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You are my brightest star.

「みて、あの赤い星。きれい」

冬の夜は、星が透き通ってみえる。
流れ星みたいな気持ちを分け合いたくて、声をかけた。

「あれは、もうすぐなくなっちゃう星の色なんだよ」
いたわるような息子の言葉に、どきりとした。



私には、9歳の息子がいる。
彼は甘えん坊で、人に優しく、思いやりがあり。
素直で感動しやすい、一等星のような子どもだ。
私は彼の感性を、とても愛している。

今年、彼は学校の友だちからスキー教室に誘われた。
学校以外でも友だちと遊びたい。彼はよくそう言っている。
だから息子は大喜び。満天の星空のような顔で「行きたい!」と言った。

でも私の仕事の都合がつけられず、行けそうにない。
息子はとても残念がったが、諦めた。
そうしたら、誘ってくれた友だちの親や知人である運営の人は「ひとりくらい面倒みれるから、よかったらお子さんだけ一緒にどう?」と言ってくれた。
どうやら子どもだけで参加する子もいるらしい。
そういえば私も、小学6年生のときひとりで参加したことがある。じゃあ大丈夫かなと甘えてしまった。

息子は大喜びで、毎日その話をする。
そんな息子に、夜空に無数の星がきらめくような世界の広がりを感じた。
瞬く星を一緒に数えるように、私もわくわくした。

でも、
初めてのひとりで旅行。
初めてのスキー。
同行する大人は信頼できる人たちだから、大丈夫。とは思っても、私は当日が近づくにつれ、じわじわと不安が染み出してきた。

雪山で遭難したらどうしよう。
怪我をしたら。
SAサービスエリアで、気づかれずに置いていかれたら。

我慢できずに
「勝手にどこかへ行っちゃだめだよ」
「トイレに行くときも、必ず大人に声をかけてね」
「友だちと楽しくなっても、調子にのらないのよ」
不安がつい口からぽろぽろとこぼれて、うっすらと雲をつくる。
これ以上言ったら、せっかくの楽しみな気持ちが曇ってしまう。でも、
「遭難しないでね」
小さい声で黒い雲を、吐き出してしまった。
息子の星空が少しだけ、雲に覆われた気がした。


当日の朝、まだ夜のうちから家をでる支度をする。
忘れ物はないか、もう一度荷物チェック。
バスに持ち込むもの、トランクに入れるもの。
「まだ出ないの?早く行こうよ」
帽子、マフラー、手袋。
「先に車に乗ってていい?」
パジャマも入れた。大丈夫。
よし、出発だ。
家を出ると、見上げた空の星が見守ってくれていた。

「まだ真っ暗だね。みんな寝ているみたいだね」
息子が、初めて見る真夜中の町にわくわくする。
「忘れ物ないかな……」
「あ!歯ブラシ!」
途中で歯ブラシを忘れたことに気づき、慌ててコンビニで買う。
「もう少しゆっくり出ても間に合ったのに」
「みんな早く来るって。もういるんじゃないかな」

集合場所に着いてみると、まだ2,3人しか人がいない。
「寒いからもう少し車で待とうか」
「もう来るよ、あっちで待ちたい」
少しずつ集まってくる人に、ほんとに行くんだと私も息子もドキドキした。

友だちが、駐車場からかけてくる。
目的地に着いたらすぐにスキーだから、やっぱりみんなももうスキーウェアーだ。良かった。みんなの色とりどりの雪山装備をにこにこ眺めていたら、友だちのなか息子だけ、いつもの靴を履いているのに気がついた。
あっ!あーっ!
「ごめん。どうしよう。くつ、スノーブーツにするの忘れちゃった」
「あー……」

1週間前、玄関に箱ごと出してそのままにしていた。
なんで前の日に、箱から出しておかなかったんだろう。
出しておけば気がついたかもしれないのに。
今から取りに帰っても、出発時間には間に合わない。
夫を起こして持ってきてもらおうか。
あんなに早く着いたんだから、もっと早く気がつけば、取りに帰れたのに。
巻き戻せない時間の代わりに、いろんな考えがぐるぐると回っている。

「ごめんね……間に合うかわからないけど、今から取りに行ってこようか」
少し困った顔の息子に、小さく謝る。
「いいよ、あっちの人もおんなじだし」
息子が指差す先に、同じように普通の靴を履いている高学年の子が、何人かいた。
「でも……」
「あ、もういかなきゃ。じゃあね!」
私の手から荷物を受け取って、息子はまるで彗星のように、友だちとバスに駆け込んでいった。

靴のことなんか忘れた息子が、あっちの席、こっちの席と移動して、友だちと楽しそうに持ってきたお菓子を覗き込んだりしている。
まぶしいな。
寒さに身を縮めながら、出発までの間、空の星とバスの明かりを私は交互にぼんやりと眺めていた。
そしてバスは、スノーブーツと私を残して、行ってしまった。


過ぎたことは仕方ない。仕事に行こう。
髪をまとめて、仕事に気持ちを切り替えようとして、気がついた。
持って出たはずのヘアクリップが、ない。
娘にとても似合うと褒められてから、一番大事にしていたやつ。
急いでいたから、上着のポケットにくっつけていた。途中どこかで落としたのかもしれない。
コンビニかな。それとも集合場所?

忘れたスノーブーツに、なくしてしまったヘアクリップ。
ほんの小さな失敗が、みるみる真っ黒な雲に変わっていく。
本当に息子を一人でいかせて良かったんだろうか。

全てが雲に覆われて、星のない空のような気持ちになった。



夕方仕事を終えてとぼとぼ家に帰ると、息子がいないことも、ヘアクリップをなくしてしまったことも、たいして気にならない娘は、いつも通りくつろいでいる。
知人からくる、息子の様子を教えてくれる写真が、小さな星の明かりを届けてくれた。

いつものあかりと、小さな明かりに気持ちを宥められて。
その日はいつもより少し早めに眠ることにした。

こうやって、少しずつ離れていっちゃうのかな。
写真の中で楽しそうにしている姿に、遠い星を眺めるような気持ちになる。
どうしているかな。
困ってないかな。
そう遠くない未来、星を眺めるだけの自分を想像する。

去年は一緒に星を見たのに。
ずっと一緒には、見られないんだな。

翌日も、スマホの流れ星を待ちわびて過ごす。
そうしてやっと、帰って来る時間になった。
私も、今度は彗星になった。

緑の大きなバスが到着する。
次々と降りてくる人。
どんどんと運び出される荷物。

いた。私は一番星をみつけた。

待ちわびた息子の手には、大きなお土産の袋。
「ママに、わさびのポテトチップ買ってきたよ。好きでしょ」
得意げに光るお星さま。
「ありがとう。すっごくうれしい」
旅先で、私にと選んでくれたお土産も息子も、ひときわ輝いて見えた。

お世話になった人に、ひとりづつハグして回りたい気持ちを抑えて自宅に向かう。きっと疲れたろう。
「楽しかった?」
「うん」
車の中で、お土産を選んだ話、スキーの上達の話。
疲れた、早く目が覚めた。いろんな話をする。
「じゃあ、来年も行く?」
息子の大きな成長に、まぶしい想いでいっぱいになる。

「……来年は行かないかな」
「楽しくなかった?」
「……そうじゃないけどさ」
そう言った、息子の表情は見えなかった。
「ひとりだけで、寂しかった?」
「……うん」

あとから一緒に行った人に聞いた。
スキー用の手袋を、うまくはめられなかったこと。
朝早く目が覚めたけど、トイレに一人で行けなくて我慢していたこと。
財布をトランクに入れてしまい、お金がないとなかなか言えなかったこと。

一人で行くと決めたから、たくさん我慢して、勇気をだして頑張ったのだ。

「来年はなんとかママも休みを取ってみるから、一緒に行こうよ」
今度はスノーブーツも連れて行くから。

家に着いて、車を降りたとき。
「あ、ママ。これ落ちてるよ」
息子は、私がなくしたはずのヘアクリップを差し出した。
駐車場の植え込みに落ちていたらしい。
ずっと暗闇で、私には見えなかったみたいだ。

ああ、やっぱり。
あなたは私の一等星だよ。





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本日が最終日です。
すべり込み、セーフ!

冒頭の区切り線から上が、書き出し部分です。(100文字)
私の星空を2日かけてお届けしました。
書評が、当たりますように☆



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