上京して出会った『御座候』|今川焼き?なんや、それ👋
デパ地下に並ぶ惣菜やスイーツは、食べ物というより宝石だった。どれも良く見えるのに、いつ手を出していいか分からない。お財布の中身と相談しながら彷徨っていたとき、懐かしい看板が目に入った。
『御座候』

「われ、関東にも進出しとったんかぃ!」思わず声をあげそうになった。さっきまで横目で見ていたプリンも、キラキラしたケーキも、全て背景に下がる。
御座候からすれば、ずっと前からここにいたのかもしれないけど、感覚としては新宿駅でバッタリと高校の同級生を見かけたかのような驚きだ。しかも顔を見るなり「何をそんなに驚いてるん?」とでも言いたげに、赤あんと白あんをきっちり並べていた。
子どもの頃よく通った千里阪急では、御座候はいつも端にいた。隣の551で豚まんを買うか、それとも御座候にするか、よく悩んだものだ。ケーキほど気取っていないのに、家に箱があると嬉しかった。ここでは隣がDONQだったこともあり、どこか神戸のハイソな香りが漂っていた。
ミニクロワッサンを横目に見つつも、御座候の焼き場の前へと立っていた。ガラス越しに、生地の焼ける音と湯気が上がる。目の前で生地が丸く流され、あんこが置かれ、焼き上がるたびに手際よく箱へと閉じられていく。その流れを何となく眺める時間まで含めて御座候だ。

この景色を関ヶ原どころか、桶狭間を越えた場所で見るのはなんとも感慨深かった。関西では特別でもなんでもない御座候も、こっちでは『今川焼き』に変わる。
もし店先で「今川焼きいかがですか」と言われたら、まず買わない。たとえ中身が同じであろうと、手にした瞬間どこか遠くから「魂を売ったやろ」と声が聞こえるからだ。口に入れてしまったら最後、二度と関ヶ原どころか桶狭間を越えることすら許されなくなる。
あんこ一枚でどこまで背負う覚悟があるか、口に入れる前にもう戦は始まっている。「御座候、焼き上がりました」と言われたら、関西人として買わなければ失礼だ。

赤あん、白あんと書かれた丸い文字が映った。このご時世、まだ1個110円で売られてるのもありがたい。赤は定番、白はよそ行き。「赤にする?白にする?」と聞かれた時間まで、まとめて食べている。どちらを選んでも正解なのに、毎回ちょっと悩むフリをするのだ。
家族の分もと考えたが、このこだわりは関西人でない妻や娘には伝わらない。結局、その場で食べるように赤あんをひとつ、お家でこっそり食べるように、赤あんと白あんをふたつづつ箱に詰めてもらった。

紙袋のずっしりとした感じも、手に伝わる温度も、昔と変わらなかった。ひと口かじると、薄い皮の内側からあんこがしっかり詰まっていて、甘さが先に来るのに後味は軽い。派手ではないけど“これや、これ”となる。敵地で食べているのに、口の中は阪急の帰り道だった。

宝石が並ぶ売り場で、結局いちばん安心したのは、値札より先に名前で手が伸びる食べ物だ。名前がしゃれたケーキや、今半のすき焼き弁当よりも、最後に選んだのは丸くて茶色い、昔から知っている味だった。
上京してまでそれを確認している時点で、まだ魂は売ってない。

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