星月夜|片想い文芸部
「ほしづきよ、って読むんですよね」
ゴッホの絵の前で、私はそっと呟いた。あの人と初めてきた美術館。デートといえるような関係ではない二人。
目の前には渦巻く空、踊るような星々。見ているだけで胸がざわめく。
「綺麗な響きだね」
あの人はそう言って微笑んだ。私は思わず目を逸らす。言いたいことは山ほどあるのに、言葉は喉の奥で止まっていた。
美術館の帰り道、カフェで向かい合って座った。窓際の席から見える空は、夕暮れから夜へと変わりゆく境界線。
「あの絵、なんだか君に似ている気がする」
あの人がふと言った。
「え?」
「静かに見えて、心の中ではいろんなことを考えているところ」
ドキッとした。まるで心を見透かされたみたい。私は慌ててコーヒーカップに視線を落とした。
「そんなことないです」
嘘だった。今この瞬間も、私の心は星月夜の絵のように激しく渦巻いている。あなたと居るから。
この人は優しい。いつも私の話をちゃんと聞いてくれる。私が言葉に詰まっても待っていてくれる。だからこそ、この気持ちを伝えることができない。今の関係が壊れてしまうのは、何より恐い。
「今度は夜に来てみたいな、美術館」
そう取り繕う私にあの人は言った。
「夜間開館の日があるらしいよ」
私は知っていた。でも、一緒に行こうと言うことができなかった。
家に帰って、ベランダから夜空を見上げる。街の明かりに負けずに、星たちはそれぞれに瞬いている。
星月夜。
あの絵のタイトルを心の中で繰り返す。ゴッホも、こんな夜空を見上げて、胸の奥の想いを絵に込めたのだろうか。
私は想いを形にする術を知らない。ただ、この気持ちを抱えたまま、夜空を見上げることしかできない。
星たちは静かに輝いている。
いつか、あの人と一緒に、星月夜を見上げる日は来るだろうか。

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