半透明の海|風まかせ文芸部
グラスを割ってしまった。
流しの縁にぶつけただけなのに、あっけないほど簡単に。
破片を拾いながら、指先がひとつの記憶に触れる。
——尖ったものをね、海が丸くしてくれるの。
年上の従姉はそう言って、砂浜にしゃがみこんでいた。
緑や水色の小さなかけらを拾っては、麦わら帽子の中へ入れていく。
シーグラス。もとは、ただの瓶の破片だという。
波に揉まれ、角を失って、すりガラスのような肌になる。
「ほら、こうすると」 光にかざす従姉の指先に、緑が灯った。
透けているのに、向こう側は見えない。 半透明の、小さな海。
あの夏の終わり、私は彼女にひどい言葉を投げた。
彼女とはそれきり会っていない。
歳月を経ても丸くならない破片もあるのだろうか。
引き出しの奥にある、小さな缶。
あの日、従姉が分けてくれた緑のかけらが、入っている。
取り出して、窓の光に透かしてみた。
今も向こう側は見えなかった。
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