それぞれの言い分|片想い文芸部
「アイデアくらい出してくださいよ」目の前には憮然とした表情のクライアント。
「おっしゃりたいことはわかります。しかし・・」
「とにかく出直してください。このレベルの話では時間の無駄です。発注そのものを考え直さなければと思います」
必死に食い下がる私たちを遮って、相手はミーティングの終了を告げた。
私たちはパートを入れても従業員5人の会社。チラシ、カタログ、ホームページ制作を請け負う何でも屋にとって、信用を失うことは死活問題につながる。
「それにしても、あの担当者は酷いよな、自分の理屈と都合ばかりを押し付けてくる」
帰りの社用車の中で、運転をしながら同僚が愚痴る。興奮する同僚に対して、私は意外に落ち着いていた。これが2人チームで行動することのメリットだ。片方が熱くなるともう一方は冷静になる。
しかし、「仕方ないさ、あの人にはあの人の理屈があるのだから」そう強がるセリフを口に出した途端、内心では別の想いが渦を巻いた。
私と同僚はそれ以上は言葉を交わすことなく、黙り込んだ。
反論したい思いと泣き出したい気持ち。昨日の彼女もこんな思いでいたのだろうか。
「アイデアくらい出してよ」そう言う私に彼女は黙った。
2人で次のデートの相談をしていた。あそこに行こう、あれを見ようと説明する私に彼女はいちいち頷く。良いね、素敵ね、と繰り返す。そんな彼女に私は少し苛立っていた。
恋人同士と言えるほどの関係ではまだない。自分の片想いを彼女に押し付けたようなものだった。
彼女の大人しさ、素直さを好ましく思って自分からアプローチした。それなのに彼女のそうした振る舞いが嫌になることがある。
先ほどのクライアントと、自分は同じことをしている。相手の話を聞くこともなく、自分の考え、自分の立場からばかりものを言っている。言い分を通したくて仕方がないのか、いや、相手に甘えているだけではないだろうか。
ミーティングを早く打ち切られたせいか、道路は思ったよりも空いていた。10分もすれば、事務所に戻れるだろう。
会社に戻ったら、クライアントに再提出する資料を至急なんとかしなければ。そう思う一方で、彼女に謝りのメールを打とうと私は決めていた。
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