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教科書の外へ出たら、教科書の中だった

メトロの駅名表示を見ているだけで、気分が上がった。

赤坂見附。  
溜池山王。  
虎ノ門。

東京の駅名なんて、ただの地名だと思っていた。ところが並んだ文字はやけに強く、地名というより肩書きのようだった。車内で見ているだけで、東京の中心へ運ばれていく感じがある。地方で暮らしていた頃には、駅名を眺めるだけでこんなふうに気分が上がることはなかった。

溜池山王で降りると、すぐ近くに首相官邸があった。パトカーが何台も止まり、制服の警察官が立っている。自然と背筋が伸びた。歩道の空気までかたく感じる。見慣れた街の交番前とは、張りつめ方が違った。

目的は日枝神社。東京十社巡りの途中で立ち寄ったはずが、その日いちばん印象に残ったのは神社の外。

着いて最初に目に入ったのは、鳥居よりもビルだった。高層ビルの谷間に大きな鳥居が立ち、その横には長いエスカレーターがある。神社へ行くのに運ばれて上がる。石段を上るものだと思っていたぶん、その光景は近未来そのものだ。ビルに囲まれているのに、鳥居は昔からそこにあったような顔で立っている。その組み合わせが、いかにも東京だった。

上へ着くと、音が減った。車の音が遠のき、足音が乾いた石畳に残る。手を合わせる人の動きも静かで、空気がゆっくり流れているように見えた。視線を奥へやると、社殿の向こうにはガラス張りの高層ビルが立っている。静けさの外側に、都会がそのまま残っていた。

御朱印を受け取り、帰りは千本鳥居をくぐって下りた。

せっかくだからと、そのまま歩いた。すると、すぐに国会議事堂が見えた。さらに警視庁、その正面には桜田門。名前だけ知っていた場所が、次の角を曲がるたびに現れる。教科書やニュースの中では、それぞれ別の世界にある気がしていたものが、東京では歩いてつながっていた。

最初に首相官邸の前で背筋が伸びた理由は、その頃にはもうわかっていた。教科書で見ていた名前のあいだを、自分が歩いていたんだ。

◀️ 前話はこちら:浅草寺と桜🌸

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