継続するための重要な場であることが多くの研究で強調されている(6章2)。子どもたちは、コンタクトの間、母親への身体的、心理的、性的な虐待や威圧的な支配にさらされ得る。さらに、コンタクトは、加害者が母親を貶めるための場として利用され得る。例えば、子どもの前で母親を、あるいは子どもに向かって批判したり、誹謗中傷したり、貶したり、子どもを使って、虐待や脅迫のメッセージを母親に伝えたり、子どもを操って母親の情報を提供させたりすることがある(6章2、6章3)。
 
質的研究を中心とした幅広い研究によると、DA加害親と子どもが継続的に関わることで、支配的で、見下すような、いじめのような関係が維持され、子どもが身体的、性的、感情的に虐待されたり、ネグレクトされたり、拉致されたり、母親の虐待を目撃したり、母親の虐待に協力させられたり、最悪の場合、子どもが殺されたりするリスクがあることがわかっている(6章3)。質的・量的研究によると、DAが継続している場所で別居後のコンタクトをした場合、子どもへの影響や結果が最も悪くなることがわかっている。もっとも、子どもは、より安全な環境にいることでDAの影響から回復することができるけれども、虐待親との継続的なコンタクトは、子どもが回復し、回復を維持する可能性を妨げる(Katz, 2016)。
 
質的・量的調査の結果、子どもたちは父親との関係やコンタクトについて、さまざまな感情や見解を持っていることが明らかになった(6章4)。レビューされた研究では、父親との関係を望んでいる子どもであっても、ほぼすべての子どもにとっての優先事項は、自分自身や母親、その他の家族にとっての安全であることが明らかになった。
 

1.3 DAの主張及び裁判への子どもの参加に対する裁判所と専門家の反応

イングランドとウェールズ、そして他の多くの国では、家庭裁判所は、DAがあっても、別居後の子どもと両親との継続的な関係を強く推奨している(7章1)。数多くの質的・量的研究により、コンタクトへの強い推定により、DAが私法上の子の手続の中で周辺化され、誤解され、軽視されていることを明らかにしており、これは子どもを害から守ることに焦点を当てることと衝突しうる(7章2)。
 
質的・量的調査によると、裁判所や専門家の間では、コンタクトに反対したり、制限しようとしたり、さらには懸念を抱く母親は「不可解に敵対的」であるとか、最近では「片親引き離し(片親疎外)」をしようとしているという見方が広くあり、そのため、裁判所や専門家の間では、母親は虚偽のDAの主張をするという認識が強まってきていることが明らかになった(7章2)。しかし、実証的な事件記録分析によると、「不可解に敵対的」というケースは非常に稀であり、質的研究では、DAを経験した母親を含む大多数の母親が、別居後のコンタクトに支持的であることがわかった(7章)。
 
研究文献から浮かび上がった一貫したテーマは、裁判手続きにおいて子どもの意見に「選択的アプローチ」がとられているということであった。別居する父親とのコンタクトを望む場合には、子どもたちの意見は真剣に受け止められ、決定づけられることさえあるが、コンタクトに反対する場合には、たとえ子どもたちがDAを経験していたとしても、子どもたちの意見は無視され、割り引かれ、問題のあるものとして扱われがちである(7章3)。

1.4 被害者/サバイバーと子どもの家庭裁判所手続での経験とこれに対する見解

質的研究によると、女性たちはDAの状況下で、家庭裁判所や専門家によるコンタクトの推進が非常に問題であることを経験していた(7章4)。母親たちは、DAが裁判所や専門家によって真剣に受け止められず、最小化されていると感じており、DAの力学や影響が理解されていないと感じていた。多くの研究に参加した女性たちは、暴力的な父親とのコンタクトに懸念を示した場合、専門家から理不尽、過敏、接触妨害のレッテルを貼られたことに落胆していた。女性がDAの懸念を訴えたときに、裁判所や専門家(自分が依頼した弁護士を含む)が不信感を示したことで、女性は脆弱で孤立無援な状態に陥った。しかし、女性が裁判官や専門家に話を聞いてもらい、信じてもらえたと感じた場合には、女性は無力化されず、支えられていると感じ、虐待が自分や子どもに与える影響がコンタクトの決定に織り込まれると信じることができた。質的・量的調査によると、母親は、裁判所や専門家(母親自身の弁護士を含む)から、コンタクトの取り決めに合意するよう、あるいは調停に出席するよう、かなりの圧力を受けている。
 
調査の結果、被害者・サバイバーの多くは、加害者とのコンタクトを避けるための「特別措置」の提供が一貫せず、最小限にとどまっているため、家庭裁判所でさらなる虐待を体験していることがわかった(8章2)(注1)。 2000年以降、刑事訴訟においては、弱者や脅迫された証人に対する特別措置が用意されているが、家事訴訟における特別措置に相当する法律上の規定は存在しない。司法が提起した懸念に応えて(Corbett and Summerfield, 2017)、PD12Jと家族訴訟規則2010の両方が改正され、司法が特別措置の提供を指示する権限が強化された。これらの新しい規定の有効性に関する限られた証拠は、家庭裁判所での特別措置はまだ満足できるものではなく、刑事裁判所で利用できるものと同等ではないことを示している(8章2)。さらに、DAの被害者・サバイバーは、これを回避する効果的な措置がないため、虐待の加害者とされる者から直接反対尋問を受ける可能性がある(Corbett and Summerfield, 2017)。質的研究によると、DAの被害者/サバイバーは、加害者とされる者からの反対尋問を受ける経験がトラウマになり、貶められ、虐待が継続することが明らかになった(9章3)。
 
イングランドとウェールズおよび他の管轄区域で実施された数多くの調査研究によれば、DA加害者は、継続的な支配とハラスメントのパターンの一部として、継続的かつ長期の訴訟を利用することが明らかになっており、多くの女性が虐待そのものと同じかそれ以上にひどいと感じている(11章参照)。裁判所は、1989年のCA91(14)条に基づき、裁判所の許可なく申立てを行うことを禁止する命令を下すことで、当事者が訴訟を継続することを制限することができる。第 91 条(14)項の運用に関する実証的な研究は見当たらない。しかし、質的研究では、加害者が別居後の虐待の戦術として訴訟手続きを利用することが裁判所や専門家に十分に理解されておらず、加害者が訴訟濫用者と認定されることはほとんどないという事実が指摘されている(11章)。
 
限られた数の質的研究によると、子どもと若者は情報、コミュニケーション、協議を求め、自分たちの意見を聞いてもらい、自分たちの意見を真剣に受け止めてもらう権利があると強く信じているが、別居後の子の処遇を決める決定権を求めているのではないようだ(7章5)。Cashmore(2011)のオーストラリアでの調査では、暴力や虐待、親同士の激しい葛藤対立にさらされている子どもは、コンタクトの取り決めにおいてもっと大きな発言権を持つことを強く望んでいることがわかった。

1.5 実務指針12Jの実施

リーディングケースとなった控訴審判決Re L, V, M, H (Contact: Domestic Violence) [2001] Fam 260 は、コンタクト事件の裁判所と専門家に、DA主張がなされた場合のガイドラインを敷いた。その後の調査によると、裁判所や専門家が、子どもと同居親の安全よりコンタクトを優先させるため、これらのガイドラインはほとんど無視され、一貫性をもって適用されていないことが分かった(9章1)。その結果、Re Lのガイドラインを具体化した実務指針が2008年5月に家庭部長官から出され、その後PD12Jとして2010年の家族手続規則に組み込まれた。PD12Jは、DAが主張された子の処遇事件において、裁判所や専門家が従うべき枠組みを定めたものである。PD12Jは、その運用と実施に関する実証研究から生じた懸念(9章1)を受けて、2014年4月に改正され、2017年10月に再度改正された。
 
2017年に改正された後のPD12Jの運用に関する実証研究のエビデンスは見つからなかった。しかし、PD12Jの以前のバージョンに関する、またはその下で実施された定性・定量的研究から得られたエビデンスは、関連性を維持し、持続的な期間にわたって共通のテーマに関する一貫した知見の実質的なエビデンスとなり得る。
 
2014 年の前後の調査では、異なる裁判所や同じ裁判所の異なる裁判官の間で PD12J の適用に一貫性がなく、同じ裁判官が担当するケースはほとんどないことがわかった(9章14)。同じ裁判官が異なる聴取を担当した場合、彼らは虐待のパターンを認識することができ、それがケース管理と結果に良い影響を与えた。
 
2014年のPD12J改訂の前後に行われた質的調査によると、裁判官や専門家は家庭内暴力とその権力・支配の力学についてより理論的な理解を深めていた。裁判官の中には、加害者の行動の威圧的・支配的な側面を非常に重大なことと受け止めている者もいた。しかし、このような幅広い理論的洞察が必ずしも実践に結びついていない。一般的に、最近の激しい身体的暴力のみがコンタクトに関連すると考えられ、威圧的・支配的な行動は過小評価されていた(9章3)。
 
入手可能な量的調査によると、事実認定のための聴取が行われたのは、DAが主張されたケースの10%以下であったことがわかっている(表9.1参照)。PD12Jの2014年改正前後の研究では、事実認定のための聴取は通常、直近の非常に激しい身体暴力事件に関わる主張に限定されていることがわかった(9章4、9章5)。
 
事実認定のための聴取が行われた場合、母親は虐待を証明するための制度的障壁、態度に関する障壁に直面する可能性がある(9章8)。PD12Jの改正前後の研究によると、被害者が受けた虐待の証明可能性は、特に母親の説明を裏付ける外部証拠がない場合、女性の虐待主張に対する疑念や不信感によって妨げられうることがわかった(9章8)。これは、典型的な被害者や被害者の行動についてのステレオタイプなイメージによってさらに悪化する可能性がある。虐待を立証する上でこのような障壁があるにもかかわらず、事実認定のための聴取が行われた場合、事件記録の分析や質的研究で報告された最もありがちな結果は、争いになっている主張の一部または全部が立証されたと認定されるというものだった。
 
また、リスクの評価は一貫性がなく不十分であり、PD12J で規定されている福祉的要素の適用も一貫性がなく、安全よりもコンタクトが優先されていたようである(9章9、9章11)。最も鋭いリスク評価を行うDAの専門家がリスク評価に任命されることはほとんどない。父親に虐待の責任を問うたり、家族への影響を認めて償おうとしている証拠を求めることには、かなりの抵抗があることがわかった。
 
統計や質的・量的調査によると、すべての私法事件の大部分で、子どもとDA加害者との間に何らかの直接的なコンタクトが命じられていることが明らかになった(9章12)。コンタクト禁止の命令は、常にコンタクト命令全体の1%未満であることが判明している(表9.2参照)。質的研究では、最近の極めて深刻な身体的暴力のみがコンタクト禁止を命じられる可能性があることがわかった。量的な事件記録分析と質的研究によると、DAの主張を含む事件の最も一般的な結論は、監視なしの直接のコンタクト命令であり、これが、監視なしの、できれば滞在するという最終目標に向かって、漸増的または「ステップ」的なアプローチによって達成されることがわかった(9章12)。
 
監督または支援つきコンタクトを命じられた場合、コンタクトセンターの問題点として、監督にあたるコンタクトセンターでも警戒レベルが低いこと、DAのスクリーニングがないか最小限であることなどが挙げられ、これらはすべて女性と子どもを危険にさらすものであった(9章13)。Caffrey(2017)の量的・質的研究によると、DAの懸念を伴うほとんどのケースでは、支援にあたるコンタクトセンターでコンタクトが促進され、コンタクトの監視はほとんど行われず、ボランティアはDAの懸念に気づかないことが多いという。

 1.6 コンタクト命令の強制執行

2012年に行われたコンタクト命令の強制執行に関するTrinder et al.の質的および定量的研究 (2013) は、裁判所が一般に最も適切なアプローチを採用したけれど、このアプローチがリスク/安全が関わる事件――もっともよくあるのはDAの主張や認定が行われる事件に向けられたものでなかったことを明らかにした。例えば、リスクケースの44%で、安全保護が誤ってあるいは不適切に、当事者をメディエーションに送ったり、監視なしのコンタクトを命じたり、DV加害者プログラムに誤って送ったり、参加させ損なったりしたことが分かった。 
 
(注1)被害者と証人のための隔離待合室を含む特別措置;特別の出入り口;法廷外からのビデオリンクもしくは遮蔽による証言。

 

第2章 イントロダクション

2019年5月21日、 司法省は、家事裁判の各方面から集められたエキスパートからなる委員会(パネル)によるエビデンス提出の呼びかけを発表した。これは、ドメスティック・アビューズ(以下「DA」という。)やその他深刻な犯罪の懸念がある私法上の子の事件で、家庭裁判所がどのように子どもと親を守れているかに関わるエビデンスを集めるものである。この調査を支えるため、司法省は、DAで私法上の子の事件にかかわった子どもと親へのリスクと、これらリスクが家庭裁判所でどう扱われたのかに関わる適切な文献レビューを委託した。この文献レビューの範囲、特別の考慮項目と方法論はエキスパートの委員会(パネル)の学術メンバーと相談して決められた。このレポートは、典型的な司法省のそれよりも開示と透明性の利益において長く詳細で、短縮されていない。この文献レビューの方法は第3節で述べられている。
 
このレビューで議論した項目は3つのテーマにわたる。
・離別前後の子どもたちと親たちのDAの経験
・DAに関わる家庭裁判所の手続と命令に対する子どもたちと親たちの経験
•家庭裁判所が私法上の子の事件でDAにどう対応しているのか、実務指針12Jの適用、コンタクト命令の強制執行と虐待的な申立への処理を含めて。
 
PD12Jは、DAが主張されたり認められた場合に、裁判所が行うべきことを定めたものである。当事者や子どもが他の当事者によるDAを経験した、またはそのような虐待の危険性があるという主張やその他の信じるに足る理由がある場合、子どもに関するあらゆる申立てに適用される。
 
この文献レビューは、1989年児童法のもとで父母間に紛争を生じ、家庭裁判所に子の処遇命令を申し立てたものに焦点を当てている。「子の処遇命令」とは、これまでの「住居」や「コンタクト」といった法令上の用語に代わるものである。「子の処遇命令」とは、「子どもが誰と一緒に暮らし、誰と時間を過ごしたり、その他の方法でコンタクトするかに関わる処遇を定める」命令と定義されている(1989年カリフォルニア州第8項)。
 
この報告書での文献レビューは全部で87の、法社会学的実証研究等として報告書、書籍そして学術雑誌記事として出版されたものからなる。これらには次のものが含まれる。

・文献レビュー
• 統計、裁判記録その他の記録に基づく大規模な量的調査
•インタビュー、フォーカスグループ、裁判例、観察に基づく質的調査
・回顧的調査
・長期的な研究

この研究から得られた複合データと主要な調査結果をトピックごとに紹介する。これらの研究の方法論の概要は、著者名のアルファベット順に付録Aに記載している。

第3章 調査の方法

この文献研究は2019年7月22日から8月31日までの間に行われた。レビューの対象となるトピックは、司法省の専門家パネルの学識経験者とともに作成された。このレビューには時間的制約から迅速な証拠評価アプローチ(A rapid evidence assessment approach)が適用された。アカデミックなデータベースと電子データのソースであるScopus, Google Scholar, LexisNexis, Westlaw and Family Law Week を、レビューの項目から直接出てくる用語を用いて検索した。このレビューの期間と含まれるトピックの幅広さを考慮して、検索はまず既存の文献レビューに焦点を当てた。さらに、文献レビューに空白や不十分なデータがある場合は、個々の研究についてデータベースや電子情報源を検索し、より新しい資料や発表されたコメントを探した。文献調査に加えて、データベースやインターネットを利用して、背景情報、法律や法的展開に関する情報、統計情報を検索した。検索は、イングランドとウェールズで実施された研究を中心に行ったが(ただし、既存の文献レビューには複数の法域の研究が含まれている)、他のコモンローの法域、すなわちスコットランド、米国、カナダ、オーストラリア、アイルランドで実施された研究にも対象を広げた。これらの検索は、イングランドとウェールズの研究に欠落や不十分なデータがあった場合、あるいは既存の文献レビューで強調された場合に行われた。検索の期間は、1996年(英国でDAと子どものコンタクトに関する最初の研究が発表されたとき)から2019年8月までとしたが、それ以前の重要な研究もいくつか含まれており、このレビューの時点で「出版されている」論文については最新の参考文献が含まれていた。検索の結果、レビュー対象の出版物は合計87件となった。これらは、7つの文献レビューと83の実証的研究から構成されている(いくつかの研究は複数の出版物で報告されている)。これらの研究の方法論の概要は、使用された方法、サンプルサイズ、期間などを含め、付録Aに記載している。この文献レビューと付録Aに記載されていない限り、レビューされたすべての実証的研究は、イングランドとウェールズで実施された。

3.1 質的保証

本レビューの質は、国内外に知られた組織の学術的研究者による査読論文とこれらの者による実務ベースの調査に限定して検索することで確保した。特定しレビューした文献は、44の査読された学術ジャーナルの論考か本と、39のレポートを含む(注2)。これら出版物はすべて詳細な研究手法(方法)を明示し、多くの調査はデータの信頼性を高める複数の方法を合わせて用いている(付録Aを参照))(注3)特定しレビューしたレポートは、すべて、司法省、ウェールズ政府、大法官府、内務省、子ども・学校・家族省といった、信頼できる組織の学術研究者によりなされたものである(注4)。すべてのレポートは、用いた手法につき十分な情報を明示して、子のレビューにあたる当局がその信頼性と厳格な方法論によったことを評価し確認できるようにしている ( 付録A参照)。さらに、Nuffield Foundation、NSPCC、Family Justice Council、EU、Australian Attorney-General's Department、US National Institute of Justiceなどの機関から資金提供を受けている報告書もあり、資金提供団体の厳格な方法論的要件を満たす必要があった。
 

3.2 限界

迅速なエビデンス評価レビューに伴う主要な限界は,各々のトピックに関する文献を完全かつ包括的な一式の形で保証できないことである。しかし、合理的な方法で実施することで、構造化された厳密で信頼性の高い文献の検索とレビューを行うことができる(Crawford, Boyd, Jain, Khorsan and Jonas, 2015を参照)。

2017年に改正された後のPD12Jの運用に関する実証研究の証拠は見当たらなかった(注5)。しかし、PD12Jの以前のバージョンに関する、あるいはそれに基づいて実施された質的・量的研究のエビデンスは、関連性を保ち、持続的な期間にわたって共通のテーマに関する一貫した知見の実質的な証拠となると思われる。PD12Jの最も広範な改訂は2014年4月に行われたものであり、2010年から2018年の間に行われた裁判官や専門家の認識に関する研究(9章参照)では、最近の実務の実質的な変化を示すエビデンスは得られていない。また,家庭裁判所における被虐待女性の経験に関する研究では,この問題が頻繁に取り上げられているが(7章2項参照),イングランドとウェールズで実施された片親引き離しとDAに焦点を当てた実証的な研究は見当たらなかった。このテーマについては、報告された判決の包括的なレビューと分析が行われているが(Barnett, 2020)、これまでのところ、報告された事件の分量は、他の法域で行われているような大規模な研究を可能にするには至っていない。最後に、専門家パネルへの付託事項には、DAだけでなく、子どもや大人の被害者に危害を加える危険性のある他の重大な犯罪も含まれていたため、文献検索の対象となったテーマの一つに、レイプによって妊娠した子どもに対する父親のコンタクトがあったことは留意すべきである。この問題に関して、イングランドとウェールズで行われた研究はなかった。米国での限られた数の研究では、レイプ犯である実父が女性の中絶を阻止したり、子どもに対するその他の決定権を主張したりする状況に焦点を当てたものがあった。米国では、すべての実父母が自動的に親権を持っているため、これらの研究はイングランドとウェールズの状況とは関連しない。これは、イングランドとウェールズのケースではない。関連する文献がないため、このテーマは文献調査の対象外とした。
 
(注2)6つの調査がレポートとジャーナルの論稿の双方で報告されている。
(注3)文献レビューのうち2つは用いた方法の詳細が含まれていないが、それらが多数の調査をレビューし、そのほとんどがほかの文献レビューでもレビューされている(McLeod, 2018; Thiara and Harrison, 2016)ことは留意してよい。
(注4) ここに上げた部門のいくつかは名称が変わっている。One publication reported on a Parliamentary Hearingでの証言に関して公的報告が出されている (All-Party Parliamentary Group on Domestic Violence, 2016)。
(注5)PD12Jは、DAの疑いが提起された子の処遇事件において、裁判所や専門家が従うべき枠組みを定めたものである。前回は2017年に改訂された。改訂版は「PD12J 2017」と呼ばれている。

②英国司法省面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書に関する文献レビュー(Domestic abuse and private law children casesA literature review2020)【抜粋】に続きます。

 


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