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【吹奏楽曲解説】ソプラノ・サックスとウインド・アンサンブルのための協奏曲(J.マッキー)

今回紹介するのはジョン・マッキーの『ソプラノ・サックスとウインド・アンサンブルのための協奏曲(Concerto for Soprano Sax and Wind Ensemble)』を紹介をします。

比較的初期の作品でありながらジョン・マッキー作品らしいカラフルな色彩感、キラキラとした音色、独特の和音が散りばめられた作品です。

私のnoteで取り上げたマッキー作品の楽曲解説は以下にリンクをまとめています。

■参考音源

■作品について

作品の基本情報

作品の基本情報は以下の通りです。

曲名について、マッキーの公式ホームページの作品紹介ページだとシンプルに『ソプラノ・サックス協奏曲(Soprano Sax Concerto)』、CDや国内の楽譜販売サイトだと『ソプラノ・サクソフォン協奏曲(Soprano Saxophone Concerto)』など記載されていて表記揺れがあります。

今回はスコア上の表記と合わせて『ソプラノ・サックスとウインド・アンサンブルのための協奏曲(Concerto for Soprano Sax and Wind Ensemble)』で統一しています。

原題:Concerto for Soprano Sax and Wind Ensemble
邦題:ソプラノ・サックスとウインド・アンサンブルのための協奏曲
作曲:ジョン・マッキー(John Mackey)
時間:約25分
難易度:とても難しい(Difficulty - Really hard)
出版:Osti Music
作曲年:2007年
委嘱:テキサス大学オースティン校、アメリカ海軍バンド等の28団体による共同委嘱
初演:ドナルド・フェビアン(S.Sax)&ジェリー・ジャンキン指揮/ダラス・ウインド・シンフォニーにより2007年10月23日にマイヤーソン・シンフォニー・センターにて初演

楽器編成

楽器編成は以下のキャプチャの通りです。

マッキーのこだわりが感じられるポイントとしては「トランペット4人全員が3楽章のみフリューゲルホルンに持ち替え」という点ですね。

4本のフリューゲルホルンが準備できない場合は「フリューゲルホルン2+コルネット2」や「コルネット4」でも許容できるがトランペット4のままでの演奏は好ましくない、と注意書きがあるのでトランペットの直線的な音ではなくフリューゲルホルン(コルネット)の柔らかい音が欲しかったのだと思います。

委嘱・初演について

委嘱と初演の経緯は東京佼成ウインドオーケストラ第165回定期演奏会パンフレットの解説が詳しいので以下に引用します。

2006年3月、『レッドライン・タンゴ』のABAオストウォルド作曲賞授賞式において、同曲をジェリー・ジャンキン指揮のダラス・ウインド・シンフォニーが演奏した。そのリハーサル後に同団の首席サクソフォン奏者ドナルド・フェビアンがマッキーに協奏曲を作曲してほしいと熱望し、ジャンキンに委嘱を提案する。ただちにジャンキンは同年9月にコンソーシアムを組織、ジャンキン率いるテキサス大学を中心とした28の演奏団体からの共同委嘱として2007年の夏に作曲が開始され
た。9月7日に完成したこの曲は、2007年10月23日にマイヤーソン・シンフォニー・センターで初演されている。

作曲の最初のアイデアはマッキーの妻から提示された「宇宙人が地球を訪れ、初めてソプラノ・
サクソフォンを見る。この奇妙な楽器はなぜこのような動きをするのか研究し、これで何ができる
のかを試行錯誤する」というもの。

東京佼成ウインドオーケストラ 第165回定期演奏会プログラムより引用

以前、『翡翠』も「『レッドライン・タンゴ』を聴いて衝撃を受けたメンバーによって委嘱された」と書きましたが、こちらの作品も上記の解説を読むと似たような経緯ですね。

当時『レッドライン・タンゴ』が如何に多くの人に衝撃を与えた作品だったのかが分かります。

楽曲構成

第1楽章:Prelude

鞭やバスドラムの強烈な一撃で始まる2分程の短い前奏曲です。最初の3小節間は伴奏のみでの演奏ですが、木管楽器と鍵盤楽器・金属系打楽器によるキラキラとした音が印象的です。

キラキラ感の表現のためか、鍵盤楽器系はあえてずらして演奏するような指示があります。

Concerto for Soprano Sax and Wind Ensembleの冒頭スコア(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

ソプラノ・サックスは4小節目から駆け上がるようなフレーズで登場します。2楽章以降で登場する様々な要素(素早いパッセージ、替え指の指定、ピッチ・ベンド、美しい高音のフレーズ…等)が先取りされて次々と演奏されます。

短い楽章ながらもこの後の各楽章の素材を上手く盛り込んでいる楽章です。ちなみに、マッキー自身のプレリュードの解説にこんな一文があります。

If you hear something you like in the “Prelude,” you’ll probably hear it more developed in the following movements. (Conversely, if you hear absolutely nothing you like in the “Prelude,” you may be in for a long night.)

第1楽章:Preludeの解説の抜粋
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

こちら意訳すると以下のようになります。25分程度と長めのコンチェルトなので観客のことを気にしてこのような文章を書いているのかもしれないですが、面白いですね。笑

「Prelude」で気に入ったフレーズを耳にしたら、その後の楽章でより発展した形で登場するでしょう。(逆に「Prelude」でまったく気に入るものがなければ、その夜は長く感じられるかもしれません。)

それにしても最初の楽章から凄い音数です…。笑
この曲は5楽章もソリスト吹きっぱなしの楽章ですが、この楽章も中々のものです。

マッキー自身も「さすがに音符書きすぎたか…?」と思ったのか、途中ソリストの楽譜に『sax will be essentially inaudible here; drop out between brackets if desired(この箇所ではサックスはほとんど聞こえません。必要であれば、かっこ内の部分は休符にしても構いません。)』と配慮するような記載があります。

上記の配慮が記載されている箇所。
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

徐々にソリストが遠ざかっていくかのようにデクレッシェンドしながら演奏され2楽章に続きます。

第2楽章:Felt

第2~4楽章はサクソフォンの材料となっている3種類の素材「フェルト(キーのパッド)」「メタル(管体)」「ウッド(リード)」を題材にしたユニークな楽章です。

また、伴奏パートも楽章のタイトルに合わせた楽器が中心となるような構成になっています。3楽章はメタルなので金管楽器中心、4楽章はウッドなので木管楽器中心といった具合ですね。

2楽章は「フェルト」。最初に取り上げる素材がこれ…?という感じですが。笑

サックスのフェルトのイメージ画像。
赤丸部分がバンパーフェルト。

この楽章はティンパニの激しいソロで始まります。「フェルト」の素材でティンパニ…?感はありますが、マレットのフェルトと結びつけているのでしょうか。

四分音符=160のテンポで拍子も頻繁に入れ替わる目まぐるしい楽章です。『タービン』や『アスファルト・カクテル』の雰囲気とも近いマッキーらしさが光る激しい楽章ですね。

ソリストはとにかく技巧的な楽章です。例えば、同音が続くフレーズでは細かく替え指(alternate fingering)が指定されており、微妙な音色の変化を求められています。

替え指指定の箇所
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

上記は序の口で、楽章が進むとピッチ・ベンド(運指はそのまま、アンブシュアで音程を微妙に変化させる)、グリッサンド、スラップ・タンギングなどがフレーズに盛り込まれていきます。

ピッチ・ベンド、グリッサンド、スラップ・タンギングなど様々な小技が盛り込まれています。
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

マッキーはこの協奏曲を書くときに「サックスは何ができるのか?」という問いに「サックスはいろんな奇妙な音が出せる」と自問自答して、それを表現したのが第2楽章だそうです。

テンポ160のまま駆け抜け、最後は常動曲のようなフレーズを繰り返し消え入るように終わります。

第3楽章:Metal

第3楽章:Metalは付点二分音符=30(四分音符=90)というゆったりとしたテンポの楽章です。

伴奏は金管楽器中心の楽章ですが、2楽章とは対照的に非常に穏やかな楽章です。ソリストも高音域で美しく歌うような息の長いフレーズが印象的です。

マッキー作品というと『レッドライン・タンゴ』や『アスファルト・カクテル』、この楽曲の2楽章のような快速・大音量・変拍子な曲のイメージが強いかと思いますが、この楽章のような緩徐楽章も非常に素敵です。

ソプラノ・サックスの得意とする透明感のある高音域が輝く楽章で、ソプラノ・サックスの魅力が最大限に伝わる綺麗な楽章ですね。

楽器編成の所でも触れたフリューゲルホルン4本で奏でる柔らかい音も印象的で、これを聴くとやはりこの楽章はトランペットではなくフリューゲルホルンに持ち替える必要があるな、と感じます。

息の長い旋律、金管楽器の独特なハーモニー、時折効果音として入るキラキラした鍵盤楽器・金属系打楽器は何年か後に作曲される『フローズン・カテドラル』や『ワインダーク・シー』の2楽章を彷彿とさせるような音楽です。

第4楽章:Wood

第4楽章:Woodは木管楽器、コントラバス、ピアノ、ハープ、マリンバという「木」を主体とした楽章で、ジャズ・クラブで演奏されるような四分音符=120の「タンゴ」の楽章です。

マッキーいわく、この協奏曲の委嘱のきっかけになった『レッドライン・タンゴ』を踏まえてタンゴの音楽にしたそうです。

第2楽章で出てきたスラップ・タンギングはこの楽章でも出てきますが、ピッチカートのように演奏する指示があり、使い方がオシャレですね。

最後はマリンバ、コントラバスのピッチカートの音と共に徐々に遠ざかって次の楽章へ。

第5楽章:Finale

ソプラノ・サックスの素材を題材にした楽章が終わり、第5楽章:Finaleの冒頭の管楽器による伴奏はマッキーの師匠であるジョン・コリリアーノの『クラリネット協奏曲』の第3楽章からの引用で始まります。

スコアにも丁寧に「許可を取ってこのフレーズを使用している」という記載があります。

スコアのコントラ・ファゴットの下に「Used with permission」の表記があります。
(ジョン・マッキー公式ホームページより引用)

なお、このフレーズはコリリアーノもジョヴァンニ・ガブリエリの『ピアノとフォルテのソナタ』から引用しているものなので、マッキーの使い方は「引用の引用」という位置づけになりますね。

さて、この楽章のソリストは何をやっているのかというと、およそ4分半吹きっぱなしのとんでもない楽譜となっています。

この作品はマッキーの公式ホームページから楽譜のPDFを見ることが出来るのですが、ぜひソリストの楽譜を以下から参照してみてください。
楽譜にすると6ページ、誇張無しに文字通り吹きっぱなしとなっています。

どこで息継ぎをしているの?と思ってしまうような驚きの黒さの楽譜なので、譜めくりをする暇なんて当然ありません。本当にどうやって演奏しているんでしょうか、これ…。とドン引きしたくなるような超絶技巧の楽章です。

第2楽章の解説でマッキーが「サックスは何ができるのか?」と自問自答した、と触れましたがこの楽章では「サクソフォンとは怪物のように難しいものを演奏できる(the sax can play some monster-difficult stuff.)」という答えを出して曲は閉じられます。

■収録CD

以下のnoteにCD聴き比べとしてノーカット音源を別途まとめていますので、収録CDについてはぜひこちらを参照ください。

質実剛健な印象な須川展也&TKWO、若さ溢れる輝かしい音色の上野耕平&ぱんだWOどちらもおすすめです。

■最後に

今回はジョン・マッキーの『ソプラノ・サックスとウインド・アンサンブルのための協奏曲(Concerto for Soprano Sax and Wind Ensemble)』の吹奏楽曲解説でした。

ソリストだけでなく伴奏にも容赦ない相当な難曲ですが、ソプラノサックスの華やかさ・高音域の美しさ・超絶技巧をバランス良く楽しめ、聴きやすさも兼ね備える名曲かと思います。

これだけ難しい楽曲なので演奏頻度はそこまで高く無いですが、日本では数年おきにこの楽曲に挑戦するソリスト・楽団が居ますね。直近だと林田祐和&東京佼成ウインドオーケストラが定期演奏会で取り上げておりました。

演奏会に伺いましたが林田祐和氏の変幻自在な音色が素晴らしかったです。
演奏会丸ごとCD化して欲しい…。

余談ですが、ソプラノ・サックス協奏曲にはソプラノ・サックス&ピアノ伴奏版が存在します。

ピアニストのリズ・エイムズの協力により編曲されたバージョンですが、もとの吹奏楽伴奏版でも伴奏の音数がどんでもない楽曲なので当然ですがピアノ伴奏の難易度もとんでもないです。

マッキー自身も「ソリストと同等の演奏難度」とコメントしており、マッキーの以下のブログでは「素晴らしいピアニストを探すか、彼女(編曲に携わったリズ・エイムズ自身)を雇うことも可能」とユーモアを混じえて紹介されています。

マッキーのブログは他にも面白い内容が色々と書かれているので興味あればぜひ参照してみてください

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