お気楽お帰洛記(2026年夏)其弍
こちらの記事は、前回からの続きとなっております。
実際、京都の話が始まるのは今回からなのですが、よろしければこちらもどうぞ。
という訳で、彦根を経由したお帰洛一日目…
今回の目的の一つは、相国寺の承天閣美術館にて開催中の「後水尾院の京」という展覧会に行くこと。
この後水尾院と奥さんの東福門院というのは、とにかくセンスの塊のようなご夫婦だったようで、皇族らしい雅やかな趣味と芯の通った美意識によって、多くの文化を庇護、牽引したカップルでもあります。
また当時の市中を見渡せば、利休さんの孫の千宗旦がいたり、本阿弥光悦や俵屋宗達がいたり、大徳寺には沢庵和尚や江月和尚がいたりと、京都という街そのものが大変におもしろかったであろう時代。
そんな”古都の香り”を堪能すべく、炎天下の街へと一歩を踏み出しましたが、
その前に…
鎌倉住まいで染みついた無骨な塵を洗い流し、少し雅な雰囲気に体を慣らしておこうと向かったのは、京都御苑内にある”仙洞御所・大宮御所”。

こちらは、天皇を退位した上皇や、皇太后らがお住まいになった御所だそうで、先ほどの後水尾院と東福門院がお住みになって以来、現在の場所に定められているとのこと(ちなみに、見学は要予約です)。
建物は火災などで当時のものがほとんど失われており、庭園も大きく改修されているそうですが、一歩足を踏み入れると、そこにはなんとも”やんごとない空気”が流れており、外の灼熱も忘るるばかり(やっぱり暑いけど)…。

中でも、やっぱり惹かれるのは、お茶室。
すっかり興奮して全体像を撮り忘れてしまったのですが、気になる方は以下のリンクからご覧ください。
こちらの「醒花亭」は詩人・李白の記した文章から名付けられたとのこと。
普通、お茶室には「〇〇亭」などの扁額が掛けられることが一般的ですが、ここは文章そのものの拓本(書を彫りつけて、墨を塗って拓をとったもの)が飾られているのが、大変印象的です。

ちなみに、拓本に書いてある文章(李白の書いた部分だけ)を引用するとこんな感じ。
夜来月下卧醒 花影零乱 满人衿袖 疑如濯魄于冰壶也
(意訳)
昨晩、月の下で目を覚ますと 花の影がざわめいており
衿や袖には花びらが満ちていた
まるで氷の壺(月光)で魂まで洗い清められた心持ちだ。
この辺りは春になると桜の美しい場所だそうで、その情景とマッチした大変雅やかな文章。こんなお茶室で春のひと時を過ごせたら、まさに一刻直千金でしょう。
さて、そんなこんなで、すっかりやんごとない気分になったところで…
満を持して、承天閣美術館に向かいます。

残念ながら展示物の写真は撮れなかったので、雰囲気だけでもこちらからどうぞ。
展示は全体として華美に流れすぎることもなく、書状や資料的なものも含めて、実に地に足のついた感じ。
この渋さがかえって、ご当地特有の落ち着きを感じさせ、大変興味深く楽しみました。
個人的に「おぉ!」と思ったのは、鳳林承章というお坊さんが自身の幅広い交友録を克明に記した日記「隔蓂記」の原本と収納箱のセット。
この時代の話が出ると必ずと言っていいほど引用される文献で、いつかはきちんと読んでみたいと思っているのです。
黒く変色した木箱の中に収められている全三十冊の日記に、当時の京の街の色んな息遣いが書き付けられていると思うと、なんだか有難い経典を前にしたように、自然と恭しい気持ちになったのでした。
そして展示を見ているうちに、久々に見たいものを思い出し…
美術館を出たあとは一路、嵯峨野の大覚寺へ。
このお寺も後水尾天皇とのご縁が深いお寺で、境内には、東福門院が使われていた女御御所の宸殿が下賜されて遺っているのです。

そしてこの蔀戸の留金の部分にご注目…

僕は蝉が大変好きなので、また蝉についても、そのうち書くかもしれませんが、このセンスがたまらなくオシャレ。
10年ほど前、ちょうど蝉時雨の中で初めてこの留金を目にして以来、何度か”これ見たさ”に大覚寺を訪れているのです。
そんなことをしている内に、辺りは少しずつ夕刻に近づいていきます。
「考えてみると、今日は一日このご夫婦の足跡を追っていたなぁ」と思いながら、大沢池をぼんやり眺めてこの日の”お帰洛”は終了。

明日は利休さんの故郷、大阪・堺の街に遠出をするので、少し早めに切り上げてホクホクと帰途に着いたのでした。
(次回へ続く)
という訳でまたまた次回に行く前に…
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